私の選んだ腕時計。阿久津誠治(BIN):Seiko Presage『SARX051』

by Marina Haga

人が腕時計を身に着けるという行為には、なにかしらの意味が伴っていることがある。ツールとしてなのか、自身のアティチュードの表現か、はたまたファッションとしての装身具なのか……。 時計を装着する実感や理由を強く意識するからこそ、自らのスタイルと調和し、やがてファッションのトレードマークとしての役割を担うようになる。
本特集『私の選んだ腕時計。』では、東京のファッションシーンをリードする6人が、自身のブランドやライフスタイルに沿って選ぶ腕時計とはなにかを導きだす。彼らの時計やものに対する真髄を伺い、それぞれにとっての時計の役割やこだわりと共に改めてプロダクトの魅力を解析していく。
第4回目は、元EFILEVOL(エフィレボル)のデザイナーでもあり、現在はセレクトショップ・BINのディレクターを務める、阿久津誠治が登場。 彼が選んだのは、Seiko Presage(セイコー プレザージュ)の時計。 阿久津氏にSeiko Presage『SARX051』の魅力を語ってもらった。
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Photo:Takeshi Hoshi(P1、P2)Kiyono Hattori(P3、P4、P5、P6)Takuya Murata(P7、P8)、Text&Edit:Marina Haga

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古き良きものに惹かれる習性がある

—はじめに、阿久津さんにとって腕時計はどういう存在なのでしょうか?

阿久津:ファッションとしてのアクセサリーというよりは、身体の一部みたいなものですね。昔からアクセサリーを着けるのは好きではないのですが、時計だけは着けていたいという変なこだわりがありまして。だから時計を着け忘れた時は、なんだか気分が落ちつかなくてそわそわしてしまったりすることもあります。そういう意味で、腕時計は常に僕の生活に寄り添ってくれていて、欠かせない存在になりつつありますね。

—衣服に着替えるということと同様に、腕時計を着けることも毎日の習慣なのですね。

阿久津:そうなんです。身支度の一環という感じでしょうか。パジャマから洋服に着替え終わって今日はこの格好で出かけようって決めてから、最後にどの時計を着けようか選ぶのが日課なんですよね。持っているのはアンティークウオッチが多いので、きちんと巻いて時刻を合わせてから家を出発するのが習慣になっています。その行為そのものが愛着なんです。時計を巻くという動作って、何かが始まる感じがするじゃないですか。

懐中時計が市場の主流であった1913年に国産初の腕時計『ローレル』を発売以降、一貫して真摯に時計づくりと向き合い、技術や技能を高めてきたSeiko。100有余年に渡る伝統の中で、独自の機構を開発し、パーツさえも自らの手で生み出すことで、1960年代後半には、スイスの精度コンクールの機械式腕時計部門において、世界トップレベルの座を獲得。そんなSeikoが国産初の自動巻腕時計を手がけ始めて60周年の節目を迎えた2016年に、本格的にグローバル展開を開始し話題になったのがPresage。またデザイン面では、熟練職人による琺瑯ダイヤルやケースの研摩仕上げによりクラシカルかつ精悍に仕上げられているのが特徴。ブランドの長い歴史や職人たちの思いにより美意識と実用性を両立した、ロマンを感じる逸品だ。

—では、その中でSeiko Presageを手に取ったきっかけを教えてください。

阿久津:時計に限らず服に関してもいえることなんですが、多機能なものというより、古き良き趣を感じるものに惹かれるんですよね。そういうどこか懐かしい空気感が漂うアイテムを手に取ってしまう習性があるんです。ガジェットが嫌いなわけではないのですが、「こうだからこれが正しい」みたいなものは信じないタイプなんですよね。それが1番正しいと言われると天邪鬼になってしまうといいますか……。このPresageの時計も、独特の柔らかい光沢から感じる、温かみのある琺瑯の質感や、トノー型のケースなど、佇まいをクラシカルに魅せる要素が隅々に施されていますよね。そういう一つひとつのディテールが、自分が大切にする価値観としっくり合致するような気がしてシンパシーを感じています。

—具体的に、クラシカルな雰囲気のどういうところに惹かれるのでしょうか。

阿久津:理屈やある種の絶対感を守りながら作られた物だということが、プロダクトからひしひと伝わってくるからですかね。これは、昔テーラーさんと仕事をした時にも感じたのですが、僕たちにとってはどこが完成なのか分からないけれど、職人の中ではここだっていうタイミングや到達点があるじゃないですか。この時計も同様に、琺瑯ダイヤルの第一人者にして、日本で数少ない名匠人が、さまざまな制約や彼らの定義を守りながら丁寧に仕上げられているのがプロダクトを見ていると伝わってくるんですよね。脳と目と手がマッチングしないと形にすることができない、僕らには理解できない次元で作られたものなんだと思うと心が動かされます。
ですよね。脳と目と手がマッチングしないと形にすることができない、僕らには理解できない次元で作られたものなんだと思うと心が動かされます。


—昔からそういうものが好きだったのですか?

阿久津:時計好きになってから、そういうものの見方をするようになったかもしれません。父親から使わなくなったヴィンテージウオッチをもらったことがきっかけだったんですけどね。あとそういう中で思ったのは、僕はブランドの王道みたいなものよりも、プロダクトの背景であったり、ストーリーのあるものが好きで。それは服に関しても同じで、スターダムのトップにいるものというよりは、目立たないけど着実に良い物作りをしているという価値観に惹かれることが多いですね。このPresageも決して派手ではないんですが、粛々と物作りを追求してきたというバッグボーンがそういう僕の趣向と似ててすごく共感する部分が多いんです。

—それでは、BINで扱いのあるメインブランド・THE NERDYS(ナーディーズ)にPresageを合わせた本日のコーディネートについて聞かせてください。

阿久津:先ほどの話にも繋がるのですが、古き良きものを彷彿するミリタリーや古着が僕のスタイルのベースにあります。今日の服装は、昔のミリタリーのディテールから作ったパンツにシンプルなスウェットニットを合わせただけなんですが、そういう気取らないで等身大の服装はクラシックなPresageのムードにもマッチする気がしていて。それは、“古き良き”に重きを置いた物作りや伝統技術によって仕上げられたという点で、どこかバッグボーンが似ているからなんですかね。