Vol.123 浜崎伸二(TRASMUNDO) – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJ、アーティストのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、東京は下高井戸のレコードショップ・TRASMUNDOの店主である浜崎伸二。
2002年にオープンしたTRASMUNDOは、駅前商店街のどこか懐かしい風景に見事に溶け込んだ“街のレコード屋”然とした佇まいとそこで扱われているレコードやCD、書籍やDVD、アパレルなどのセレクションから伝わってくる店主の鋭いセンスや人柄が、様々なジャンルのDJや音楽家、塾帰りの高校生から年季の入ったリスナーにまで、広く深く愛されている。開店当初からダンスミュージックやロック、ハードコア、ヒップホップなど、アンダーグラウンドシーンを厚くサポートし続けていることもあり、DJやラッパー、ビートメイカーらが積極的に持ち込むTRASMUNDO限定作品を含む充実した品揃えからシーンの新しい動きをキャッチできる貴重な場であるが、ネット全盛の時代にあって、同店は対面販売のみで、残念ながら通販は一切行っていない。今回は、そんなTRASMUNDO店主のインタビューとDJミックスを通じて、その歴史や独自のストアポリシー、その先に広がる豊かな音楽世界を紐解いた。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo:Takuya Murata | Edit:Keita Miki

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「自分の興味の範囲外にも素晴らしい音楽が沢山あるということに気づいて欲しい」

— 2002年にTRASMUNDOをオープンする以前、浜崎さんはどこかのレコードショップで働かれていたんですか?

浜崎:1990年代後半、自分はオールジャンルを取り扱う街の中古レコードショップで働いていたんです。そこは中古の買い取りを強化していた店で、品揃えはものすごく良かったんですが、物の価値としてきっちりとした値付けはあまりせずに店頭に出すこともあったんですよ。まぁ、オーナーにとっては、商品を回転させることの方がビジネスとして正解だったんでしょうけど、自分としてはいい音楽をちゃんと価値判断した方がいいんじゃないかと思っていて。店を経営するという意味では学べることもあったんですが、そういう方向性の違いもあって、自分が30歳くらいになった時、自分でお店をやってみれば面白く提示出来るんじゃないかと考えたんです。

— 当時の状況としては、90年代のレコードバブルが終わり、CDのセールスも1998年をピークに、徐々に下がっていくタイミングですよね。

浜崎:そうですね。全盛期から売上げが落ちていって、このままだとどうなるんだろうって。それで2000年辺りから周りの店では徐々に通販が始まっていったと思うんですけど、その店は何もやっていなかったから、オーナーには「このまま薄利多売を続けるのは難しくなるから、通販を始めるのもいいと思いますよ」って言ってたんです。まぁ、未だに通販をやってない自分が言うのもおかしな話ではあるんですけど(笑)、そういう状況の変化を承知のうえでも、自分なりに意味があることはできるだろうし、扱うレコードやCDに反応してくれる面白いお客さんもきっと来てくれるだろうと、TRASMUNDOを始めたのが2002年ですね。

— その見立ては外れていなかった、と。

浜崎:立地がよかったのか、下高井戸の周りには音楽や出版業界に携わっている人たちが結構住んでいて、店を通じて、そういう人たちと出会っていくんです。かなり早い段階にたまたま来てくれた1人が中原昌也くんでしたね。その時は話はしなかったのですが。そして、中原くんから話を聞いて来たのが二見(裕志)さんだったり。あと、全く意図したわけではなかったんですけど、オープンしたタイミングも大阪のFLOWER OF LIFEやRAWLIFEに象徴される日本のアンダーグラウンドシーンの自分より下の世代の方たちの動きとたまたま重なって、例えば、近所に住んでいたDOEL SOUND FORCEクルーのズンドコベロンチョが店に来て、その流れで同じクルーのKEIHINCMT、PEECHBOYとも会ったり、BLASTHEADのHIKARUくんとも出会えたり。だから、最初はハウスとかテクノ、ジャングルだったり、ダンスミュージック界隈の人たちと接点が多くて、DJのミックスCDを置くようになってから、新譜も扱うようになっていったんです。

— 浜崎さんご自身はダンスミュージックがお好きだったんですか?

浜崎:そうですね。TRASMUNDOを始める前からずっと聴いていて、90年代だと、例えば、DJ HARVEYとかIDJUT BOYS、デトロイトテクノも謎なハードコアサウンドとして聴いていたURをはじめ、MOODYMANNやTheo Parrish(セオ・パリッシュ)なんかもチェックはしていましたね。パーティも1人で遊びに行くのが好きだったから、西麻布にあったYELLOWとか新宿のLIQUIDROOMにふらっと出かけたり。その辺りの音楽は、ダンスミュージックを今までとは異なる文脈で紹介していた虹釜太郎さんのパリペキンレコーズと初期のLOS APSON?を通して出会えたことも大きいかもしれないですね。逸脱した何かをめざとく見つけるあの人たちの鋭さと早さにはかなり影響を受けたというか、自分はそういう逸脱した何かに子供の頃から惹かれるところもあったので、その部分を探っていくと辿り着くところはみんな被ってくるんでしょうね。

— お店としてはダンスミュージックに加えて、ハードコアやヒップホップにも力を入れていて、TRASMUNDOというとヒップホップの印象が強いと思うんですけど、そうした音楽を扱うきっかけというのは?

浜崎:それも人との出会いと繋がりが大きいですね。例えば、STRUGGLE FOR PRIDEの今里くんとは、2002年に新宿LIQUIDROOMでやったAndrew Weatherall(アンドリュー・ウェザオール)の7アワーズでチラッとですけど、初めて話をしたんです。交流が始まるのは、それからまたしばらく経ってからなんですけど。面白い場所でちょくちょく見かける人っているじゃないですか。自分も気になるパーティやライブだったら極力行ってみて、面白そうな音楽を聴いてみるという感覚が今も続いていて、同じような感覚を共有できる人たちとの出会いはある意味で必然なのかなと思ったり。だから、ジャンルどうこうって話じゃないんですよ。音楽をやってる人も格好良いか面白いかどうかが基準でもあるように、この店で扱っている音楽も同じというか、だから、店のことが説明しづらかったりもするんですけど(笑)、色んな人との出会い、付き合いがあって、そのなかで紹介してもらった人との新たな出会いがあり、それがずっと今も続いています。継続していく関係性のなかで、共有するものが生まれることは大切だと思いますね。いつも面白いアーティストやお客さんが遊びに来て新しい流れを作ってくれるから、そのことには本当に感謝してます。

— お店で扱う音楽はその時々で変化していると思うんですけど、シティポップ云々より遥か以前、2000年代後半には浜崎さんのなかでは和モノの盛り上がりもありましたよね。

浜崎:あの頃は色んな発見があったから面白かったですね。それは先輩であり、師匠の二見裕志さんがいたから、あの人のフィルターを通して、新しい響きに気づかされたところが大きかった。イタロやバレアリック、コズミックとか、当時のダンスミュージックにおける多彩な解釈の1つの流れ、その歪さを面白がっていたから、Light Mellowとかシティポップにおける和モノとは全くの別モノですよね。

— ここ10年だとMusic Campの宮田信さんが紹介し続けているチカーノミュージックをプッシュされていますよね。

浜崎:宮田さんと出会ったのは11年前ぐらいかな。雑誌『REMIX』で宮田さんが連載されてた『チカーノ偏愛日記』を愛読していたんですけど、CDのサンプルを持って、いきなり店に現れて。そのサンプルを聴いてみたら、ラテンやチカーノにまつわるパブリックイメージとは異なる謎めいた音楽だったので、面白いものをリリースされてる人なんだなと思って。そこからMusic Campの作品を扱うようになり、付き合いが始まるんですけど、宮田さんをリスペクトするところはチカーノのカルチャーや南米音楽に対する愛情はもちろん、常に新しい何かを提示しているところ。その部分に大いに共感したんですよ。うちの店の品揃えはそういう出会いと共に変化しているし、自分も年齢を重ねていくなかで、過去の音楽も新たな解釈で違って聞こえるようになったりして、最近だとレーベルから連絡が来て扱うことになったJuana Molina(フアナ・モリーナ)の『SEGUNDO』なんかは21年前の作品なんですよね。アルゼンチン音響派って、もっと最近の流れだと思っていたら、もうそんなに経つんだ、と。そう考えたら、若い世代のリスナーは知らなかったりするだろうから店に置いてみようかなって。レゲエのレーベル・DOCTOR BIRDの再発もそうで。自分も深く掘り下げたいし、店に来てくれる人にとってもレゲエを知るうえでプラスになるだろうと思って、そういう再発ものを意識的に扱うようになったのは最近の新しい流れかもしれない。

— つまり、旧譜、新譜問わず、新しいものを求める浜崎さんの感覚が店の品揃えに反映されていると。

浜崎:多分、その感覚がズレていたら、店は続けていけないだろうから、その部分は意識的にやっていることだったりするんですよ。どの個人店もそうだと思うんですが、そこに置いてあるということには必ず何かの意味があるんだと思います。

— 今の若いお客さんにとって、TRASMUNDOはヒップホップに強いお店だったりするんですかね。

浜崎:そういうイメージがあるのかもしれないですけど、どうなんでしょうね。4~5年前と比較すると今はそんなでもないような気もします。最近来てくれる20歳前後のお客さんは何も知らずにやって来ることが多かったりするし、話してみると、みんな、KID FRESINOが好きだったり羊文学のファンだったりとか。店で扱っているのは、変わらずにずっと付き合いがあって、常に刺激を与えてもらっているWDsoundsやSeminishukei、RCSLUMDogear RecordsMidNightMeal Recordsだったり、その周辺の人たちであることに変わりはないし、それを言ったら、佐々木(KID FRESINO)もDogear Recordsのアーティストですからね。そもそも、うちの店はヒップホップの専門店ではなく元々が中古屋でもあるから、ヒップホップの新譜を網羅的に扱うことはそんなにないし、極端に言えば、その月に店で取り扱う新譜がなかったとしたら、無理して新譜は扱わないんですよ。そこが新譜を常に扱う他の店とは違うところでしょうね。でも、ありがたいことに、通常のアルバムやEPのリリースがなくても、身近なみんなが、一般流通していない手焼きのミックスCDやビートテープを作ってもって来てくれるから、今の新しい音楽の形を紹介することが出来ていますね。

— 例えば、二見さんが手焼きで少量作ったコンピレーションシリーズであるとか、TRASMUNDO限定のミックスCDやビート集だったり、TRASMUNDOに通販サイトがあれば、全国から注文が殺到するであろうアイテムは少なくないですよね。

浜崎:確かにそうですね。でも、う~ん、通販を全く否定するつもりはないし、店をやっていくうえでとても重要なものであることは分かっているんですけど、あくまで個人的な考えを言うなら、通販サイトでエクスクルーシブなアイテムを売った場合、常にチェックを怠らない人、どういう内容のものなのか知っている人が買ってすぐに売り切れということになってしまうと、自分がやりたいこととはちょっと違ってくるのかなと。もちろん、いつもチェックをしてくれている人たちの存在はものすごく大切ですし、購入してもらえるのはとてもありがたいことです。店の売上として考えたら、それで全く問題ないんですけど、自分は店に来たお客さんと話すなかで、これだったら気に入ってくれるんじゃないかなというものを薦めてみて、後日、店に来た時、「あれ良かったです」と言ってもらえたときが一番嬉しいんですよ(笑)。来るお客さん全員にやっているわけではなく、何かのタイミングやきっかけがあって話すことがあればという距離感ではあるんですけど、そうやって音楽を少しでも広げていくのが自分の店の役割というか、店をやっている一番の醍醐味でもあるんです。今は、とあるアーティストをネットで検索すれば、ある程度、似たようなラインの関連動画なり、音源が出てくるじゃないですか。それはそれで何かを知るのはいいことだと思いますけど、極端な例を挙げるなら、自分がやりたいのは例えばですが、ヒップホップを聴いている人に音響ギターのJohn Fahey(ジョン・フェイヒ)を聴いてもらうというようなことなんですよ。

— つまり、直接的に全くリンクしない音楽のミッシングリンクをアクロバティックに繋ぐ作業というか。いくらAIが発達しても、そこまでのことは出来ないでしょうね。

浜崎:自分の興味の範囲外にも素晴らしい音楽が沢山あるということに気づいて欲しいというか、お客さんが何かにハッっと気づく瞬間を見るのが好きなんですよ(笑)。実際、うちのお客さんには、20代前半の時にヒップホップを求めて初めて店に来て、それから10年経って、HAIR STYLISTICSがやっていることの凄さに気づいて買っているようなお客さんが何人かいるんですけど、そういうことには時間がかかるし、通販ではなかなか難しいというか、自分がやりたいこととはまだ違うのかもなって。逆に言えば、実店舗にやれることはまだまだあるだろうなと思っているんです。

— リリース日に即完したKID FRESINOの”Cats & Dogs”の10インチがあったりとか、ネットに捕捉されてないTRASMUNDOはお宝の宝庫ですしね。

浜崎:リリース情報には取扱店の情報が出ているわけだから、自分が若かったら「あそこは通販をやってないから……」と勘を働かせて動いたと思うんですけど、今はそうじゃないのかもなって。他にも探しているであろう作品がいくつか棚にこっそりと入ってたりするんですけどね。まぁ、そのことについてはよく考えてますね。俺とか小野田くんは、はっきりとした情報がない状態でも、とりあえず行ってみるかっていうノリだったでしょ? もしお目当てのものがなかったとしても店には色んなものがあるわけだから、「この店がプッシュしてるんだし、とりあえずこれ聴いてみよっかな」って感じだったと思うんですよ。でも、今は諦めてしまうのが早いというか、無駄に終わるリスクを背負いたくないというか。時代が違うといえばそれまでの話なんでしょうけど。やっぱり、前提として、確認と保証が重要ってことなんでしょうかね。自分自身にもまだ考えが至っていないところがあると思うんですが。難しいですね。

— そういうこともあってか、レコードの人気タイトルになると、店の営業に支障が出るくらい在庫確認の電話が殺到したりすることもあるらしいです。

浜崎:へぇー、そんなことにもなったりするんですね。まぁ、でも、今、自分の店はいつからか電話が故障しているみたいで繋がらなくて。本当にすみません(笑)。そう言いつつも、今の若い子にとって自分の店は全く情報がないというハードルの高さをどうにかすべきかなって、たまに思ったりもするんですけど……多分しないんでしょうね(笑)。でも、この間も何も知らず、たまたま来た若いカップルが”Cats & Dogs”を買っていってくれたんだけど、そういう偶然の出会い方をしたら嬉しいでしょうね。自分はそんな姿を見るのが好きなんです。ただ、そこに至るまでにこのコロナ禍にあって今まで以上に時間がかかるから、そこが大変ではありますね。まぁ、でも、店は1人でやっていますし、自分がやりたくてやってることなので。色んな人に協力してもらって助けていただいているので、元気にやり続けていけてます。感謝しかないですね。

— 最後にご提供いただいたDJミックスについて一言お願いいたします。

浜崎:若い頃に聞いていたものから今現在のいくつかの新譜で作りました。自分のと言いますか、店の時間軸を感じてもらえるかなと思います。

TRASMUNDO

東京都世田谷区赤堤4-46-6
営業時間:12:00~22:00
定休日:第3木曜日