Vol.90 CMT – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、この企画に6年ぶりの再登場となるDJのCMT
東京出身にして、音楽に誘われるまま、大阪、奈良と拠点を移しながら、キャリアを積み重ねてきたCMTは、2010年より現在の拠点である長野・軽井沢から東京をはじめ全国各地を飛び回って、DJとして活躍。ハウス、テクノを中心に、その緻密なミックスと構成力に秀でたプレイはダンスミュージックフリークの揺るぎない支持を集めている。そんな彼が2017年7月にリリースしたEP『LAND #1』を皮切りに、CHAM名義での音楽制作を本格始動。これまでに4作のEP、アルバム『LAND』を発表し、また、新たなプロジェクトであるPLUTOを立ち上げるという精力的な活動ぶりとダンスミュージックでもなく、アンビエント、ニューエイジにも収まりきらないエレクトリックなサウンドスケープが国内外で話題となっている。
今回は、その周辺環境が彼の音楽制作と密接な関係にあるという長野県中部のとある森の中に構えたスタジオでの取材を敢行。作品が生まれた背景に迫ると共に、ダンスフロアから離れている時間に彼が聴き親しんでいる音楽で構成されたプライベートなミックスの制作を依頼。CHAM、PLUTOの素晴らしい作品たちと併せて楽しんでいただきたい。

Photo:Takuya Murata | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「どんな捉え方をされてもいいし、普段の日常から生まれた生活音楽だと思っているので、適度な存在感のある音楽として、好きに楽しんでもらえればいいかなって。(CMT)」

前回、この企画に出ていただいた際、オリジナルトラックを作りたいという話をされていましたが、それから5年が経った2017年より何の前触れもなくCHAM名義の作品が精力的にリリースされるようになり、正直言って驚きました。

CMT:その5年の間に色々と試行錯誤していたんですけど、奈良の生駒から軽井沢に移り住んで10年近くが経って、DJに関しては住んでいる環境に全く影響されていないんですけど、前回のインタビューでは3年くらいで引っ越すかもっていう話をしてたのに、気がついたら、長い時間が経っていて。東京まで新幹線だと2時間で行ける軽井沢は適度な街感もあり、自然もあり、かといって、古民家改装田舎暮らしみたい感じでもネイチャー系の人間でもないので、自然の捉え方も違うとは思うんですけど、1年半、2年くらい前に、せっかく、いい環境の土地に住んでいるんだから、周りの環境とそこで暮らす自分の内面に思いっきり寄り添った音楽を作ろうと思い立ったんです。あと、自分のなかで、週末のDJとしての生活と平日の生活にはギャップがあって、そのバランスを取るために、以前作っていたダンストラックとは違う音楽を作りたくなったということもありますね。

— 普段、1週間をどのように過ごしているんですか?

CMT:今は、週末、金土日は新幹線で東京に行ったり、車で地方に行って、DJやって。帰りが日月火だったりするんですけど、そこから音楽を作ったりしつつ、木金あたりからまたDJの準備を始めて、週末に備えるという生活ですね。平日に音楽を作るようになったことで、DJはDJとして考えられるようになって、以前よりもお客さんを楽しませる、がっちり踊らせる方向性に思いっきり振り切れるようになったし、逆にディープで静かなベクトルは音楽制作で突き詰められるようになりましたね。

— 個人的にもCHAMの作品を聴かせていただいて、これは恐らく、CMTの普段の生活から生まれたものなんだろうなと思ったので、今回は音楽制作を行っているスタジオにお邪魔させていただいた次第なんですけど、このスタジオはどんな場所なのか、ご説明いただけますか?

CMT:住んでる家がある軽井沢から車で1時間の別荘地にある一軒家ですね。それまでは家で作業していたんですけど、機材も場所を取るので、スペース的に限界があって、ちょうど、1年位前に、音楽制作に集中するための物件をネットで探して見つけました。周りは自然に囲まれてて、音出し可能な静かな場所だし、電気水道ネットも通っているので、週に1回来ては数日泊まり込んで、作業することが多いですね。

— 耳を澄ませても、外から人工的なノイズが全く聞こえないですし、ワークスペースが設置された部屋の三面が窓に面していて、その窓から見えるのは森ですし、都心では絶対にあり得ないスタジオ環境ですよね。

CMT:夜はちょっと怖いですけどね(笑)。動物が結構いて、熊はもうちょっと奥にいかないと出ないんですけど、鹿がそこら辺をガサガサ歩いてたり、木の上のリスが食べた木の実を屋根に落として、突然、ガーンって音がしたり(笑)。冬は雪が結構降るんですけど、その季節は特に周りに人がいないから、それはそれで静かだったりするんです。

— そして、使っている機材はPCとBUCHLAやVERMONAのモジュラーシンセサイザー、EVOLVERのアナログ/デジタル・シンセサイザーを組み合わせていて、音質もさることながら、ガジェットとしてのデザインが格好いいですよね。

CMT:ここ数年で集めたものなんですけど、僕は都会に住んでるわけじゃないから、飲みに行ったりして、お金を使ったりしないので(笑)、ダンストラックを作ることも念頭に、見た目最優先でちょこちょこ機材を集めて、ある程度、揃ったからスタジオを持とうかなって。ただ、モジュラーシンセサイザーだけだと電子音楽になってしまうし、CHAMに関してはコンピューターを多用している曲もありますね。

— そうした機材を駆使しながら、日常の環境とご自分の内面を映し出しているCHAMの作品ですけど、これはダンストラックではないし、かといって、アンビエント、チルアウトでもないですよね。

CMT:そう、一応、そこには複雑なリズム感があったりするし、音響的にはダンスミュージックの影響もあるんでしょうけど、長年、DJをやってきて、その反動が大きい気もして。だから、レコードからのサンプリングは一切してなくて、作品で使ってる自然音は家の外に一歩出て、マイクを置いて録ったり、それこそ、こないだは駒ヶ岳に流れてる綺麗な川の水音を録ったりした音源を使いつつ、CHAMで作ってる作品は、ダンストラックでもなければ、アンビエントでもないんですよ。そうかと思えば、作品を出すようになってから、海外の人からよく連絡が来るんですけど、ニューエイジ系の人だと誤解されてるケースがたびたびあって、「いや、普段はハウス、テクノのDJです」って言うと、驚かれたりして(笑)。

— (笑)。むしろ、CMTはニューエイジのスピった感じは苦手ですもんね。

CMT:そもそも、自分はアンビエントを聴くことがほとんどないし、山奥に住んで、ニューエイジって感じでもなく、CHAMの作品は日常の環境と自分の内面が大きく作用していて、自分としては、今まで聴いてきた全ての音楽の影響が自然と表れている気もするんですよ。作っている時には意図してない部分が大きな割合を占めていて、独りで作り込んでいるというよりも自分と機材、その周りの環境とのセッション、そこで起こる意図しないことを含めて楽しんでいて、自分で作っているものなのに、「おお、いいね!」っていう第三者的な感想が出てきたりもするし(笑)。そうやって楽しんでいるうちに、徐々にブラッシュアップされて、形になるんですよ。だから、最初はあまりにパーソナルなものであるように感じて、いい悪いが判断つかなくて、作ったものの、「これをどうしたらいいんだろう?」と思ったくらい。まぁ、でも、どんな捉え方をされてもいいし、普段の日常から生まれた生活音楽だと思っているので、適度な存在感のある音楽として、好きに楽しんでもらえればいいかなって。

— DJはその現場に応じて、プレイするレコードをチョイスしたり、そのプレイの仕方にもセッション的な要素はあると思うんですけど、ありものの音楽を意図してチョイスして、起承転結を作ったり、流れや空間を構築していく表現形態ですから、音楽を作る際には意図を極力介在させない、と。それが捉え方の自由なユニークな作品の佇まいに繋がっているんでしょうね。

CMT:だからこそ、普段の生活の中からぽんぽんと音楽が生まれてくるし、それをストックせず、出来たら発表するようにしてますね。

— そして、今年8月に3枚のEPをまとめたアルバム『LAND』を発表してから、10月にもEP”COLORS”がリリースされていますが、さらに8月には別名義のPLUTOでもEP”WAVES”を発表されましたよね。

CMT:PLUTOは新幹線とかの移動中にiPhoneで作っているんですよ。CHAMと違って、PLUTOは移動する機会が多いので、ストックが沢山あるっていう(笑)。

— iPhone一台で。まさか、そうやって作られたものだとは思わなかったです。ただ、明らかな違いとして、PLUTOはCHAMよりもテンポが速いですし、規則性がありますよね。それは移動の速度が影響を与えているということんでしょうか?

CMT:あとは機材だったり、その移動する環境の制約がそうさせているんだと思います。その他にもBUCHLAのモジュラーシンセ1台だけで音楽を作ろうとも考えていて、それはまた違う人格というか、新たなプロジェクトになると思います。あと、CHAMに関しても、これまでは自分が生活している環境下で作品を作ってきたんですけど、今後は違う環境に何週間か滞在して、作品を作ってみたいと思いますし、自分の名義でダンスミュージックを作るつもりは今のところないんですけど、昨年やったJ.A.K.A.M. a.k.a. MOOCHYのリミックス(『COUNTERPOINT RMX』収録の”INTERNAL VISION – CMT RMX”)はCHAMにビートを乗せたような、そんなリミックスになったんですよね。

— あと、今後、海外からリリースがあると風の噂で聞いたのですが。

CMT:Tara Jane ONeilなんかも出しているオーストラリアのレーベル、Preservationの新しいプロジェクトで、長尺の作品に焦点を当てた新シリーズがスタートするということで声がかかって、12月にそこから新作がリリースされることになりました。

CHAM 『LAND』
3作のシリーズEPの6曲に加え、未発表曲”NAGAWA”を収録。新たにマスタリングを施したCHAMのファーストアルバム。モジュラーシンセサイザーとDTMの組み合わせから生み出されるエレクトリックかつオーガニックなサウンドスケープが日常と非日常をつなぐ夢想的な音楽空間を生み出す。

— 突如、怒濤の作品リリースを始めて、早くも海外から声がかかった、と。引き続き、作品リリースを楽しみにしつつ、DJとしては全国各地でプレイしていますが、長野県白馬村で冬にやってるパーティが面白いとか。

CMT:白馬は軽井沢と同じく日本離れしていて、冬は世界中からスキー客が集まるんですけど、お客さんの8割が外国の人で、平日から週末から死ぬほど盛り上がってて、箱はパンパンだし、地元の子たちも週3、4回やってるような感じで、俺がDJをやらせてもらってるパーティも週2回やっていて、非日常感が半端ないんですよ(笑)。日本に来た海外のDJがスキーついでにお忍びでDJすることも多かったりするし、夏のイビザみたいに冬限定のシーンではあるんですけど、かなり面白い状況になってますね。

— それは興味深いですね。白馬もCMTが暮らしている軽井沢もそこで暮らす人にとっては日常の風景なんでしょうけど、外の人にとっては非日常として映るという。もしかすると、CHAMやPLUTOの音楽が個性的に響くのもそういうマジックがあるのかもしれないですね。では、最後に制作していただいたミックスについて一言お願いします。

CMT:ミックスに関しては、普段のDJでやってるハウスのミックスを考えていたんですけど、それだとCHAMやPLUTOの話と直接結びつかなくなってしまうし、かといって、CHAMやPLUTOと似たような音楽もなかったので(笑)、今回はCHAMと同じように、普段の生活環境下で聴いている音楽をまとめてみました。