Vol.42 KEIHIN – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、かつてダブステップとテクノのクロスオーバーを東京でいち早く実践した伝説のパーティ<ALMADELLA>を主宰。その先鋭性が高く評価されているDJ、KEIHINです。


1998年にDJ活動をスタート。<RAWLIFE>や<Future Terror>、<POWWOW>といった国内の最重要パーティの数々でプレイし、ノイズ、インダストリアル、テクノ、ディープハウス、ブレイクビーツ、ジャングル、ダブステップといったフォーマットを逸脱しながら、未来の音楽を一貫して追究してきた彼に2012年の名作ミックスCD『THIS HEAT』以来、2年振りとなる貴重なDJミックスの制作を依頼。インタビューにおいては、孤高ともいえる彼の音楽観やキャリアについて話をうかがった。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

Surgeonがいなければ、たぶん、今ごろDJはやってないですね。

— KEIHINくんの音楽性、その変遷を俯瞰した時、ミニマル・テクノを一つの大きな軸として、そこに色んな音楽要素を溶かし込んでいるという、そんなイメージがあります。

KEIHIN:そうですね。もともと、テクノが好きだったんですけど、シーンが成熟するにつれて自分にとって面白くないリリースが多くなってきちゃって、ドラムンベースだったり、色んなものを混ぜるようになったんです。ちょうど、IndopepsychicsとかNumbさんやSaidrumさん、ヒップホップをルーツに持つ人達が始めたシーンからも尖った感じの音が出始めた頃だったんで、好きじゃないテクノをかけるより、他のジャンルの尖った音を混ぜた方が面白いんじゃないかと思ったんですよ。
で、同時期にGRASSROOTSに行き始めて、色んな音楽を混ぜるHIKARUくんのDJを聴いたりして、「こんな自由なスタイルもあるのか」っていう感じで、自分も色んな音楽をかけるようになって、それがブラッシュアップされたことで今の形になっていったんですよね。

— テクノ以前はロックを聴いていたとか?

KEIHIN:そうですね。当時、バンド・ブームだったんですけど、自分には全く馴染めなくて、学校の先輩たちが聴いてた、それ以前の音楽の方がなんか凶悪な感じがして。中学生くらいだと、そういう凶悪さに引っかかったりするじゃないですか。それで後追いで凶悪なラインを辿っていって、The StalinやINU、G.I.S.M.なんかと出会って、毎回驚きの連続だったという。で、高校の時はダンス甲子園に代表されるダンス・ブームだったので、そういうところでかかってたThe KLFが気になったんです。彼らは札束を燃やしたり、過激な行動を取っていたじゃないですか?。

— The KLFの活動は、パンク、アナーキズムって感じでしたもんね。

KEIHIN:そう。それでリミックス誌を読み始めるようになったんですけど、紀平(直樹)さんのイギリス・リポートを読んだら、「昨日までケンカしてたやつが仲良くなってる」とかスーパーマンのTシャツを着てるやつの写真が載ってたり(笑)、海の向こうで楽しそうなことが行われている空気がすごい伝わってきて、そういうきっかけから夜遊びをするようになったんですけど、東京でもそういうことが少なからず行われていることを知って、ショックを受けたり、遊んでいるうちに、アンディ・ウェザオールが関わってたジュニア・ボーイズ・オウンとかをきっかけに、初めてダンス・ミュージックが理解出来たんですよ。それ以前はハウスを聴いてても、ピンと来なかったし、やっぱり、遊ばないと分からない音楽なんだなって思いましたね。

— その後のダンス・ミュージックとの出会いのなかで、KEIHINくんはSurgeonの重要性をたびたび語っていますよね。

KEIHIN:そうですね。Surgeonがいなければ、たぶん、今ごろ、DJはやってないですね。自分の周りにいた友達がディスコをかけるようになった時期、自分はその流れに乗り切れなくて、自分なりにドラムンベースを掘ったり、勝手に一人だけ違うことをやってたんですけど、当時、Surgeonが面白い実験を繰り返していて。自分のなかではすごい盛り上がっていたのに、まわりでは誰も反応を示してなかったのがすごく寂しかったんですけど、「Surgeonも孤独に実験をやってるんだから……」と勝手に考えて、毎回、新譜が出るたびに一人で興奮してたんですよ(笑)。

Surgeon 『Breaking The Frame』 アルバムとしては、前作『Body Request』より実に11年ぶりとなる2011年の最新作。“変容”をテーマに、彼のスタイルであるインダストリアル・テクノからベルグハイン系テクノからダブステップ、アンビエントまで、低音を軸とした音響トリップが展開されている。

Surgeon 『Breaking The Frame』
アルバムとしては、前作『Body Request』より実に11年ぶりとなる2011年の最新作。“変容”をテーマに、彼のスタイルであるインダストリアル・テクノからベルグハイン系テクノからダブステップ、アンビエントまで、低音を軸とした音響トリップが展開されている。

— Surgeonは、もともとはジャズ・ロック・バンドをやっていたというし、元ナパーム・デスのミック・ハリスとコラボレーションしたり、クラウト・ロックやノイズ、インダストリアルの影響も色濃いミニマル・テクノの代表的なアーティストですが、音楽的な部分で彼のどういうところに惹かれたんですか?

KEIHIN:その後、ダブステップが出てきた時、僕はいち早く反応したんですけど、ダブステップ以降の流れというのは、みんな、Surgeonが昔実験してたことなんですよね。彼はテクノが音楽ビジネスのいち形態になっていくなかで、音楽性の模索の仕方は色々ありましたけど、彼はイギリス人らしいブレイクビーツとベースラインの組み合わせ、そのアプローチが非常に独特で。その実験のコンセプトごとにレーベルを分けて作品をリリースし続けてきたんですけど、いまたくさんリリースされている、ダブステップの影響を受けた、イーブン・キックじゃない変則的な打ち方をしたビートのテクノって、それはずっと前にSurgeonがやってたことだし、ある程度、極めたところまで到達しているんです。
一方で90年代にブレイクしたテクノの人の多くは一時期消えて、ベルグハイン的なニュースクールのテクノの盛り上がりと共に復活したケースが多いんですけど、Surgeonの場合はずっと一人でやり続けて、独自のフィールドを掘り続けたスタンスが自分にとっては本当に心強かったですし、いつか一緒のパーティでプレイ出来たら最高なんですけどね。

— そして、話を少し戻すんですけど、2000年代初頭、日本でニューディスコがブレイクしていた時期、KEIHINくんはブレイクコアに歩み寄っていましたよね。

KEIHIN:その頃、SHIRO THE GOODMANと出会ったのが大きかったんですよ。当時、SHIROくんのDJがすごく面白くて、ダンスホールとドラムベースを混ぜたり、そこでさらにガバをかけたり、びっくりするようなプレイをしていて、自分は自分なりに彼の影響を受けながら、もう少し、スムースに、いわゆるハウス、テクノのマナーでそういうことが出来ないかと試行錯誤していたんです。でも、その後、ブレイクコアやダブステップ、どのジャンルも何でもそうなんですけど、一つのジャンルとして、世の中に広がっていく過程でどうしても薄まっちゃうじゃないですか。そうなると自分にとっては面白くなくなっちゃうんですよね。

— どんなジャンルもフォーマット化されると、薄まったり、硬直化していくのは避けられないというか。エレクトロニカとかアブストラクト・ヒップホップのパーティなんかも、ある時期を境に、踊ってる人が一人もいない修業空間みたいになったりとか。

KEIHIN:そう、そういうのも馴染めなかったなー。パーティーなんだから、もっと楽しくやったらいいのにって。僕とRILLA、Yusaku(Shigeyasu)の3人で一昨年までやってた<ALMADELLA>っていうパーティは、まさにそういう大きな命題があって。当時、そこまでテクノとクロスオーバーが進んでなかったダブステップとテクノを結びつけたり、音楽的な実験をしながら、同時にパーティとしてきっちり楽しませる場所にしたくて、試行錯誤してたんです。

— あのパーティではメルツバウをフィーチャーした回もありましたよね?

KEIHIN:昔、新宿リキッドルームのパーティでメルツバウのライヴを体験したんですけど、それ以前に聴いていたノイズもテクノを知った後に聴くと、また全然違うんですよね。その時のメルツバウのライヴでは、ノイズの粒が体中から入ってくるように感じられる、すごい体験をしちゃったこともあって、いつか呼びたいなと思っていたので、<ALMADELLA>でそれが実現出来たのはすごく良かったです。その時は、今はなき渋谷MODULEの地下2階にあるメイン・フロアに三重のelevenをオーガナイズしているAppoloとメルツバウを呼んで、すごい状況を作って、地下1階ではDJ Yogurtにサイケ・ロックをかけてもらったんですけど、自分のなかでは完全にベトナム戦争のイメージ。勝手な妄想ですけど、サイケデリックなロックンロール・ウォーっていう(笑)。そのイメージを形に出来て、感動して泣きそうになりましたね。

— はははは。KEIHINくんは、一時期、書いていたパーティの煽り文が話題になってましたよね。あの煽り文の妄想力は、パーティにおけるイメージの膨らませ方と同じですよね。

KEIHIN:あの煽り文は宇川さんの影響がデカいんですけどね(笑)。

— ただ、KEIHINくんの場合、毎回、強く妄想した世界に向かって、DJやパーティを近づけようとしているからこその説得力があると思うんですよ。

KEIHIN:そうですね。そういうイメージは強くあって、そのルーツを辿ると、昔見た映画やフィリップ・K・ディックみたいなSF小説からの影響になるのかな。大人になってから、パーティーで遊んでたりすると、イメージがどこからともなく降ってきたり、電波として頭の中に入ってきたり(笑)。そう考えると、誰かに操られているような気もするし(笑)、自分が現実と思っていたものが実は現実じゃなかった、みたいな(笑)。そういう話は昔から大好きなんですよね。

— 映画でいうと、『マトリックス』とか『インセプション』みたいな世界というか。

KEIHIN:でも、そういう架空の話が震災後は「それって、実は架空とも言い切れないんじゃないかな」って思ってしまうような、そういうわけの分からないことが多くなった気がするんですよね。フェイスブックやツイッターで流れてくる情報も、何がホントで何がウソか、すぐに判別出来ないものが多かったりしますからね。

— だから、芸術でもエンターテインメントでも、混沌とした現実に拮抗する世界を構築するのは簡単なことじゃないと思うんです。KEIHINくんの場合、パーティやDJを支える圧倒的な妄想力が前提にありつつ、実際のDJ中にはどんなことを考え、感じているでしょうか?

KEIHIN:僕は興味の幅が狭いので、好きな曲をかけてるだけなんですけどね。そして、好きな曲をかけてるうちに、「じゃあ、次はこれ。その次はこれ」って感じで、レコードに選ばれているのか、自分が選んでいるのかはよく分からないけど、最終的にはそういう状態になるんです。ただ、自分の根底にはダンス・ミュージックの流れの作り方があるので、ストーリー性というか、起承転結は意外に大事にしているんですよ。ただ、最近はその流れを敢えて崩そうともしていて、例えば、変則的なビートからイーブン・キックに入る時は、意識して、ドンって出したりしがちなんですけど、最近はその境界を曖昧にしてみたり。でも、ドンって出した方がお客さんの反応がよかったりするから、その辺は様子を見たり。

KEIHIN『THIS HEAT』 2012年の最新ミックスCD。テクノと交配された異形のダブステップを起点として、ダーク・アンビエントを思わせるサウンドスケープを未来の音楽が突き抜けていく。蒼い炎が発するような高熱と張り詰めたテンションを内包した圧倒的な1枚。

KEIHIN『THIS HEAT』
2012年の最新ミックスCD。テクノと交配された異形のダブステップを起点として、ダーク・アンビエントを思わせるサウンドスケープを未来の音楽が突き抜けていく。蒼い炎が発するような高熱と張り詰めたテンションを内包した圧倒的な1枚。

— つまりはDJの想像力とフロアの想像力の駆け引きですよね。

KEIHIN:ただ、僕の場合、完全に即興でやるんじゃなくて、かなり構築していくタイプなんですよ。だから、家で念入りに準備して、Aブロック、Bブロックという感じで、そのブロックをインプロを織り交ぜながらその場で組み合わせていく感じ。ただ、そうやって準備しても、自分でコントロール出来ない状況に置かれたりもして。ロング・セットではそういう状況に陥りがちだったりするんですけど(笑)、じつはそういう時が一番面白いかもしれない。自分の場合、色んなビートを混ぜていくスタイルなので、まずはレコードを念入りに聴き込んで準備するんですけど、それでも実際にやってみないと分からないことも多いし、その不確定要素があるからこそ、コントロール出来ない状況が生まれたりもするという。

— なるほど。

KEIHIN:しかも、わりと気持ちが入りやすい人間なので、自分のDJに感動して泣きそうになったりしますからね(笑)。安上がりでいいなと思うんですけど(笑)。昔、GRASSROOTSのGOLDEN DAMEGEってパーティで、LOS APSON?のヤマベ(ケイジ)さんが泥酔状態で、森進一の「襟裳岬」をかけながら、すーっと涙した光景に遭遇したことがあるんですけど、そういう時のことは忘れられないですね(笑)。ノイズでもサイケでもなんでもかけていいんだよっていう価値観を提示してくれたという意味でもそうですし、ガチガチのテクノの世界に居心地の悪さを感じていた自分にとって、もう少し人情味があってもいいんじゃない?と思わせてくれたという意味でもLOS APSON?やGRASSROOTSの影響は大きいです。それまで知らなかったNOBUくんなんかも、LOS APSON?、GRASSROOTSの流れでつながりましたからね。

— KEIHINくんとNOBUくんはテクノの捉え方に関して、共通点もありつつ、やはり別モノですよね。

KEIHIN:自分の場合、ベース・ミュージックが好きだったということもあって、例えば、変なビートを用いながら、ディープなハメ方が出来ないかという試行錯誤に向かっていったんです。NOBUくんは近所に住んでいるので、一緒に飲むとそういう話をよくしますよ。

— 今のダンス・ミュージックの流れとしては、ダブステップの進化の仕方もそうですし、テクノもインダストリアル寄りになったり、ハウス・シーンもロウハウスの勢いが増していたり、全体的な傾向として、KEIHINくんが追い求めている音と距離が近づいてきていますよね。

KEIHIN:そうですよね。でも、自分としては、12インチを買い続けて、その変化を感じながら、「自分ならこうやる」というものを提示していくだけですね。自分がずいぶん昔にやってたことと比べると、「今は渋いことやってるなー」と我ながら思いますけど、基本的なところは変わらないというか、最終的には人間性の問題というか。プレイを聴いたら、そのDJの人柄は分かるというか、その部分は変えられませんからね。その点、一緒にやってる同世代のDJはそれぞれやってることは違うんだけど、深い部分で伝わってくる人間性に共感出来るからこそ、その違う音楽性に触発されるんです。例えば、ダブステップをかけてるDJよりも、CMTが最近やってることだったり、NOBUくんや金子ちゃん(Shhhhh)の動きにいい意味で刺激されてますし、Future Terrorみたいなとんでもない現場を体験すると、もっと、ぶっ飛ばしたいと、いつも思っちゃうんですよね。

— そんななか、Ryo Murakamiくんの存在はKEIHINくんのパーティで知ることになったんですよ。

KEIHIN:Ryoくんは素晴らしいですよね。じつは彼がハウスをやってた頃も好きで買ったりしてたんですけど、今のスタイルに移行してから、完全にファンになりましたね。ノイズとか、そういう逸脱する方向に向かいつつ、彼にはどこかしらグルーヴィーなところがあって、その部分がすごい好きなんですよ。今回のミックスの1曲目も彼の曲なんですけど……。

Ryo Murakami『Depth Of Decay』 これまで国内外で多数の作品をリリース。Steve BugやDamian Lazarus、Fred Pら海外DJも注目する東京出身、大阪在住のプロデューサーによる2013年作のアルバム。アナログ機材で作りこまれた、緊張感のあるディープなエレクトロニクスにインダストリアルなリズムが強烈なダブ・エフェクトによって融合したカッティングエッジな作品だ。

Ryo Murakami『Depth Of Decay』
これまで国内外で多数の作品をリリース。Steve BugやDamian Lazarus、Fred Pら海外DJも注目する東京出身、大阪在住のプロデューサーによる2013年作のアルバム。アナログ機材で作りこまれた、緊張感のあるディープなエレクトロニクスにインダストリアルなリズムが強烈なダブ・エフェクトによって融合したカッティングエッジな作品だ。

— ブーンっていう低音が入ってくる瞬間、確かにグルーヴを感じましたね。

KEIHIN:そう。彼がやっているノイズはダンス・ミュージックを知ってる人がやるノイズだと僕は感じます。勝手にニュースクール・オブ・ノイズとか言ってるんですけど(笑)。いま、一番エキサイティングな音だと思いますね。

— Ryo Murakamiくんのトラックから始まる今回のDJミックスは、念入りに準備した色んなタイプのレコード、ビートが緻密にミックス、構築されていますが、公に公開されるミックスとしては2012年のミックスCD『THIS HEAT』以来、2年振りの音源になるんですよね?

KEIHIN:ミックスCDは、いざ作るとなるとかなり考えてしまうので、あまり気軽には出せないんですけど、今回はミックスCDを作るような感じで臨みましたね。それでいて、最近好きな音源をぎゅっとまとめて、「自分の最近のスタイルはこんな感じですよ」というのを表現しました。この取材に来る前にも聴いてきたんですけど、また、いろんな細かい部分が気になっちゃって……あんまり聴きたくないんですけど(笑)、その時その時に出したミックスCDはスタイルこそ違えど、自分の好きなカラーは一貫しているので、今回のミックスも気に入ってもらえるとうれしいですね。