Leeの『101』を通して考える、僕らのスタンダード – Ovall –

by Atsushi Hasebe

新進気鋭なラグジュアリー・ストリートの波やインディペンデントブランド、そしてメディアに上がるスタイルサンプルの数々など、さまざまな価値観の混在するなかに身を置く僕らは、たまに何を基準に服を選べばいいか分からなくなることがある。それは服だけでなく、音楽や食べ物においても同様だ。
本特集では、Lee(リー)が開発したデニムの元祖モデル『101』を、スタンダードと所縁のある多様なミュージシャンに着こなしてもらうとともに、“スタンダード”について、彼らの記憶を辿りながら再考。
第9回目に登場してくれたのは、2017年に活動を再開し、3枚目となるアルバム『In TRANSIT』をリリースしたOvall。ジャズやヒップホップ、R&Bといった音楽をベースに独自のサウンドを構築する彼らが考えるスタンダードとは何かを聞いた。
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※本特集内に掲載されている商品価格は、すべて税抜価格となります。

Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Masaki Takahashi | Model:Ovall | Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe

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いったん白紙にはしたけれど、またOvallをやるだろうと思ってた(Shingo Suzuki)

101Zはベーシックであるがゆえに、個性的なトップスとの相性も良好。
AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-446) 13,000円(Lee Japan TEL:03-5604-8948)、FILL THE BILLのプルオーバーパーカー 44,000円(FILL THE BILL MERCANTILE TEL:03-6450-3331)、UMBERのモックネックカットソー 13,800円、BLOHMのシューズ 31,200円(ともにSTUDIO FABWORK TEL:03-6438-9575)

Shingo Suzuki(ベース)、mabanua(ドラム)、関口シンゴ(ギター)の3人によって結成されたOvallは、2009年、朝霧JAMでのパフォーマンスが好評を博し、デビューアルバム発表前にも関わらず一躍注目を集めた。2010年にはファーストアルバム『DON’T CARE WHO KNOWS THAT』をリリース。その後、野外フェスへの出演やヒップホップユニット・GAGLEとのコラボなどで着実に支持を獲得していくが、2013年、セカンドアルバム『DAWN』のリリース後に突如、活動を休止した。活動を再開したのは、休止から約4年後。2017年12月のことだ。

—再始動後の心境に変化はありましたか?

Shingo Suzuki(以下、Suzuki):わりと落ち着いて演奏できるようになりましたね。 野外フェスでの演奏も、以前は大きなステージに慣れていなかったせいか、気負っていたり、ナーバスになっていたりしたように思うのですが、今は余裕が持てるようになって、楽しんでライブ活動をしてます。

関口シンゴ(以下、関口):以前よりもOvallの音楽が受け入れられやすい土壌ができているように感じるんです。初めて観てくれるお客さんもインストの曲で自然にノってくれるし。そういった変化もあって、気負いがなくなったのかもしれません。演奏していても「伝わってるのかなぁ……」みたいに感じることはないですからね。

mabanua:周りのことをあまり気にしなくなった……というか、変な力が入っていないんでしょうね。バンドってどうしても「デカいステージを目指せ!」とか「あのバンドには負けられない!」みたいな意識があって……もちろんそれが原動力になることもあるんですけど、一方でバンドや人間をおかしな方向に導いてしまうこともある。でも、今はそういった危うい精神状態ではなくなりましたね。

花柄のシャツや派手なカラーのスニーカーといった強い色味のアイテムにはやや色落ちした101Zが映える。
AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-526)13,000円(Lee Japan TEL:03-5604-8948)、BRU NA BOINNEのレザーチャイナジャケット 90,000円、シャツ 26,000円(ともにBRU NA BOINNE TOKYO TEL:03-5728-3766)、New Balanceのスニーカー 12,000円(New Balance Japan TEL:0120-85-0997)

—3人それぞれ、気持ちに余裕ができてきたんですね。

Suzuki:平均年齢は30代後半ですからね。ファーストアルバムを出してから8年も経つし……。

mabanua:20代半ばの頃とは違う次元にいる感覚はある……というか、その頃とは違う感覚でやらざるを得ないという気がしています。先輩たちを見ても感じるのですが、シーンがどうあろうとも、自分たちは変わらずに同じペースでやっている。僕らもそういう年齢になったんでしょうね。でも実際は、そこに到達するまでに解散しちゃうバンドが多いと思うんです。バンドって、長く続けるのが難しい形態なんですよ。そう考えると、休止期間があったにせよ、自分たちがこれだけ長く続けてきたことに対して、ちょっとは誇ってもいいのかなとは思いますね。

Suzuki:初めの頃って、気負ってた部分とか「こうじゃなきゃダメだ!」っていう感覚があって。もちろんそれも必要だとは思うんですけど、やはり人間関係でできてくるものがバンドの特色になるし、そのなかで個性を出せたら最高なんですよ。だからバンドはやっていて面白い。

mabanua:誰とでもできるものではないですからね。Ovallが休止中だから違う人とバンドを組んでやれるかっていったら、それはない。このふたりだからこそのバンドなんです。長年の蓄積があるし信頼もある。それをまた新しい人と組むっていう気には、ちょっと大変すぎてなれないですね。

Suzuki:だから、いったん白紙にはしたけれど「またOvallをやるだろう」というのはありましたね。”解散”じゃなかったのはそういうことです。そのときは続けるのが難しかったけれど、解散するつもりも特になかったですから。

—曲作りはどういった形で行われているのですか?

Suzuki:例えば”Winter Lights”という曲だと、関口シンゴがベーシックはほぼ完成したインストの状態のデモを作ってくるんです。それに対して「こういうのもいいんじゃない?」みたいなプラスαのアイデアを付け加えながら、ドラムやベースを生に差し替えていく感じですね。

mabanua:ゼロからセッションで作ることって、実はないんですよ。むしろ、全員がプロデューサーとして活動しているので、ひとり一人で世界観を作るのは得意。であれば、各々がデモを作って、それに対して提案を混ぜ込んでいくほうが効率的なんです。ジャジーだったりフォーキーだったり、それぞれが持っているベーシックな部分も、ちょっとずつズレたり重なっていたりするので混ざりがいいですし。それに、普通は作ったデモに対して絶対に譲れない部分が出てくると思うんですけれど、Ovallの場合「ここ変えない?」って提案すると、「じゃあ変えてみようか」って通っちゃうことが多いですからね。

—火花をバチバチ散らしている感じではないんですね(笑)。

mabanua:そのエネルギーがないのかも(笑)。力を入れるところと、「バチバチさせる必要はないんじゃない?」っていうところの分別がはっきりしたというか。

関口:最初は「譲っていいのかな?」って思いもありましたけど、譲ってみたら結果的に自分が当初考えていたものよりスゴく良くなった経験が何度もあったんです。それなら、意見やアイデアをもらって作るほうが上手くいくんじゃないかと。

Suzuki:あえて余白を残しておくと自分にないアイデアが入ってきて楽しいですからね。こだわりが強過ぎると「じゃあ、それ、ソロで出せばいいじゃん」ってなっちゃうので。そこがバンドの楽しさであり、良さですよね。