Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Saori Hattori | Model:Kaoru Inoue | Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe | Special Thanks:PRIMITIVE INC.
—『Em Paz』は、2013年発表の『A Missing Myth Of The Future』から約5年ぶりのニューアルバムとなりましたが、周囲の反応はいかがですか?
Kaoru Inoue(以下Kaoru):『Em Paz』はポルトガルのレーベルからリリースしたんです。過去、日本で制作したアルバムを海外のレーベルがライセンス取得して発売する……ということはあったのですが、今回は初めて海外レーベルから単体でリリースしました。……というのも、そのレーベルに5年前くらいから「やらないか?」って誘われてたんですよ。いいタイミングが重なって、今年ようやくリリースすることになったのですが、海外のDJとか音楽が好きな人たちから反響がありますね。初めてのことで、僕自身もすごくいい経験になりました。
—新作はアンビエント色が強い印象ですが、こういう作風になった経緯について教えてください。
Kaoru:昔から音楽を聴く時間を大事にしているんですけど、新作はわりと、今自分が聴きたい方向に寄せた感じ。それと、今回リリースしたのはポルトガルの Groovement Organic Seriesっていうレーベルなんですけど、そこは”楽器を入れる”ってことだけがコンセプトなんです。しかも、このレーベルが僕の作ってきた音を結構知っていて、「アルバムは既出の作品も絡めていい。任せる」と言ってくれたので、それならあまり逡巡しないでできそうだな……って思ったんですよ。ダンストラックでも、ビートなどの要素を省くとアンビエント的な面白さが出てくることを、過去の作品で経験していたりもしたので。
—アンビエントを好むようになったのはいつ頃からですか?
Kaoru:10年前くらいに、音楽評論家の三田格さんがアンビエントの歴史をまとめた『アンビエント・ミュージック』というムックを出されたんですけど、それが面白くて。それを読んでから、やたらとアンビエントを買うようになりましたね。ハウスとかテクノとは音が全然違うんですけど、自分のなかでは地続きみたいなところがあるんです。レイヴパーティでもアンビエントのサブフロアみたいなのがあるじゃないですか。そういうのを現場で経験しているから、地続きになってるのかもしれませんね。
—新作は3月にアナログ、6月にはCDでリリースしていますが、アートワークを変えた理由は?
Kaoru:ele-kingの野田努さんから取材のオファーを受けてひさしぶりに会ったんですけど、そのときに「CD出したほうがいいよ」って言われたんです。最初は「CDを出しても買う人いるんですかね?(笑)」なんて話していたんですけど、やりとりをするなかでP-VINEからリリースすることになった。ポルトガルのレーベルには、ワールドワイドの販売権を一任していたんですが、「日本国内でCDだけ販売する」と説明したらそれだけは除外してくれたんです。その後、せっかく形態を変えるなら外見は変えたほうがいいよね……っていう話になって、ジャケットはコラージュアーティストのM!DOR!さんにお願いしました。彼女のコラージュワークってすごく面白くて僕もファンなんですけど、今回はコンセプトを伝えて、あとはほぼお任せでしたね。
—時間を戻しますが、元々パンクやロックのバンドで活動されていて、1989年にAcid Jazzの洗礼を受けたとありますね。
Kaoru:大学生のとき、クラブキングがウェアハウス・パーティとか革命舞踏会をやっていて、音楽が好きだったから覗いてみたんです。一晩中DJをやっているのを見るのはそれが初めてで、衝撃を受けましたね。そのときロンドンのジャズシーンを紹介していて、DJに加えてバンドやダンサーも呼んでいたんです。パリッとした格好をして、4ビート・ジャズでアクロバティックに踊っているのがものすごくカッコよかったんですよ。それがきっかけですね。
—民族音楽にハマったのもその頃ですか?
Kaoru:そのあたりは、ほぼ同時進行ですね。ロックを演っていた頃、ギターがきっかけでアフリカ音楽を教えてもらったりとか。それと、例えばアフリカ音楽とハウスとかをDJでミックスするような世界にはものすごく影響を受けて、「なんでも交ぜられるんだ」と感じたことは覚えています。そのときの衝撃があって今に至る……っていう感じですね。
—バリ島やジャワ島にも頻繁に行かれていたようですが、それは現地の音を生で体感したかったからですか?
Kaoru:特にインドネシアは音楽の宝庫みたいなイメージがあって、大学のときに行き始めました。ジョグジャカルタっていう古都があって、そこでは夜、ストリートに流しのミュージシャンが大勢来て、演奏して投げ銭をもらうみたいなことをやっていたんですよ。ガムランとかクロンチョンを聴きたいと思って出かけていたんですが、ほかにも東南アジアっぽい旋律で変なブレイクビーツみたいのを演ってる人がいたりとか、かなり面白かったですね。