2013年秋のブランド大特集 VOL.01:[WHIZ LIMITED]

by Mastered編集部

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720topMasteredの前身となるCLUSTER時代にスタートし、2011年秋冬シーズン、2012年春夏シーズンと絶大なる反響を呼んだ『ブランド大特集』。編集部が厳選した今注目すべきブランドに毎週1ブランドずつ登場してもらい、新作アイテムの紹介とデザイナーへのロングインタビューを5週連続で実施していくこの人気企画が、約1年半の時を経て、本日復活を果たす。過去2回、僕らのファッション感に大きな影響を与えてきた偉大なる“先輩たち”を中心に話を聞いてきた本企画だが、今回は少し目線を変え、「これから先10年の東京メンズシーンを支えるブランド」というテーマを基に5週連続、計5ブランドにフィーチャー。
その記念すべき第1回目に登場してもらうのは、2000年よりその活動をスタートし、本年で13周年を迎えた下野宏明率いる[WHIZ LIMITED(ウィズリミテッド)]だ。”Lust for Life”というテーマを掲げた[WHIZ LIMITED]の最新コレクションを通し、ストリートレジェンドSk8ightTingをして「これからは下野くんの時代だ」と言わしめた(詳しくはEYESCREAM 2012年5月号を参照)下野宏明という男、そして彼の率いるWHIZという集合体の今に迫った。

→VOL.02:[MARK McNAIRY for Heather Grey Wall]はこちらから
→VOL.03:[DIGAWEL]はこちらから
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Photo:Takuya Murata
Interview & Text:Keita Miki

「自分の中に”これはカッコイイ”って感覚が既に入ってる。その凝り固まっていない感じが、僕らの世代の特権なのかなとは思います。」

Iggy Popのアルバム『Lust for Life』

Iggy Popのアルバム『Lust for Life』

— まずは秋冬の話からしていければと思うんですが、テーマは”Lust for Life”。直訳すると、「生への渇望」とかそういった意味になりますよね。個人的にはIggy Popを思い浮かべたんですが、洋服だけで無く、テーマ自体に意味を持たせたコレクションだったんでしょうか?

下野:いえ、テーマ自体に特に深い意味は無いですね。今回は若者の疾走感を表現したいと思って、その”若さ故の勢い”みたいなものを「Lust for Life」っていう言葉に置き換えた感じかな。

— モッズ、スキンズをはじめとしたUKのユースカルチャーの影響を色濃く感じるコレクションですが、下野さん自身、以前からそういったカルチャーに影響を受けてきたのでしょうか?

下野:正直、自分の中で全然消化出来ているジャンルでは無いですね(笑)。
やっぱり、どちらかと言えば自分はアメリカのカルチャーから強く影響を受けているし、WHIZに関しても、ちょっとパンクっぽいテイストの時があったりはしたけど、こうやって全体のトーンとしてUKを持ってきたのは初めて。

— そういう初めてのものをテーマに持ってきたのには何かきっかけがあったんですか? 例えば、イギリス製の何かを急に好きになったとか。

下野:そういう感じでは無いんですよね。すごく単純な理由になっちゃうけど、今回はMA-1を着たり、モッズコートを着て、Vespaに乗りたかった。本当にただそれだけなんです。だから洋服よりも先に、まず1番最初に、Vespaを作った(笑)。
そこから全てがスタートして、「自分がVespaに乗る時に着るならこんなモッズコートかな」とか、「こんなMA-1かな」って感じで洋服を組み立てていきました。

— たしかにそれなら「洋服を作る」って理由で、堂々と新しいバイクが買えますしね(笑)。

下野:そうそう! でもVespaを買うって言ったら、周りの友達はみんな超びっくりしてて。Vespa=ライトギンギンみたいなイメージってなんとなくあるじゃないですか? そういうのと自分のスタイルがかけ離れているから、「どうしたの? Vespaのイメージ、全然無いんだけど」とか言われて(笑)。
でもまぁ、実際に来たVespaを見たらみんな納得してましたけど。

— そもそも下野さんが洋服を作る時って、どういう順序でスタートしていくんですか? 今回はVespaありき、ってことですが、最初にテーマを決めてコレクションを作っていくこともあるんでしょうか?

下野:洋服に関して言えば、僕はあまりカルチャー色の強いものを作りたくないので、今回のようにUKテイストを入れるにしても、なるべくカルチャーに寄り添わない形で作る。今回で言えばユースカルチャーにアウトドアをくっつけることによって、自分の気持ちに近いものにした。そういうのが、僕ならではの作り方だったりはしますかね。順序としては、Vespaみたいに自分が欲しいモノだったり、着たいモノからスタートすることがほとんどです。この前の春夏はテーラードジャケットを着て、スケートをしたいってところから始まったし、いつもそういう感じ。

— なるほど。少し話は変わりますけど、UKテイストを入れるのは今回が初めてとのことでしたよね。その上で何か参考にしたものってありますか? 映画でも音楽でもアートでも、何でも良いんですが。

映画『さらば青春の光』のDVD

映画『さらば青春の光』のDVD

下野:映画は普段全く観ないんですけど、レビューを読んだり、話題になっていて勝手に目に入ってくるようなモノに関しては観ましたよ。もちろん『さらば青春の光』とか、資料的に観たりもしたんだけど、「やっぱり俺って、映画向いてないな」って思うのが、そういう時に途中で飽きて早送りしちゃう瞬間(笑)。

— 下野さんらしいエピソードですね。さっきお話ししていたように下野さんというとアメリカのイメージが強いんですが、私物でイギリスのブランドのものとかって持っていたりするのでしょうか?

下野:うーん、古着のMA-1とかなら。でも、それをスキンズ的な意味合いで持っているかって言われたらそうでは無くて、自分の場合は、あくまでアメリカ的要素の古着として持っていますね。だから、そう考えると自分本来のスタイルとは全然違うんだけど、僕らの世代は色々なカルチャーを目の当たりにしてきたから、「スキンズの格好良いスタイルはこのアイテムとこのアイテムを組み合わせた、こういうスタイルで、逆にモッズの格好良いスタイルは……」ってことが、自然と若い時に植えつけられているんです。自分の中に”これはカッコイイ”って感覚が既に入ってる。そういう部分では色々なことがやりやすいし、その凝り固まっていない感じが、僕らの世代の特権なのかなとは思います。

— 凝り固まっていないってことで言えば、ランウェイショーに関してもWHIZは独特な考え方で挑んでいたと思います。一区切りを終えた今、ランウェイショーに関して、改めて伺ってもよろしいですか?

下野:最初は皆さんご存知の通り、『VERSUS TOKYO』に誘って頂いたことがきっかけです。それまでも、自分でカタログとか映像を作ったりはしていたんですが、その延長としてショーもやってみようかなと。

— 色々なメディアでお話しされていることかと思いますが、実際にショーをやってみていかがでしたか?

下野:一言で言えば、めちゃくちゃ勉強になった。すごく楽しかったし、人生の中でやって良かったなと思うことの1つです。またやりたいし、きっとどこかのタイミングでやると思いますよ。この4回で、ショーをやろうと思った時にはいつでもやれるくらいの経験値が蓄積されたし、選択肢の1つとしてモノに出来たかなと。

— 色々なデザイナーの方にお話を伺っていると、「今の東京でショーをやる意味が分からない」って意見の人も結構多くて、それが東京コレクションの現状にも繋がっていると思うんですが、下野さんの中で、今の時代にランウェイショーをやる意味っていうのはなんとなくでも、見えてきたりはしたのでしょうか?

下野:1回目を終えた後、2回目をやろうって決めたのは意味があると思えたからやったんだけど、WHIZの場合、そこに意味があると思えたのは一般のお客さん、ディーラーさんが会場に足を運んでくれて、自分の目の前で感動してくれたってことが非常に大きいですね。自分の作った服が全国に飛び立って、買ってくれたお客さんに「ありがとう」って言われることはあっても、ファッションをやっていて「感動した」とか「泣いた」って言われることはなかなか無いから。それはすごく新鮮な体験でした。彼らの日常に僕が感動を与えられるのであれば、もっとショーをやってみようかなって思えた。でも毎シーズン感動を与えていても、それはその内に感動ではなくなってしまうから、とりあえず4回にしようと。良いショーも良い洋服もそうだけど、=お金をかけることでは無いと思うんです。500円のボディに格好良いプリントを載せたら、1万、2万するTシャツを超えるようなものが出来たってこと、ファッションの世界では珍しく無いですよね。ショーでもそれは同じ。そういう意味では、ショーなんて誰でも出来るから「1回だけやってみようかな」っていう気軽な気持ちで、どんどんやれば良いんじゃないでしょうか。

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