編集部が厳選した今注目すべきブランドに毎週1ブランドずつ登場してもらい、新作アイテムの紹介とデザイナーへのロングインタビューを5週連続で実施していく人気企画『ブランド大特集』。過去2回、僕らのファッション感に大きな影響を与えてきた偉大なる“先輩たち”を中心に話を聞いてきた本企画だが、今回は少し目線を変え、「これから先10年の東京メンズシーンを支えるブランド」というテーマを基に5週連続、計5ブランドにフィーチャーしていく。
第3回目となる今回登場してもらうのはデザイナー西村浩平の率いる[DIGAWEL(ディガウェル)]。このブランド大特集の中でも唯一通算2回目の登場となる同ブランドだが、”Ramblin’Rose”というテーマを掲げ、メンズファッションのクリシェである少年性に抗して、少女性というもうひとつの可能性を仮構した彼らの最新コレクションは、それだけの価値と可能性のある最高傑作だ。最新コレクションに込められた真意、そしてDIGAWELの考えるメンズファッションの未来を探るべく、再び西村氏に話を聞いた。
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「そもそも僕は、デザインに関しての”男らしさ”、”女らしさ”、”自分らしさ”みたいなことに全く興味が無いんです。」
—西村さんにこうしてきっちりとインタビューをさせてもらうのは、2011年秋冬シーズン以来ですね。今回のブランド特集の中でもDIGAWELは唯一、2回目の登場になります。個人的にもそうですが、どうしてもメディアとして、もう一度話を聞いておきたいなと思いまして。
西村:非常にありがたいですね。いわゆるトレンドみたいな横軸ではなく、縦軸でブランドを見てくれるメディアって今の時代、中々無いので。音楽と一緒で、1stアルバム、2ndアルバム、それぞれに対する評価ももちろん大事なんだけど、結局一番面白いのって、1stから2ndに行くまでの過程というか、そこに存在する物語だったりする訳じゃないですか。ファッションっていうと、なんとなく表層を追いかけがちだけど、僕はある意味ではそういう部分を掘り下げていくのがメディアと呼ばれるものの役割だと思っているので、そう言ってくれるのはお世辞抜きに、すごく嬉しいことです。
—早速ですが、シーズンテーマは”Ramblin’Rose(=つるバラ、あえて直訳するならば「さまようバラ」)“。少女性を仮構したコレクションとのことですが、この少女性というアイデアは以前から西村さんの頭の中にあったものなのでしょうか?
西村:うーん……無いですね。いつも通りというか、コレクションを作っていく過程の中で、何型か実際にアイテムが出揃った時に頭の中で出てきました。でも、「少女性」っていう言葉にはこだわったかな。そこは意図的に前に出したように思います。
—前回の取材時にもテーマを先に決めることは珍しいって話をされてましたもんね。
西村:そうですね、“Jonathan Livingston”(2011年秋冬シーズン)と“14”(2009年秋冬シーズン)の時ぐらいかな。前のめりでテーマを先に持ってきたっていうのは。
—その2つのコレクションには少年性というキーワードも少なからず関わっていたと思うのですが、今回の少女性というテーマはその少年性の延長として出てきたような部分もあるのでしょうか?
西村:たしかに少年性というのは、メンズの洋服においての1つのクリシェだったりすると思うんですが、別に意識的にそこに対抗したつもりはなくて。なんていうのかな、すごく分かりやすく言うと、例えばロバート・ジョンソンからずっとブルースを聴いてきて、リアルタイムでエルヴィス・プレスリーのレコードを聴いたら、男でも必ず「きゃー!」って言うと思うんですよ(笑)。チャック・ベリーからロックを聴いてきて、63年にビートルズのレコードを聴いたら「きゃー!」って言うでしょ? 自分の中の乙女が出てくる。まぁ、別にそういうことを表現したかった訳でも無いんだけど、男性の中にもそういう少女的な部分って必ずあって。
それは例えば恋をした時に出てくる部分なのかもしれないし、別の何かの機会に出てくるのかもしれない。シーズンリリースにも記載した「ありえたかもしれない記憶」っていうのは、つまりはそういうことです。この秋冬はそういうことを表現出来たら良いなと思って。技術もいることなので、実際どこまで出来るのか不安な部分もあったんだけど、結果的にDIGAWELの洋服は、今シーズンで1つ階段を上ることが出来たような気がしています。技術的な意味でも、表現的な意味でも。見ている人にとっては同じ洋服に見えているのかもしれないけど、僕の中では少し違う見え方をしているんです。
—すごく興味深いお話ですね。実際の作業として、何か新しく取り入れた部分はあるのでしょうか?
西村:作業と言えるのかは分からないけれど、自分の中での「ここまでは到達しないといけない」っていう点と、その表現の基準が、この秋冬は初めて明確に見えたような気がしますね。
—ということは、今回は西村さんの考える「少女性」というテーマを上手く表現出来た?
西村:今あるもの、僕が持ち合わせているものの中では、出来たのかもしれません。もちろん100%ということでは無いし、まだ出来たんじゃないかって気持ちは今回だけじゃなく、常にあるんですけどね。洋服って都合が良いもので、6ヶ月間で1つの答えが出せるから。そういう意味では上手く表現出来たのかなと思います。
—今回は漫画家 大島弓子さんの作品がインスピレーション元になったと伺いましたが。
西村:いや、正確にはインピレーション元ということでは無いんです。これもテーマと同じく後付けで、出来上がった洋服を見て、結果的に「そういうことだ」と思ったというか。
—個人的には、西村さんが漫画を読むっていうのが少し意外でした。
西村:漫画くらい読みますよ(笑)。漫画に限らず、周りの人が良いって薦めてくれるものに関しては、映画でも漫画でも素直に見ます。ただ、結局何を見ていても、話していても、最終的にロックンロールに行き着いちゃうって部分はあるんですよね。たぶん、そこからは一生抜け出せないし、ずっと虜なんだと思います。そういう部分にも、少女性みたいなことを見出したりはしますよね。
—すごく納得がいきました。少女性といっても今回のコレクションは決して、いわゆる「女性的なもの」では無いですよね。逆にそうであったら、僕らとしてもこの洋服に惹かれることは無かったのかなと思います。
西村:そうそう、それを言うと少女性っていう言葉の問題にもなってしまいますけど、それは別に女の子、みんなが思う女性的な部分にフォーカスしたかった訳では無くて、本当の少女ってその瞬間瞬間で、男の子ぽかったりも、女の子っぽかったりもする訳じゃないですか。そういう瞬間は常に見つめていきたいと思っていますね。
—細かい話になってしまいますが、実際に洋服を作っていくうえで、何か先シーズンと変えたことはありますか?
西村:信じられないと思うんですが、僕って先シーズン自分がどんなものを作ったかを本当に全然覚えてないんですよ(笑)。同じ絵型を出してしまって、スタッフから「これ、作りましたよ?」って突っ込まれることもあるくらい。だから、そういう意味では毎回0からのスタートなんです。ただ、あくまでも洋服っていうのはチームで作るものなので、それぞれでシーズン毎に変えている部分はあるんじゃないかなって気はしますね。そもそも、デザイナーがこうやって前に出ることに対して、「なんかな~」って思う部分は常々あるし、洋服の世界においてデザイナーが必要以上に偉く見られることに対して、不思議だなと思う気持ちもあります。例えば、パタンナーって服飾を学んでない人にとっては、何をしている人なのかいまいち分かり辛いと思うんですけど、ブランドにとってはすごく重要な存在だし、実際、デザイナーより全然仕事量が多いって場合もあると思う。だからそういう洋服の細かい話をするのであれば、パタンナーに話を聞いた方が面白いかもしれないですよ(笑)。
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