2013年秋のブランド大特集 VOL.04:[Sasquatchfabrix.]

by Mastered編集部

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編集部が厳選した今注目すべきブランドに1ブランドずつ登場してもらい、新作アイテムの紹介とデザイナーへのロングインタビューを全5回に分けて実施していく人気企画『ブランド大特集』。過去2回、僕らのファッション感に大きな影響を与えてきた偉大なる“先輩たち”を中心に話を聞いてきた本企画だが、今回は少し目線を変え、「これから先10年の東京メンズシーンを支えるブランド」というテーマを基に計5ブランドにフィーチャーしていく。

第4回目となる今回登場してもらうのは、横山大介、荒木克記の2名からなるデザインユニットWonder Worker Guerrilla Bandが2003年よりスタートさせた[Sasquatchfabrix.(サスクワァッチファブリックス)]。本年で設立10周年を迎えた[Sasquatchfabrix.]だが、2013年秋冬シーズンからは横山大介が単独でデザインを手掛けるブランドとして、ブランド表記も一新して再スタート。”digable planets”というテーマを掲げた最新コレクションを通し、2000年代以降の国内メンズファッションシーンを一転させたといっても過言では無い彼らの現在に迫る。

→VOL.01:[WHIZ LIMITED]はこちらから
→VOL.02:[MARK McNAIRY for Heather Grey Wall]はこちらから
→VOL.03:[DIGAWEL]はこちらから
→VOL.05:[CHRISTIAN DADA]はこちらから

→2011年秋のブランド大特集はこちらから
→2012年春のブランド大特集はこちらから

Photo:SATORU KOYAMA(ECOS)
Interview & Text:Keita Miki

「今やっていることは本当の意味でのカルチャー(=文化)。”ストリート”も、今僕らが思う本当のストリートは、昔から続く民衆文化だったりするんです。」

—今シーズンの[Sasquatchfabrix.]のテーマは“digable planets”。端的に言えば、土地に積み重ねられた歴史と、衣服に積み重ねられた歴史を様々な意味で重ね合わせたコレクションとなっていますが、横山さんとしては、このテーマを通して、どんなことを表現したかったのでしょうか?

横山:基本的に[Sasquatchfabrix.]の洋服は、日本という国のオリジンな部分を反映させたというか、言い換えると“現代の日本の民族服”を目指しているような側面が根底にあります。そういう前提があった上で、毎シーズン、どんなテーマにしていくかってことを考えていくんですが、今回に関しては、街中に何気なくある小さな祠だとか、ビルとビルの間に突如として現れる鳥居だとか、そういうのが1つのきっかけになっていますね。日常生活の中ではあまり気に掛けないことかもしれないんですが、今の日本のそういう風景っていうのも、実はちゃんと過去の地層の上に成り立っていて。それってすごく独特だと思うし、まさしく日本のオリジンな部分な訳じゃないですか。だから、今回はそれを自分のやっていること、つまりは洋服と重ね合わせてみたいなと思ったんです。

—アイテム単位で言うと、何かキーになるようなモノはあったのでしょうか? [Barbour(バブアー)]のオマージュとも言えるジャケットなど、衣服の歴史を象徴するようなアイテムが散りばめられている印象ですが。

横山:いや、ああいうアイテムに関しては、あくまでもファッションで言うところの”トレンド感”というか、そういうものを出すためにやっているだけであって、そこまで深い意味は無いです。結局僕たちがやっていること、もっと言ってしまえば東京で日本人がやっているファッションって、100%新しいものでは無く、元ネタありきというか、現在まで受け継がれている衣服の歴史を踏まえた上で、「今ならこうだよね」って提案をすることですよね。全然それが悪いとかではなく、逆に僕はそれが”ファッションデザイナーの仕事”だと思っている部分もあって。

Digable Planets『Reachin』

Digable Planets
『Reachin』

—その提案の新しさに関して、[Sasquatchfabrix.]は群を抜いていますよね。元ネタということに関連して言えば、タイトルになっているdigable planetsは1990年代にグラミー賞を獲得したラップグループの名前ですが、これはどういう理由で?

横山:それは、本当にたまたまですね。タイトルを考えていた時に偶然彼らの名前が目に入ってきて。ヒップホップで言うところのディグの精神を、今回の地層を掘り下げるっていうテーマに重ね合わせて、懐かしさと共にくっつけただけです(笑)。

—毎シーズン、ユニークなテーマで見ている側としても楽しい限りですが、コレクションを作る時は、まず最初にテーマを考えるのでしょうか?

横山:そうですね、あくまでテーマありきでコレクションを組み立てていきます。何らかの縛りがないと散漫になってしまうし、強度が強いモノにならないような気がするんですよ。テーマを設けないで、今自分が着たいものとか、普通に着やすいものを作るってことももちろん出来るんでしょうけど、僕らのようなマイノリティは服の後ろ側に何かメッセージを用意して作ってないと、匂いがなくなっちゃってメジャーなものと区別できなくなっちゃうから。

—マイノリティとは言いますが、[Sasquatchfabrix.]は今や東京を代表するブランドの1つになったと思いますし、シーズン毎に創り上げるアイテムも、[EOTOTO(エオトト)]を含めれば相当な数になりますよね。

横山:うーん、その辺は時代感って部分もあるんじゃないですかね。今ブランドを始める人たちって普通は20型とか、それぐらいからスタートさせるから、相対的に僕らの50型、60型っていうのが多く見えると思うんですけど、僕らの上の世代は100型、150型、平気で作っている訳で。逆に言えば20型しか受け入れられないキャパシティやマーケットが今の世の中ってことだし、時代かなとは思いますね。

—でも、[Sasquatchfabrix.]、[EOTOTO]に加えて、Wonder Worker Guerrilla Bandとしての作品も発表しているし、アウトプットの数は膨大ではないですか?

横山:そういう風に言われると、そんな気もしてきますね。でも、なんかみんな今って割とスローにやってますけど、単純に「暇じゃないのかな?」って思うんですよ。1シーズンに15型~20型で、1年に大体40型ぐらい。みなさんそれぞれのペースがあるとは思いますが、僕だったら暇で耐えられないと思います。

—逆にそれくらいの型数でコレクションを作れと言われたら難しい?

横山:もう、完全に趣味の世界になりますね(笑)。構想はそこそこ時間が掛かると思うけど、実働は2ヶ月ぐらいな気がします。そしたら残りの4ヶ月は暇ですよ。何もやることが無い(笑)。

—なるほど(笑)。インプットという面ではどうしているんでしょうか?

横山:ブランドを1人でやるようになってからは、日常生活全てが常にインプットです。次回のテーマも決まっているし、自分自身、やりたいことは次々出てくるので。2人でやっていた時は、それぞれが感じたことの”すりあわせ”っていう作業がどうしても必要だったんですが、今はそれが無いから、そういう意味では前よりも瞬発的だし、なんかこう、その瞬発力がファッションっぽい気もするんですよね。

—[Sasquatchfabrix.]は昔から和の要素を積極的に取り入れていましたが、ここ最近はテーマ自体、コレクション全体が日本の伝統文化を掘り下げたようなものになっているように思います。以前、NEPENTHESの清水さんにインタビューさせて頂いた時に、「震災が日本を見直すきっかけになった」というようなお話をされていたのですが、横山さんの場合はいかがですか?

横山:震災の影響というのは、少なからずありますね。実際に洋服なんて作ってて良いのかなって思ったし、自分のやっていることに意味が欲しくなったというか。今まで日本人が着るものに関して戦後やってきたことって、海外から入ってきた色々なものを吸収して、それをミックスするってことだったと思うんですが、結局、海外の人たちがミックスし始めた時、日本のオリジナルなものっていうのは何1つ残らないんです。世界に行った時、「これはアメリカのものだよね、これはヨーロッパのものだよね」って声に対して、「でも、ミックスは日本でやったんだけど」って言っても仕方ないし、結局時間が経ってしまったら、「ミックスしたのは日本」なんてことは分からなくなってしまう。それじゃ意味が無いじゃないですか。そういうところで日本人にしか出来ないことって言うのを考えていくと、これから先は、日本っていう国のルーツをしっかりと取り入れて、日本のオリジンな部分が入ったものを作ったり、着たりしていく方が意味があるのかなと思ったんです。

—いわゆる日本の伝統文化みたいなものをここまで掘り下げるのは、自身としても初めての試みになるのでしょうか?

横山:経験としてあるにはあるんですけど、やっぱり難しいですよね。”こなし”というか、塩梅が。日本人は洋服に関して、直接的な和の表現を嫌うから、それを”あり”にしていく作業っていうのはすごく時間がかかります。自分も最初は直接的な表現からスタートしたんですが、直接的な表現が入っていない物でも日本を感じさせるようになっていかなければいけないと思ってます。着た時にどことなく日本を感じさせる事ができるのがやっぱり理想ですよね。

—以前は[Sasquatchfabrix.]=サンプリング文化と言っても過言では無いくらいのイメージが個人的にはありましたが、最近は海外のカルチャーに寄り添った洋服というのも少なくなってきましたもんね。

横山:背景にカルチャーがある服ってことは変わっていないんですが、僕らの考える”カルチャー”の内容が変わったんですよね。僕らが昔やっていたようなカルチャーってのは、一般的にはサブカルチャーとかポップカルチャーって呼ばれるものだと思うんですが、今やっていることは本当の意味でのカルチャー(=文化)。”ストリート”も、今僕らが思う本当のストリートは、昔から続く民衆文化だったりするんです。

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