2013年秋のブランド大特集 VOL.01:[WHIZ LIMITED]

by Mastered編集部

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— ものづくりという部分では、ショーをやるにあたって何か変わった部分はありましたか?

下野:ショーをやるって決めた時に、見せる為の服と着る為の服を分けるのはやめようと思ったんです。ショーってそのブランドのイメージが良くも悪くもそのまま出る場所だから、あの場で奇抜なモノを見せてしまうと、ただの奇抜なブランドで終わってしまう。僕は元々リアルクローズをずっとやって来ているし、別にショーで評価を求めている訳では無いから、自分の今までやってきたことをそのまま出そうと。ただショーには起承転結があるから、見せ方、つまりは演出という部分では、すごく考えたところもあります。でも、逆にショーのために服作りをするのも面白いだろうなって思いますよ。あくまでショーをメインに考えた、見せる為だけの洋服作り。それはそういう人がやれば良いから、僕はやらないけど、興味はあります。

— それはそれで見てみたい気もしますね。下野さんが洋服を好きになったのって大体いつ頃からですか?

下野:高校に入ってからかな。ひたすら雑誌を見て、街に出て。渋谷、恵比寿、原宿あたりをうろうろして、古着屋行ったり、[STUSSY(ステューシー)]買ったり。好きになったきっかけとしては、街にいる人、あとは雑誌に出てる人の影響がめちゃくちゃ大きかったですね。

— そこからどういう経緯で洋服作りをはじめるようになったのでしょうか?

下野:高校を卒業した後、将来を考えた時にスタイリストになりたいと思ったんだけど、スタイリストなんてどうやってなれば良いかわからないじゃないですか? だから、とりあえず服屋でバイトしようと思って、通信制の大学に行きながら、唯一面接に受かった(笑)ワールドスポーツプラザってとこでしばらく働いてました。それから原宿の仲間が段々と増えてきて、そのうち洋服作りに誘われるようになって。一番最初は18ぐらいでTシャツを作ったのかな。とりあえずMacがあれば洋服が作れるらしいってことが分かったんだけど、誰も持ってなかったから自分で買って、Tシャツ刷ってみたら友達が買ってくれたんですよ。その時ぐらいからですかね、なんとなく洋服で食っていこうって思い始めたのは。21歳から24歳で独立するまで[FAMOUZ(フェイマス)]で働いてたんですけど、その間も仲間とTシャツをうちで刷ったり、キャップ作ったり、軍モノのカスタマイズしたりして、それを売る。ずっとそんな生活をしてました。

— 2000年代初頭のWHIZの盛り上がりは本当に凄かった記憶がありますが、あれは予想の範囲内でしたか?

下野:いやいや、全然。FAMOUZにたまたま来てたライターさんに自分の洋服を見せたら、気にいってくれて、そのまま編集部に流してくれていきなり記事になったりとか。そういうラッキーも重なって、徐々に広まっていった感じですよ。

— 今年でWHIZの設立から13年が経ちましたが、13年ブランドを続けるのって本当にすごいことだと思うんです。下野さんにとって13年という月日は長かったですか?

下野:短かったですね。あっという間。気分は今でもあの頃のままです(笑)。

— WHIZって個人的には良い意味でテンションとか温度が変わらないブランドだと思うんですが、そういう中でも下野さんの年齢と共に変わってきた部分というのはやはり存在しているのでしょうか?

下野:自分ではなかなか分からないけど、多分あるんじゃないですかね。今でも自分が1番のWHIZの消費者だし、大前提として自分の着たい服を作っているから、自分の思考が変わればブランドも自ずと変わるんだと思います。変わることが悪い事だとも思わないし、第3者に「変わったね」って言われても、自分がやりたいのであれば関係無いですね。そのために社長をやってるようなもんですよ(笑)。

— 今話していたように、下野さん自身の好きなモノというのは昔と変わりましたか?

下野:変わったというよりは、広がった。昔は「ドットなんて女々しくて気持ち悪い」とか思ってたけど、今は全然着ますからね。

— 今回のブランド特集は「10年後の東京のメンズシーンを支える人」というテーマで人選をさせてもらったんですが、下野さんは10年後の自分、そしてWHIZはどうなっていると思いますか?

下野:全く想像がつかないですね。というか、独立してからこれまで、1度も半年後の自分が見えたことが無いです。毎回、「この展示会でコケたら終わる」って思ってますよ(笑)。

— それでも、ブランドを辞めたいと思ったことは1度も無い?

下野:やめたいとまでは行かないけど、今、誰かの下で働けば、昔とは全然違った意識で仕事に向かえるんだろうなって思うことはあります。1回社長業を経験してるからこそ、新しい視点で働けるような気がする。そもそも社長になりたくてなった訳では無いし、やらざるを得ないからって部分が大きいだけで、社長業はすごく面倒くさいし、嫌いですね(笑)。でも、そのお陰で成長できた部分も多いと思うし、どんなに格好良いものを作っても、それが売れなければ格好良いとは言えないってことも分かった。

— 逆に、WHIZが終わる時があるとすれば、それはどんな時になるのでしょうか?

下野:簡潔に言えば、自分が楽しくなくなった時かな。楽しくないのに、「これ、良いでしょ」とは言えないですからね。やっぱりブランドは自分の為にやってるし、そこに嘘があったらやる意味は無いですよ。良く「仕事がつまらない」って言う人がいるけど、「じゃあ辞めちゃえよ」って思うし。頑張るべき事だとは思うけど、無理してやる事では無いですよね。さっきの話じゃないですけど、年齢に応じて変わったことで言えば、今の自分にとって、何が一番大切なのかを考えて行動するようになりました。良く「目標は何ですか?」って聞かれるけど、今は洋服を作っている時間がすごく楽しいから、「続けること」としか答えてないですね。

— 下野さんがWHIZをスタートさせた時と比較して、今の東京、そして原宿はどのように変化しましたか? 今も下野さんにとって楽しい街であり続けているのでしょうか?

下野:当時楽しかったことと、今楽しいと思うことが全然違うからなんとも言えないです。昔は掘る楽しみ、知らなかったことを知る楽しみがあったけど、今は逆に情報が多すぎて、消費者が選ばなければいけない。個人的には、どっちも楽しいと思いますよ。洋服だって昔はプリントものが最高って感じだったけど、今のブランドの洋服はどれもすごくクオリティが高いし、最近海外に行くと「原宿は終わった」なんて言われるけど、20年ぐらい原宿をブラブラしてる自分から言わせてもらえば、全然人は減ってなくて、集まる場所が変わったり、選択肢が増えただけなんですよね。そりゃあ倒産したブランドもたくさんあるけど、当時から今まで生き残っているブランドはすごく格好良いものを作っているし、昔より良いブランドもたくさん出てきてる。原宿は今でもすごく楽しい街だし、魅力的な街ですよ。これからもっとチャンスは増えると思うから、皆さんもっと原宿に遊びに来てください(笑)。

— これは個人的にずっと思っていたことなんですけど、下野さんってすごくフラットな感覚を持っている人ですよね。例えば、人脈だけ見ても、いわゆる”裏原”の先輩たちとも交流がある一方で、相澤さん(White Mountaineering)、落合さん(FACETASM)、壮一郎さん(soe)といった同世代とも仲が良いし、コラボ先にしてもこの間の楽天や[STUSSY]のようなマスな部分とのコラボレーションもあれば、[M&M(エムアンドエム)]、[Landscape Products(ランドスケーププロダクツ)]といった通好みな部分もしっかりとおさえていたり。

下野:僕自身、後輩キャラじゃないからですかね。それが若い時からずっと出来なくて、どこにいっても後輩キャラになれないからどこにも属せないんですよ。そして、可愛がられない(笑)。話すことは好きだし、人嫌いな訳じゃ決して無いんだけど、人がたくさんいるところは苦手。だからブレイクしきらないのかなって最近思います(笑)。

— 何かに偏ることが無いし、かといって排他的でもない。でも、その感覚ってすごく東京的で、東京生まれ東京育ちのクリエイターの人たちが共通して持っている感覚のような気がするんです。

下野:たまには先輩に呼び出しとかくらいたいですけどね(笑)。
夜中に先輩から「飲みに行くぞ!」って言われて、「マジっすか!」みたいな。今まで一度も無いですよ、そういうの。だから人間的な立ち位置もブランド的な立ち位置も、みんな良く分からないんでしょうね、きっと。未だに「WHIZはどこと並べたら良いんですか?」って聞かれるし、僕自身裏原系でも無いのに何故か原宿にいるから、そのわかんないって感覚は良く分かります(笑)。「どうやって成り上がったんですか?」とかも聞かれるけど、僕自身分からないし、「お客さんが買ってくれました」としか言いようが無い。でも、結局は気付かぬうちに誰かが引き上げてくれてるんですよね。

— 東京生まれ東京育ちの下野さんから見て、東京という街の魅力はどんな部分だと思いますか?

下野:「人が集まる」ってところが一番の魅力なんじゃないですかね。ショップスタッフになった時、東京生まれの人が全然いないことに驚きました。それは自分にとって結構なカルチャーショックで、今まで雑誌で見てきた格好良い人たちが、みんな東京育ちじゃないってことに面喰いましたね。だから24歳にもなって「クラブ行こう!」とか言ってるんだこの人たち……みたいな(笑)。当時はなんで24歳の人たちがクラブにナンパなんてしに行くのか不思議で仕方が無かったんですよ。

— ファッションのジャンルで言えば、東京っぽさっていうのはどういう部分にあると思いますか?

下野:わきまえてること。派手すぎないし、過度に目立たない。だから落合くんが東京生まれ東京育ちって聞いたときは本当に驚きましたね。絶対地方から出てきて、文化を卒業してデザイナーやってる人だと思ってたから(笑)。だからこそこの人は強いなって尊敬できた。海外から見た東京っていうと、どうしても偶像的な部分になるんですけど、いわば最も”かっぺ”な部分が”東京”になってることが腑に落ちていない東京出身の人って、たくさんいると思いますよ。

— 海外、主に対アジアに対する接し方という意味でも下野さんは独自のスタンスで挑んでいますよね。

下野:それに関しては国がどうこうと言うよりは、結局は人と人だよねってことです。そこに信頼関係が無ければ自分の作った洋服を送ることは出来ないし。でも、正直なところ、もう日本で作ったモノを海外で売る時代は終わっているんだと思います。世界的に見て、日本でモノを作るとすごくコストが高くついて、どこの国に持って行ってもその国の一流と呼ばれるモノよりも高いモノになってしまう。だったら日本で培った頭脳やノウハウを海外に持って行って、そこで物作りをするっていう方が賢いんじゃないかな。モノを動かすよりも、自分っていうコンテンツを動かす方が全然早い訳だし。逆に言えばそれをやらないと香港や中国には勝てないと思うし、実際に香港や中国に行くと、その点においては日本は完全にアジアの中で取り残されているってことを痛感しますよ。

— 最後の質問になりますが、先日LUMPが仙台にオープンしましたよね。今後、直営店舗展開という意味で何かビジョンはありますか?

下野:お店に関しては、どこに出すにしても来る意味があるような場所にしたいと思っています。店員の力量次第じゃないですかね。モノよりも人。やっぱりお店って、結局は人が全てだから。そこにいる人に魅力が無ければ、お店に行く意味って無いと思うし。ただ、うちの直営店って濃くて、一般の人にとってはハードルが高いから、もっとライトに購入できるような場所にWHIZの洋服を置いてみたいなとは思いますね。折角作ってるから、発表する場をもう少し増やしても良いのかなって。

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