2011年秋のブランド大特集 VOL.03:『ts(s)』

by Mastered編集部

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注目ブランドの新作アイテムとデザイナーへの長文インタビューを全5回、5週連続でお届けするこちらの企画。第3回目となる今週はディレクター鈴木卓爾氏の率いる『ts(s)』にご登場いただきます。
毎シーズン、特定のテーマを持たないことで知られる同ブランドですが、今回は“縦の変化”を意識し、コートからインナー類に至るまで着丈の長いアイテムが充実。また、ネイビーとオリーヴという2色が、シーズンの象徴的カラーとして多く採用されています。
それでは、今期のコレクションについてはもちろん、そのモノ創りの原点にも迫ったロングインタビューと待望の新作をとくとご覧あれ!

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写真:浅田 直也

自分のなかに「システム鈴木卓爾」という装置みたいなものがもうできちゃっていて、インプットもアウトプットもすべてそこを通じて行われているんです。

— ts(s)はいつも特別なテーマを設けたりしませんが、どのようなプロセスでコレクションの制作を行っているのでしょうか?

鈴木:コピーの裏紙などをネタ帳代わりにいつも持ち歩いているんですけど、なにか思いついた時はそういうものにすぐ書き留めておけるようにしているんですよね。意外と変な時におもしろいことを思いついたりしがちなので、できる限りそういうものはメモしておくなりして、どうしてもダメだったら携帯電話から家や会社にメールを送ったりしておくとか。そうやって溜めているネタが結構あるんですよ。逆に、生地を探しているうちに、「この生地でこんなモノを作ったらおもしろそうだな」と思いついたりもしますね。
あとは、その点在しているネタを、パズルみたいに組み合わせていく作業です。気分だったり、色だったり、いろいろ試しているうちに浮かんでくる仕掛けみたいなものだったりとか、そういったものを集めて寄せて、入れて外して、みたいなことを繰り返して。そうやっているうちにパターンを組み出したりするので、今度は「形をもうちょっとこうして」とか「やっぱりこの生地で」とか、さらにアイデアが広がってくる。それをシャッフルして段々整えていく感じですね。もちろん、偶然で出来上がってしまう場合もあるんですけど(笑)。

— 「tsプラス連番」という形の名前はts-20で終止符を打ち、世界の市場で戦うべくts(s)とブランド名を改められたわけですが、それによって洋服の作り方に変化はあったのでしょうか?

鈴木:今回行ってきた、次の春夏(2012SS)でちょうど6回目のピッティ・ウォモ(編集注:年2回、イタリアのフィレンツェで行われる世界最大級の展示会)になるんですが、やっぱり海外に出ていくにあたって、クオリティの向上というか、もう少し「大人向けに」という部分を意識しましたね。もちろん着る人の年齢制限をこちらからするつもりはまったく無いですし、若い人が自分なりの着方で自由にうちの服を楽しんでくれるというのは、むしろ望むところです。自分がスタイリストをやっていたときもそうでしたしね。ブランドとして、ビジュアルを組んだりしてトータルでの見せ方は提案していますが、それをそのままのとおりに着て欲しい、とはあまり思っていないんです。逆に思いも寄らない感じでうちの服を着ている人を見ると嬉しいですし、「そういう風にも使えるんだ」なんて気づかされることもありますから。なので、それまで以上に気にしたのは、アイテムそれぞれが単品で成立しているかどうかということですね。「こういう画を作りたかったから」みたいなことになってしまうのが嫌なんです。もちろん、考えの中にそういう部分があったとしても、一度クールダウンして「単品でも着られるのか?」とか「違う着方もできるのか?」というところはちゃんと考えるようにしています。

— ビジュアルの話が出ましたが、こちらは毎シーズン、スタイリストの祐真朋樹さんとやられているんですよね?

鈴木:そうですね。スタイリングは僕がやっていて、スケちゃんにはファッションディレクションという名目で、相談役みたいなことをやってもらっている形です。大体僕が「今回はこういう感じだよ」っていうアイテムをピックアップして見せて、「こんなことをやろうと思ってる」みたいな感じでスケちゃんに相談して。そこで出たアイデアを元にして、僕が具体的にスタイリングを作る。それから最後の微調整を経て、スタジオに入る感じですね。実際モデルに着せたりだとか、現場のスタイリングについてはすべてスケちゃんに任せてます。
彼とは年齢もほとんど一緒だし、スタイリストとしてのキャリアをスタートさせたのもほぼ同じ時期なので、やっぱりやりやすいですね。

— 今回のコレクションは、どんな経緯でこのような内容になったのでしょうか?

毎シーズン、非常に高い完成度を誇る
ts(s)のビジュアルブック。

鈴木:今回は結構「縦の変化」みたいなものを意識していて。コートをたくさん作ったというのもその延長なんですが、それだけじゃなくタンクトップやTシャツも長めに作っています。基本は着丈の長いものを軸にしているんですが、そこに短いものを合わせて変化を楽しむ、という感じですね。
全般的にコートのアイデアは早い段階からありました。ドンキーコートやダウンのコートなんかはかなり早くからアイデアがありましたし、逆にキルティングのコートなんかは、たまたま良いドネガルツイードの生地と巡り会って、「これで着丈の長いキルティングジャケット作っちゃうのもいいな」という感じで。なので、さっきの話と重複しますが、アイデアありきで生地を探したり作ったりっていうパターンもありますし、既製の生地からアイデアが生まれる場合もあります。

—「既製の生地からアイデアが生まれる」という部分については不確定要素を含むことだと思うのですが、それでも毎シーズンきちんとハマるものなんですね。

鈴木:溜めているネタっていうのはいろいろあって、全部をそのシーズンで使い切ってしまうわけではないんです。パズルをやっているうちに、ネタとしては良いんだけど、全体として見るとそこだけが浮いてしまう、というモノをあるので、そういう場合はとりあえず一度外しておくんですよ。つまり、シーズンに関係無く、おもしろいと思うモノだとか作りたいモノというのは、常にストックしてあるんです。そこから、その時々に当てはまるものを抜いていく感じですね。
僕にとってシーズンごとのコレクション制作というのは、あくまでも途中経過なんです。「ts(s)っていう一本道の、2011年秋冬の段階はこんな感じですよ」みたいな気分でやっているので、コレクション発表を目指して、そこですべてを出し切って、次はまたゼロからはじめる、というような感覚はまったくありません。だから、シーズンごとのテーマというのも設定していないんですよね。

— その「ネタ」の部分は、やはり卓爾さんご自身がお好きなモノ、というのが前提になっているのでしょうか?

鈴木:なんというか、アイデアとかも全部そうなんですが、自分のなかに「システム鈴木卓爾」という装置みたいなものがもうできちゃっていて、インプットもアウトプットもすべてそこを通じて行われているんです。なので、いままで自分が見聞きしてきたことというのは、自然と自分なりのフィルターを通じて表現されているんだと思います。で、これまでの話で言えば、パズルを組み立てているのもこの装置なわけで。ここはもう変わりようが無いですし、自分の持ち味なのかなと思っています。

— 卓爾さんのルーツについてお伺いしたいのですが、やはりアメリカからの影響は大きいのでしょうか?

鈴木:よく聞かれることなんですけど、別にそうでもないんですよ。もちろんアメリカものは大好きですし、兄貴(エンジニアド ガーメンツ 鈴木大器氏)とか、ネペンテスとのつながりっていう部分からそう思われるんでしょうけど、僕の場合、スタイリストをやってたということもあって、それだけではないんです。ヨーロッパのものにもすごく興味があって、それこそパリやミラノにコレクションを見に行ったりするのも早かった方だと思いますし。元々「おもしろいものはおもしろい」というスタンスだったんですよね。
ただ、実際にモノを見るときのベースは、やはりトラディショナルなのかもしれません。例えば、変な柄や色で、普通のボタンダウンシャツを作っていたりだとか、そういうオーソドックスだけどおもしろいもの、というのは昔から好きでしたね。逆に、羽が生えてたりだとか、袖が4本付いている、みたいなモノにはあまり興味が無かったです(笑)。形であったり素材であったりはベーシックなのに、ちょっとおもしろいことになっているモノを見ると、すごくワクワクしました。ショーを見に行くようになった当時の『ロメオ・ジリ(Romeo Gigli)』とか『ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)』だとかはそういう要素がすごく強かったし、その後の『プラダ(PRADA)』の提案の仕方なんかもそうでしたから。
なので、僕自身はあまりアメリカとかヨーロッパとかっていう意識は無くて。もちろんアメリカのものをベースにするときもありますけど、それに少しヨーロッパ的なディテールを加えたりするのが大好きなので。逆に昔の服のディテールをそのまま、というのはやらないですね。最近は、なかば意地になってきていますけど(笑)。とにかく、あんまり「これはこっち」みたいにスパッと見えない方が好きなんです。

— ts(s)といえば色の使い方や、表情豊かなファブリックが特徴的だと思うのですが、インスピレーション元みたいなものはあるのでしょうか?

鈴木:スタイリストをやっていた頃から色と柄、あと素材感というものは大好きだったので、とくに何かを意識してやっているわけではないんですが、最近は海外でもそのあたりの評価は良い形でもらえるようになってきましたね。

— 海外に行く回数も増えたと思うのですが、そういった旅先からインスピレーションを受けたりすることもあるのでしょうか?

鈴木卓爾
スタイリスト、エディター、クリエイティブディレクターなどとして、数多くのファッション誌で活躍した後、1999年『TS』をスタート。2009年からはブランド名を『ts(s)』へと変更し、同時期よりピッティ・ウォモへの出展をスタートさせる。以降、年に2回、定期的に出展を行い、そのクリエーションは国内外で多くのファッション好きを魅了し続けている。

鈴木:すごくありますよ。ベルリンに行った時は、グラフィティでびっしりな建物の合間からバウハウス調のビルが立ち並んでいたりとか、そういう街並みのコントラストが新鮮でしたし、ミラノの街中で見かけた人の感じだったり、あんまり具体的にどうこうというのは無いですけど、いろいろなところから影響は受けています。

— 少し話は変わるのですが、卓爾さんから見ておもしろいなと思うクリエーターなどはいらっしゃいますか?

鈴木:今って世界的にベーシッククローズが大きくフィーチャーされていて、ピッティなんかでもそのボリュームがすごく増えてきているんですよね。うちなんかもギリギリその領域にあるんだろうけど。で、ヨーロッパ発にしてもアメリカ発にしても、そういうところを目指してモノを作っている若い子が増えてきていて、実際ピッティにも顔を出してきてるんだけど、それなりにオーダーを取ってるんですよ。値段も割と安いし。ただ、悪くは無いんですけど、そんなに良くも無いんですよね。なんて言うんだろうな…言い方は悪いんですけど、みんなそれなりのクオリティにはなっているんですけど、ちょっと物足りない感じで。それぐらいの感じが市場にとってはちょうど良いのかもしれない、というのもあるんですけど。結局何が言いたいかというと、今はみんなそんな感じになってるから、逆に僕はあまり興味が無いというか、「あぁ、なんかまた同じようなものがひとつ増えたんだな」ぐらいなもので。
もちろん、そんななかでもおもしろいことをやってる人たちもチラチラ出てたりして、オッと思わされたりはしますけどね。やり方はまだまだ荒かったりするし、ちょっと空振りしてるっぽい節もあったりするんですが、逆にちょっとかっこいいじゃん、みたいな。

— たしかにリアルクローズ一辺倒な気配への揺り返しは来ていますよね。

鈴木:ヨーロッパで今うちがそこそこ評価してもらえるのは、ベーシックだけど、良くも悪くも独特のアレンジが入ってるからだと思うんですよね。ベーシックだけどリアル、というか。ベーシックなものをなぞっただけのものじゃないんですけど、結構使える。そういう部分がリアリティかなって。

— 日本国内と海外での売上比というのは現在どれぐらいなんでしょうか?

鈴木:おかげさまで年々増えてきてますよ。日本ではあまり売れてないんですけどね(笑)…ていうのは半分冗談ですけど、自分のやってることは自分でよく分かってるんです。値段もそれなりにするし、アレンジの仕方も独特なので、誰でも買える服では無いですから。それが必要な人にとってはものすごく魅力を感じてもらえるけど、必要じゃ無い人から見たら多分あまりよく分からないと思うんですよね。ウェブサイトにも書いている「ありそうでないものが作りたい」というのは本当にその通りで、「ありそう」というのはベーシックな部分だし、「ないもの」というのはそのなかでのアイデアとか工夫ってことじゃないですか。だから自分なりにはギリギリなところでやっているんですけど、あからさまなデザインで「うわ、コレすげぇ!」みたいなことではなくて、よく見れば「あれ?」っていうのが多いですから。そういう、誰にでもおもしろみが分かる服じゃないと思うので、そんなにいっぱい売れないのはしょうがないですよね。日本で売れる分はもちろん全力で売りますけど、あとは海外に行かないとしょうがないな、という感じもあります。

— 東京でts(s)をフルラインナップで見ることのできるお店があったらいいな、と常々思っているのですが。

鈴木:このあいだ誰かとそんな話をしていたんですけど、今うちの服を気に入って着てくれている人って、すごく売れてきたら着なくなっちゃう気がするんですよね(笑)。普通は逆だと思うんですけど、元々ちょっと斜めな人たちが着ていると思うので(笑)。
でも実際、日本でお店をやりたいとは考えています。まぁこういう感じのブランドなので、あまりガンガン売って、みたいなお店には絶対ならないけど、現状このラインナップを全部置いてあるところってどこにも無いですから。一応物件は探していて、いいところがあったらいつでもやる気はあるんですけどね。

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