2011年秋のブランド大特集 VOL.04:『nonnative』

by Mastered編集部

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注目ブランドの新作アイテムとデザイナーへの長文インタビューを全5回、5週連続でお届けするこちらの企画。第4回目となる今週は、国内外で高い評価を得ている『ノンネイティブ(nonnative)』にご登場いただきます。
“IT DOESN’T MATTER”をテーマに据えた今シーズンは、ベージュ、ネイビー、チャコールの3色をキーカラーに、90年代の”なげやり感”、”終末感”をイメージ。ドレープ感のあるモッズコートで作る新シルエットのスタイリング、イギリスのオーセンティックなファブリック・メーカー、ミラレーン社の生地を用いたアイテムなど、アメカジ/アメトラの再解釈であった前シーズンとは打って変わり、英国色を強く打ち出した内容となった2011年秋冬コレクションを、デザイナー藤井隆行氏へのインタビューと併せてじっくり紐解いていきます。
それでは、クリエーションの核心に迫った渾身のロングインタビューとその新作をとくとご覧あれ!

→VOL.01:『N.HOOLYWOOD』はこちらから
→VOL.02:『TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.』はこちらから
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写真:鳥居 洋介

やっぱりノンネイティブを10年やってみて、デザイナーがデザインする部分というのは、服だけではないんだなっていう事を強く感じています。

— まず、今シーズンのテーマ「IT DOESN’T MATTER(=そんなの関係ない)」についてお聞きしたいと思います。「属さない、固有されない」という意味を持つノンネイティブにとって、ある種原点回帰的なコレクションのように感じましたが、これには、何か特別な意味があるのしょうか?

藤井:未完成こそのパワーがあったというか、僕にとって色々なものを吸収できた時期っていうのは、何をするにも「関係ないでしょ、大丈夫でしょ」みたいなノリでやっていけた、90年代なんですよね。今振り返ってみても、あの頃はやっぱり楽しかったな、って。なので、懐古的というわけではないんですけど、今回はそういった僕らが過ごした青春時代の熱量とか雰囲気っていうのを、テーマに盛り込みました。そういう意味での「IT DOESN’T MATTER」ですね。
あと、ファッションの「○○系」みたいなジャンル分けだったり、「これにはこれを合わせなきゃいけない」みたいな決まり事だったりだとか、そういうのも「なんでもいいじゃん」って以前から感じてたんですよね。もちろん、「でも、どうでもよくないよね」という部分もあるんですけど。

MURO『DIGGIN’ ICE』
90年代中盤から全4巻構成でリリースされたMUROの大人気MixTape。2011年、シリーズ第一弾の「DIGGIN' ICE 96」がデジタルリマスターでCDとして再発されたことで再び注目を集めている。

— なるほど。90年代へのオマージュなんですね。

藤井:それから、音楽も90年代に聴いていたものが気になっていて。当時散々聴いていたMUROさんのミックステープ『DIGGIN’ ICE』が最近CDで再発されたりなんて流れも、まさにその感じですからね。
あとは、今がストレスだらけの時代なので、あまりストレスのなかった90年代に憧れているというところもあるのかもしれませんが。

— 昨シーズンのアメリカン・カジュアル/トラッド色を強く打ち出したコレクションから一転、今期はブリティッシュな雰囲気でまとめられていますよね。

藤井:毎シーズン、コレクション制作の前に旅をするんです。ここのところずっとアメリカにばかり行っていたのですが、今回はイギリスに行こうと決めていて。当時働いていたショップを辞めた直後にもロンドンに渡ったんですが、その頃は『マハリシ(maharishi)』や『グリフィン(Griffin)』に傾倒していたっていうこともあって、すごく楽しかったんですよね。その頃の影響というか。あ、これも90年代の話ですね。それで、ロンドンから入って、スコットランドも回りました。

— スコットランドですか。

トレインスポッティング
スコットランドを舞台に、ヘロインに溺れる若者の生活を生々しく表現したアーヴィン・ウェルシュの同名小説を原作とする映画。主演したユアン・マクレガーの出世作でもある。

藤井:大都市だけで終わるのはちょっと嫌だな、と思っていたんですよね。それで車を借りて、足を伸ばしてみました。今回スコットランドに行くっていうことを決めてから、久しぶりに「トレインスポッティング」を意識的に見直したりしたんですけど、劇中でスコットランドからロンドンをバスで目指す、まさにあの道を通ってきました。

— 今回はベージュ、ネイビー、チャコールの3色をベースにしつつも、ところどころで使われているブルーが非常に印象的でした。よく見てみれば、アイテムだけではなく、ルックブックもブルー、ブランドオフィシャルWEBサイトのアクセントにもブルーが使われているのですが、これも旅の影響からなのでしょうか?

藤井:ヨーロッパにまつわる、とある映画からですね。その映画は白黒からはじまって、途中パッとカラーになる場面があるんですが、そこに映っていたのが砂場のベージュ、岸壁のチャコール、そして海のブルーだったんです。元々ブルーは好きな色なんですが、とくに今回はしっくり来ましたね。

— ここ3年ぐらいのコレクションでは、非常に世界観の作りこまれたテーマが多かったと思うのですが、今回はだいぶ感覚的なものですよね。

藤井 隆行
武蔵野美術大学中退後、いくつかのショップの販売員を経て、2001年にサーフェン智氏がスタートさせた『nonnative』のデザイナーに就任。2005年には高感度なセレクトショップvendorもオープン。2011年9月には2店目となる名古屋店をオープン予定。

藤井:架空の人物設定をしたりストーリーを作ったり、ここ何シーズンかのあいだで色々やってみたんですけど、ちょっと飽きちゃったんですよね(笑)。もちろん、そういったコレクション制作をすることで多くのことを学ぶことができたんですけれど、今回はブランドの10周年ということもあり、原点に立ち返って、感覚的にやってみようと思ったんです。

— 10周年を迎えて、何か心境の変化などはありましたか?

藤井:やっぱりノンネイティブを10年やってみて、デザイナーがデザインする部分というのは、服だけではないんだなっていう事を強く感じています。もちろん単純なお金儲けに走っているわけではないですけど、リリースしたものがきっちり消化されていかないと、続けていくこと自体、すごく難しくなる。ブランドをどうやって続けていくかっていうことも、デザインの一部なんですよ。
あと、うちにはベンダーっていうお店があることも大きいですね。どういうお客さんがノンネイティブのどんな商品を買うのか、というのが見えるのは作り手として非常にラッキーなことだと思います。決して媚びを売ったりっていうわけじゃないですが、お客さんを裏切りたくないですからね。
とにかくこれからは、先入観で評価されるようなことを減らしたい。実際にノンネイティブの服を見てもらった上で「でも俺は好きじゃない」と言われるのは構いませんが、まずはしっかり服を見て欲しいと思っています。

— 「コレクションを伝える」という部分で、ムービーやルックブック以外の伝達方法、例えばランウェイショーでのコレクション発表という形式に対して、興味はありませんか?

藤井:全く無いといえば嘘になりますけど、現状あまり興味はありませんね。僕もよく他のブランドのランウェイショーをみたりしますし、素晴らしいものだと思うのですが、実際ショーをやるというのは、並大抵のことではないですから。今の状態でもすでにギリギリでやっていますけど、それをもっと限界まで追求して、その結果がランウェイショーであるんだったら、今自分にとっては違う方向に向いているというか。

— ちなみに、今回のコレクションにおける自信作というものはありますか?

ノンネイティブのハイカージャケット
78,540円
(ベンダー)

藤井:自信作というか、苦労したのはハイカージャケットですね。クラシックなアウトドアウェアがアイデアソースになってはいるんですが、あの手のジャケットって基本的に古着の状態でしか見ていないので、新品として製品が上がってきたときにすごく違和感があって。着用感が無いとここまで印象が変わるのか、みたいな感じで、理想に近づけるのはかなり大変でしたね。何度もサンプルを作り直しました。

— このジャケットは、英国ミラレーン社のファブリック(British Millerain Driden®)を使ったものと、機能素材としては対極に位置するゴアテックスを用いたもの、2種類がラインナップされているというのもおもしろいですよね。

藤井:ミラレーン社の生地は良いものなんですが、あまり上手く世の中に伝えられていない気がしていたんですよね。それで、このトラディショナルな生地の良さを広く伝えるにはどうしたら良いかと考えた結果、ゴアテックスとの対比という結論に至りました。クラシックなミラレーンの生地を使ったアイテム対ゴアテックス、という構造はとても分かりやすいじゃないですか。でもこの2つの素材って、じつは水を弾くという機能のベクトルは同じだから、街中で着用するのにどちらが偉いとか、そういうことは無いんですよね。なので、自分の気分で選んで欲しいと思います。

— あとは、効果的に用いられていたタータンチェックも印象に残りました。

藤井:タータンチェックって、元々日本で言う家紋みたいなものなので、それこそ家系の数だけ柄がある、みたいな感じで、今まで見たこともないパターンのモノが、スコットランドにはたくさんあったんですよね。で、現地で買ったマフラーの柄をベースに、大きさとか色をアレンジして、カシミア混のメルトン生地をオリジナルで作りました。…なんて言うと、簡単に聞こえるかもしれませんが、これもかなり骨が折れましたね。チェック柄ってすごく難しいんですよ。実際服にしてみるとかなり印象も変わりますし、起毛させたりとかでもまったく表情が異なりますから。

— そして、昨シーズンに引き続き、今期も『リーガル(REGAL)』とコラボレートしたシューズがリリースされます。オーセンティックなアイテムを、ゴアテックスという最新のテクノロジーで仕上げた、非常にノンネイティブらしいアプローチのプロダクトだと思うのですが、このハイブリッドなシューズはどのような経緯で生まれたのでしょうか?

藤井:ウイングチップの短靴を、日本製で作りたいなと思っていたんです。それでどこが良いかなと探していたときに、リーガルが頭に浮かんで。早速話をしたらOKをもらえたんですけど、ただ「コードヴァンを使いました」みたいのもつまらないし、ありそうでないものを作りたかったんです。そこで思いついたのが、うちがずっとやってるスニーカーみたいにゴアテックスを作ってみたらどうか、っていうアイディアだったんです。

— 発想としてはシンプルですけど、プロダクトとしては画期的ですよね。

藤井:僕らのお客さんって、ほぼ週末専用の服として買ってくれている方が多いと思うんですけど、自分がその立場だったら、好きなブランドの服を週末しか着られないっていうのは、ちょっと寂しいことでもあって。かといって、スーツにうちのバッグは合わないし。でも、そういう人でも革靴なら履けるじゃないですか。
普段スーツを着なければいけないサラリーマンの方って、本当大変だと思うんです。雨の日でも雪の日でも革靴を履かなければいけないわけで。でもこのゴアテックスのシューズなら、月〜金も履くことができる。
自分はそんなに短靴を履くタイプでは無いんですけど、これなら自分でも履きたいですしね。走れる革靴、自転車のペダルでソールが傷ついても全く問題のない靴、っていうのをすごく作りたかった。実際疲れないし、蒸れないし。ボロボロにしても良いかなという、自分たちらしい一足になったと思います。

当日、オフィスには詳細未定のニューバランスが…。

— ありがとうございます。これは期待大ですね。それでは最後に、ノンネイティブファンも多いCluster読者に向けて、メッセージをお願いします。

藤井:心配事の多い時代ですが、服を買うにしても何にしても、自分にとって何か意味のあるような行動をすれば、きっと全体が良くなっていくのではないでしょうか。服を買ってストレス発散、というだけではちょっと寂しい気がするので、それを着て何をするかという、目的意識を持って生きていければなぁ、と思っています。

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