2011年秋のブランド大特集 VOL.01:『N.HOOLYWOOD』

by Mastered編集部

1 / 2
ページ

2011年もいつの間にやら折り返し地点を通過し、街はセール真っ只中ですが、このセールが終われば、そこに待ち受けているのは秋冬シーズン。皆様、この秋冬はどんな服を購入しようかと既に心躍らせていることかと思いますが、当Clusterではそんなファッションを愛する全ての方々のため、秋冬シーズンの立ち上がりよりもひと足早く、総力を挙げてのブランド特集を実施! 今回はより深く1つ1つのブランドにフォーカスするべく、新作アイテムの紹介に加え、各ブランドのデザイナーに当編集部が気になる質問をぶつけた長文インタビューを同時掲載することとしました。
そして、このブランド特集企画に栄えある第一弾としてご登場いただくのは、昨年、東京からニューヨークへと発表の場を移し、2011年秋冬コレクションではニューヨークでの初のランウェイショーに挑んだ『N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)』。20世紀初頭まで、「絶対に登頂不可能 (perfectly inaccessible)」とも言われ、今では多くのクライマーの聖地として君臨する“HALF DOME”の名をテーマに掲げた今シーズンのコレクションを、デザイナー尾花大輔氏へのインタビューと併せて、じっくりと紐解いていきます。
それでは、フォーマルなスーツスタイルと、ザイル一本ぶら下げ登山をしていた20世紀初頭から、アンセル ・ アダムスがヨセミテを撮り始めてゾーンシステムを発表する1940年代くらいまでのクラッシックな登山スタイルにクローズアップしたというその最新コレクションを、とくとご覧あれ!

→VOL.02:『TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.』はこちらから
→VOL.03:『ts(s)』はこちらから
→VOL.04:『nonnative』 はこちらから
→VOL.05:『DIGAWEL』はこちらから

写真:浅田 直也

「今の自分はこんな感じだなぁ」という、もう少し肩の力の抜けたところで伝えたいスタイルというのをやればいいかなと思っていて。それが今の気分なんでしょうね。

— 発表の場を東京からニューヨークへ移して2シーズン目となる今期、N.ハリウッドとして海外では初となるランウェイショーという形でのコレクション披露となったわけですが、その感想をお聞かせいただけますでしょうか。

尾花:1回目同様、大変ではあったんですが、1つ言えるのは今回は現場に居た人間全員に、それこそ10年ぶりくらいの一体感が生まれたんです。もちろん毎回充実はしているんですが、特に今回は精神的な充実感というのが大きかった気がしますね。東京でショーをやっていた時は、気がついたらショーがはじまっていた…と言うと流石に大げさですが(笑)、それくらい周りのスタッフが年々成長をしてきていて、ある種コンプリートされたかたちで仕事をすることが出来ていました。
でも今回は初心に戻って、一か八かの賭けに出るような、そんな緊張感のなかでやっていたので、個人的な充足感も相当なものでしたね。

— 海外でのランウェイショーということで、東京で行われていた時との違いは何かありましたか?

尾花大輔
1974年生まれ。神奈川県出身。
老舗古着店「VOICE」にてショップマネージャー、バイヤーとして3年間活躍した後、2000年に『N.HOOLYWOOD』を設立。2002年春夏シーズンからは東京コレクションに参加し、以降8年間に渡って“東京コレクションの顔”として作品を発表。2010年春夏シーズンより、満を持してニューヨークへと発表の場を移し、世界を相手に新たな挑戦を続けている。

尾花:僕たちはいつも、ショーにはプロのモデルではなく素人を使っているのですが、日本であれば通常キャスティングにひと月半くらいかかるところを、今回は現地に入って4日ほどでオーディションまで行いました。短期間で質の高いモデルを集めることができるという意味では、とても恵まれた環境なのかもしれません。
あと、アメリカではショーの前に展示会をやってしまうという点は、日本とは大きく異なる部分ですね。ネタばらしをした上でショーをやらなければならないというのは、正直最初は戸惑う部分もあったのですが、よく考えてみればすごく合理的だということに気付かされました。というのも、サンプルの作成など、仕込みの部分は早くから動かなければいけなくなりますが、その分ショーに挑むまでの時間を長く取ることができるので、じっくり内容を練ることができました。

— 以前、コンパイルラインをパリで発表されていた時期もありましたが、パリとニューヨークの違いという部分ではいかがでしょうか?

尾花:パリだとやっぱり“しきたり”みたいなものがたくさんあるので、「こんなものはファッションショーではない」とか言われたりしがちなんですけど、ニューヨークだとその辺が非常にオープンというか、「自分たちのスタイルを貫きます」ということに対して誰も反対することがない。むしろPR会社をはじめ、みんな応援してくれるばかりか、アドバイスまでくれたりする。そういう、クリエーションに対してオープンマインドで、とても前向きに考えてくれるっていう意味では、自分としても非常に土壌が合っていましたし、選んで良かったと思いますね。

— 逆にニューヨークでやったからこそしんどかった、という部分はありますか?

尾花:やっぱり言語が通じない場所でどうやっていくか、という部分は辛いところですよね。でも、辛いには辛いんですけど、ドMなのかな、少なくとも今回はその辛さに見合った充実感がありました。
逆にパリでやっていた時は、作業的には、きっちり収まっていましたし、辛くなかったんですよ。でも、辛くないはずなのに、居るのが辛かったかなぁ…。リアクションが伝わりづらいというか、ビジネスなんでリアルにお金のことを考えるのは分かるんですけど、その場しのぎの手段でくるバイヤーさんがいたりとか、駆け引き的な部分だったりが結構いろいろあって、大変でした。ただ、自分としても初の海外展開だったので、ナーバスになりすぎてしまっていただけかもしれないですけどね。
もちろん、パリでも悪いことばかりじゃなく良いこともあったので、「インターナショナルに展開するということはこういうことなんだ」と、ある意味開き直ることができたという点でも、パリでのステップはすごく重要だったなと思います。

— モデルハントの話に戻りますが、今回はどんな基準で選ばれたのでしょうか?

尾花:アンセル・アダムスしかり、実際その当時、山登りをしていた人たちって、嫌っていうほど髭が生えているんです。今でも若者達は冬になると髭を伸ばして、ちょうど今ぐらいの季節になると剃る、なんていう話もあるんですけどね。
とにかく、山だと剃ってる暇も無いだろうし、お風呂に入れない日もあるだろうし、伸びっぱなしの髭というものにも、必然性があるんです。なので、とにかく髭が生えているっていうことが前提条件。かつ、ただ髭が生えていればいいというわけではなく、あまり現代的なハイブリッド感の無い、クラシックな顔立ちのモデルをキャスティングすることで、ノスタルジックな部分を表現しようと心がけました。

— 尾花さんは以前から、テーマを決めたあと旅に出られると伺っていますが、今回はどのような旅でしたか?

尾花:単純にテーマを決めて洋服を作るということも実際に出来ると思いますが、もし僕が追いかけようとしていることについて、先駆者というか、調べ尽くしている人がいたら、情報量という部分では到底かなわない。だから僕は、実際現地に足を運んで、自分なりの目線で感じたことをインプットして、それを表現したいな、と。例えばアンセルが辿ったところも自分の足で直接現地に出向いて、その場所に対して僕はこう感じた、ということを形にしていかないと、写真集を買えば済んでしまう話ですからね。自分の主観で何かが生まれていく、っていう部分を大事にする意味でも、旅はすごく重要視しています。

— テーマを決めてから、それがどのようにコレクションへ落とし込まれていったのか、その経緯を教えていただけますでしょうか?

アンセル・アダムスの写真集
「Yosemite and the High Sierra 」

尾花:『ザ・ノースフェイス(The North Face)』のロゴのモチーフになっているハーフドームという山があるんですが、アンセルはそこをメインで撮っていたんです。あのロゴを思い出していただければわかると思うんですが、その名のとおり、一方は崖みたいになっている山なんです。調べてみたら、その崖側からの登頂に成功したのは、1950年代なかばになってからだということでした。長い歴史のなかで、ほんの半世紀前の出来事だって考えると、この断崖絶壁っていうのはよっぽどだったんだな、と。
そうしたら今度はそれ以前に登山していた人達の服装っていうのが、やっぱり気になってきちゃったんですよね。ギアが未発達な時代の登山ってどんなものなのかと思って調べてみたら、気持ち悪いぐらいみんなスーツで登ったりしてるわけです。革靴の裏にスパイクをくっつけたりとかしながら。要は、普段着とほとんど変わらないなかで、どうやって登っていくかという。まぁ昔の日本人がどこへでも着物で行ったっていうことと変わらないんでしょうけど、なんだかそれがすごくモードなことに見えたんですよね。なので、クラシックなものを今的なモードへ自分なりに昇華できないかな、っていうことが今シーズン最大のテーマになっています。

— なるほど。ところで尾花さんご自身も実際登山をされるんですか?

尾花:いやもう、本当にハイキング程度の山しか行かないですね。ゴリゴリのやつは行かないです。
登山といえば、バンブーシュートの甲斐君とは高校の同級生なんですが、彼に誘われて今から10年くらい前に、彼は当時最先端のハイテク素材を使用したウェアで、僕は当時古着屋だったっていうこともあって、肌着からリュックから靴から全身70年代のアウトドアギアで実際登山しよう、っていうのを「山と渓谷」かなにかの企画でやったことがあるんですが、まぁ僕の方は体力の消耗がハンパでは無かったですね。リュックも重いし、汗をかいたら肌着のサーマルはびしょびしょになって冷えちゃうので、何枚も換えを持って行かなきゃいけなかったりと、やっぱり機能服って凄いんだな、なんてことを思い知らされたりしました。

でもそのおかげというか、今回のショーをやった時はちょうど大寒波がニューヨークに来ていて、街中に雪が1メートルぐらい積もってるような厳寒の時期だったんですが、最新のアウトドア装備に身を包んで、モデルハントをしていました(笑)。もう「本当にそれで街歩くの?」っていうレベルの格好で街を歩いていましたね。ショーの前に風邪を引いたりしちゃいけないとか、色々な不安もあったので。まぁとにかく完璧な装備を心がけて、スノーボードをやっていた頃から元々『マウンテンハードウェア(Mountain Hardwear)』の肌着とか、機能的なアイテムは好きだったので、そういうのを中心にしながら、アウターは自分のところの、ベトナム戦争をテーマにしたシーズンのダウンジャケットを着てたんです。ただそのジャケット、デザイン的にあえてウインドシールド(編集注:フライトジャケットなどによく見られる、ジップの内側に付く風除け部分)を省略したものだったんですよ。あれがあるのと無いのでは、本当にビックリするぐらい暖かさが違う(笑)。たったそれだけの違いなんですけど、ディテールにはちゃんと意味があるんだな、っていうことを、身をもって体感することができました。

— 今回のコレクションで、とくに気に入ってるアイテムはありますか?

N.ハリウッドのピークドラペルジャケット
53,550円
(ミスターハリウッド)

尾花:他のデザイナーさんってとくに力の入ったアイテムとかあるんだろうけど、僕はあんまりそういうのは無いんですよね。ただ、象徴的なものっていう意味で考えれば、やっぱりスーツですかね。白いコットンのダブルのジャケットとか、一見シンプルなんですけど、サックコートとジャケットの中間的な落とし込みにしてます。僕、基本的にピークトラペルが嫌いなんですが、あの時期の雰囲気を出すには絶対ピークトじゃないとダメなんです。そういう点では、象徴的な1点になりましたね。
あと、当時のジャケットなんかによく見られるアクションプリーツを、ジャケット以外にも色々入れてるんですけど、機能性で言うとアクションプリーツって全然良くないんですよね。実際、今アクションプリーツが入ってる洋服ってほとんど無いじゃないですか。生地に充分ストレッチ性があったりするので。まぁ当時は防寒製の高い生地っていうとどうしても厚手のウールとかになってしまうので、プリーツを入れておけば多少動きやすくなるだろう、っていうことだったんだと思いますが、機能性はイマイチでも、僕はデザインとしておもしろいとおもったので、いろんなところに落とし込んでみました。

— 少しコレクションから離れた質問になるのですが、『N.ハリウッド』を語る上でやはりアメリカというキーワードは欠かせないものだと思います。実際にコレクションを拝見していても、アメリカへのすごく深い愛を感じるのですが、尾花さんの考える「アメリカの魅力」っていうのはどんなものなのでしょうか?

尾花:たぶん、最初の入口がアメリカだったっていうのが、純粋に一番大きなポイントだと思います。親戚が住んでるっていうのもあって、小学生の時にはじめてアメリカに足を踏み入れたんですが、いきなり「アメリカの生活」が存在している場所にポンッと行くことになるわけじゃないですか。パッケージのツアーでホテルに泊まって観光バスに乗って、みたいな感じだったらもう少し俯瞰で見る感じになるんでしょうけど。その時は2週間ぐらい滞在していたんですが、別に派手な生活をしているわけじゃなくても、普通に庭でバーベキューが行われたりだとか、スペアリブだのTボーンステーキだの、当時の日本では普段そんなにお目にかかることが無いものから、小学生なりに「アメリカ」っていうものをすごく感じたんですよね。やっぱりそれが初期衝動で。
それから随分時間も経ってるんですが、古いアメリカだけじゃなく、今のアメリカも全然好きですよ。常に進化していってますし、それが目に見えますから。あと、さすが移民国家というか、ひとつの国でいろいろな「リトル○○」を体感できちゃうっていうのも、東京には無いおもしろい部分ですよね。

— 2009年から“NEW ORDER”、”SKY SCRAPER”、“AUTO JUNKTION”と、3シーズン続けて非常にコンセプチュアルなコレクションを発表したあと、“COVERAGE”というベトナム戦争をテーマとした、尾花さんの本質と言いますか、十八番であるミリタリーを前面に押し出したコレクションを最後に、発表の場をニューヨークに移されました。その後、ニューヨークで発表したコレクションも、コンセプチュアルであることは間違いないのですが、よりリアリティのある内容になっているように感じました。そのあたり、心境の変化等あったのでしょうか?

尾花:要は、日本でやってた時よりも、もっとなんでもよくなっちゃったんですよね。こういう言い方をするとすごくいい加減に聞こえちゃうと思いますが、「今の自分はこんな感じだなぁ」という、もう少し肩の力の抜けたところで伝えたいスタイルというのをやればいいかなと思っていて。それが今の気分なんでしょうね。

— 意識的というよりも、無意識的な変化なのでしょうか?

インタビュー当日、尾花氏の左腕には2009年に
リリースされた『ハミルトン(HAMILTON)』との
コラボレーションウォッチが。

尾花:意識している部分もあると思います、正直。自分がどんどん年齢を重ねてきたので、トラディショナルなアイテムをもう一度見直してみたいという気持ちがあるんですよね。まぁじつを言うと、見直すもなにも、やっぱり古着屋あがりなので、「このブランドにはこんな歴史があって」とか、「このディテールはこの年代で」とか、そういう社歴的なことは知っているんですけど、誰それが愛用していてとかそういう文脈的なところに対しては、新品畑の人の方が詳しいと思うんです。
そういう、よく理解してなかった部分をあらためて見直すようになってきて、ずっと存在してきた洋服のリアリティみたいなものがおもしろくて仕方ないというのもあるので、そんなことが影響しているのかもしれませんね。

— 意識の変化という部分でお伺いしたいのですが、先の震災以降、考え方に変化があったりはしましたか?

尾花:まずは普通に動揺しましたね。「ヤバいかな」みたいな。それでとっさに、一人暮らししてるうちのスタッフが、2階建ての木造アパートで人知れず死んじゃったりしたら嫌だなと思って、とにかく今自分ができることをしようと、ガスマスクとか食料を結構買ってきて、一人で心細い人は会社に来なさい、みたいな感じで用意したんですけど、意外とみんな一人でも平気だったみたいで…(笑)

まぁそんなオチも付いちゃったんですが、あの日から2週間ぐらいは自由出社にしてましたよ。その頃は、正直「このあとどうなるんだろう?」って思ってて。でも、どうするんだろうって言っても、自分で答えなんて出せないじゃないですか。自然が相手なんでね。
とにかく、正直何をやっていいのか、本当に分からなかったんです。そんななか、地震が起きて割とすぐに、クアドロフェニアのメンバーで集まる機会があって。最初は「どうする? どうしたらいいんだろうね?」みたいな話だったんですが、結局は僕らがやらなければいけないことっていうのは、経済を回すという意味でも普段どおりに仕事をして、遊んで、飲んでっていう、当たり前のことを当たり前にやり続けることが日本全体に対しての還元になるんじゃないかっていうところに落ち着いたんですよね。基本的には、今までの生活と変わらないことをやれる限りやる。もちろん節電だとかはできる限り協力もしますし、国民の義務にしてもいいぐらいだと思いますけど、かといって僕らもこういう商売をやっている以上、電気をすべて消すわけにもいきませんし。境界は難しいですが、そういう部分を考慮しながらやれることをやるしかないっていうところですかね。あと、そういう気持ちが風化しないように、継続してやり続けることも重要だと思います。

— N.ハリウッドの今後についてお伺いしたいのですが、以前のインタビューで「短いタームで短い目標をもってやっていきたい」というお話がありました。来シーズンはN.ハリウッドにとってどんなシーズンにしていきたいですか?

『N.ハリウッド』のブランド10周年とNYコレクション進出を記念して、尾花氏のロングインタビューを含む100ページにも及ぶ特集を組んだ「SPADE 2011年 03月号」

尾花:今はニューヨークでファッションショーをやったりしているわけですが、その感動とか充実感をいくら口頭で伝えたところで、日本で支えてくれているスタッフや関係者、お客さんとは共有しきれるわけがないんですよね。ライブなんで。だからその分、ショップスタッフの子達から現場で起きていることとか、こういうものがおもしろいとかいうことに対してヒアリングをして、僕なりのフィルターで落とし込んでいくっていうことを、パンパンパンともっと深く考えず、瞬発的にやっていきたいです。「あぁ、おもしろそうだからやってみようか」みたいな。一番最初のミスターハリウッドは本当にそんな感じだったんですよ。「商品が無くなってきちゃったから、明日からアメリカ行ってくるわ」っていうぐらいのノリで。そこから10年経ったなりの、パワーとクオリティをかね備えた状態で、そういうスピード感のあるおもしろい提案を強化していこう、っていう話をしていますので、タームという部分に関してはより短くなっているかもしれません。

— ラインが増えているのもその一環として考えてよろしいですか?

尾花:なんというか、そういった形で棲み分けをしていかないと、自分もやりづらいんですよね。「はい、今シーズン作りたいものはこれ!」みたいなのは、体質的に無理なんですよ。テーマに向かってとにかくやる、っていうのが染みついちゃってるので。だから、テーマでも大儀でもなんでもいいので、「こういう理由でこれは存在しているんだ」みたいなものが多少あるとモノ作りの精度も上がるし、自分も納得できるっていうのもあって、そこは一貫しています。
まぁ各々がケンカしない程度にセグメントを増やした上で、もうちょっとショップスタッフの子達がリアルに感じていること、それこそ初期ミスターハリウッドのファンだったり、中期の感じが好きな人に向けて、少しアップデートされたもので表現してみる、とか、そういったことにチャレンジしていきたいですね。失敗することは恐れないで、とりあえずやってみる。それでダメだったら次はこういうことをやってみよう、みたいなところは強くなってきているかもしれません。

— レディースに対しての興味はありますか?

尾花:すごくありますね、女性への興味は(笑)。まぁ、本当に申し訳ないんですが、それで終わっちゃうんですよね。女性全般大好きなんですが、自分の服を全身でおしゃれに着こなしてくれる人が居たとして、かっこいいなとは思うけど。好きとか嫌いとか、そういう基準で考えちゃいけないんだけど、でも正直女性の服は分からないですね。難しいと思います。

— 最後に、尾花さんの影響でファッションを好きになって、実際業界で尾花さんを目指してがんばっている人も決して少なくないと思います。そんな人達に向けて、なにかメッセージをいただけますでしょうか。

尾花:本当にありがたい話ですね。自分が言っちゃうのもちょっと恥ずかしいんですが、「運」と「タイミング」と「曲がらない自分の好きなもの」、この3つは少なくとも持ち備えてないといけないかな。というのも、今本当に良い服を作るブランドは多いし、それこそ魂の有り無しは置いておいて、マスマーケットの服だって立体物として見たら充分にいいものがある。そんななかで、僕らみたいなブランドを見続けてくれる人って、「あそこと同じような生地を使ってるけど、ここであの時代のディテールをちらっと入れてくるんだよな」とか、結局僕の好きな物が息づいたモノづくりというか、作り手のアイデンティティに共感してくれているということだと思うんですよね。人に影響を与えられるポイントっていうのは、そういうことですから。
あと、最初から総合ブランドを目指したりしないっていうのが重要ですかね。まさか僕も10年後にこうなっているなんて思わなかったですから。「デザイナーになるんだ」とか「あそこみたいな規模を目指すんだ」っていうことよりも、それこそ10年前の僕の「どうしても古着が好きで、アメリカのここら辺の古着屋の店員が来ているような服が好きで」みたいな、すごくざっくりしてるんだけど、そういう生っぽくてピンポイントな思いっていうのは、強く人に伝わっていくのかなと思いますね。

次のページは『N.ハリウッド』の2011年秋冬新作アイテムの紹介です。