本特集前編のラストにご登場いただくのは、小木氏にとって直接の上司であり、LWTや時しらずを生み出した「UAラボ」事業の発案者でもある、ユナイテッドアローズ本部長の東浩之氏。
UAラボの意義やビジネス面から見たLWTの反省点、さらにはこれからの小木基史とユナイテッドアローズについてまで、大いに語っていただきました。
「UAラボ」という仕組みのはじまり
LWTについて語る前にまずお話しておきたいのが、「UAラボ」という仕組みについて。
元々僕は人事を担当していたんですが、うちの採用基準っていうのを、「とにかく洋服が好きであること」と「接客が好きであること」の2つだけに絞ったんです。もうその2つだけにしようと。やっぱり洋服屋ですから、あれもできてこれもできて、という人を採用したって活かしきれないんですよ。
なので、ものすごく洋服が好きでものすごく接客が好きな、その世代を代表するような洋服オタクというか、洋服屋としてイケてる若い人をたくさん採った自負があったんですけど、その一方で裏原系と言われるような人がバンバン出てきて、それこそ20代で大成功するような人まで現れたわけです。でも僕は、うちの精鋭たちが彼らと比べて負けているはずがないと思ったんですよ。我が社にもそういう可能性を持った人材がきっと眠っているはずだ、と。そろそろ目の行き届かない規模になってきたので、僕らが発見できていないだけだろう、と。
そこで、重松(編集部注:現ユナイテッドアローズ 代表取締役社長 重松理氏)がユナイテッドアローズを作った時の崇高な理念というのを、改めて明文化して全社員に浸透させたいということと、社内ベンチャー制度のような仕組みを作ることの二点を目的として経営戦略部という部門を立ち上げて、事業案を募ったんです。アイデアベースでもなんでも構わないから、「これをやらせてくれ!」というのをどんどん応募してこい、と。
すると、企画書まで行かないような代物ながら、130件ほど集まったんです。そのなかから一次審査を通ったものに対しては、事業計画書にまとめるサポートを経営戦略部が行い会社に提案し、事業を立ち上げていったんです。それが「UAラボ」という仕組みのはじまりです。
まさに隙間そのもの
それから「時しらず」であったり「オデット エ オディール」であったり、いくつかのUAラボ店舗ができたんですが、そこからしばらくして小木君からも「こういうことをやりたい」という提案がありました。小木君の提案には相当なインパクトがありましたね。そんなコンセプトの店舗はどこにもありませんでしたから。ラボの規模でやるには、やっぱり隙間を狙っていかないといけなかったわけですが、まさに隙間そのものなんですよ。それに当時プレス業務に就いていただけあって、ネットワークの作り方も上手でしたしね。
あとはやっぱり情熱。あ、気合い入ってるな、っていう。退路を断ってるなコイツ、っていう。そういう人じゃないと成功しないと思うんですよ。
それで、いくつかの提案があったなかから最終的に小木君の案が採用されました。
フェアーにダメならダメ
ユナイテッドアローズは上場企業なので、自身の看板をどんどん大きくしていくしかないんですよ。大きくせざるを得ない。どんどんメジャーになっていくしかないんですけど、そのなかにもマイナーな思いというのがどこかにないと、芯が失われてしまうじゃないですか。だから、もっと小さくて密度の濃い集団をいつも生み続けることのできる会社にしたかったんです。
ただし、市場の原理原則の荒波にさらさないと本物の事業なんてできないし、本物の企業体系なんてできないので、本部からの支援は最小限にして、金は出すけど口は出さないから、好きにやってみなさい、と。その代わりこの金が無くなったらアウトですよ、と。そういう仕組みを作りたかった。
でもいざやってみると、本人も一生懸命だし、何よりも熱心なファンのお客様もいらっしゃるわけで、結果がダメだったからといっても、これがなかなかつぶせなくなるんですよね。LWTも一部の業界人を中心に、目論見通り大好評いただく素晴らしい店になったのですが、利益は出ませんでしたし、事業としての広がりも見えなかった。
小木君達の思いも知っていたし、本当に辛い決断にはなったのですが、UA本部の所属になり僕の決裁権になったところで、お約束どおり利益が出ないから潰しますよ、と。良い店だったのにもったいないというご意見がたくさんあるのも十分承知の上ですが、僕は商売として正しい判断だったと思います。
疑似起業体験っていうのはかけがえのないものだと思うんです。大企業の取締役や雇われ社長よりも、やっぱり中小企業でもちゃんと利益を出している社長の方が苦労の幅が違うし、社会的な強さとか人間的な深さを感じるじゃないですか。そういうたくましい社員を沢山作りたい、という思いがラボという仕組みに対してあったので、そこはフェアーにダメならダメと。
だったらUAそのものを変えさせてくれ
ただそうは言っても、マネージメントをしなければいけない側の立場としては、やっぱり無理があった仕組みでもあったと、すごく反省をしていまして。
例えば普通の人が洋服屋をやろうと思ったら、まずは自分でモノを作って、それを自ら売り歩いて、その後卸し売をしたりして、一生懸命お金を貯めて、ようやく自分のお店を持てるわけじゃないですか。そのプロセスを端折っちゃったらやっぱり成功するのは難しいですよね。
そういう意味ではアプローチの仕方がちょっと違ったのかな、と。小木君のセンスや情熱、ネットワークを活かす方法として、あれがベストではなかったのかもしれない、と。
そんなことを「もうLWTを存続させるのは難しいよ」という通告のなかで話をしたら、彼が「だったらUAそのものを変えさせてくれ」と行ってきたんですよ。もうこちらとしてはもう渡りに舟というか、僕も含めて、みんな今後のユナイテッドアローズブランドにはすごく危機感を感じていて、変わらなきゃいけないと思い始めてはいるんですけど、具体的に「こう変えようよ」と提案する人間は居なかったんです。今までも少しずついろんな手は打ってきているんですけど、それがお客様の心に大きく響くような変わり方だったかというと、そうでもなくて。それを大胆に変えてくれるっていうプランを彼は持っているので、だったらそっちをやった方がおもしろいなと。
今回我々はLWTという事業の撤退を決定しました。LWTを愛していただいたファンの方々や応援いただいた取引先様には、力及ばず本当に申し訳無い気持ちでいっぱいです。しかし、小木君を中心としたLWTチームの彼らが実現したかった夢は、本当はユナイテッドアローズ自体で目指すべきだったというのが今回の趣旨なんです。彼らはきっと、今後もっと大きな事をやってくれるはずです。
ということで、今後の小木基史とユナイテッドアローズにご期待いただければと思います。
慶應義塾大学商学部を卒業後、大手アパレル会社の人事部、経営企画部を経て、
1995年(株)ユナイテッドアローズへ入社。
現 (株)ユナイテッドアローズ UA本部 本部長。同社の上席執行役員にも名を連ねる。
http://www.united-arrows.co.jp/