『直球だってこと自体が変化球』スチャダラパー(アーティスト)

by Mastered編集部

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やっぱり今あんまりない音楽を作りたい

— あと直球ってとこで言うと、“Hey! Hey! Alright”や“Station to Station”や“Good Old Future”とか、新作はストレートに格好良い曲をやってる感じもありますよね。

シンコ:振り返ると、今回のアルバムは結構いままでになかったような制作過程で。タイアップってほどのもんじゃないですけど、頼まれた曲からスタートして、そっからアルバムに向かっていって。アルバムの中で3回もそんなことがあるのはいままでなかったから。いちおうクライアントありきのものだから希望に沿って。だからまあ、これまでそんなことあんま考えたことはなかったんだけど、地味な曲より明るめな曲か印象に残る曲みたいなのをやってったってのはある。
あとさっきの歌詞がストレートになったってのも、そういう経験があったからかも。TVで流れるかもという曲を頼まれて作ったわけで、その縛りがなくなったときはもう少し延び延びやろうという気持ちはあったかもしれないすね。

スチャダラパー+木村カエラbr『Hey! Hey! Alright』

スチャダラパー+木村カエラ
『Hey! Hey! Alright』

— 編集部:でも正直、先行シングルだった“Hey! Hey! Alright”を聴いて、リリックに違和感を感じましたよ(笑)

ボーズ:それはあるよね(笑)

— 編集部:皮肉ゼロみたいな(笑)それでその違和感がこのアルバムを通して聴くことでさらに感じて。

ボーズ:でもそういうのを面白がってるとこもある。

アニ:あれは中学生向けみたいな。しかもNHKだし(注:“Hey! Hey! Alright”はNHKの教育テレビで毎週土曜日放送中のアニメ、『メジャー』のオープニング・テーマである)

ボーズ:そこで僕がパッと思いついたのは、とにかくアニが言わなそうなことを書こうって。

— 編集部:アハハハハ。「前だけを見る 前だけを見る」っていうリリックとか、確かにアニさんらしくないですよね。

アニ:後ろしか見てないのにね。

(一同笑)

ボーズ:でもそれだと野球マンガとして成り立たないから。それに一応トリックとして気づかないように言ってるとこもある。「不況に喘ぐ町も沸いた」とか、「なくはないと思いたい」とか、「ガンガン行けそうじゃん」みたいなとこで、他人事かって、まったく野球の外にいるみたいなのが面白いかなって。しかもそれをみんな気づかないのも面白いし。

— 言われてみれば。でもその外にいる感覚こそがスチャダラパーだと思うんですが、一方で今回はいつにないぐらい中に入り込んでる感じもあるのかなと思って。

ボーズ:どっちの言葉を選ぶかってときに、なんせ分かんないよりは分かった方がいいとは言ってたよね。

— 新作は変わったねと言われません?

ボーズ:そうすね。確かに直球でいってますねとは言われる。でももはや自分たちに関しては、直球だってこと自体が変化球って気もする。「お前らが直球投げてることが変化球だ」って。そういう話ですよ。

シンコ:「前だけを見る」、それを「またまたー(笑)」って思われるってことだよね(笑)

アニ:やっぱし今あんまりない音楽を作りたいと思ったらね。ないじゃないですか、社会に毒づく的なのって(笑)

ボーズ:それは音楽だけじゃなくてね。そこはひとつテーマでしたね。そこはなるべくやろうって。

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アニ:パブリック・エネミー(Public Enemy)とかが好きで、自分たちが影響を受けたのはそういう音楽だから。でもいま見回すとあんまそういうのってないなと思って。こんな酷い世の中になってるのに、若者は「君が欲しい」だの「君がいない」だの、「桜」だの「そばにいるよ」だの(笑)
それに、もうヒップホップが昔のフォーク的な感じの、叙情的なとこにいってるってのもあるし。

シンコ:またそういうのが売れてるしね。

ボーズ:お国柄なのかな(笑)

アニ:ヒップホップって出始めた頃は新しい音楽だと思ってたのに、浸透するにつれて日本人の好みに合っていったのかな。もともとそういうのが嫌いでヒップホップにいったのに、いまそっちの方にいってるのがとにかく腹立たしくて(笑)

(一同笑)

シンコ:フォークもそうだからね。

アニ:だよね。もともとはメッセージのある音楽だったのに、日本に入ってきて「君が好きだ」的なノリになった。だからいまの若い子にとっては、ヒップホップってのは聴いてると勇気が出るやつだって感じなのかなって。もうちょいさ、貧乏な黒人とかのなんてことのないレクリエーションからはじまった音楽なんだから、みたいなさ(笑)

ボーズ:よく言うんだけど、お笑いでも何でもそういう人がいないから。YouTubeで昔の漫才とか改めて見たりすると、ツービートとかけっこうめちゃくちゃやってたりして。ああいうのも好きだったわけじゃないですか。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」みたいな。

アニ:いまはそういうのは言っちゃいけない感じだもんね。

ボーズ:でも同時に僕らが言える言葉もけっこうあるなって。どぎついことも意外とバレないみたいな。そういうのがいいんじゃないかって。

— その意味では、いま一方でどぎつい日本語ラップも増えてますよね。

アニ:でもそういうのは地下じゃないですか(笑)面白いと思うのはだいたい好き勝手やってる非メジャー。でも何かの間違いでミラクル起こしちゃってとかねーなーみたいな。みんなただやってるだけみたいな感じで、まぁ近いとこで盛り上がってればみたいな。だけどそうなってくると閉鎖的な感じになりがちじゃないですか。東京は人も多いし、いろいろあるからその規模でもいいかもしれないけど。

アナーキーの2008年作『Dream and Drama』

アナーキーの2008年作
『Dream and Drama』

— 地方にはアナーキー(Anarchy)みたいなラッパーもいますよね。彼なんかは黒人音楽、ゲットー音楽としてのヒップホップをやっていると思いますけどね。

アニ:まあね。

ボーズ:で、それがベスト10とかに入ってれば面白いわけで。ホントだったら入るじゃん。アニが言ってるのは、そういう間違いが起こらない感じがさ。たとえばそういう子がいたとして、女の子をフィーチャリングした曲は売れるけど、ハードコアなことを言ってる曲のことは誰も知らないみたいな。そういうことだよね。

— そういうもどかしさはスチャダラパーが打破してやるぞと。

ボーズ:打破してやるというか、僕らは元々そういうことしかやってないからね。それをずっとやってるだけで。僕らは開けたところでやってるつもりだから。僕らのライヴにはふつうの女の子とかもいっぱい来るし。

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