『直球だってこと自体が変化球』スチャダラパー(アーティスト)

by Mastered編集部

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いろんな「ありふれた奇跡」に乗っかってこうって

— 今回はアルバムも曲のタイトルも直球ですよね。

ボーズ:分かりやすい。

— 編集部:アルバムのタイトルは『The 9th Sense』、『CON10PO』ときて、今回『11』じゃないですか。それぞれ「このアルバムが何作目か」っていう数字が入ったタイトルになってますが、それに関してはアピールみたいなのもあるんですか?「ダテにやってねーぜウン年目(注:“アーバン文法”内のリリック)」じゃないですが。

ボーズ:ないない(笑)

— 編集部:でも世界的に見ても、アルバムを11枚出してるヒップホップ・アーティストってそうそういないと思うんですよ。

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ボーズ:まあね。だから自分らも枚数入れとかないと忘れるんですよ。

アニ:老いですよ、老い(笑)

シンコ:あとはジャケを伊藤桂司さんに頼めるってのもあって、ここはしれっと抽象的なというか、簡単な方がいいかなって。

— 編集部:今回伊藤さんに頼んだきっかけというのはあったんですか?

ボーズ:僕が偶然知り合いになって。以前からふつうに素晴らしいアーティストだなと思ってたんだけど、会って話したら、「スチャダラとかけっこう聴くよ」とかって、わりと気さくな感じで。「何か頼んでよ」みたいなことを言ってくれたから、「えっ!…そういうのアリなんすか?」って感じではじまって。

アニ:全然知らなかったんだけど、CDのジャケットとかすげーやってるんだよね

シンコ:ね。相当初期の頃にキリンジやってるんだよね。くそー、あのホリゴメ兄弟め!みたいな(笑)

— 編集部:依頼するときにこんな感じでみたいなのがあったのか、それともおまかせで?

アニ:オレンジペコーのとかやってて、それはトロピカルな感じだったんで、そういうのよりは町っぽい感じでお願いしますって。

シンコ:“Good Old Future”とかできてたから、そこからどっか町っぽい感じでって。

アニ:できあがった曲は渡してて、それを聴きながら書いてくれたみたいで。

— でも実際は全然町っぽくないですよね(笑)

シンコ:だよね(笑)サイケ、サイケ。

— 編集部:できあがってきたときの印象は?

ボーズ:まあこういう感じだよね。なんじゃコレ?みたいな(笑)

アニ:これ、個展にも出してたすごいでかい絵なんですよね。

ボーズ:アーティストにしか見えない何かがあるんだよ。聴きながら書いてんだから、これで合ってるんだと思うんだよね。だからだんだんみんなも納得いくようになってくると思う。「こういうことか、分かった分かった」って、3年後ぐらいに(笑)

— 編集部:PVもいつものタケイ(・グッドマン)さんじゃなくて、大根仁さんですよね。

ボーズ:“DISCO SYSTEM”のときからか。

シンコ:“ライツカメラアクション”のPVをやってもらうのが『週刊真木よう子』の時点で決まってて、しかも真木よう子が出てくれるってんで、これはちょっとって。ドラマの番外編的な意味もあって。

ボーズ:“Hey! Hey! Alright”の(木村)カエラちゃんも可愛いんだよ。大根さんなら可愛く撮ってくれるだろうなって。

— 編集部:“DISCO SYSTEM”のときに依頼したのはきっかけみたいなのがあったんですか?

シンコ:僕が深夜のドラマで曲をやってて。ある日友人を介して直々に「会いましょう」って言われて、それで会って。

— 編集部:『ライオン丸G』あたりですか?

シンコ:いや、『演技者。』ってので。その中で宮沢(章夫)さんが原作の『14歳の国』ってのがあって、その曲を頼まれて。サントラはやったことなかったんですけど、宮沢さんだし断るわけにはいかねーなって、半ば脅しみたいな感じで(笑)そっから『30 minutes』とか『去年ルノアールで』とかもやって。

— ゲストが多くてにぎやかなのも最近なかった感じですよね。『スチャダラ外伝』を思い出しましたよ。

ボーズ:うんうん。たとえばハルカリに歌ってもらった“Under the Sun”とかは、ギターが小暮(晋也)さんなんで、最初はそこを小暮さんと僕で歌ってて。それはそれで良かったんだけど、重くなり過ぎかなってのもあって、誰か入ったほうがいいかなって。

シンコ:そんなにプロっぽくない感じで。

ボーズ:で、ハルカリでやってみたら良かった。birdの“壊れかけの…”とかも、こういう感じの曲でこういうリリックでってのをまず作ってって、サビはふつうにラップのフックみたいのでもいいんだけど、メロだったらもっといいかなっていうような感じで、だんだん変えていって。

シンコ:そもそもは、草津温泉行ったら偶然birdに会って。これは何かの縁かなって。

ボーズ:ありふれた奇跡がね(笑)さっきの桂司さんもそうだし。それに乗っかってこうって。

シンコ:流れに任せて作った感じ。

ボーズ:カエラちゃんとやったのだって、最初はまさか一緒にやるとは思ってなかったけど、全然本人がやりたいらしいよって。

— 編集部:これを聞いて、若手で「スチャダラとやりたいです!」って人が増えたりするかもしれないですよね。

ボーズ:それはもうすでにいっぱいある。

シンコ:ほぼ断ってる(笑)

ボーズ:そこは厳選してやらないと。前から知り合いのミュージシャンとかでも、やりたい人なんていっぱいいるし。順番にやらないとね。それにまだいろいろ頼まれてるのもたくさんあるから、どれからどうしていこうかと。

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— バックトラックも流れに任せて作っていった感じです?

シンコ:去年の6月ぐらい、“Good Old Future”を作ったあとぐらいにハードディスクが飛んで(笑)、そこから仕切り直していちから作ったから、わりかし順序良くでもないけど、流れに任せて。あとこれまでを振り返ってみると、しっちゃかめっちゃかな人たちとけっこうやってるし、バンドもやってるから、ビートは何を出しても乗ってくれるだろうという気はしてる。ハロー・ワークスとかけっこうチャレンジだったからね。

ボーズ:今回のミュージシャンもね、ハロー・ワークスをやったからこそ頼みやすい、っていう部分もあったし。

シンコ:わりかし禁じ手じゃないけど、今まではあんまりミュージシャンに頼むのもなーって、だからサンプリングでって思ってたんだけど、ホントに人間もいいし、頼みやすいしみたいな。で、結果も見えるみたいなね。

ボーズ:明らかに僕らができないことばっかできるから(笑)頼みゃーいいんだみたいな。

アニ:とりあえずこれも弾いといてみたいなね(笑)

シンコ:それやってもらうと何曲作れんだって(笑)

ボーズ:さすがハナちゃん(スライ・マングースの笹沼位吉)に鍛えられてるだけあって、どうにでもできるみたいな。

アニ:まぁサンプリングがね、ホントいまけっこう面倒くさいじゃないですか、ちゃんとやろうとすると。

ボーズ:最初にこれをメインでいきたいと思ってたやつが結局は使えないとかね。

シンコ:あと先に歌詞を出せみたいなね。

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— というと?

ボーズ:サンプリングの許可をとるのに、先にどういう曲になるのかを伝えなきゃダメとかってのもあったりして。

— えー! それは酷い。

ボーズ:だけどそれ、伝えるために作って、結局ダメだったらどうすんのって感じでしょ。でもしょうがないから、「つらいことはいろいろあるけど最後はがんばっていこうぜ」みたいな感じの歌詞ですと伝えたら、それじゃダメだって。

シンコ:もっと具体的な歌詞を出してくださいと。

ボーズ:とにかくそういう風にサンプリングってなかなか大変だったりするから。自由だと思ってやってたのに、全然自由じゃなくなってきたみたいな。

— “ベカラズ”のトラックとかはかなり自由にやってますよね。

シンコ:あれ、やりてーなと思ってたんですよ。ちゃちゃっとできたんですけどね。

ボーズ:あれは最初、禁止されてることが多いってのを歌詞にしようってシンコが言ってて。で、どうしようかと思ってて、ストーリーもので、どこどこに行ったらこうなったっていうパターンもあったんだけど、そうじゃない方がいいかってことになって。じゃあ“Don’t”みたいなのがどんどん出てくるのが面白いかって。あとそれとは別に松田(浩二、スライ・マングースのキーボード担当)さんと作ってた曲をそこに合体して、最終的に変な曲になった。

— 編集部:“Station to Station”は“DISCO SYSTEM”の続編的なものなんですか?

“DISCO SYSTEM”収録の10thアルバム『CON10PO』

“DISCO SYSTEM”収録の10thアルバム『CON10PO』

ボーズ:というか、ロボ宙を入れてライヴでやれる速めの曲を作ろうかぐらいの。

アニ:ライヴで“DISCO SYSTEM”やるときに、どうもロボ宙がヒマそうで(笑)

ボーズ:あのループも変わってるけど、あれもシンコが。

シンコ:買ってから10年ぐらい使ってなかったシンセがあったんだけど、久々に電源入れてみたら、シーケンスがデケデケしかできないくだらないやつで。これは面白いなと思って使って。

— 編集部:いま流行りの四つ打ちラップに対してみたいなのもありましたか?

シンコ:全然ないです(笑)

ボーズ:流行りの四つ打ちラップって何?(笑) 昔のヒップ・ハウス的なもの?

アニ:いやいや。エレクトロとか、50セントの速いやつとかでしょ。

シンコ:とにかく、そのデケデケしてるの聴いてたらなんか「電車かなー」って。

ボーズ:快速電車っていいなみたいな。あんま速くない、通勤快速とかのイメージでいこうかって。そんな曲ねーよ、ふつうは速いか遅いかどっちかでしょって(笑)

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