『直球だってこと自体が変化球』スチャダラパー(アーティスト)

by Mastered編集部

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スチャダラパーTOP画像

 これまでファッション関係者に話を訊くことがほとんどだったこのコーナー、今回は特別編です。『CLUSTER』編集部の熱烈なラヴコールで実現したそう、この国のヒップホップの大べテランであり、サブカルチャーの申し子、スチャダラパーの登場です! 通算11枚目のアルバムを完成させたお三方に、編集部の面々も交え、インタヴューはどこからが脱線なのかわからないぐらい盛り上がりました。では早速どうぞ!!

写真:浅田 直也
文・インタビュー:木下 充(remix)

前よりも高度な言葉遊びをしつつ、パッと分かるところは分かるように

— 今回は“あの人が今気になっているモノ・コト”という企画の取材なんですが。

ボーズ:マイ・ブームだ。そんないっつもいっつもマイ・ブームはねえって話だけど(笑)
みうら(じゅん)さんが言ってたけど、毎週訊かれるんだけど、毎週マイ・ブームなんてねーって。

(一同笑)

ボーズ:気になってるもの。最近は山田太一先生のドラマ(『ありふれた奇跡』)がね。

ありふれた奇跡(DVD)

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アニ:気になってるね。

ボーズ:今日、まさに早く帰りたいんだけど。

— 編集部:すみません(笑)ちょうど1時間後ぐらいですね。

ボーズ:あれはいろんな意味で凄いなと思って。パッと見、最近のドラマとのギャップが凄い。いま他にもいろいろやってるじゃないですか。『銭ゲバ』とかさ。

アニ:『ラブシャッフル』とか。

ボーズ:山田先生も言ってましたけど、不治の病みたいなチューニングきつめのストーリーとか、そういうのと比べたら一見凄い地味で、何も起こってないんじゃないかと思いつつ、実はすごい感情の起伏があるみたいな。お笑い番組とかもそうなんだけど、そういうのはいまない。全部チューニングがキンキンみたいな。音楽もそうで、何かというとフィーチャリングとか、人数増やせばいいのかとかさ、そういうもんしかねーみたいな。
でもそれで、改めて自分たちは山田太一のようなものが好きなんだなと思ったし、自分たちの音楽もそれに近いと思ってやってるなって。しかし視聴率はどうだったんですかね?

シンコ:全然ですよ(笑)1話目は良かったっぽいけど。

— 一桁台だったとかってどこかで見ました。

ボーズ:まぁでもそれが本当の数字なんじゃないかって話もあるよね。何百万人かしか見てないってのが。

シンコ:まあね。いまふつう録画してるしね。リアルタイムで見る人はそんなにいないんじゃないかって。

bose01

— CDが売れなくなったと言うけれど、ミリオンが出まくった90年代が異常だっただけで、また80年代に戻っただけなんじゃないかって言う人もいますよね。それと通じるような話ですかね。

ボーズ:そうそう。売り上げが落ちたのはフワフワした人たちが買わなくなっただけで。だけどホントに欲しいのは僕らもやっぱり買うし。

シンコ:あとライヴとかは人減ってるとはあんま聞かないよね。

— ライヴやクラブは盛り上がってますよね。

アニ:クラブも入るもんね。

— ただ、ライヴに行く人はCDを買うけど、クラブで遊んでる人は買わないみたいなことも言われますよね。

ボーズ:でもなんか、そういうのも表面的なことなのかなってのもちょっとあって。当たり前の話、クラブで遊んでる人でも深く聴いてショック受けるみたいなことはあるだろうし、ライヴに行く人も薄い人は薄いままだろうし。

アニ:そうだよね。

— いま、音楽シーンやリスナーを取り巻く状況がものすごく変化してるじゃないですか。危機感を感じてます?

ボーズ:周りの人はしきりにそういうことを言うよね。でも僕らもリリースを最初ダウンロードからはじめたり、そこに乗っかってる部分もいっぱいあるからね。

— ではそこまで切迫した感じはないっていう感じですね。ところで今回のアルバムですが、ひと言で言うと直球なモノになりましたね。世の中に関して思うことがテーマなのは変わらずですが、それをいままでにないぐらいストレートにラップしてますよね。

待望のスチャダラパー11枚目のアルバム『11』

待望のスチャダラパー11枚目のアルバム『11』

ボーズ:直球の中で捻ってるのかもしれないですけど。でもいつもそういうさじ加減みたいなのを楽しむというか、実はこの言葉の裏に何か隠れてるみたいなのを出す出さないみたいな。そこが自分らがいちばんやってることで。そこはすごい気を使ってる。
それが今回は、今までより多くの人が分かるようにこの言葉を入れるとかってとこを考えた。前だったらもうちょっと濁して面白くしたんだけど、それよりは「電通」ってそのまま入れることの面白みをとるみたいな。そういうのはちょっと意識しましたね。

— 編集部:そうなったのはなぜです?

ボーズ:自分がそっちのほうがいまは面白いと思っただけのことかな。

シンコ:伝わんないってのもあるからね。

— それはリスナーのリテラシーが低くなっていると感じているということです?

ボーズ:いや、そういう感じじゃなくて。いままでも分かってる人にはすごく伝わってるんですよ。でも同時に、意外と逆の意味にとられてるんだってのもあって。それはもったいない。だから自分たちのレベルを下げるってより、もうひとつ上げて分かるようにするというか、前よりも高度な言葉遊びをしつつ、パッと分かるところは分かるようにするみたいな。

— 分かりやすくというところでは、インターネットや携帯の影響とかもあるんでしょうか? たとえばネットでコミュニケーションするようになってリリックに変化があったりとかありましたか?

ボーズ:書き方はとにかく変わんないんですよ。いまでもノート開いて鉛筆で書いてるから、リリックに関してはそういうものとかけ離れてる感じはするな。でも例えばウィキペディアで調べてみようとかはある。

シンコ:歌詞調べてみたりね。

ボーズ:この言葉で何かやってるヤツっているかなとか、このタイトルの曲あるかなとか。そういう細かい部分ではあるかもしんないけど。

人気サイト「ハニカム」内で綴られる<br>ボーズさんのブログ

人気サイト「ハニカム」内で綴られる
ボーズさんのブログ

— 編集部:“Antenna of the Empire”が、ボーズさんのブログの内容をすごく反映した内容だなって。

ボーズ:反映っていうか、いつも思っていることをいままではラップでしか言ってなかったのが、ブログでもそういうことを書いてるから。

— ボーズさんにとってブログってどんなものです? 実験としてやってる感じ?

ボーズ:やってる理由としては、まず(藤原)ヒロシくんに頼まれたからってのが(笑)
どうしようかなと思ったんだけど、まず乗っかってみようかなと思うとこもあって。それにリリックで書いてることを家帰ってブログで書いたら、次の日頭ん中が整理されたりとか、それはいいかなと。あと歌詞で言ってるようなことを補足もできんのかもしんないし。

シンコ:リリックで言うと、“Under the Sun”とかあんな風に着地するとは思わなかった(笑)あんなバカバカしい曲になるとは。

ボーズ:最初、もうちょっとヤなことを言う曲にしようと言ってたんだけどね。

— 編集部:“ON AIR”も放送メディアの批判的な内容なのかなと思ってたら、最後オチがこうなるのかみたいな(笑)

ボーズ:あれはTVだけじゃなくて、いわゆる日本人的な病みたいな。

— そういえば“Under the Sun”のリリックに出てきますけど、アニさん、職質はよくされるんですか?

アニ:凄いされるんですよ。

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シンコ:それも渋谷で。

— 渋谷がいちばん酷いですよね。

ボーズ:(アニを指差して)この感じはもうダメみたい(笑)

アニ:渋谷で3回されてるんだけど、1回目は渋谷のマークシティの横のパチンコ屋で。あそこって外からみんな中の様子を見てるでしょ。で、俺も見てて(笑)

(一同笑)

アニ:そしたら「ちょっとすいません」みたいな。で、次は昼間に嫁と買い物行ってて、嫁がコンタクト買いに行くからって、道でひとりで立ってたんですよ(笑)そしたら私服が3人やってきて。

ボーズ:アニって急に声かけられるんだよね、町で人に。

アニ:「ここら辺でおいしい店ありませんか?」とかって(笑)そういうのかと思ったら職質で。
で、持ち物全部細かく見せたんだけど、もちろん何も出てこなかったわけ。そしたら最後に「逮捕歴とかありますか?」って(笑)
あと、オルガンバー(注:渋谷・宇田川町にある老舗クラブ)にDJしに行こうと思ってハンズの前に車止めたら、「何? 今日は遊び?」ってのもあった。「いや仕事です」って。そんな感じで3回とも渋谷で。
さすがに家の近所ではないですけどね。
まぁ、とにかく職質はよくされる。あと交通違反のキップ切られるときに、職業欄に自由業って書いたら、「そんな職業はねーんだ」って怒られたことがある(笑)

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