『挑戦する色としての「黒」』橋本敦(スタイリスト)

by Mastered編集部

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僕らの同世代でトラッドとブラックな要素を織り交ぜるスタイリングにおいては右に出る者ナシの橋本氏。
取材までにいろいろ悩み考えてくれて、構成までを完璧に組み立てたトークを披露してくれました。
しかし、服というテーマから始まった取材は思う部分が多いため、いささか長めになってしまっています。
でも、彼が気になる服と、服を通した視点で語ってくれた現在のファッションシーンへの熱い思い。
ぜひご一読ください。

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写真:浅田 直也 / 吉野 洋三(Cracker Studio

「寝かし」は大人買い

— では、最近気になってることを聞かせてください。

橋本氏(以下敬称略):昔はもう「服だけ!」みたいな感じだったのが、今ではいろんなモノが気になるようになってきていて。もちろん今でも服は好きなんですけどね。多分先に取材を受けてるみんなもそうだと思うんですけど。でも最近、服だけっていうよりも、人のライフスタイル全般が気になる感じで。

— やっぱり人は気になりますよね。

橋本:でも人ばっかり出してもしょうがないですからね。せっかくスタイリストですしね。
というわけで、ここ最近気になってる「黒」のアイテムを。もちろん今までも黒い服は何度も着てきたんですけど、特別「黒」っていうモノにハマったっていうことは今まで無かったんですよ。

ロッキーマウンテンの<br>ダウンジャケット<br>(橋本氏私物)

ロッキーマウンテンの
ダウンジャケット
(橋本氏私物)

— 橋本さんが黒を着ているイメージってあまりないですもんね。

橋本:そうかもしれないですね。それで、まずご紹介するのがこのロッキーマウンテン(Rocky Mountain Featherbed)のダウン。ボアまで真っ黒っていうのが自分の中では今までなかったんです。でも、そういう今までの選ぶ基準にはなかったモノをセレクトすることで、また新しいバランスに気付いたりすることもあって。

— 「黒」にハマるきっかけは何だったのですか?

橋本:もともとトラッドに黒っていう色は存在しないと思っていたんですけど、自分の好きなモノをベースにモノトーンでまとめるっていうのがこの秋冬の気分だったんです。昨今とくに新鮮な合わせではないんですけどね。あとは自分の好きなアイテムに黒のモノが増えてきたからというのがあるのかもしれないです。
今までだったら色を使って見せたいところを、逆に自分に課してみたりね…。「黒なんて簡単、黒を着てれば安心」っていう人とは、逆のテンションが自分にはあるようです。

ギャンバート カスタムシャツの<br>サッカーシャツ<br>(橋本氏私物)

ギャンバート カスタムシャツの
サッカーシャツ
(橋本氏私物)

— 普通の人が色を使ったスタイルに挑戦するのと同じ発想ってことですかね。

橋本:近いかもしれませんね。
あと、基本自分の定番としてシャツを着ることが多いので、毎年いろいろなシャツを買い足すんですけど、今回はギャンバート(GAMBERT CUSTOM SHIRT)の黒(サッカー素材)を買ってみました。歴史のあるブランドなんですけど、ここ最近のモデルは自分の身体にフィットしますし、洗っても「なんでこんなに滑らかになっていくんだろう?」って、以前に買ったオックス(フォードの生地)もそうでしたし。

— ギャンバートで黒、ですか。

橋本:そうなんです。ここのサッカーを買うのは今回が初めてなので、どういう風合いになってくのかが楽しみです。
そうそう、昔は買ってみても大事すぎてなかなか着れなかったりとかっていうのが結構あったんですけど、今は着ないモノなんてまずない。買ったら必ず着ますね。

— 寝かしたりっていうのも全然ないですか?

橋本:もし寝かしをするモノであれば、大人買いしてるモノかな。気に入ればとにかく大人買いしてしまうことが多いです。シャツとかは定番モノに限るけど。最近はすぐにフィットが変わってしまうブランドが多いから、気に入ったときには押さえてしまうんだろうね、自然に。

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— (笑)さすがです。

橋本:同じモノを何個も買ったりだとか、気に入ったモノは同じ形で色違いを何色も欲しくなったり…元々自分の背格好にコンプレックスがある分、似合うモノに出会うとある程度それのバリエーションで揃えたがるところがあるんですよね。実際、今日着てるロッキーマウンテンも、(復刻ではなく当時の)何着か古着でも持ってますが…正直復刻したモノの方が全然◎。
だからやっぱり、昔のモノもいいんですけど、時代に合わせてアップデートされてるモノの方が今は好きかもしれないですね。クラシックなスニーカーも当時は最先端の高機能モデルだったかもしれないけど、今履くのであればタウンユースが前提なわけだし。そうするとやっぱりファッション的なスタイルでリプロダクトしてもらった今のやつの方が自分には合いますね。

— 確かにそうかもしれません。

橋本:その時代だけに固執するって訳じゃなくてね。当時のモノの良さは雑誌や本、諸先輩方に教えてもらったりと理解しつつも、実際は変に値段が高かったり見つからなかったりでなかなか買えないっていう部分もあるじゃないですか。
あとは、アップデートされたモノの方が「形も普通に良くない?」って。

— 着やすさとかスタイリングのしやすさで言ったら圧倒的にそうですよね。

橋本:そうそうそう。

— 着づらいモノを無理してまで着るのってどうなの? っていうのもありますよね。もちろんあってイイこだわりなんですけど。

橋本:はい。僕はとにかく窮屈なモノっていうのがダメで。「ファッションは気合い」っていう人のこともすごく分かる部分はあるんですけど、なんて言うんだろう…身体に合わないモノまで着るっていうのは、自分のなかではファッションとは思えなくて。
これは持論だけど、自分に似合うモノを着てこそ、格好良いファッション。何をファッションと捉えようと自由だし何でもいいと思うけど、少なくとも自分に似合っていないと格好良くはないかな。

— なるほど。

橋本:あとは、「黒」ということでこのラッセルモカシン(Russell Moccasin)も。今まで黒いソールの靴っていうのも買ったことなかったんですが、急に気になって。それでヤフオクとかeBayで黒いラッセルを探しまくってたんですけど、なかなか「これだ!」っていうのが無かったんですよね。そんな時にちょうどヨッさん元サウンズグッド・現クロムハーツ プレス 吉田氏のところで別注したモデルがあるって聞いて。それで実際見てみたらこれが一番シックリきました。
これくらい高さがあるとやっぱり履きこなすのも難しいし、脱ぎ履きするのもかなり面倒くさいんですけどね。

— これはかっこいいですね。

橋本:ありがとうございます(笑)で、この小木くんのとこ(Liquor,woman&tears)で別注してた、エナメルに乗せ変えたリーガルのサドルシューズも、じつは昔からある「オックスフォード」っていう形とはちょっと違ってるみたいですよ。ステッチワークなんかは一緒なんですけど、くるぶしまわりが履きやすく変更されたりしているみたいで。

— これもアップデートされているんですね。

橋本:実際自分が持ってる昔のオックスフォードだと、下ろしはじめの日はくるぶしが取れそうなくらい痛くなりますよね(苦笑)。やっぱりリーガルっていうのはメイド・イン・ジャパンで、日本人の足の形をちゃんと理解してるんですよね。他の靴だと合わなかったりするのも、リーガルだと「自分の為のサイズなんじゃないか」っていうくらいフィットしたり。本当にスゴいなって思う。

あとまた靴なんですけど、アメリカンラグ シー別注のパラブーツ(Paraboot)を。パラブーツのデッキシューズは元々好きで、去年は白を買って、さらにネイビーも買い足していたりしてるんですけど、今回は黒を。

— パラブーツが黒のデッキシューズを作るのははじめてみたいですね。

橋本:そうみたいです。確かに見たことないですもんね。もうこれは内覧で見てすぐ予約してましたね。
本当にこういう自分の中での定番っていうか、好きなモノって変わらないなぁって。

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