スノボードのパイオニア、BURTONの本社に行ってきた

by Saori Ohara and Keita Miki

マスク解禁にあわせて、コロナ禍の影響でお休みしていた『編集部員の「いってみよう やってみよう」』も久々の更新。
「スノーボードに行こうと思ったらとりあえずBURTONのサイト見るよね!」ということで、今回はRUN DMCとのホットなコラボコレクションも記憶に新しいBURTONの本社へと足を運んで参りました。

Photo、Text:Saori Ohara | Edit:Keita Miki

BURTONと言えば誰もが知るスノーボード界のパイオニアですが、まずは念の為さらっとおさらいを。

BURTONは、スノーボーディングの黎明期から、質の良いハード&ソフトウェアの開発、量産、『BURTON US OPEN』などのイベント主催、ライダーサポートやチームビルディングなどを現在まで続けています。スノーボーディングの歴史はBURTONの歴史であると言っても過言ではありません。スノーボーディングの発展に人生を捧げた創業者のJake Burton Carpenter(ジェイク・バートン・カーペンター)は、2019年に亡くなってしまいましたが、彼の意思を継ぐ家族や仲間たちに引き継がれたBURTONブランドは、今でも絆の強いインディペンデントな会社。アメリカ東部のバーモント州バーリントンに本社があります。

数日前まで-20℃という信じられない寒さだったようですが、私がお邪魔した日は多分9℃くらい。雪は積もっていましたが、日本のように市街まで豪雪地帯になる街ではないそうです。

本社の敷地はアメリカらしくもちろん広大で、オフィスと、2011年に建てられたプロトタイプ研究開発施設・Craig’s(クレイグス)、大きく2つの建物に分かれています。オフィスとCraig’sの間には社員用のスケートパークもあって、(雪がなければ)スケートボードもできちゃいます。

ざっと18年間くらいスノーボード初心者を続けている私に優しく社内を案内してくれたのは、長年BURTONで働くTKとConnor。そして日本から同行してくれた石原さんです。

まずはCraig’sにお邪魔しました。

Craig’sは、プロスノーボーダーとして世界に名を馳せたBURTONのライダー、故Craig Kelly(クレイグ・ケリー)の功績を讃え彼の名を冠した、R&D(研究&開発)施設。

1980年代後半にBURTONのライダーになったクレイグはジェイクからの信頼も厚く、彼のライダーとしての的確なフィードバックはBURTON製品の品質向上に大きく貢献したそうです。同時に彼は大会で勝つことだけでなく、フリースタイルライディングをビデオパートに残しライダーとしての価値を高める、という、現在のプロスノーボーダーの在り方を開拓した第一人者でした。屋根に付いている雪崩防止柵も、雪崩事故で亡くなったクレイグを惜しむデザイン。カラスのモチーフも彼を象徴するアイコンだそうです。ここでは量産前のプロトタイプや、スペシャルプロジェクト用のボードが製造される他、様々なスペースが併設されています。BURTONの社員は、「R&Dに行こう」などという代わりに、敬愛の気持ちを込めて「Craig’s(クレイグのところ)に行こう」と言うそうです。

Craig’sの入り口にあるワランティー窓口は、保証対象の商品の商品を持っていけば修理などを受け付けてくれる場所。スタッフの愛犬が受付で迎えてくれました。ちなみにこの犬はこれから目にする犬たちの氷山の一角。

まずはミュージアムスペース。年代順に並べられた引き出し付き式ショーケースや壁面には、ジェイクが初めて作ったスノーボードから、グレイグやShaun White(ショーン・ホワイト)のシグネチャーボード、開発初期のアパレルやハードグッズ、過去の新聞記事、ビデオ作品のアーカイブ、広告に使用されたライディングフォトなど、70年代からの貴重な資料がたくさん収められています。TKは「ここにはBURTONの歴史があって、このドアの外にはBURTONの未来がある。この部屋は僕らの精神がどこからきたのかを知る大切な場所なんだよ」と教えてくれました。プレシャス!

次は実際にボードを製作する様子を見学。

ここは板の芯になるウッドコアを成形するスペース。EGD(Engineered Grain Direction)という技術をもとに、木の繊維を交互に方向を変えて配置することで、つま先から踵の動きへのレスポンスが向上する設計です。ウッドコアのデザインや軽さによって質も変わるので、これが価格の違いの理由のひとつにもなります(一般的に軽い方が高いそうです)。

こちらはプリントエリア。トップシートのデザインは、ヒートトランスファーかシルクスクリーンでプリントされます。レーザーエッチングやフォイルプリントも可能。RUN DMCのコラボボードもここで作られていました。ちなみに”BURTON NOT FOR SALE”は、昨年のBURTON売却の噂を払拭するためにつくられたとのこと。今後もBURTONはセルアウトせず、ブランドカルチャーを守り育むという意思表示のグラフィックです。

トップ&ボトムシート、ウッドコア、レジン、3方向に編まれたファイバーグラス繊維などを重ねて貼り合わせます。企業秘密のチャネルパーツを内部に入れることで、従来決まった距離でしか調整できなかったバインディングの位置設定がよりフレキシブルにできる構造に。

重ねた素材をプレスし接着します。しばらくすると樹液みたいに余分なレジンが流れ出てきます。

プレス時にノーズからテールの板の曲がり方も設定します。独自のベンドチャートを基に、ライダーのスタイルやボードデザインによって曲げ方を変えられるそう。

接着/プレスが終わったら切り出し、エッジと表面を研磨。その後チャネルを削り出し最終に塗装をすれば完成です。作業エリアの床の溝は、この研磨で使った水をリサイクルできるよう設計されたエコデザイン。感心。

3種類の3Dプリンターを擁するCraig’s。18段階でプラスチックの硬度を選べる3Dプリンター、実際に雪の上でテスト使用が可能なクオリティに仕上がるSRS(Selective Laser Sintering / 粉末焼結積層造形)式3Dプリンター、Mystery Seriesのトロフィーから弾力性のあるパーツまで作れるFDM(Fused Deposition Modeling)式3Dプリンターが揃っています。すごい。

メンテナンスでは、ボードの廃材をリサイクルして社員のネームプレートも製作。

ちなみにCraig’sにはR&D以外にも、次シーズンの商品を取引先などに見せるための商談・展示スペースもあります。

さらには撮影スタジオも併設。スタッフの犬たちも時々モデル出演するそうです。

TKのデスクもこのスタジオ横に。

体育館よりも広そうな面積を持つ、広大なアーカイブ倉庫もあります。ここには、これまでBURTONがリリースしたボード、アパレル、ルックブックから、ジェイクが使っていた古いミシンまで、ありとあらゆる制作物や貴重なアイテムが保管されていました。長年BURTONに勤務する石原さんも、「Craig’sに来る度に設備や環境がアップデートされていて感心します」と嬉しそうでした。

スキーリフトが吊られている駐車場を越えて、次はオフィス側の建物へ。

以前は某コングロマリットの社屋だったという広いオフィスビルには、デザイン、マーケティング、広告、人事、ファイナンス、カスタマーサポートデスク、社長室などのオフィスが入っています。そして廊下や誰かのオフィスの壁など、いたる所にBURTONと繋がりのあるアーティストの作品やアーカイブアイテムが点在していて、こちら側の建物もミュージアムみたいでした。社内の鉄の梁には所々に元チームライダーののJason Brown(ジェイソン・ブラウン)のタギングも。

オフィスビルにはフルコレクションを扱う店舗も併設されていて、フレンドリーなスタッフと話しながらショッピングが出来ます。

本社には、ジェイクの過去のハロウィーン仮装写真や”We fucking miss you, Jake”のメッセージなども飾られていて、スタッフとジェイクの家族のような繋がりを感じることが出来ました。私も会いたかったです。

Craig’sとオフィス側を合わせ、本社では350人ほどが働いてるそう。リモートワークも増えて出社人数は減っているそうですが、それにしても犬は多く、まさにわんわんパラダイス。スタッフも、見知らぬ来訪者に怪訝な顔をする人はおらず、自然体で笑いかけてくれる人がたくさん。仕事を楽しんでいて、リラックスした雰囲気が一番印象的でした。

「スノーボードを通じて関わる全ての人にポジティブな影響を与える」というブランドのパーパスをビシバシ感じられたBURTON本社見学。スノーボード好きにとって天国のような職場だと思いました。

普段何気なく使用しているボードやウェアがどんな風に、どんな場所で作られているかを知るだけでも、かなり考え方が変わるし、モノに対する愛着も沸くというもの。日本でのスノーボードシーズンはもう終盤ですが、スプリングシーズン、来シーズンもBURTONのアイテムと一緒に、楽しく、安全に雪山を満喫しましょう。

【BURTON商品のお問い合わせ先】
BURTON
TEL:03-4316-4709
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