Vol.116 Ogawa & Tokoro – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Nobuyuki Shigetake

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、8月26日に7インチシングルとデジタルEP『Shinmaiko』をリリースしたカクバリズムのフレッシュなニューカマー、Ogawa & Tokoro。
名古屋在住の大学生2人によるユニットである彼らは、2019年にカセットレーベル・Oriental Tapesを設立。自身のファーストアルバム『惑星探査 -Planetary Exploration- 』やnutsmanをはじめとするローカルDJのミックステープやアルゼンチンのアンビエント作家の作品など、多彩な作品をリリース。その後、サンフランシスコの老舗音楽ブログ・Dream Chimney主宰のレーベル・コンピレーションに楽曲を提供するなど、その評判は海外へと波及し、国内ではカクバリズムが久々の新人としてディールを結んだ。
8月にリリースされた『Shinmaiko』はカクバリズムからの第1弾EPであり、バレアリックやディスコ、ブギー、AORやアンビエント、エキゾチカといった多彩な音楽要素をローファイな音響と逆輸入したジャポニズムの視点でまとめ上げたユニークな作品となっている。今回は、OgawaとTokoroの2人に、夏の残像や刹那の記憶を投影した作品についてインタビューを行うと共に、彼らの音楽の軸となっている”ギター”をテーマにしたDJミックスを提供していただいた。

Interview & Text : Yu Onoda | Edit:Nobuyuki Shigetake

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「僕らが作っている音楽はどこか変なところが多少あると思うんですけど、この先、そういう部分を育てていけたらなって思っていますね(Ogawa)」

— Ogawa & Tokoroは大学生ユニットなんですよね?

Ogawa:僕らは同じ大学の軽音サークルに所属しているんです。僕自身はいま大学院で勉強していて、Tokoroより2歳上なので、後からTokoroが入ってきたんですけど、最初は「面白いやつが現れたな」って感じでしたね。そのサークルというのは、やりたい音楽に応じて、演奏したい人が集まるサークルなので、音楽性はJ-POP、J-ROCKに限らず多種多様だったりするんですけど、Tokoroとは好きな音楽が似てたり、やってみたい音楽がたまたま重なったんですよ。

— Apple MusicとSpotifyでお二人がセレクトしたプレイリストが公開されていましたが、それぞれのバックグラウンドについて教えてください。

Ogawa:僕はTokoroが入ってくるまで、コピーバンドをやったり、オリジナル曲をやるバンドを組んだりしていて、例えば、Pavementであったり、渋谷系の源流となるギターバンドであったり、90年代から現在に至るまでのUS/UKインディーズを起点に、そこから好きな音楽が広がっていった感じで、Ogawa & Tokoroとして活動する前はハードコアパンクのバンドを組んでいまして,今でもたまに活動しています。

Tokoro:僕はローカルの日本のシーンからはほとんど影響を受けていなくて、高校に入る前後の時期から、Pitchforkとかアメリカの音楽系YouTuberのThe Needle Dropが薦める音楽を聴くようになって、アルバム『You’re Dead!』でFlying Lotus(フライング・ロータス)のヤバさを知って。それで高校に入ってからFlying Lotusが使っている機材を調べて、親に買ってもらったAbletonとMIDIパッドのMPDでトラックを作り始めたんです。聴く音楽は、Flying Lotusを起点に、”Never Catch Me”でKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)を知ったり、Thundercat(サンダーキャット)を聴いて、そこからロサンゼルスのジャズを聴いたり、サンプリングネタで使われていたAlice Coltrane(アリス・コルトレーン)を取っかかりにフリージャズを聴いてみたり。そこから色んな音楽がどんどん繋がっていったんですけど、現行の音楽メディアは新しい音楽が中心じゃないですか? でも、大学に入ってから中古レコードショップで働くようになったら、めちゃくちゃ音楽を知ってる店長に「今、Nicolas Jaar(ニコラス・ジャー)ヤバいですよ」って言ったら、「は?」って言われて、逆に音楽の世界はめちゃくちゃ広くて、長い歴史があることを知るっていう。そこから昔の音楽を沢山聴くようになりました。

— 昔の音楽を掘り下げるようになって、2人が衝撃を受けたアーティスト、作品は?

Ogawa:俺はディスコ、ファンクですごい衝撃を受けたのは、Dam-Funk(デイム・ファンク)がBolier RoomのDJ配信でかけてたKenix(ケニックス)”There’s Never Been(No One Like You)”ですね。ニューヨークのWest End Recordsのなかでもかなりレアな曲で、今回のEPに入ってる”Tell me what you’re feeling”で大きなインスピレーションを受けた曲でもあるんですけど、使い古されたディスコ・クラシックスではなく、アンダーグラウンドなディスコにもめちゃくちゃいい曲があることを知ったというか、そういうレコードを掘り始めるきっかけになったんです。その辺の音楽に興味を持っていたのはTokoroが先だったんですけど、Tokoroと音楽の情報をやり取りするうちに拍車がかかっていった感じですね。

Tokoro:あと、そういうアンダーグラウンドな、マイナーな音楽だけじゃなく、例えば、The Doobie Brothers(ドゥービー・ブラザーズ)とかThe Isley Brothers(アイズレー・ブラザーズ)といった70年代、80年代の有名アーティストですかね。今までなんとなく耳にしていたり、名前だけ知ってた人たちだけど、ちゃんと聴いてみるとびっくりするくらい格好良かったりするし、単純に今の作品よりプロダクションのクオリティが高いものは、70年代、80年代の音楽に山ほどあるというか、そういう音楽の質の高さは目から鱗でしたね。

Ogawa:あと、音質の観点でも、音圧を出すために過剰にコンプレッションをかけて、立体感が失われた2010年代の音楽を聴き続けた後、70年代、80年代の音楽に向き合ってみると、全ての帯域がきっちり出てなかったり、歪んでいたりもしているんだけど、そういう部分に人間らしい味を感じたり、今のように音が詰め込まれていなくて、音の隙間が心地良かったりするんですよね。

TokoroPPU(Peoples Potential Unlimited)Numero Groupの再発音源なんかを聴くと、当時の録音の時点からローファイだったのかなっていう佇まいのサウンドがぐっと来て、最初のアルバムはカセットで録音したんですけど、そういう意味で僕らが今やってる音楽は持っている機材で出来ることをやった結果なのかもしれないですね。レコードを大量に持っているわけではないから、Flying Lotusみたいにサンプリングしまくったトラックを作ることが出来ないし、かといって、最新の流行りの機材を持っているわけではないから、Orange Milk RecordsとかLeaving Recordsから出ているようなモジュラーシンセを多用したデジタルアート的な作品も作れない。Abletonを駆使したら、高度なことは出来るんですけど、パソコンだけで完結させるのは面白くないから、生楽器を加えて、ライブっぽいことをやりたかったし、僕は昔のドラムマシンやシンセの実機を集めたりしていて、そのなかでもシンプルな音色ながら面白い使い方が出来るJUNOを使って、曲を作ってみようかなって。それで去年の春くらいから一緒に音楽を作り始めるようになったんです。

— 最初のアルバム『Planetary Exploration 惑星探査』を発表したのは、昨年5月ですよね。ということは、一緒に音楽を作り始めた音楽がそのままアルバムになった、と?

Tokoro:そうです。自分たちのカセットレーベルが欲しいなと思って、まずはOriental Tapesを立ち上げて、アルバム自体は2週間くらいで作り上げたものなんですよ。

Ogawa:1日に2、3曲作ることを決めて、一気に仕上げたものなので、テキトーなところもあったりするんですけど、振り返ると、そのスピード感が良かったなって。

Tokoro:言ってみれば、バンドが曲を作る時のスピード感というより、ビートメイカーのスピード感ですよね。僕はゾーンに入ったら、バンバン曲が出来るタイプだったりするので(笑)。

Ogawa:2人で曲を作り始めた時に、Tokoroがリズム・プログラミングを担当して、そこに僕がコードを付けたり、楽器のフレーズを弾いていくやり方でやってみようと決めたんですよ。

Tokoro:1人でリズム・プログラミングからギター、鍵盤までやるとなると、慌ただしく場所を移動したり、発想を切り替えたりしないとならないし、楽器もそこまで上手くなかったりするので、何度もやり直したりしていると、具現化するまでにアイデアの鮮度が落ちてしまうじゃないですか。僕のパソコンには、作りかけの音の断片が500個とか600個とかストックされていて、1人だと訳の分からないことになってしまいがちなんですけど、Ogawa & Tokoroでは、Ogawaさんに委ねるところは委ねて、作業の進行もスムーズなんですよね。

— では、瞬発力重視のTokoroくんに対して、Ogawaくんはそれを上手くガイドしてまとめていく役割?

Ogawa:そうですね。僕自身はよく考えないと音楽が作れない人間なので、音楽を作るうえでの初期衝動はTokoro頼りというか、Tokoroの突飛なアイデアに乗っかっていくと面白いものが作れることを分かったうえで、あまりにも道を外れた時にはストップをかけたりする役割です。僕らの曲作りにおけるスピード感とクオリティはそのバランスが上手く取れた結果だと思いますね。

— そして、アルバム・リリースに続いて、昨年11月にはサンフランシスコ発の音楽ブログ、Dream Chimneyが主宰する同名レーベルのコンピレーション『Dream Chimney Demo Tracks Vol.3』に楽曲提供されていますよね。

Tokoro:僕は普段からInstagramで海外の人に連絡を取りまくっているんですけど、海外ではYouTubeのキュレーションチャンネルで新曲をプレミア公開するのが1つのプロモーションルートだったりして、フランスの2人組がやってるLes Yeux OrangeというYouTubeチャンネルが良さそうだなって。それで彼らにコンタクトを取って、アルバム収録曲の”Crystal Meditation”と”Raw Juice”を紹介してもらったんですけど、その音源を聴いたDream Chimneyがブログの『Track Of The Day』というコーナーで”Summer Night(Dancing With You)”という曲を紹介してくれて、その後、楽曲提供の連絡があったんです。

— ここ数年はストリーミングサービスのプレイリストからヒットが生まれる時代ですけど、2010年代後半はLes Yeux Orangeもそうだし、ローハウスの震源地となったSlavのようなYouTubeチャンネルからヒットが生まれた時代。さらにいえば、Dream Chimneyは音楽ブログからヒットが生まれた2000年代後半の時代を先駆けて2000年から始まった老舗ブログなんですよね。Ogawa & Tokoroはそういう海外メディアのフットワークの軽い使い方が今っぽいなと思いました。

Tokoro:僕らの音楽は同じサークルの人にもハマってない感じがあったし(笑)、名古屋で音楽をやっているだけではどうにもならなそうだなって。

Ogawa:だから、半分やけくそで外に向けて発信したというか、レーベルも海外展開を念頭において始めたんです。

— お2人のレーベル、Oriental Tapesからミックステープ『sumi kawa』をリリースした岐阜のDJ、nutsmanをはじめ、名古屋、東海圏には食品まつりやRamzaind_frisだったり、素晴らしいアーティスト、シーンがあるじゃないですか?

Ogawa:Ogawa & Tokoroは遊び半分で始めたところもあるし、こうやって作品をリリースするようになってから色んな人を紹介してもらって、名古屋にも面白い人たちやシーンがあることに気付きましたね。

Tokoro:個人的にはPitchforkでも取り上げられていた食品まつりの活躍が刺激になったというか、記事を読んだら、名古屋出身と書かれていて、そこから調べていったら、世界には色んなカセットレーベルがあることを知って。カセットの制作はバイト代から出せそうな金額だったので、じゃあ、カセットレーベルを始めようって。

— そして、今回のEP『Shinmaiko』は、念頭になかったであろう日本のローカルレーベルであるKAKUBARHYTHMからのリリースですよね。

Ogawa:東京のオントエンリズムストアさんに置いてもらった僕らのカセットがきっかけでKAKUBARHYTHMから声をかけていただいたんですけど、KAKUBARHYTHMでいうと、僕はあまり経験がないのにハードコアパンクバンドでドラムを叩いたりしてたんですけど、周りの先輩たちから角張さんが前にやってらしたバンド、snottyやBOYS NOWとか、YOUR SONG IS GOODのJxJxさんがやってらしたFRUITYを教えてもらっていたので、今回のお話をいただいて、テンションがあがりましたね。

— さらにいえば、Tokoroくんはローカルなシーンからあまり影響を受けていないということですけど、EPと表題曲のタイトルでもある『shinmaiko』は、名古屋の地名だったりするんですよね?

Ogawa:はい。新舞子というのは、名古屋から一番近い海水浴場で、名古屋の人が夏休みに海に行くとなったら、絶対1回は出てくる地名ですね。

Tokoro:僕らにとって、新舞子自体にはそこまでの思い入れがなかったりするので、曲名にするには最適かなって(笑)。

Ogawa:湘南のようなインパクトのある地名じゃないところがミソなんですよね(笑)。

— 絶妙な肩透かしというか、そういうユーモアのセンスがOgawa & Tokoroらしいというか、楽曲に溶かし込まれたどこか異国的な和のテイストも海外を意識して、敢えて盛り込んだストレンジな要素であるように思いました。

Tokoro:レーベル名をOriental Tapesにしたのも”Oriental”という言葉は英語圏だと若干グレーなニュアンスが含まれているんですよ。だから、そういうレーベル名を敢えて付けたのは、俺らだから出来るんだというイキりだったりして(笑)。作る音楽にも日本っぽい要素を入れることは最初から意識していたというか、それって、日本国内に向けて作る音楽には必要ないものじゃないですか。だから、海外を意識したテイストというのはまさにその通りですね。

Ogawa:曲自体は、リリースのお話をいただく前、去年の夏に作ったもので、Steve Hiett(スティーヴ・ハイエット)のアルバム『Down On The Road By The Beach』に触発されたものです。

— その時、聴いていた音楽に触発されて曲を作ることが多いんですか?

Tokoro:必ずしも、その時、聴いていた音楽に左右されるわけではなく、ぱっと頭に浮かんだメロディが軸になったり、聴いている音楽が取っかかりになる時も、例えば、「Prince(プリンス)のとある曲の2拍目と4拍目にバックビートで入るクラップが左右に振られた変な感じ」とか(笑)、そういう一瞬を自分たちなりに広げてみたりとか。

Ogawa:コンセプト先行の場合もあって、今回のEPだと、4曲目の”The Detective”は作曲家の大野雄二さんが手がけていたような、日本の刑事ドラマのサントラに感じられる「ファンキーだけど、ちょっと日本のウェットなニュアンス」を狙ったんです。

— メロウで洗練されたなかにも、音楽好きが思わずニヤッとするような要素を盛り込んでいるところにOgawa & Tokoroの個性を感じました。

Ogawa:今回の作品で実現出来たかどうかは分からないんですけど、僕が常々やれたらいいなと思っているのは、XTCのAndy Partridge(アンディ・パートリッジ)やPavement(ペイヴメント)のStephen Malkmus(スティーヴン・マルクマス)みたいなちょっとしたハズしや違和感を曲のなかに放り込んだ音楽だったりして。僕らが作っている音楽はどこか変なところが多少あると思うんですけど、この先、そういう部分を育てていけたらなって思っていますね。

Tokoro:僕はハウスプロデューサーのLarry Heard(ラリー・ハード)が好きなんですよ。Fingers Inc.やMr.Fingerをはじめ、彼がやってたプロジェクトは大体好きで聴いているんですけど、トラックメイカーって、使う機材やトラックの組み方の個性が面白かったりすると思うんですけど、Larry Heardの場合はキーボードでコードを弾いたり、音楽的なアプローチも併せ持っていて、そういう部分が自分と似ているとまでは言わないですけど、近いものを感じるんですよね。

— トラックメイカーであり、ミュージシャンでもあるという。Ogawa & Tokoroも作品制作に加えて、ライブもやっていて、表現世界に広がりがあるというか、発展性を感じます。

Ogawa:今回のレコーディングを経て、今までドラムマシーンに任せていたドラムを生のドラムに合わせてみたり、プレイヤーとしての部分にすごい興味が湧いてきたというか、そのためには、もうちょっと上手くならないとなって思っていて。この先、アルバムを作る予定があるんですけど、2人の個性は保ちながら、今までやっていないことに積極的に挑戦していきたいなって。

Tokoro:個人的にOgawaさんにはCHIC(シック)のNile Rogers(ナイル・ロジャース)のようなギターカッティングの匠になってもらいたいんですよ(笑)。Nile Rogersは、こないだドキュメンタリーを観たんですけど、あの人は作る曲がみんなヒットするらしいんですよ。だから、俺らも一発……いや、でも、そういうのは俺らには向いてないか(笑)。

— はははは。Ogawa & Tokoroの今後の活躍に期待しつつ、最後に特別に制作していただいたDJミックスについて一言お願いいたします。

Tokoro:僕らの視点からギターっぽい感じの曲を選びました。

Ogawa:こうしたギターのソロプレイをフィーチャーした曲は,ギターを弾き始めて熱心に練習していた頃以来聴いていなかったのですが,今聴くと,かつて感じていなかったような新たな魅力を感じます。Ogawa & Tokoroの音楽もギターがカギになっている曲が多いので,プレイヤーとしても上手くなれたらいいなと思っています。

Ogawa & Tokoro 『Shinmaiko EP』

レーベル:KAKUBARHYTHM

■収録曲
01.Shinmaiko
02.Bayou
03.Tell me what you’re feeling
04.The Detective