「SIMI LABって何?」 – 謎が謎を呼ぶ変幻自在のHIPHOP集団、SIMI LABとそのデビューアルバムの真相に迫る

by Mastered編集部

今から遡ること約2年前となる2009年12月、動画共有サービスYouTubeに、あるヒップホップグループのPVがアップされました。自らをSIMI LABと名乗る彼らが吐き出した巨大なシミは、その特徴的なルックスも相まって、瞬く間に話題に。発表当初全くの無名でありながら、この“WALK MAN”という楽曲のビデオは驚異的な再生回数を叩き出し、日本のヒップホップ・シーンに大きな衝撃を与えたのです。

続いて、彼らはグループとしてのオリジナルアルバムをリリースしていないのにも関わらず、QN From SIMI LAB、Earth No Mad From SIMI LAB、DyyPRIDE From SIMI LABなど様々な名義でソロ活動を開始。
何から何まで異例づくめの行動に謎は深まるばかりでしたが、去る2011年11月11日、遂に彼らが、SIMI LABとしての初のフルアルバム「Page1:ANATOMY OF INSANE」をPSG、RAU DEFらを要するインディーズレーベル、SUMMITよりドロップ! そこで当Clusterではこの度、ベールに包まれた彼らの正体とその真意を探るべく、ファッションメディアとしては初となるロングインタビューを敢行しました。

Photo: Takuya Murata、Interview&Text:Cluster

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ある意味では今ヒップホップとされてるものが、自分の中ではヒップホップと呼べないところもあって。90年代のザ・ヒップホップって感じが自分の中では王道のヒップホップなんです。(QN)

QN

QN

— 色々な媒体から聞かれていることだとは思うんですが、まずはこのSIMI LABというグループがどういう経緯でスタートしたのか教えて頂いてもよろしいでしょうか。

QN:4年前にSD JUNKSTARが町田でやっていた「SAG DOWN」ってイベントがあって、そこに僕が当時入っていたクルーが出演していたんですけど、そのクルーの一人とオムスビーツ(OMSB’Eats)がやっていたクルーの人が知り合いで。そこからどういう経緯だったか正確には覚えてないんですけど、なんか紹介したいやつがいるってことでオムスを紹介してもらったんです。まぁその後は僕が高校の頃やっていたイベントにオムスが来てくれる様になったりとか、僕がオムスの家に遊びにいくようになって。でかいポッセ感みたいなのにあこがれてたところがあって…って、みんななんで何もしゃべらないの?

マリア(MARIA):ごめん、わたし音(取材場所で流れていたBGM)聴いてた(笑)。

ディープライド(DyyPRIDE):俺も。この音イイなって(笑)。

QN:…そんで僕のグループとオムスのグループを合体させようって話になったのがきっかけですね。

オムスビーツ:そうそう。それからマリアとディープライドとハイスペック(DJ HI’SPEC)が入るんですけど

ハイスペック:俺が自分でイベントを開いてたんですけど、そのイベントにオムスがたまたま出てて、仲良くなって。

オムスビーツ:こいつの凛々しさにはなんかある! と思ったんですよね。凛々シストみたいな。

マリア:全然リリシストじゃないし!

ディープライド:そうそう、そっから俺がmixiで

一同:mixi!?

DyyPRIDE

DyyPRIDE

ディープライド:そう。「黒人ハーフ ラップ」って検索したら、オムス1人だけ出てきて。こんなやついるんだって思いましたね。すぐに会いに行きました。そこから先は簡単に話すと、“ブラパン”を求めて横須賀のクラブに女を引っ掛けにいったらマリアに逆ナンされて。

マリア:その通り(笑)。

オムスビーツ:思ったけど、狙って当たるっていいよね。ブラパン引っ掛けにいってさ。

マリア:私は黒人に興味ないけど、友達が黒人捕まえにいこうって言うから、クラブに行ったらディープライドがいて。周りは純粋な黒人ばっかりだったから、一目ですぐにハーフだってわかったんですよ。「あ、仲間だ」って。それでイケメンだし絡まなきゃと思って。それから一年くらい経って、SIMI LABを紹介してくれたんだよね。

QN:ちなみに今でもイケメンだって思う?

マリア:酒とかやめてからまたイケメンになってきたかな。

オムスビーツ:ディープライドは一時期、本当にやばかったんですよ。絡み方も今とは全然違ったし。

QN:親戚のおじちゃんみたいだった。

ディープライド:そう? 自分では全然わからなかった。

— 現在メンバーは何人なんでしょうか? メンバーは固定はされているんですか?

オムスビーツ:全部で十数人。固定は今のところしてないですね。まぁ増えてもおかしくないし、減ってもおかしくない。

— 媒体に出る時は大体この5人で出てらっしゃいますよね。

ディープライド:そうですね、あとは今日来てないマイルとかウソワ、ジュマってのがたまにいたりします。

— さっき「でっかいポッセ感に憧れてた」ってお話がありましたけど、例えるならWU-TANG CLANみたいな?

WU-TANG CLANのアルバム 「Enter the Wu-Tang」

WU-TANG CLANのアルバム
「Enter the Wu-Tang」

QN:そうですね。ウータンが一番近いのかな。僕は相模原に住んでいるのでSDP(SAG DOWN POSSE)の存在も大きいとは思うんですけど。もちろんウータンのサウンドや、Living Legendsが好きと言うのが前提にあって。なんかヒップホップ感というか、フッド感というか…とにかく、好きなグループに大所帯が多かったんです。

オムスビーツ:グループってどのグループにもその中でしか通じない会話とかワードがあって、そういう感じも好きだったりする。そのノリがフッド感というか

QN:そうそう、独特な感じ。

— 自分たちが今こうしてSIMI LABという集合体になって、そういった独自の色合いは出せていると思いますか?

QN:そうですね、あまり実感はないですけど。

オムスビーツ:特別意識はしていないけど、俺らだけが使ってるのかなって感じることはあります。ノリとか。

— 例えばどんな時でしょう?

QN:なんだろう…少し矛盾してしまいますけど、SIMI LABって個性の集まり的な面があるので、余計な統一感を出すというよりは、個々が独立してやっている部分が大きくて。それがある意味での統一感に繋がっているのかもしれない。上手く言葉に出来ないですけど、似通っている部分を各々が無くして、一人一人が個性を引き出していくというか。

 DyyPRIDE From SIMI LABのアルバム 「In The Dyyp Shadow」


DyyPRIDE From SIMI LABのアルバム
「In The Dyyp Shadow」

— それもそれぞれソロ活動をやっている理由の1つなんでしょうか?

ディープライド:みんな出たがりなんで(笑)。自分達で言うのもなんですが、本当に個性的な奴等が集まってるとは思います。

— そういう個性的な面々が集まって今回、SIMI LABという“グループ”として初のアルバムをリリースする訳ですよね。実際の製作はどのように行われていったんでしょうか? これだけ人数が多いと、1曲作るのもなかなか大変だとは思うのですが。

オムスビーツ:トラックを一番最初に集めて、それが揃った段階でリリックを書き上げたメンバーから順番に録っていきました。だから同じ日に全員がレコーディングをする訳では無いんです。もちろん、全員揃っている日もあるんですけど。

マリア:その辺は適当じゃない? みんなの都合もあるしね。

オムスビーツ:難しいと言えば難しいよね。最近はみんなちゃんと来るけど、全然予定通りに来ない時期もあったから。

QN:その辺りは今回、割と苦労した部分かもしれないですね。

— 実際、アルバムの製作にはどのくらいの時間がかかったんでしょうか?

QN:トラック集めを始めたのは2011年の頭ぐらいからなんですけど、レコーディングとか、製作らしい製作っていうのは9月の半ばからケツまで。それまでは各自リリックを貯めたり、ソロのパートを少しづつ録ったりとかしてて。結局、全員が集まって録ったのは1、2週間くらいですね。その間でフックをどうするかって事とかも決めたり。

オムスビーツ:最後の最後だったよね、フックを決めたのは。追い込んで一気に録った感じです。

— 製作中に好んで聴いていた音楽とかはありますか?

オムスビーツ:俺はアルバムで使うトラック以外聴いてなかったです。余計な事を頭に入れちゃダメだと思って。

ディープライド:普段と変わらないですね。元々聞いてる音楽を聴いてた感じ。

QN:僕の場合、製作時期は逆にヒップホップを聞かなかったですね。ロックとか生音ばかり聴いてて。

— さっきWU-TANG CLANの話が出ましたけど、皆さんそれぞれどんな音楽を聴いて育って来たんですか?

オムスビーツ:真面目に聴かれると困るね、こういうの(笑)。俺はジャンルの分け隔てはしないんですけど、基本ヒップホップを聴いてますね。ウェッサイとかサウスだとかっていう風には分けてなくて、とりあえずヒップホップ。

QN:僕はSIMI LABの結成当初から、オムスが聴いてる音楽を横流ししてもらってたんです。だからオムスが聴いてるヒップホップは僕も同時期に聴いてたりして。あと、個人的に好きで聴いてるのは最近の打ち込みロック。Washed OutとかThe XXとかUKのサウンドが自分の中ではすごく新鮮です。

Washed Outのアルバム 「Within & Without」

Washed Outのアルバム
「Within & Without」

ディープライド:僕は高校生の時にギャングスタラップを聴きだして、それからはもう西海岸のギャングスタラップがほとんど。途中からルーツレゲエ、昔のロックとかをちょっと聴いたぐらいで、ほとんどギャングスタラップしか聴いてないですね。

マリア:私はヒップホップが基盤っていうよりは、80年代のポップスとか、古くさくてださいエレクトロとかが好きで。ハウスとかテクノも好きですね。踊る系。

オムスビーツ:俺も最初はウェッサイを聴いてました。自分で漁る訳じゃなく、家にレコードがあって。そこからなんとなく90sを漁ったりしてたんですが、SIMI LABに入ってから、オムスとかQNが何のアーティストの話してるのか全然わかんなくて(笑)。
だから、その話に出てきたアーティストの名前を家に帰ってから、こっそり自分でネットで調べて聴いたりしてましたね。そんな事もあり、「良いものはジャンルとか関係ない」って事に気付いて、今は幅広く聴いてるって感じです。

— 最近のヒップホップで「これはヤバい」っていうようなアーティストはいますか?

QN:最近の旬はサウスで、キャッシュマネーの筋肉質な手でシンセ弾いてる、みたいなのはヒップホップだなというか。ある意味では今ヒップホップとされてるものが、自分の中ではヒップホップと呼べないところもあって。90年代のザ・ヒップホップって感じが自分の中では王道のヒップホップなんです。そのリアルな進化系がサウスなのかなとは思う。でもJAY-ZとかKANYE WESTは好きですね。

マリア:私は最近David Guettaが好き。

David Guettaのアルバム 「One Love」

David Guettaのアルバム
「One Love」

オムスビーツ:えっ悪いんだけど、全然好きじゃない(笑)。

QN:まぁ、SIMI LABって結構こういう感じなんですよ。みんな違って、いつもYouTubeの取り合いみたいになる感じ(笑)。
でもどこかその人が選んできた感性が分かっちゃう部分もあって、なるほどねっていう。特にマリアはみんなが全然興味ないものをポっと持ってきたりするもんね。

マリア:Youtube女だから(笑)。未だにiTunes使えないもん。

オムスビーツ:もうチャンネル持てばいいじゃん。

マリア:無理だよ。私、機械音痴だから、iPhone買って3年ぐらいたつけど、一回もアップデートしてないもん。アプリも何もない(笑)。

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