UNITED ARROWS&SONS 〜 リニューアルしたユナイテッドアローズ 原宿本店 メンズ館を徹底解剖!

by Mastered編集部

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まずは原宿本店メンズ館のディレクターに就任した小木氏に、先輩バイヤーにあたる鴨志田康人氏と内山省治氏を加え、今回のリニューアルについてインタビュー。コンセプトの提案時から実際に店舗が生まれ変わるまで、そして原宿本店 メンズ館が目指すべき今後について大いに語っていただきました。

写真:浅田 直也

これから先10年の骨格を作りたい

— では、原宿本店 メンズ館のリニューアルについてお伺いします。最初は、全館リニューアルというお話でしたが。

小木氏(以下敬称略):はい、最初は原宿本店 メンズ館全部をリニューアルして「ユナイテッドアローズ&サンズ」という名前に変える、という計画で会社には提案しました。

鴨志田氏(以下敬称略):小木の提案は一目で気に入りました。時代の気分をリアルに映し出す原宿という街に相応しいコンセプトだな、と。ただし改装となるとそれなりに莫大な予算がかかるので、どこまでリニューアルするかをじっくりと検討しました。

— それで結果的に地下1階をリニューアルするところに着地した形ですか?

小木:そうですね。鴨志田を含め、MD(マーチャンダイザー)はコンセプトに賛同してくれたんですが、やはり予算的な部分がありますから。最初は1階をスーツのフロアにしようとしたんですが、現在1階にはフィッティングのスペースがないので、それをあらためて作るとなるとそれ相応の費用が必要であったりとか。そういう計算もした上で、まずは地下1階からリニューアルするという結論に辿り着きました。
もちろん結果が出せれば、全館リニューアルするところまで持っていきたいとも思っています。

— 「ユナイテッドアローズ&サンズ」というネーミングは、どの時点で提案したのですか?

小木:最初からです。

鴨志田康人氏。
ユナイテッドアローズ
クリエイティブディレクター。
UAきっての名物バイヤーとして知られる。

鴨志田:このネーミングを一発で気に入って。僕らが「ユナイテッドアローズ」で、小木たちが「サンズ」っていう。本当はブラザーズくらいにしてもらいたかったけど。

(一同笑)

— このネーミングにしようと思ったきっかけは、どこからですか?

小木:ヨーロッパの老舗によくある「○○&サンズ」からですね。あと日本だと「ミウラ&サンズ」もありましたし、響きとして良いなぁと思ったので。

内山氏(以下敬称略):でも、最初の反応は賛否両論な感じでしたね。

鴨志田:原宿は本店として機能しているんですが、この名前が本店のコンセプトとしてふさわしいかどうか、みなさんに認識されるかどうかなど、最初のうちは議論されましたね。
原宿・神宮前にずっと構えてきているというのも我々にとってひとつのアイデンティティだから、そこは崩したくないと。今の時代にふさわしいという意味も含めて「本店」の名をキープするのも良いだろうと、最終的にまとまりました。

— 具体的にはどんなお店にしたいと提案したのですか?

小木:これから先10年の骨格を作りたい、と。20代から30代前半をメインターゲットに、次世代へ向けたスーツスタイルを提案していくことにポイントを置きました。そのためにカジュアルなアイテムも増やしますし。でも、ただ増やすだけだとビューティ&ユースに近づいてしまうので、スーツに向かうための入り口としてのカジュアルを扱うことにしています。

鴨志田:我々も次世代に向けて次なる手を考えなければならない時期ですし。どうしてもユナイテッドアローズのスーツと言うと、世の中に受け入れられて定着はしましたが、その次に繋ぐものとしては少しマンネリ化していて、ビジネスマンのためだけのスーツになってしまっているきらいもありました。でも、もともとそういうつもりでUAのスーツを展開してきた訳ではないし、やっぱりお洒落な人が楽しむためのスーツであってほしい。ビジネススーツではなく、ラウンジスーツと呼ばれていた、みんながコミュニケーションを取ったりする「遊び」のためのスーツの現代版として存在させたいという思いはあります。その上でビジネスマンに着ていただけるのであれば、それは素晴らしいことですし。
そういった部分で彼の提案したコンセプトに共感できたので、GOサインを出しました。

— 若い世代がスーツというアイテムに入りやすくするための企画などはあるのですか?

小木:『テンダーロイン(TENDERLOIN)』を着ているような、アメカジ好きな方にとってのドレスアップアイテムとなる『ザ スタイリスト ジャパン®(The Stylist Japan®)』や『ミスターベイシングエイプ®(Mr.BATHING APE® by UNITED ARROWS)』を二本の柱として置きつつ、そのあたりのスーツが合わないという人に対しては、定番的なオリジナルスーツも提案できるようにしています。
あとは、お客様がすでにお持ちのスーツにプラスするだけでストリートの匂いを醸し出すことが出来るような、チーフやネクタイといった小物を充実させていきます。
そして原宿本店スタッフの、正当派スーツスタイルへの理解はもちろん、ストリートの「遊び」を理解した上で接客するよう心掛けていたり、若いお客様とも自然にコミュニケーションを図るといった意識の高さは、他店にはないという自負もあります。

— 内装や什器などには、どんなこだわりが?

小木:バイイングなどで訪れて感銘を受けたクラシックなお店の雰囲気を踏襲しつつも、日本の若い人たちにも伝わるよう現代的なニュアンスをプラスして、ちょっと異次元な空間に仕上げています。また、トルソーがたくさんある空間に魅力を感じたので、B1Fには多めにディスプレイしています。あとは若い人を刺激できるように、音楽もミックスさせて楽しんでもらえるように仕掛けていますね。

内山省治氏。
確かなバイイング手腕と快活な
人柄に定評がある。

内山:出張時、小木と一緒に訪れたロサンゼルス・SLSホテルでのシャンパンナイトから刺激を受けていたり、ニューヨークのクラブに遊びに行ったときも、若い人たちが王道的なクラシックスタイルで音楽を楽しみに来ている姿を実際に目の当たりにして、「やっぱりファッションは楽しい空間とシンクロしている」と確信したことを、彼はお店作りに活かしていますね。

— あと、お店で色々なイベントを催すと伺ったのですが。

小木:デザイナーを招いたトークショーだったり、DJを招いたイベントだったり、コーナーでブランドの打ち出しを図ってみたり、といった事を考えています。あとは、著名な方々にアルバムを5枚ずつセレクトしていただいて、それを一定期間BGMとしてかけ続ける、ということもしてみたいですね。

内山:小木の生カラオケなんていうのもあったり?

— 噂の冠二郎ですか?(編集注:『炎』は小木氏の十八番。詳しくはLWT閉店企画参照のこと。)

(一同笑)

内山:スーツを売っていてDJブースがあって、なんて言うと軽薄な感じに聞こえるかもしれませんが、着るものがあって音があるっていう、普段の生活に欠かせないものが自然に存在しているだけなので、上手くバランスは取れていると思ってますね。カラオケは冗談にしても(笑)。

— 小木さんの提案を受けて、お二人のバイイングに変化があったりしたのですか?

内山:僕の予算を小木に使われてしまったくらいですか(笑)

(一同笑)

内山:小木の「お店のためにこれは必要なんですけど、僕には予算がもうなくて…」的なおねだりが、このプロジェクトが始まってから格段に上手くなったなぁって。でもそういうのを見て、「小木はこういうブランドに興味を持つんだ」と、自分のバイイングにも刺激にはなりましたね。もちろんマーケットは意識しますが、自分が本当に好きなものを買えばいいんだって。

鴨志田:自分はスーツにしろ、わりとクラシックよりなアイテムのバイイングを続けているんですけど、どうしても日本の中でクラシックと言うと、コンサバで大人向けでオヤジっぽいものっていうイメージがあるじゃないですか。でも本来のクラシックって、取り様はさまざまあるのかもしれませんが、もっとエキセントリックなもので、突き詰めていくと貴族社会が作り上げてきたものですよね。現代の生活の中で省かれてシックにはなったけど、本来優美な生活の中での「彩り」であったもので、そこに面白みがあるんですよ、ということをお店を通して伝えていきたいんです。ただ、なかなか受け入れてもらえないし、需要もない。
でもこの原宿のリニューアルを機に、それが僕たちの好きなクラシックであるんだから、そういった「彩り」を見せていかなくてはつまらないな、とあらためて感じました。
だから、もっと自分たちの本当に好きなものを提案していこうと思っていますね。そしてそれを実現するに当たって、頼りになるのが販売スタッフの存在。込められた意味や思いをうまく伝えていくことがすごく大切ですからね。そこで今回のプロジェクトではスタッフもある程度入れ替えて、元気だったり、コミュニケーション能力に長けていてアピールできる人間を集めてみました。やっぱり我々のような小売業の要はお店のスタッフですからね。

— ちなみにスタッフの人選はどのように行なわれたのですか?

いわずと知れたPOGGYこと小木基史氏。

小木:販売部の方と色々話しながら決めていきました。LWTの時には自分で採用をしていたこともありましたが、良かったことと悪かったことがたくさんありまして。ただ面白いってだけ採用しちゃダメだな、とか。

(一同笑)

小木:そんな反省を踏まえながら、一番自分がこだわったのはオールドスクールとニュースクールの共存で、なるべくミドルスクールを外して欲しいということ。創業当初のことを知っている人と、若くて元気があってしかも上の人の意見を吸収できる人との両極がいいと。そこで上の世代の方々には、もう一度若いメンバーにたくさんのことを伝えて欲しいですね。

— そこには良い連鎖が生まれそうですね。他にも何か企んでいることはあるんですか?

小木:「ユナイテッドアローズ&サンズ」専用のショッピングバッグを作るっていう話もあったんですが、最終的には地下一階で買い物してくれた方には、既存のショッピングバッグに布シールを貼るかたちで落ち着きました。現時点は、こんな感じですかね。あとはやってみながら軌道修正していきます。LWTの経験から、あまり先に揃えすぎるのは良くないと思っています。徐々に揃えていけばいいんだって実感しましたから。

鴨志田:まずはやってみよう(笑)。絶対に何かしら軌道修正されるから。

小木:まずは飛び込んでみようと。

(一同笑)

内山:最初に考えすぎたら、何も出来ないですからね。

— そうですね。では最後にショップの今後というか、豊富的なことを聞かせてください。

小木:セレクトショップがしなきゃいけないことは、お客様の選択肢をより広げてあげることだと思ってます、「こんな着こなしもアリなんだ」って。でもそれは無秩序ではなく、ルールを踏まえた上で選択肢を広げてあげて、生活をもっと楽しくするお手伝いを出来たらと考えています。だから、スタッフには色々なことに興味を持って、幅広い提案が出来るようになってほしいですね。そして僕自身は、これからも栗野だったり鴨志田だったり内山だったりのバイイングに同行させてもらって、細かい部分にまで目が行き届くような人間に成長していきたいですね。

内山:小木にこういう形にして貰ったおかげで、中の人間にも良い効果が現れていて。セレクトショップがやるべきことっていうのが明確になったかなと思っています。すぐに100%結果を出せるかは分からないけど、スタイルをどう提案していくか、自分たちの得意な部分を見極めた上でお客様にどれだけ満足していただけるかを突き詰めていきたいですね。

鴨志田:小木はみんなが認めるとおり、イベントなり何か新しいものを考えるチカラが人一倍強く、現状に満足することなくいつも何かを求めています。そしてそれをファッションとして売り場を通して伝えていけることが彼の持ち味だと思うので、その感覚はずっと持ち続けてもらいたい。その上でビジネスとして成功させていくという術も身につけてもらいたいですね。今、こういうハートを持っている人はなかなかいないですから。つねに自分自身を磨き続けて欲しいです。
あと、「ユナイテッドアローズ&サンズ」という名のとおり歴史を継承していく部分と、継承しないでリニューアルするなり破壊してもいいですから、つねにその時代に合わせた空気感を感じ取って、僕らの世代には出来ない改革をどんどん起こしていって欲しいですね。
「&アザーズ」にはならないように頑張っていきましょう。

— 僕らも期待しています。今日はありがとうございました。

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全26名を一挙紹介!』です。