We Love LWT Forever !! 〜 Liquor,woman&tearsという舞台の終焉とその未来(前編)

by Mastered編集部

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本企画のトップを飾るのは、超人気スタイリスト祐真朋樹氏。早くからLWTのエッジーな部分に共鳴し、仕事でのスタイリングはもちろん、自身でもさまざまなアイテムを購入してきた祐真氏に、LWTとそのディレクターである小木基史という人間について語っていただきました。

写真:浅田 直也

ファッション界はもっと小さな店を大切にするべき

— 今回LWTのクローズ特集ということで、祐真さんがLWTに対して思うところを語っていただきたいのですが。

祐真氏(以下敬称略):小木君とは彼がユナイテッドアローズのプレスをしている頃から色々と一緒に仕事をしてきたんですが、ある日彼がフロムファースト(編集部注:現在LWTが入居しているビル)付近を歩いてて、その時に「内緒なんですけど、僕もこの辺に店を出すんです」って聞いて。前から彼の格好も見ていたから「小木君がこの辺に?」という意外なイメージとギャップがありましたね。
まぁ、この辺りもそろそろ、読めない店というか、まったく新しい店が出来ても面白いんじゃないかな、とは思っていましたけど。

— 実際オープンしたお店をご覧になっていかがでした?

祐真:やっぱり独特でしたよね。彼の色が出ていて、この界隈のショップのイメージともかなり違う。僕は一見どうなのかな?、というモノに惹かれやすいので、自分のアンテナに引っかかるモノも結構見つけました。それで撮影で使わせてもらう機会も増えたんです。
LWTを見ていて思ったのは、やっぱり店っていうのはスペースの持つ力がすごく大事だなっていうこと。僕は小さい店を大切にするべきだと思ってるんですよ。とくにファッションでは。
小さい店っていうのはオーナーのパーソナリティがとくに色濃く反映されるので、たとえ他と同じ服を扱っていたとしても、そこで買うと違う意味を持ってきたりする。そういうのが店の魅力だと思うんですよね。
もちろん大型ストアには大型ストアの味や魅力があるけど、LWTみたいに店主が好き勝手やってる店で、そこに共感できる部分があったら客として楽しいじゃないですか。それは誰もが共感できるわけじゃなくて、選ばれた形で合うわけだから。でも、そういうお店ってなかなか少ないんですよね。
だからこういう場所でトライして、しかも自分の色を出して勝負してみよう、っていうのは面白かったですよね。青山というエリアにありがちな出店ケースを全く無視して、真っ裸で来るというか、「そんなの関係ねぇ」っていう姿勢にも共感できたかな。だから頑張って欲しかったし、付き合ってきたんだけど…。
僕も歳を重ねてるから、なんとなく分かるわけですよ。「あ、無くなっちゃうな」っていうのは。やっぱり企業だしね、そういう意見は絶対に出てくるだろうし。

— 結構無茶な部分もありましたしね。

祐真:それでも3年半、1,000日以上っていうのは結構長い時間だから。まぁもちろん短いと思う人もいるかもしれないけど、良い時間だったんじゃないかな、小木君にとっては。もちろん僕も楽しませてもらったし、ここで積んだキャリアが次に活かされれば良いことだしね。
ただ、面白い店ではあったんだけど、無謀なバイイング、買いっぷりとか、ちょっと行き過ぎなところもあったよね。「これの隣に、これ?!」みたいな。
僕も「極端な品揃えを目指した方がイイ」とか、自分勝手に意見を言わせてもらってたんだけど、気がついたら言った以上の状況になってたりしてさ。

(一同笑)

— LWTで購入されたアイテムで印象に残っているものはありますか?

祐真:『ベンジャミン・ビグスビー(Benjamin Bixby)』は印象的でしたね。
僕はデザイナーのアンドレには会ったことも喋ったこともないけど、アウトキャストが出てきたときに、ヒップホップなのにエレガントだなって思ってた。ヒップホップのミュージシャンって成金趣味になりがちな人が多いじゃない? でも彼らはそうじゃなくて、すごくエレガントに見えたから興味を持ってて。そしたら小木君の店で、彼の服を見かけて。
と言っても最初は誰のブランドか知らなくて、服が気になったから聞いてみたら、アンドレのブランドだったんですよね。そういう出会いも面白かったし。

あとは『バーカー ブラック(Barker Black)』のコンビの靴。このブランドは他でも見かけて、あのマークが気にはなっていたんだけど、この白黒のコンビはどこも取り扱ってなくて。LWTで見つけたから即買っちゃったんだよね。

それと『リーガル(REGAL)』のサドルシューズかな。これは結局あまり履いてないんだけど、このアイテムには強い思い入れがあって。僕が高校生のときに流行ったんですよ、リーガルのローファーとサドルが。当時はアイビーと50’s的なロックンロールスタイルが流行ってて、自分も良く履いてた。その思い出があって衝動買いしちゃったんだよね。

— 『VAN』のジャケットもよく着てらっしゃいましたよね。あのジャケットに『ディオール・オム(Dior Homme)』のネクタイを合わせていた姿にも小木さんは感銘を受けていたようです。新たなミックス感覚に目覚めることができたと。

祐真:エディ・スリマンがやってた頃のディオール・オムにレジメンタルタイがあって、どこかで買ってたんですよ。ところが当時は締める機会がなくて、我が家の「ジャングル」と呼ばれるクローゼットに眠ってて(笑)
それでVANのジャケットを買ったあと、ある時そこをのぞいてみたら、「おっ!似た配色のネクタイがある!」っていう再会を果たして。引っ張り出して締めてみたところマッチして「コイツ、待ってたんだな」と。「時をかけるタイ」になって、初めてジャングル状態のクローゼットを肯定できることになりました(笑)。
でも、そういうことって嬉しくない? 着なくなってずっと眠ってた服とかが、ふとしたきっかけで現役復帰する感じというか。そして、それを小木君が褒めてくれたのも嬉しい。

— 小木さんは日本人がなんとなく忘れたい過去だと思ってるところを突くのが好きらしくて。もちろんそれを悪く言う方もいるんですけど、祐真さんは一瞬首を傾げつつも、リースしてくれたりするのが嬉しかったそうです。

祐真:面白いじゃん、なんか。サムシング・ニューっていうね、「何が新しいのか?」ってつねに思うじゃない。完成したモノを繰り返すっていうことにも美意識はあると思うけど、それだけじゃつまらないし。

— あと、オウプナーズでのボウタイトーク参照も嬉しかったと言ってました。あれも転機だったそうです。

祐真:あれも面白かったね。3人とも動画で撮られるなんてことに慣れてないから変な空気になってて。撮る方も困ってたし。恒例にしたかったんだけど…またやりたいね。

— 小木さんとプライベートなお付き合いもあったんですか?

祐真:プライベートというか、たまに飲みに行ってましたね。カラオケにもよく一緒に行ったし、そこで小木君からいろいろ学びましたよ。
僕がフランク・シナトラとかを歌っていいムードを作ってたはずなのに、小木君が割って冠二郎の『炎』を入れちゃったり(笑)。でもそれを聴いた瞬間に「なんておいしい歌を知ってるんだ」って、即その場で覚えて、今では自分の持ち歌かのように歌ってます。
でもこうやって喋ってみると、色々一緒にやってるなぁ。あ、そうだ、ひとつ忠告しとくけど、酔った勢いでタクシーのトランクに乗ろうとするのはやめなさいと。

(一同笑)

— そのあたりの詳しい話も気になりますが、小木さんも名誉のためにも割愛させていただきます(笑)。
そういえば祐真さんは、ジョン・ピアーズのモンドリアンジャケットとか、股上がかなり深いベンジャミンのジョッパーズも買ってらっしゃいましたよね。

祐真:買いましたね。こういうちょっとフレッシュなモノは面白いと思えたから。
やっぱりこういうコトを取り入れていた店がなくなるのは、あらためて残念ですね。自分の事務所を出て2〜3分で来れたんで、近所の良い喫茶店がなくなるって言うか、居酒屋がなくなるって言うか…、すごく残念です。
次も何かしら動いていると話は聞いていますが、これからのセレクトショップがやらなくてはいけないことは、いろいろと買い物して家で並べたときに「面白いな」っていう、あのいろいろ入り交じった感覚の表現だと思う。その楽しさはつねに自分たちも体感し続けるべきだと思う。そして、それを伝えて行かなくちゃ。じゃないと「安けりゃイイ」に負けるぞ、と思うわけ。
そしてもっと早く店を開けてくれ。朝9時には開けよう。事務所に行く前に、寝起きでふらぁっと寄らせてくれ。

(一同笑)

祐真:まぁ最後のは冗談にしても、この経験を活かして、今後も面白いことを企んでいって欲しいですね。

祐真朋樹氏

PROFILE

祐真 朋樹(すけざね ともき)

1986年よりマガジンハウス『ポパイ』編集部でファッションエディターとしてのキャリアをスタート。
現在は雑誌で活躍するほか、数々の著名人のスタイリングも手掛ける。
また『FASHION NEWS MENS』の編集長も務める。1965年生まれ。

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