THA BLUE HERBが伝えるヒップホップ

by Yu Onoda and Keita Miki

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— 収録した30曲は色んなタイプの曲が揃っていますけど、全体的な印象として、O.N.Oさんが弾きによって生み出すメロディアスな部分が際立っているように思いました。

O.N.O:今回、エレクトロニックな音色はなるべく使わず、聴いた時に楽器が想像出来る音をなるべく使おうと意識しつつ、自分が作った音色をサンプリングするって手法はもちろん、色んなやり方を試したかったし、『TOTAL』以降で色んな仕事をやってきたので、そういうアイデアも自分のなかには沢山あって。そうやって作った曲を渡して、BOSSから返ってくるすごい抽象的なオーダーを拾って発展させていくと、そこからさらに曲が伸びるんですよ。

ILL-BOSSTINO:俺とO.N.Oが1年間の曲作りで延々とやり取りしてた履歴を公開したら面白いと思うよ(笑)。いま振り返ると、「ここはもっと柔らかくて、もっと寂しいんだけど、その寂しさのなかに……」みたいな、相当に抽象的なことを言ってましたからね(笑)。

O.N.O:最初は、「うーん……」って、なるんだけど、最終的には答えを引き当てたね。

— その尽きないエネルギーの源はどこにあるんだと思いますか?

ILL-BOSSTINO:2つあって、1つはヒップホップをただただ楽しんでいるということですね。好きな若いラッパーもたくさんいるし、90年代に僕らが出てきた時、“日本のヒップホップ=東京のヒップホップ”っていう世の中の認識を変えるのが僕らのモチベーションのほとんどだったけど、当時、自分たちが手探りでやろうとしていたことを今は全国各地で皆が自由にやってるし、大手のレコード会社と契約したいと考えながら音楽やってる人は少ないでしょ。音はもちろん、映像も写真もアートワークもライブのブッキングも自分たちの仲間で全部やって、聴く方もどこにいようがそういう音楽にいつでも触れられる。今の日本のヒップホップの広がり方やそこで渦巻くエネルギーを前にして、今は俺も負けたくないという気持ちがすごく強いんですよ。90年代後半に「こいつらを倒して、上がっていってやる」って思っていたアーティストで今も同じように作品を出して、俺たちと渡り合える人間は殆ど残ってないし、まぁ、そんなこと言っててもつまらないから、自分なりに面白い人を探していくと世代はどんどん下になっていくんだけど、ヒップホップはフェアな音楽だから、格好良けりゃいいんですよ。若い奴でも、47の俺らでも、何が格好いいか、何がヒップホップか、お客が決めることなんで、僕らは自分たちが思う格好いい曲をただ提示するだけ。「お前ら、何も知らないから教えてやる」とはもう思ってなくて、むしろ、「お前がそうくるなら、俺らはこう行くぜ」っていう、いい曲の応酬で音楽を高めていきたい。

— もう1つは?

ILL-BOSSTINO:MCバトルを通じたヒップホップの広がり方、即興の16小節でケリを付けるやり方=相手を下げて自分たちを上げるやり方は、それもヒップホップだと思うけど、抽選で決まった何の因縁もない対戦相手に即興で「殺す」とか「死ね」とまで言ってしまう、そんな削り合いだけで俺たちはここまで来たわけじゃない。長く続けてきて、それだけじゃなかったと、身に染みて実感したんですよ。物欲と名声欲の鬼みたいな人間だった自分でさえ、吐いた言葉が返ってくることを十分に知ったし、軽はずみに誰かをディスったこと、自分がやらかしたことを清算するのに20年かかった。それくらい大変なことなんですよ。そういうことを知ったうえで、俺らには俺らなりの攻め方だったり、俺らなりのヒップホップ観やラッパー像があるから、今の流行とはそういうもので対峙していくしかないなって。だから、今の流行だろうが、俺と相容れなかったら、悪いけど、「相容れない」とはっきり言わせてもらう。そう言わなかったら、YESっていうことになってしまうし、そのスタンスは47になろうが、この先も音楽を続けていくなかで変わることはないですね。