THA BLUE HERBが伝えるヒップホップ

by Yu Onoda and Keita Miki

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— これまでのリリックは、己と対峙する何か、そこから掘り下げたご自身の内面が主観的に描かれていたじゃないですか。でも、”HEARTBREAK TRAIN(PAPA’S BUMP)”では男性、”UP THAT HILL(MAMA’S RUN)”は対となる女性の視点で書かれていたり、色んな視点のリリックがあって、作風が一気に広がりましたね。

ILL-BOSSTINO:これがもし単体のアルバムだったら、その2つの視点を1曲にまとめていたと思うんですけど、2枚組だからこそ2曲に分けて掘り下げて書くことが出来た。他にも”THERE’S NO PLACE LIKE JAPAN TODAY”のような曲を聴くと、僕の立ち位置は、分かりやすく言えば、”反体制”なんだなって思われるんだろうけど、次の曲”REQUIEM”では、もしかすると右寄りで保守的だと捉えられるかもしれない。でも、左も右も全ては自分のなかに相反しながら存在しているものであって、そういうものをとことんまで掘り下げて表現出来たのは2枚組という大きな枠組みがあったからだし、それに合わせて、自分の視野や扱うトピックを広くする必要があったんですよね。

— O.N.Oさんのトラックも曲数が増えたというだけでなく、BOSSさんのリリックの広がりに対応する必要がありますよね。

O.N.O:リリックで扱っているトピックも多彩だし、曲数も多い。そして、BOSSからの要望も多いので、そういったことを踏まえて、色んなタイプの曲を作りながら、全体のバランスをとることには苦労しましたね。作業としては、お互い半年くらいかけて作ったものを合わせてみて、そこで上手くフィットしなかったものは作り直したり、大幅に修正しましたし、作業で一番時間をかけるのは、リリックとビートが上手く噛み合ってからの工程なんですよ。そこでメロディが変わることもあるし、展開が変わることもある。そのやり取りをずっと続けてましたね。

— そのやり取りがアルバム2枚分あったと考えると気が遠くなりそうです。

O.N.O:でも、ノリを掴んでからは早かったですよ。

ILL-BOSSTINO:死力を尽くして、自分たちのなかにあるものをなんとかかき集めて、なんとか30曲作りましたということではなく、意外と余裕でしたよ。3枚目に突入しかかってましたからね。

O.N.O:そう。終盤は2枚組に収まらないってことで止めたんですよね。

ILL-BOSSTINO:今回は止まった車輪を押すところから始めたので、それを動かして、安定させるのにお互い苦労したんですけど、その車輪が加速してトップスピードになってからは、曲はどんどん出来ていきましたね。これならまだまだ全然行けるなって。だから、今回は自分たちのそういう感覚を知ることが出来てよかったです。