対談:永戸鉄也 × 南勝巳(Evisen Skateboards) – 覗き部屋から新作スケートフルパートまでを網羅する『蝦本床 -EVIHONDOKO-』

by Saori Ohara and Keita Miki

7月26日(月)まで、渋谷PARCOのB1Fに位置するGALLERY Xで開催中の『蝦本床 -EVIHONDOKO-』。5lackや米津玄師、UA、サザンオールスターズ、UNDERCOVER(アンダーカバー)など、人気アーティストやブランドのジャケットデザイン、MVディレクション、広告アートディレクションを手がけるアートディレクター・永戸鉄也と、日本を代表するスケートボードブランド・Evisen Skateboards(エヴィセン スケートボード)が仕掛けるこの展示を、果たしてなんと説明したらいいのか……。まずもって、タイトルから不可解だ。ということで大変不躾ながら、展示のステートメントを引用(コピペ)するとこうである。
本床/本床の間 : 床を単独で配置するだけではなく、廊下(採光)側に付書院、反対側に、棚を持つ床脇を備えたものを本床の間(ほんとこのま)または本床(ほんどこ)という。
大量消費社会が生んだ絵画複製村という存在や、アートの価値に対する問いを表現する一環として、展示作品のみ、あるいは数を限定する通常のEditionではなく、Unlimited Editionというシニカルなコンセプトを元に生み出された複製可能な一点物の油絵作品。 秘滑穴(ひっこうホール)に投影させる未公開映像、そして本展示の象徴である五劫思惟阿弥陀(ごこうしゆいあみだ)、通称アフロブッタのセクションを滑り超える刹那。
Evisen Skateboardsの現在を両者の視点、手法を用いて起こした化学変化をそのままに配置したこの空間を”蝦本床”という。
ふむふむ。分かるようで、目の当たりにしてみないと全然分からない感がすごい。なので、Mastered読者の皆様には、ぜひとも実際に足を運んでみることをオススメしたいのだが、会場には、Evisen Skateboardsの人気アーカイブグラフィックや新作アートワークが、プリントではなく、無限に複製可能な1点モノの油絵作品として並ぶほか、土嚢(腐葉土入り&購入可能!)の上に積まれた複数のブラウン管モニター、アフロブッダが鎮座した難易度高めなミニランプ、ゴムのカーテンで仕切られた怪しすぎる小部屋などが点在している。
そして、Tシャツや香炉やクリアファイルやポスターなんかが買えちゃうお土産コーナーも(欲しい!)。雰囲気作りと完成度を上げた結果、細部まで大人のおふざけ満載と言っても過言ではない仕上がりになったのが伺える。ただ、その裏側に隠された、スケートボードと仲間への愛や、かつての少年たちの好奇心、アートを楽しんでいるが故のアンチテーゼやニヒリズムも同時に感じられるはずだ。
また、7月22日(木・祝)には、会場でイベントも開催予定。
そんな訳で、渋谷のランドマークでこの奇妙奇天烈な展示を画策した、永戸鉄也とEvisen Skateboardsのディレクターである南勝巳に、Let'sインタビュー!!

Photo:Takuya Murata | Interview&Text:Saori Ohara | Edit:Keita Miki

「スケートボードと床の間って一見価値観が合わなそうだけど、自分の中には床の間は異空間、見えないアール、セクションみたいなものがそこにあるというか(永戸鉄也)」

— まずは、2人の出会いのエピソードからお願いします。

:出会いは、青山の「しまだ」ですよね。Evisenは守本(勝英)さんに写真を撮ってもらってるんだけど、守本さんが永戸さんとも付き合い長くて、その日はUNDERCOVERの何かあったんですよね?

永戸:そう。自分が展示会で流す映像を担当していて、その打ち上げ会場が「しまだ」で。

:なぜかその打ち上げに俺らもついて行って、総勢15人くらいでしたよね。それでたまたま俺の向かいに座ってたのが永戸さんだったっていう。その時は永戸さんが何の仕事してる人かもよく分かってなくて、最初はスケボーの話をしてたかな。永戸さんって東京のスケーターの先輩世代で、高井戸にミニランプを置いてたのが永戸さんだったって知って、「あのジャンプランプはそうだったんだ!」ってめちゃくちゃアガって(笑)。

永戸:実家が木工所だったから、自分でジャンプランプを作って、荻窪の家の方からプッシュで運んで、高井戸まで持って行って滑ってたんだよね(笑)。でも途中で壊されたり盗まれたりするから、持って帰ったり隠したりしてたっていう当時の話をして盛り上がって。

:で、よくよく話を聞いてくと、俺、子供が3人いるんだけど、永戸さんもお子さんが3人いて、永戸さんの娘へのアプローチが素敵だなってすごい感銘を受けたわけ。それで前のめりに「それでそでれ?」って話聞いてたら、「ちなみにあそこにいるのが俺の娘」って言われた目線の先にいたのが、髪の毛どえらい青く染めてたさきちゃんで、もうなんか、関係性とかも含めてめちゃかっこいい!ってなったんだよね。その日、家に帰って「すげー理想の素敵なお父さんに会ったわ!」って嫁に話したもん(笑)。そこからどうやってデッキのお願いしたんでしたっけ?

永戸:いや、俺は前からモーリー(守本勝英)に、「Evisenのデッキのグラフィックやったらいいのに」って言われてたんだよね。それであの場で会ったから「やらせてよ」って軽く言ったら、勝巳くんも「いいですよ」って。何者かも分かってないのに(笑)。

:言いましたね(笑)。でももう、そういうの直感なんすよ。

— 永戸さん的に、初めて会った南さんの印象はどうでしたか?

永戸:なるほど、そうだよな、って納得したかな。Evisen Skateboardsは知ってたけど、会ったらこんな人がやってるから、やっぱそうだよな、って。チャラついてないというか、自分が外からみてきた人たちとは何か違ったんだよね、言い方が合っているかわからないけど、スケートも海外のマネっこ文化みたいなところがあるわけで、でもEvisenはそうじゃなくて、独自のことにトライしようとしてるのはすごくいいな、と思っていたし、その感じがほら、(勝巳くんから)出てるでしょ?

:10代の頃からスケート業界で働いていて、なんか逆にうんざりだったんですよね。アメリカのカルチャーとかも全然好きだけど、それを扱う日本のスケボービジネスの末端からディストリビューターまでを経験して、なんかもういいやって。ビジネスの仕組みは分かったから、もう違うアプローチをしたくなったんすよ。それで好きな奴らと始めたんですよね。マル(丸山晋太郎)と、(上野)伸平と。

— その「しまだ」での出会いから満を待して、永戸さんが2020年のEvisenのデッキデザインを手がけたと。

:そうだね。DJ AFRO BUDDHA、CHERRY POP、NAKED DEFENSE、SU CHA RA KAのデッキグラフィック4種類。あと連動したプリントTシャツとかも。本当は去年の春に、デッキのリリースに合わせて永戸さんとイベントをやるつもりだったんだけど、コロナのせいでこんなニューワールドになっちゃって全部流れたけど。

永戸:まあ結果オーライという感じで、この展示に繋がったという。

— 展示の経緯ですが、2020年2月に、永戸さんは個展『Kawaeye: Beyôn by Tetsuya Nagato』で、目をビヨーンと伸ばして”カワイく”したコラージュ作品を、中国の通称・絵画複写村で手書きの油絵に変換して、”コピーできる1点モノ”を制作していましたよね。そこから派生したものですか?

永戸:その展示に勝巳くんはじめEvisenチームが来てくれたこともあるし、Evisenとは、そもそも相性がいいなと感じていたので。自分がいつも作っている作品がそのままEvisenで使われても違和感がないっていう感覚は、結構レアなことだと思うんです。それでPARCOさんと、とある打ち合わせをしていく中で、PARCOさんからもEvisenとも何かやりたいと思っているって話を聞いたから、じゃあ一緒にどうですかって。PARCOさんは、「ホントですか? 僕らが(Evisenに)頼んでもやってくれないんじゃないですか?」ってなんかビビってたけど(笑)。

:そういうのよくあるっすね(笑)。俺と会ったことない人は、何故かそんなイメージがあるみたいです。俺らを知ってたら全然そんなことないんですけどね(笑)。

— 永戸さんのとある打ち合わせというのも今後が気になりますが、今回の展示タイトル、『蝦本床』とは何ですか?

永戸:本床(ほんどこ)っていうのは、床の間の正式な造りのことを言うようです。自分とEvisenとは、DJ AFRO BUDDHAの光るデッキを出したのが始まりで、あのアフロブッダが自分のアイコン的なモチーフにもなってるから、それは絡めたいなっていうのと、Evisenの和の世界観をしっかり何かに落とし込む時に、スケートボードと床の間って一見価値観が合わなそうだけど、自分の中には床の間は異空間、見えないアール、セクションみたいなものがそこにあるというか。通路や畳や一段高い床がある、その本床っていうハコにいろんなものを入れ込んだら、コラボ展を括る1つのコンセプトになるし、”自分たちらしさ”を感じてもらうって意味でも「蝦本床」にしようか、と。Evisenはインターナショナルでありつつ、日本のスケートボードを体現してる人たちだから、他にない和のエッセンスはやっぱりいいなぁ、と思うよね。

— 一緒に制作する上で何か実感したことはありますか?

:すごく表面的なことだけど、永戸さんはスピードがやばい。迷いがないっていうか、掛け軸とかもすごい早さで作ってたのにはびっくりしました。仮に自分がやるとしても、ものすごい時間かかるだろうし、迷いが出てきてできないと思うんですよね。経験値なんでしょうけど、すごいっす。

永戸:あぁ(笑)、迷いは近年なくなってきてるかも。判断のスピードが上がってきたのと、集中力が落ちてきてるのかな(笑)、時間の使い方が変わったと思う。逆に悩めないのかもしれない。ある意味スケート的と言えるのかもしれないけど、流れに任せている感じ。基本的に、起きたことに対してリアクションをしていく人生だから、コラージュをはじめたのも、親戚から古い本を大量に譲り受けたからなんだよね。それまではデジタルでコラージュを作ってたけど。

— 今回展示されているコラージュ絵画や、映像作品も、永戸さんが作ったと言われてもEvisenが作ったと言われても納得できてしまうものが多くて、合作コラージュも含め、お互いの作品や世界観の相性が良いというのはすごく感じます。今後も永戸鉄也 x Evisen Skateboardsのプロジェクトが楽しみですが、既に決まっていることはありますか?

永戸:ないけど、またなにかできそうだよね。切り口を変えて。やりながら決まったこともたくさんあるし、面白い出会いもありましたね。

:そうっすね。永戸さんも俺も、打ち合わせ中でも怪しい話題を掘りはじめちゃうから、そのおかげでかなり面白い出会いがありましたね。

— ちなみに、会場にある怪しさしかない個室で、南さんディレクションの、Shor West(ショー・ウエスト)の新しいスケートのフルパートも観られるんですよね?

:そうそう!スケボーの試写会って、普通はすげー盛り上がるライブみたいなイベントだけど、このコロナ禍でそんなイベントできないから。フルパートの試写会を個室の覗き部屋でやるっていう案を永戸さんが出してくれて、最初は「大丈夫すかね?」って半信半疑だったけど(笑)。

— あの小部屋でヘッドフォンして集中して観ると、一味も二味も違いますね。Shorのスケートを観てるのか、胡散臭いテレビショッピングを観てるのか、カワイイ女の子を観てるのかわからなくなりました(笑)。でもショートフィルムとしても完成度が高いというか、さすがEvisenという感じです。

永戸:スケートビデオの中に、公には見せない方がいい映像があるって勝巳くんが言ったんだけど、観る側としては見せられないものが一番見たいでしょ?

:それで思いついたんですか!?

永戸:そうだよ。だから、1人ずつしか観られない撮影禁止の秘密の部屋にすれば、迷惑もかからないし、みんなが楽しめる映像が流せるなって。

— なるほど! しかも、この会場でしか観られないですもんね。ちなみに、この覗き部屋のデザインモデルになったえっちなお店ってあるんでしょうか?

永戸:それは、19歳で初めてアメリカに行った時に、無理矢理連れて行かれたニューヨークの覗き部屋(笑)。

:ていうか、覗き部屋カルチャーさえアメリカなんですね! 確かにマルも「サンフランシスコにあった覗き部屋を思い出した」って言ってたな(笑)。

DJ&スケートイベント 『蓄音蝦鼠』

開催日時:2021年7月22日(木・祝) 18時~
開催場所:渋谷PARCO B1F GALLERY X
出演:吉岡賢人(滑る人) x 永戸鉄也(蓄音機DJ)
入場無料
https://www.instagram.com/evisenskateco/
※当日は13時~20時まで、永戸鉄也とEvisen Skateboardsメンバーが在廊します。

蝦本床 -EVIHONDOKO-

開催日時:~2021年7月26日(月) 11:00~20:00 ※入場は閉場時間の30分前まで ※最終日は18時閉場
開催場所:渋谷PARCO B1F GALLERY X
入場無料
https://art.parco.jp/galleryx/detail/?id=698