[nonnative]デザイナー、藤井隆行 ロングインタビュー(後編)

by Mastered編集部


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Photo:YUKIKO SUGAWARA
Interview:Hiroshi Inada
Text:Mastered

結局、スタイリングするのが好きなんですよ。アイテムを増やして、このジャケットにはこういうパンツが良いかなとか、こんな靴が良いかなとか、そういうアイデアがいっぱい出て来て、それを足していく作業が1番楽しい。

— 少し話はそれますが、藤井さんは毎回シーズンの前に旅に行かれるんですよね? 今回の”CAFE HAFA”ではモロッコに行ったんでしたっけ?

藤井:そうですね、でも実はモロッコに実際に行ったのは2009年なんです。ただ、その時、それを基に何かをしなかったというか、何故か分からないけど当時は題材にできなかった。PRも含めて考えていかないとテーマって響かないものだと思うんですが、カタログ、ルックブック、ホームページとかそういう部分に使える要素を上手く抽出出来なかったんです。もちろん、それは僕の力不足だったのかもしれないですが。そういう経緯があって2009年の時はやらなかったんですよね。それで今回、テーマをどうしようかなって考えてた時にふと思いついたんです。最初はアメリカにしようかなんて思ってたけど、まぁアメリカはしょっちゅう行ってるし、ヨーロッパっぽいよくわかんない感じを目指すならモロッコかなって。モロッコに行った後に『TRANSIT』でモロッコ特集をやったりしたこともあって、結局みんなで共有できる部分がすごく多い場所になっていることに気付いたから、今こそ、そういうことを題材にしてやるべきだなって思いました。今までは俺だけが分かるっていう状態からスタートしてたんですよ。でも今回はみんながわかる。そんな訳で、今回はモロッコになりました。

— 毎シーズン、必ずインスピレーショントリップに出かけているんですよね?

藤井:行きますよ。この間もアメリカに行って来たし、年2回は必ず何処かに行くようにしています。

— 旅が好きなんですね。

藤井:好きですね。僕は英語がそんなに上手では無いですけど、若い頃はとにかくアメリカに憧れていて、お金を貯めてアメリカまで行って、そこで買ってきたものをフリーマーケットで売って、その資金でまたアメリカに行くってことを年に3回ぐらいはやってました(笑)。
でも、初めてロンドンに行ったとき衝撃を受けて。ちょうど22歳ぐらいの時かな。その後、[サイラス(SILAS)]に入ったんですが、その辺りはずっとヨーロッパの感じで。ノンネイティブをやりはじめた時も世の中はアメカジ全盛期だったので、敢えて個性を出すためにはアメリカには行かないと決めたんです。なので9.11の後に一度足を運んで以来、ずっとヨーロッパですね。

— イギリスが多いんですか?

藤井:いや、チェコ、ハンガリー、ウィーン、スウェーデンとか、良く分からない所もたくさん行ってますよ。アメリカって旅行するには以外と楽じゃないですか? 情報も多いし。言葉もそうだし、何より僕には洋服っていうツールがあるから。でも、1回そこから抜け出したいなと思ってたんですよ。うちの会社のみんなって、旅が本当に好きなんですよね。とくに、代表のサーフェンは色んなとこに行ってるし、やっぱり話を聞いていて面白い。そういうところから影響を受けて、段々と自分もシフトして、色々と変わったのかもしれないですね。昔はもっと偏った人間だったような気もするし。例えば洋服をやってる人としか遊ばないとか(笑)。
多分、そういう意味ではフラットになったのかもしれないですね。彼が洋服オタクだったらたぶん上手くいってなかったと思うし、洋服オタクではないからこそ、あの人に見せて『良い』って言われる洋服じゃなければダメだとも思う。うちの会社の初期メンバーって全然洋服バカじゃないんですよ。

— それは意外ですね。

藤井:初期メンバーっていうのはサーフェンと僕と野田っていう3人のことなんですけど、野田は主にグラフィックのデザインとかをやってくれています。彼には僕とは全然ちがう哲学がある。Tシャツのグラフィックはいつも深い意味が隠されていて、とてもユニーク。彼らのような、洋服屋さんぽくないいわゆるクリエイタータイプの人が、僕の作った服を着てくれているのはすごく嬉しかったりもします。

— なるほど。そういう対等な良い関係があるわけなんですね。

藤井:そうですね。でもやっぱり洋服屋なんで、洋服屋さんにも認められたいと思う。甘んじずにね。会社やお店が中目黒にあるから、ゆるくなっちゃうんですよ。そういう意味では本当にこう自分から出て行かないとダメだったりするんですよ(笑)。
その辺のバランスは重要視しています。

— 旅に行く時は、いつもサーフェンさんと一緒に行かれるんですか?

藤井:サーフェンと行くのはたまにですね。何年かに一度、一緒に行くぐらい。僕、基本的にはもう一人の企画の菅野と生産管理の業者さんと行くんですよ。

— 業者さんですか!?

藤井:そうです。多分珍しいと思うんですけど。旅に行った時に一緒に生地を買ったり、サンプルを買ったりっていうこともそうなんですけど、何日間もずっと一緒にいるわけだから、色んな時間を共有しておくと、帰ってきていざモノを作る時に『あの生地分かる?』だとか、『この縫製分かる』とか、『この重さ分かる?』みたいな細かい部分も伝わりやすいからすごくスムーズなんです。

— たしかに。すごく話が早いですよね。

藤井:そうそう。それにやっぱり僕から工場に伝えるまでの間に業者さんが入る訳だから、要は僕とその業者さんとのコミュニケーションの濃さが、僕と工場のコミュニケーションの濃さにも直結するんです。僕は工場に頻繁に足を運べるわけでは無いので、そこが濃ければ少しくらい薄まってもうまく伝わるかなって。大体、何でもそうなんです。自分がこれだけ濃くしたら、これぐらいは伝わるんだろうって考えてる。だから、とにかく自分が濃くなれば濃くなるほど、色々な意味でやりやすい。そのパーセンテージをもっと増やしたいって、毎シーズン思っています。

— なるほど。話は遡りますが、ノンネイティブが2001年からスタートして、最初はいろいろ試行錯誤もあったと思うんです。そこから修正した部分と経験が合致して、『これがノンネイティブだな』って実感が生まれたのはいつごろなんでしょうか?

藤井:たぶん2007年か、2008年…。

— 意外に最近なんですね。

藤井:そうですね。具体的に言うとパンツのかたちが出来上がった時ですかね。正直アウターはまだまだだなって思うんですよ、自分でも。でもパンツに関しては本気で自信がある。世界で1番良いシルエットだと思います。本当に細かい、“コンマ何ミリ”の部分にこだわっているから、例えパターンを真似されても同じものは作れないんじゃないかな。ステッチや糸の仕様、配置の仕方も独特なので。

— 新たな定番を生み出したって感じですね

藤井:そうなのかな。だから海外に行った時に服をいっぱい買うんですけど、パンツだけはここ何年も買ったことがないんです。どんなものを試着しても自分の所で作ったものの方が良いから買えない。アウターはあるんですよ。より高い機能性もったものだとか、『まだこんなのあんのか!』っていうような素材感のものとか。革にしても本当にすごいものがあるじゃないですか?普段そんなにほかの展示会ってあまり行かないんですけど、『これはすげえなぁ』って思うものがあったりする。だからアウターに関しては、迫力感みたいなものはまだまだ自分のブランドには足りないなって思うんです。でもパンツはどんなブラントとでも絶対に合うと思うし、さっきも言ったように自信があります。

— なるほど。でもそういう定番が1つでも作れるってすごいですよね。

藤井:洋服の中で、1年間通して着られる服ってパンツしかないじゃないですか? だからパンツだけはなぜか買い替えるんですよ、みんな。シャツもTシャツも、1年間は着てないんですよね。それに男はパンツしか選択肢が無いじゃないですか、スカートもはかないし。

— 1番お金を掛ける部分なのかもしれませんね。

藤井:そうなんです。誰でも『パンツはしょうがねえか』っていう意識は少なからずあるだろうし。あと、パンツコンプレックスはあったのかもしれない。だから、いちいち自分で直してたりしていたんだと思います。

— なるほど。

藤井:インポートブランドなんかは特に。良いんだけど、『なんでこんなに裾が長いの?』とか思ってましたね。僕は身長が170cmぐらいなんですが、日本人ってその前後くらいの身長の人って多いと思うんです。だから、うちのパンツは極力、裾上げをしなくてもいいようになってる。実際海外での評判も良いんですけど、履けない人も多いかもしれない。基本的には日本人体系に合わせて作ったパンツなので。街で歩いている人を見て、自分の洋服を着てくれている人が増えてるなって実感するのはパンツです。

— どんなデザイナーやブランドもやりたいことだと思います。これだっていう、1つのパターンを作るっていうのは。

藤井:そうなんですかね。最近はシルエットで『ノンネイティブのパンツだ』って分かるって言われるんですよ。うちのパンツって別に[リーバイス®(Levi’s®)]みたいにステッチが入っている訳じゃないんですけど、後ろから見てわかるってみんなが言うんです。でも正直、それは嬉しいですね。これまでこつこつと地味にやってきたことが段々と伝わって来てるのはすごく嬉しい。

— じゃあ、パンツだけじゃなくアウターに関しても、これだっていうかたちを求めてたりするのでしょうか? まぁその時その時ではあると思うのですが。

藤井:そうですね。アウターに関しては毎シーズン、こういうジャケット、あああいうジャケットっていう理想形が違うので。それを色々な形で表現してるとは思うんですけどね。着丈が短いのが良いと思ったら短いものが多いし、長いのが多い時もある。そういうのをルックブックというかたちで表現できるようになったのも2009年ぐらいからなんです。やっててすごく楽しいですよ。あれ目がけてやってるようなものですから、僕は。結局、スタイリングするのが好きなんですよ。アイテムを増やして、このジャケットにはこういうパンツが良いかなとか、こんな靴が良いかなとか、そういうアイデアがいっぱい出て来て、それを足していく作業が1番楽しい。『このシャツにはこのカーディガンで、この帽子で…』とか、そういうことを考えるのが楽しいし、それを伝えたいとも思っています。『結局はスタイリング』って言うのはそういう意味です。極論を言ってしまえば服は作るけど、着てもらいたいから作ってるだけ…なのかな(笑)?

その他の何かっていうのが僕にはあまり無いんですよ。むしろ、『それを着てなにかを探してよ、その邪魔はしないから』っていうスタンスでありたいなって思うし。やっぱり男には、洋服とは違う部分の格好良さって絶対あると思うので、それを手助けできるのが1番良いことですよね。例えばカート・コバーン(Kurt Cobain)だってたいした洋服は着ていないじゃないですか。それこそパジャマとか。それなのになんであんなに格好良いんだろうって思うんです。足元にしたって、たまたま[コンバース(CONVERSE)]があったからコンバースだったのかもしれないし。もしかしたら、こだわってるようでこだわってないように見せるっていうのが1番格好良いのかなって。だからそういうみんなが言う“格好良さ”っていうのも、当然分かるんですよ。やってることと矛盾しちゃうのかもしれないけど、『こういう格好で良いじゃん』って提案してる割に、なんか『そういうのじゃダメだよ』って思ってる自分も同時に存在していて。まぁ、とにかく伝えることの付加価値をわかってもらえるようにやっていかなきゃいけないですよね。これだけ長い期間やってるし、『やっぱりいいよね』って、会社全体でやってることを見せていきたい。もちろん何でもかんでもって言う訳ではなく、あくまでセンス良くですけどね。会社だったり、人間も含めてデザインしていかなきゃいけないと思います。

— なるほど。vendorのショップスタッフもみんなキャラがたってますもんね。

藤井:そうですそうです(笑)。

— そういう組織ってあまり無いですよね。

藤井:やっぱり基本はピラミッド型になりますもんね。そういうスタイルの方が人によっては楽だったりすると思うけど、僕も昔はずっとそのピラミッドの下の方にいた訳で、嫌だなって、自分自身思ってましたから。でも逆に横の関係性の方が難しい部分もありますよね。正面からぶつかっていかないといけないから。怒られて、『はい、はい』って言ってるだけじゃなくて、言い返さないといけないし、影で文句も言えない。だからうちは陰口とか少ないと思いますけどね(笑)。
何でも面と向かって言うから。

— サーフェンさんも組織的な考え方がある人なんでしょうか?

藤井:ありますね。あの人は人が好きで、人を集めるクリエイターなんです。自分はやらないんですよ。文章も書かないし、服も作らない。つまりは“オタクを集めるオタク”なんですよね。

— はー、そういうことなんですね。

藤井:何かを追求してる人を集めて、それを自慢したいっていう。要はうちのこいつがすごいあいつがすごいって言いたいんですよ(笑)。
音楽もやってるし、映画もいっぱい見てるから、たぶん元々人に求めるレベルが高いんだと思うんです。1回、映画監督をやりたいって言ってた時も、突き詰めすぎて誰も対抗できなかったですからね。そういう意味では器用貧乏なのかなって。本当に何でも出来ちゃうから。

— 珍しいタイプの人ですよね。

藤井:そうですね。たぶんアパレルだと、ああいうタイプに人っていないと思うんですよ。

— 似たような感じでやってるなっていう会社って他に思いつきますか?

藤井:たぶん無いですね。でも将来的には分からないです。あと10年経ったら今よりもっと若い子が出て来て、そうならざるを得なくなるかもしれないし。現状ではあまり見当たらないですし、これだけの人数がいるところも少ないですね。4、5人ぐらいだったらたくさんあると思うんですけど、うちは10人以上いるので。そういう中ではバランスがとれてる方なのかなとは思うんですけど。なので、精神的にもすごく安定してるんですよ。人付き合いが大変だってこともないし、わがままを聞いてくれる人もいるし。逆に最近わがままになろうかなって思ってるぐらいです(笑)。

— そういう人ってやっぱり珍しいんだと思うんですよ。

藤井:でも、仲良くしてもらってる、とんでもない服を作る先輩がいるんですけど、『俺ってめちゃくちゃ普通じゃないですか?』って言うと、『お前は頭がおかしい』って言われるんです(笑)。『お前は変わってる』って、変わってる人に言われて、どうしたらいいのかなって…

— (笑)。

藤井:俺って変なのかな、って悩んじゃいましたよ(笑)。

— 藤井さんって、まずはお客さんとフラットだと思うんですよね。対等というか。その間に業者の人だったり、PR、ショップ店員、いろんな人を通すじゃないですか? でもそこも全部フラットだから、結局同じ目線でお客さんに届いてる。それってなかなか出来ないというか、滅多に無いパターンだと思うんですよ。普通はジグザグしながらやっと届いて、100だったものが少し変わったり、ちょっと色が変わるのもそれはそれで良しとするみたいなことだと思うんです。それがそのまま変化せずにずっと繋がっているっていうのは、すごく健全ですよ。

藤井:(笑)。

— “ありえない健全さ”っていう意味で、その先輩が『変だ』って言いたくなる気持ちも少し分かるし(笑)。でも『変だ』っていうニュアンスで言うとまたちょっと違うから、『むしろ普通だ』って言いたくなる藤井さんの気持ちも分かる。いずれにせよ、数少ないパターンなんじゃないかなっていう気はしますよね。

藤井:そっか〜。若い頃はもっと普通だったと思うんですけど、それがどうなのかって悩む時ももちろんあったし、もっとふざけた方が良いのかなとか、天邪鬼でいるほうが良いのかなって、思ったりもしたんです。でも、そんなこと最近は全然思わないですね(笑)。
このままでいることを受け入れてくれた人がいるってことも大きいし、こうやって僕に興味を持ってくれて、取材をしてくれたりもする。そういうことが去年辺りからまた増えてきたから、自分自身、もっともっと素直にっていう気持ちが徐々に出てきているのかなとは思います。

— それは素晴らしいことですよね。それが色々な方向に良い影響を与えてるような気もします。こうやって話を聞いていて、なるほどなって思うことがすごくあるし、自然体でいられるというのはすごく良いことなんじゃないでしょうか。

藤井:そうです…かね。でもそうありたいって素直に言えるようになった部分はあるかもしれないです。