[nonnative]デザイナー、藤井隆行 ロングインタビュー(前編)

by Mastered編集部

いよいよ本日、4月1日(日)より受注スタートとなった[ノンネイティブ(nonnative)]とEYESCREAMによるスペシャルコラボレートコレクション“Espresso Eyescream”。同ブランドの2012年春夏シーズンのテーマでもある”CAFE HAFA”にちなんで、全て”Espresso”カラーに統一された全12型のカプセルコレクションはファンならずとも必見です。

そして今回、Masteredではこの発売を記念して『EYESCREAM』5月号にも掲載された、デザイナー藤井隆行氏への単独インタビューを未公開部分も含めた、超ロングバージョンとして前後編2回に分けてお届け。このカプセルコレクションのためだけに、新進気鋭のスタイリスト、高橋ラムダ氏がスタイリングを担当したファッションシューティングと併せてぜひともチェックしてみてください。

[nonnative×EYESCREAM]のコラボレートコレクション”Espresso Eyescream”を今すぐチェックする

Photo:YUKIKO SUGAWARA
Interview:Hiroshi Inada
Text:Mastered

一番の服じゃなくても、なんか週4回袖通してるみたいな、そういう風でありたい。

— まずは藤井さんの経歴から伺っていければと思うんですが、ノンネイティブを始める前はどんなことをされていたんですか?

藤井:僕は大学の時に東京に出てきたんです。そもそも生まれは奈良なんですけど、武蔵野美術大学に通うことになったので、それをきっかけに上京して東京に住むようになった。今はなき、空間演出デザイン学科の中のファッション学部ってところに通ってたんですけど、キャンパスは国分寺にあって、当時は[イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)]のデザイナーさんだとか、[無印良品]のデザイナーさんが講師をやってましたね。

— その頃から既に服にのめり込んでいた?

藤井:そうですね。結果的に大学は2年で中退しちゃったんだけど、要は東京に出られれば理由なんて何でも良かったんです。本当は文化服装学院に入りたかったんだけど、親が結構厳しくて「専門学校じゃ金は出さん!」なんて言われちゃって…(笑)。
それならって大学を受験したら、受かっちゃったんです。受かったんじゃなくて、受かっちゃった(笑)。なのでなんとなく通い始めたって感じかな。

— 洋服は何歳ぐらいから好きになったんですか?

藤井:兄貴の影響で、中学1年生ぐらいからずっと好きでした。それこそ『POPEYE』や『CHECK MATE』とかを読んだり。奈良にはなんにもなくて、洋服が買いたいから高校は大阪の高校を選んだけど、結局大阪も飽きちゃって、東京に行きたい!、と(笑)。
でもいざ東京に出てきたは良いものの、当時はこの先ファッションでどうやって食っていけばいいのか全然分からなかったですね。結構現実的に考えて、大手スポーツメーカーのスニーカーのデザイナーになりたいなぁとか思ってた。

— プロダクトの方にも興味があったんですね。

藤井:実は武蔵野美大受験の前に多摩美術大学のプロダクト科も受けていて、そっちも受かっちゃったんですけど、入学申し込みの日に寝過ごして(笑)。
今考えてみれば、あそこで多摩美にいってたら相澤(陽介/White Mountaineering)と同期では無いにしろ、出会っていたのかな。

— すごいニアミスですね。大学を中退した後はどうしたんですか?

藤井:もうとにかく洋服屋に入りたくて。僕は元々アメカジとかそういうものが好きだったから、クラスの人たちとは話が合わなかったし、友達もできなかった。いつも一人で食堂にいた。で、なんとなく先輩と遊ぶようになって。DJやってたり、スケボーやってたり、カッコイイ先輩やカワイイ先輩がたくさん学校にいて、良く遊んでもらってたんですけど、毎日すごく面白かったですよ。授業には行かずに食堂の地下のビデオライブラリーっていうレーザーディスクが何千枚も置いてあるようなところで映画を何時間も見て、夜は飲みに出かけていって。めちゃくちゃでしたね。今思うとなんて親不孝なんだろうって。同時に「こんな生活、絶対続かないな」って自分でも思ってましたけど(笑)。
そういう生活が続いたことも原因なんだけど、授業に意味を見い出せなくなっちゃったんです。「ファッションってそういうことじゃねえだろ」とか、当時は思ってて。若いから(笑)。で大学時代、国分寺のセレクトショップというか、半分古着屋みたいなところでアルバイトしてたんですけど、そこの仲間が働き出したこともあって、ビームスの新宿ができるって話しを聞いて。で、ラムダ(高橋/スタイリスト)と一緒に、受けようよって。ビームス受かったときに学校を辞めました。ちょうど20か21歳ぐらいになる頃かなぁ。そのとき、親父とビームスの前で待ち合わせして、『ここで働くから、学校辞めます』って言いました。それから二年弱くらいいて、今度は代官山にサイラスがオープンするときに、ワングラムで働かせてもらいました。その同じビルの6階にサトシ(サーフェン/TNP代表)が事務所を構えていて、2001年に縁があってノンネイティブに参加させてもらうことになりました。

— ノンネイティブのデザイナーになるまで、それこそ学校に通ってる頃からデザイナーになりたいという気持ちはあったんですか?

藤井:全然なかったです。パターンひかなきゃいけないのかなって、やってみたりもしたんですけど、これ俺じゃなくていいなって。もちろん感覚とかセンスっていう部分もあるんですけど、僕は縫う人じゃないなと思った。だからデザイナーっていうよりは店員の方が格好とかも見せられるし、単純に洋服っていうものに対しては楽しいなって思ってただけだったんです。でも「やってみれば?」って言われたらすぐに「やりたいやりたい!」って(笑)。もう店員もさんざんやったし、ちょっとやってみたいなっていうか。

— どういう服を作ろうっていうようなイメージは最初からあったんですか?

藤井:自分が着たい服ですかね。買い物が好きだしとにかく服ばっかり見てるんで。やっぱり服っていろんなのがありますけど、特にメンズの服はもう出尽くしてる。レディースって結構まだ可能性があって面白いんですけど、僕の中ではメンズはもう新しいものはないと思ってるんです。でもそれをデザインし直すんじゃなくて、やっぱり足したり引いたり、そのさじ加減だと思うんです。いっぱい足しちゃう人もいるだろうし、引きすぎちゃう人もいるだろうし。「ああ、それそれ!」っていうバランスが、たぶん僕はたくさん見えるような気がします。若い頃、当時の先輩方は白か黒かつけたがる人が多かったんで
音楽にしてもロック聴いてる人は「ハウスなんて絶対聴かねえよ」みたいな。僕らのときは世界中で若い世代のDJがいっぱい出てきた時代だったんで、やっぱりジャンルと世代をミックスするっていう感覚にしっくり来た。それってすごい言葉では説明しづらいんですけど、でもそれをやりたいってずっと思ってた。ディオールのジーパン穿いたらシャツはラングラーのデニムシャツみたいな感覚が、ヨーロッパのアクが強いものをアメリカのもので引き算するみたいな着こなしではあるんですけど、それをひとつのアイテムでできるかっていうのをすごい考えてましたね。今もですけど。

— なるほど。

藤井:でもやっぱり、僕はシルエットとサイジングなんだなって思います。結局ジャケットにしろなんにしろとにかくいっぱいあって、これじゃなきゃいけないって言えない。じわじわ、これしか穿かなくなっちゃったみたいになりたいんです。「気づいたらこれ」みたいな。だから僕の服、ここぞという時の服じゃないと思いますし一番じゃなくてもいいんですけど、でもなんか週4回袖通してるみたいな、そういう風でありたい。例えばすっごい重い革ジャンでも馴染んで着心地が良ければそれが一番いいし、その感覚を着た瞬間からどうやって出せるか。10年着てる革ジャンは絶対作れないんで、それに匹敵するものってどこにあるのかなって。例えば革ジャンだったら水入れないでドラムで2時間ぐらい回してほぐすんですよ、で、着込んでどんどん良くなっていくのが一番いいと思うし。うちの製品って、ニット以外は全部洗ってあるんですよ。僕のポリシーはそこですね。洗って縮まない。もう買った時から一生そのサイズっていう。

— フィット感が最初からあるっていう。

藤井:そうです。でも古着っていう定義じゃなくて。クリーニングに出すような服でもないし、洗ったら縮むからワンサイズ上を買うとかっていうのが僕は嫌なんですね。だから[リーバイス®(Levi’s®)]の501とかいまだに理解できないんですよ。洗って履くとか、縮ませてから履くとか、そういうのが全然わからない。最初から最後まで、買ってから破けて使えなくなるまでサイズが変わらないっていう。服を着ることによってストレスになってほしくないんです。汚しちゃいけないとか皺つけちゃいけないとか。男のライフスタイルで、そんなシーンってあんまりないじゃないですか。汚すシーンの方が多いし、雨だったら雨でいいし、泥かかったらすぐ洗えばいいしみたいな。そういう服が僕はすごいかっこいいなって思うんですよね。

— ああ、なるほど。

藤井:だから1回気に入ってくれた人がまた気に入ってくれるかどうかっていうのをすごい頭に置いたりしています。一年中変わらないズボンに関しては特に。服を買うのって義務じゃないじゃないですか。だから、何かを感じて伝わってないと買ってくれないから、それの積み重ねをどうしていくかっていうことで。例えば、トイレ入ってスボンを脱いだときに、ポケットの袋布とか裏地とか知らず知らず見ちゃったりする。そんときにうちのパンツが一番わかるんです。すごいきれいに縫えてるし。そういうのでじわじわ行く部分もあるんですよね。外側だけでは嫌だっていうか。そういう部分を見て買い続けてくれる方もいらっしゃるのかなとは思うんですけどね。

— そうやって洋服を作る人の経験だとか、想いがプロダクトに出るっていうのは面白いですね。

藤井:そうですね。でも本来そうでなきゃいけないと思うし、そうじゃないと生き残っていけないと思うんです。今って、値段が手頃で良いものが本当にたくさんある。インポートブランドなんかも日本人にサイズを合わせて来たりしていて、すごく物が買いやすい時代ですよね。やっぱりそうなってくると、僕らがやっているような、すごく表現は難しいんですけど決して安くはないし、服が好きじゃないと買えないようなものを買ってもらう決め手って「この人が作るからいいんだ」っていう付加価値なんじゃないかなと思うんです。例えば料理でも、同じ食材を使っても作る人が違えば味は絶対に違うじゃないですか。火加減だったり、分量だったりも含めて。そういう加減を出すのが、これからの僕らデザイナーの仕事なのかなって。

後編に続きます。