[SOPHNET.×nonnative]〜琉球インディゴの“ジャパン・ブルー”を求めて〜

by Mastered編集部

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2012年11月下旬、SOPH.の代表・清永浩文とnonnativeのデザイナー・藤井隆行は、京都の藍染め職人、吉川慶一氏の工房を訪ねていた。共作しているプロダクトの最終段階を確認するべく向かったその現場は、「琉球藍」という特殊な染料を使って染色を行う工房。聞き慣れないその「琉球藍」とは? そこでどんな作業が行われているのかを確かめるべく、二人に随行する形でその現場を取材することができた。ひとつのプロダクトから垣間見える、ファッションと伝統技術の接点。

“染料としての絶滅危惧種” 琉球藍

浴槽に溜められた深い藍色の液体──これが藍の染めをするために発酵させた「琉球藍」の染料だ。今回の主題、この「琉球藍」について触れる前に、藍染めというものについて簡単に説明をしておく必要があるだろう。一概に藍染めと言っても、その製造方法や素材によってさまざまな違いがある。

まずは通常デニムなどで親しまれている「インディゴ」。これは一部の天然インディゴを使っているものを除き、通常は「合成インディゴ」という化学染料が使われている。合成インディゴが開発される以前は、すべての藍色は天然藍によって作られていたが、素材入手の容易さや扱いやすさの側面から、次第にこの化学染料が世界的に重用され、大量生産のプロダクトのほとんどに使われることとなった。

かといって天然藍がなくなったわけではない。天然藍による藍染めは、和装や暖簾にも使われているので、現在もまだまだ目にする機会は多い。こうした天然藍のほとんどは蓼(タデ)科の植物を原料にした、蓼藍(たであい)。この原料は日本が古くから使い続けてきたものであり、一般に「藍染め」と言う時、ほとんどの場合はこの蓼藍染めを指している。

では今回SOPHNET.とnonnativeが染色に選んだ「琉球藍」とは? 琉球藍とはその名が示す通り、沖縄特産の藍のこと。素材は蓼科ではなく、「キツネノマゴ科」の植物が原料になっており、原料そのものが異なる。しかしこの琉球藍、現在は極めて入手が難しいものになってしまっている。暖かい気候のもとでしか育たないこの植物は、そもそも沖縄県外での生産は難しい。かつては沖縄の特産品のひとつでもあったこの琉球藍だが、その生産者は激減し、現在この染料を作っているのは沖縄県本部町に住む伊野波盛政(いのは せいしょう)氏ただひとり。

「国選定保存技術者」という称号を持つ伊野波氏が栽培、製造過程までを監修したものだけが琉球藍であり、伊野波氏が生産を止めてしまえば琉球藍は存在できなくなるという、”染料としての絶滅危惧種”でもあるのだ。ゆえに琉球藍は国指定文化財に認定もされている。

「染料はこの泥状の「泥藍」という状態で沖縄から吉川氏のもとに届く。」 「染料を“建て”る工程。琉球藍に泡盛を加え、かき混ぜることで原料を発酵させる。」 「この水槽の藍の染料は、吉川氏が工房を拓いて以来、約15年付け足され続けている。」

沖縄の生産者から、京都の職人へ

この琉球藍のほとんどは沖縄県内で使用されているが、県外でこの藍を使っての加工を認められた数少ない職人のひとり、それが京都府亀岡市の染色職人、吉川慶一氏である。染色職人として32年のキャリアを持つ吉川氏は、15年前に独立し、亀岡市の住宅街の一角に工房を立ち上げた。当初は一般的な蓼藍を原料に染めていたが、10年ほど前に沖縄の方面から頼まれる形で、伊野波氏が生産した琉球藍で染めに取りかかった。これは琉球藍が沖縄県外で加工された最初のケースでもある。

『最初は使ったこともない素材ですし、正直上手く染められる自信もなかったんですけど、実際やってみると想定よりもずっと染めやすかったんです。インディゴよりも温かい色合いが出るし、独特の透明感もある。希少性も取り組んでいる理由のひとつではあるんですけど、素材そのものに惹かれているからいまだに使い続けているんです(吉川氏)』。

琉球藍の特徴は、温かくも透明感のある色合い。その分通常のインディゴや蓼藍よりも少し多くの工程が必要になる。今回SOPHNET.とnonnativeが吉川氏に依頼しているグラミチのコーデュロイパンツに関して言えば、染料に漬ける時間は1本あたり2分、それを15回〜20回程度繰り返さなないと求める深い色合いは出せないという。

通常のインディゴならば5回程度で済むことから考えれば、3〜4倍の時間と手間がかかる。工房も大きい場所ではないため、一回に漬けられる本数もわずか。しかも天候や気温など、細かい気候条件によって染まり方も変化するので、そこには吉川氏の染工職人としての長年の経験だけが出来を左右する。そのプロセスを経て仕上がったプロダクトは、やはり特有の深みを持って生まれてくる。

しかし、この染色技術を持っているのもまた吉川氏ただ一人。そのすべてを継承できる人がいないため、この技術や経験を伝えられる人材を現在も探している最中だという。

「ひとつひとつのパンツを丹念に手で漬ける。この時間調整が職人の経験から生まれる。」 「縫製され、真っ白な状態で吉川氏の工房に納品されたグラミチのパンツ。」 「泥藍を素手でこねた直後の職人・吉川氏の手は真っ青に染まる。」

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