『ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)』でタイなどのデザインを手がけていた兄・デリックと、初期の『トム ブラウン(Thom Browne)』を支えた弟・カークのミラー兄弟。このニューヨークでも屈指の洒落物兄弟は、英国の老舗シューメイカーとタッグを組んだNY発信のシューズブランド『バーカー ブラック(Barker Black)』を手がけていることでも知られていますが、満を持して自身のウェアブランド『ミラーズ オース(MILLER’S OATH)』をスタートさせました。
そして今回、ユナイテッドアローズ 原宿本店 メンズ館で行われた『ミラーズ オース』のトランクショーに合わせ、フロントマンである弟・カーク氏が緊急来日。早速ブランド立ち上げの経緯から兄・デリックの人物像まで、いろいろと話を伺ってきました。ミラーズ オースの2010年春夏コレクションとともにお楽しみください。
「ニュー・アメリカン・エクスペリエンス」
— まずはミラーズ オース設立の経緯から聞かせてください。
カーク・ミラー氏(以下カーク 敬称略):さらっと話した方がいいですか? それとも詳しくお話ししましょうか?(笑) 我々は長いこと服飾業界で仕事をしていたんですが、ずっと自分たちのブランドを持ちたいと思っていました。それから何年か経ち、ようやくその準備も終わったので、われわれの曾祖父がサウスダコタ州のグロトンで営んでいたメンズスーツの仕立屋と同じ名前でスタートさせました。ミラーズ オースにはこれまでに培った経験、テクニック、考え方…いろんなものが凝縮されています。
— 本格的にスタートしたのはいつごろですか?
カーク:ショップがオープンしたのはつい2週間前ですね。ユナイテッドアローズに初めてのコレクションを紹介したのが去年の秋です。
— コレクションを拝見したところではブリティッシュなテイストが強いと感じたのですが、ニューヨークで作られているんですか?
カーク:確かにそうですね。影響はいろいろなところから受けています。例えば父はとてもイギリスびいきの人でしたし、トム ブラウンはとてもアメリカ色が強いブランドですよね。イタリアのテーラーと仕事をしていたこともありますから、いろんなものが折衷されています。ただ、それが立ち返るところはアメリカの王道のようなところなんですね。様々な要素を含みつつとてもアメリカ的ということで、われわれは「ニュー・アメリカン・エクスペリエンス」と呼んでいます。メイド・イン・USAであることにもこだわっていますね。
— カークさんは以前ポール・スチュアートやトム ブラウンにいらしたそうですが、そういったいかにもアメリカ的なブランドと比較すると、とてもイギリス的だなという風に思ったんですが、それは意図的なものですか?
カーク:うーん、そういうわけでもないですね。確かにシルエットはイギリス寄りかもしれませんが、ディテールや他の部分はそうでもないと言いますか。影響は受けていますが、直接的というよりはもっと間接的なものですね。
— 今期のコレクションのテーマについて聞かせていただけますか?
カーク:「モダン化された伝統的なメンズウェア」です。また10年間あたためてきたアイディアをひとつのコレクションに凝縮するというのが一番難しかったです。その中でもメインになったのはフォーマル・ウェアでしょうか。最初はフォーマル・ウェアだけで始めようとも思っていたんですよ。正装という考え自体が好きでしたからね。ですからミラーズ オースでもタキシードはとても重要なアイテムになっています。
— ちなみにミラーズ オースにはお兄さんのデリック氏も関わっていらっしゃるんですか?
カーク:もちろんです。バーカー ブラックが始まった時も、ミラーズ オースを立ち上げる時もパートナー同士という関係です。現在は私が代表で、デリックがクリエイティヴ・ディレクターをしています。
— となると、現在バーカー ブラックはどうなっているんでしょうか?
カーク:私は今年の1月1日付でミラーズ オースに移りました。今はミラーズ オースの仕事だけをしています。デリックは今もバーカー ブラックでクリエイティブのディレクションをしています。
— カークさんから見て、お兄さんはどんな方ですか?
カーク:実の兄なのであんまり誉めるようなことは言わないかもしれませんが(笑)。とてもクリエイティブでエキセントリックな人ですね。考え方にしても服装にしても。
— バーカー ブラックにおけるクロスボーンスカルのように、つるはしのアイコンがとても印象的だと思いました。この意味はどんなものなんでしょうか?
カーク:つるはしは、ゴールドラッシュの時代のシンボルであり、サウスダコタ州グロトン市はその時代に栄えた街なんです。西部開拓という時代と、グロトンという街の両方を象徴しているんですね。ゴールドラッシュと直結している、かなり男性的なシンボルといっていいと思います。
— ミラーズ オースの「特にここを見てほしい」というディテールはありますか?
カーク:ミラーズ オースにとってディテールはとても大事な要素です。このブランドの特徴となっている下地のキャンバス地の色ですが、これは先ほどお話ししたゴールドラッシュの時代に、グロトンの曾祖父の店で扱っていた穀類やジャガイモを入れていた袋をモチーフにしています。こうすることで時代や背景を表現したいと考えました。それとラペルの裏には昔の紳士のように花を挿せるようなループを入れています。シルエットはモーニングコートに近いものにしています。モーニングの美しさ、エレガントさを大事にしたいと考えているんです。
— 今後もこういったスーツやベスト、シャツ、ネクタイを中心に展開していくんでしょうか?
カーク:アイディアはあっていろいろと作るつもりではいますが、詳細はまだ秘密です(笑)。というのは、自分たちの納得がいくものができるまでには時間がかかるので、「これを作ります」と言ってもいつ発表できるかわからないんですよね。その間ずっと待たせてしまうことになりますから…。今回のコレクションもお見せできるまでにかなり時間がかかっていますし。ただ、やりたいことがたくさんあって、どこにでも行けるような状態にあるというのは自分のブランドを持つ醍醐味ですね。来春に発表するものはもしかしたら多少くだけた感じになるかもしれませんが、まずはフォーマルなものを中心に発表していきたいと思っています。
— バーカー ブラックにいらっしゃったときも「服は作らないのか」という質問には「まだ考えていない」というようにずっと慎重な答えをされていらっしゃったので、今おっしゃられたことはすごくしっくりきました。
カーク:そうですね。隠しているわけではないんですが、確実になるまでは言わないことにしているんです。ミラーズ オースというブランドの名前ですが、オース(Oath)は「誓い」という意味で、これが表しているものは2つあります。ひとつは曾祖父に対して伝統を守っていきますという誓い。もうひとつは将来にわたってクオリティの高いものを作り続けていくという誓いです。シンボルになっているつるはしには、土を耕すように文化を作り上げるという意味も込められています。
— なるほど。ちなみにご自身以外で好きなデザイナーはいらっしゃいますか?
カーク:おっと。そうですねえ…。僕はどちらかというと伝統的なものを大事にする方なんですね。好きなデザイナーはたくさんいますが、それぞれ違った表現をしてますのでその中で誰が一番ということはないですね。例えばエディ・スリマン、クリス・ヴァン・アッシュ、トム・フォード、こういったデザイナーたちはみんな個性がありますから、彼らのデザインが集合として好きというか。
— 今回は何回目の来日なんですか?
カーク:4回目ですね。日本はすごく好きですよ。街を歩いていても感心することばかりですね。建物もそうですし、買い物に関しては世界一じゃないでしょうか。あとこれは日本の文化なんだと思いますが、フォーマルなものを大切にしているという点で、われわれがやろうとしていることと共通するものがあると思います。それからディテールを大事にしているところも似ているんじゃないかと思いますね。
— 特に気に入っている場所はありますか?
カーク:たくさんあって選べないくらいです。来るたびに新しいものが見つかりますし。ちょっと絞れないですね。
— それでは逆にニューヨークでいま一番おもしろい場所はどこでしょうか? ミラーズ オースのショップ以外で(笑)。
カーク:今は他のものを見ることができないくらい忙しいんですよ。だから自宅と店の間ですかね、おもしろい場所は(笑)。次回は何か見つけてきますよ(笑)。
— 楽しみにしています(笑)。 今日はありがとうございました。
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