アナログ、Vinyl(バイナル)、SP、皿、盤、7インチ、12インチetc…レコードの呼称は実にたくさんあるけれど、どんな呼び方をされる時でも変わらないのは、その存在がいつの時代も僕らの心を捕えて放さないという事実だ。カセットテープ、CD、MD、MP3と、時代の流れに合わせて目まぐるしく記録メディアが移り変わろうとも、確固たる地位を維持してきたレコード。そのレコードを専門に取り扱う”レコ屋”は2013年を迎えた今なお、世界中の音楽を愛する人々にとって特別な存在であり続けている。
このスペシャルなクロストークでは、そんなレコード屋とレコードの現在、そしてその未来にフィーチャー。Masteredでもおなじみとなった、音楽とスポーツをこよなく愛する”女性に優しいハードコア集団”JAZZY SPORTの代表であり、DJ、creative athlete、音楽プロデューサーなど多彩な顔を持つMasaya Fantasista氏と、高円寺の知る人ぞ知るレコードショップuniversoundsの主宰/DJであり、去る2月に最新アルバム『Next Message From The Man4』をリリースしたばかりのRYUHEI THE MAN氏をゲストに迎え、たっぷりと話を聞いた。
格好良いレコード屋にナビゲートしてあげるレコード屋、つまりは”振り向かせ役”みたいなことを俺たちはやらなきゃダメだなって。何よりも、そういうレコード屋や、そういう人たちが好きだから。(Masaya Fantasista)
— 今回は対談という形式をとらせてもらいましたが、お二人がお会いするのはこれが初めてなんでしょうか?
Masaya Fantasista(以下、Masaya): 実際に会うのですか? はい、そうですね。
— えっ、意外ですね。
Masaya:そうそう…ってそんな訳ないじゃないですかっ!
一同笑
Masaya:もう全然。昔から良く知ってます(笑)。
RYUHEI THE MAN(以下、RYUHEI):僕がThe Roomでやってるイベントに来てもらったり、僕がMasayaくんのイベントに呼んでもらったりっていう関係で、付き合いは長いですね。
— お二人は偶然にも”レコード屋”という同じ職業に就いている訳ですが、やはり同業者同士での横の繋がりみたいなものは存在するのでしょうか?
Masaya:いや、レコード屋同士だからとかってことはほとんど関係無いですね。音楽好きの仲間として。
RYUHEI:そうそう、あくまでも友達として。その延長にたまたまレコードがあったりはしますけどね。
— それぞれのレコードとの出会いについて教えて頂いてもよろしいですか?
Masaya:いやいや僕なんて本当に大した話は無いので、お先にどうぞ先輩!
RYUHEI:いや、僕もそうだけど(笑)。格好をつけて言うなら「一番最初に買ったレコードはSly & The Family Stoneの『暴動』」とか言いたいんですけどね…。
Masaya:めちゃくちゃ格好良いじゃないですか。
RYUHEI:もちろんそれは理想であって、実際に”本当に初めて買ったレコード”ってなると、渡辺美里とかになるのかな。今の自分のルーツを形成したレコードは間違いなく大学生の時に手に入れた『暴動』になると思うんだけど、どちらかと言うと右も左も分からず、ただ格好良かったから買ったって感じでしたね。
— Slyを知ったキッカケは友達の薦め?
RYUHEI:そうですね、当時周りにたまたま音楽好きな友達がいて、彼が良くブラックミュージックを買っていたので、少なからず影響された部分はあると思います。
— 東京に出てくるまでは、あまりレコード屋に足を運ぶ機会は無かった?
RYUHEI:東京に出てくる前、僕はUKのロックが好きで。ちょうどThe Stone Rosesとかが流行ってた時でCDを良く買ってたんですが、地元のレコード屋にそういう洒落たCDが無かったので、1人で福島から電車に乗って、仙台のレコード屋まで良く行っていましたね。だからそういう意味では、元々音楽が好きだったんだと思います。レコードにハマったのはその後のことですけどね。そういう人たちのビーツが好きで、そのルーツがJames Brownであったり、Curtis Mayfieldであることに気づいて、段々と興味を持ち始めた。と同時に、HIPHOPのサンプリング文化、TribeやDe La Soulなんかにも興味が出てきて、どんどんのめり込んでいきました。
— ターンテーブルを買ったのはいつ頃だったんですか?
RYUHEI:19歳の時ですね。当時はTechnicsのようなDJ用のターンテーブルではなく、レコードプレイヤーでしたけど。その後、他人がDJをしているところを見て、「自分だったらこう繋ぐな」とか、生意気にも少し思うようになり始めて。それからDJという存在に少しづつ惹かれていった感じです。
— Masayaさんはいかがですか?
Masaya:僕は小泉今日子さんの『渚のはいから人魚』の7インチ。
RYUHEI:ですよね(笑)。
Masaya:あれが初めて自分の意志で買ったレコードです。そこからだいぶ期間が空きますね、レコードは。ドラクエのサントラだとかそういうのは買いましたけど、今で言う、ここで話すような”レコード”を買うようになったのは、もっと全然後の話。自分の時はMIXテープ全盛期の、いわゆる”良い時代”だったから、ひたすらMIXテープを聴いていて、そのうちに自分でも欲しい曲が出てきて、買おうかなって思った程度です。
— お二人とも将来的に音楽を職業にしようという意識は当時からありましたか?
RYUHEI:僕が本当に意思を固めたのは大学卒業後。今、僕は相方と2人でレコード屋を共同経営しているんですが、大学を卒業してから、相方に「ちょっと働いてみない?」って誘われたんですよ。その時にはじめて本気でやってみようかなと思って。だから、その時にある程度意思を固めて、この世界に身を投じようという覚悟はありました。
Masaya:僕は音楽かスポーツか、どっちが良いかなってずっと悩んでました。小さい時からピアノをやっていたから音楽はずっと好きで、一時期は音楽で高校に入ろうかなって思っていたくらい。でも結局は自分の中でスポーツが勝って、スポーツ選手を目指したんですけど、段々と「自分はスポーツ選手にはなれない」ってことが実感出来てきてしまったんですよね。それが分かったと同時に、もう自分には音楽しか無いかなって。ちょうど高校2年の終わりくらいかな。ただスキーが大好きで、どうしても大学生にはなりたかった(笑)。
「将来は音楽の仕事をする」って言ったら、当然「じゃあお前は何のために大学行くんだ。行かなくていいじゃねーか!」って反論されましたけどね。で、雪国だからって理由だけで岩手の大学に進むんですよ。
RYUHEI:おー、その決意はすごい。
Masaya:その時点でスキーをやりたいから大学に行くけど、将来はあくまでも音楽をやると決めていたんです。だから大学でも、英語を研究する学部に入って、ひたすらジャズの本を翻訳することしかしてなかった。音楽の仕事をし始めた今は、なんかまたスポーツ選手の夢を諦めたくなくなってきちゃったんですけどね…
一同笑
Masaya:気持ちが逆転してきてんの(笑)。
RYUHEI:実は、僕も昔スキーやってたんですよ。だから、なんかその気持ち…
Masaya:分かりますか!?
RYUHEI:分かっちゃうんですよ(笑)。毎日意味もなくスキーの競技の結果をインターネットでチェックしちゃったり。Masayaくんの今の気持ち、すごく分かる。
— 人生、無いものねだりですね(笑)。音楽で食っていこうと決めても、道は色々とあるじゃないですか。バンドとか、楽器屋とか、歌手とか。こんなことを言うのは大変失礼かとは思いますが、数ある職業の中で、レコード屋という、その…最も儲からなそうな職業を選んだのは何故なんでしょうか?
RYUHEI:………。
Masaya:………。
RYUHEI:そうですよね…。
Masaya:その通りですよね…。
一同笑
— 言い方は悪いですけど、このご時世にレコード屋をやるっていうのは、かなりの変わり者ですよね。
Masaya:やっぱりレコードが好きだからっていうのが一番の理由かな。もうそれに尽きるって感じですね。レコード屋を始めた時は、CDJだってあったか無かったかわからないような時代でしたけど、DJカルチャーってものがしっかりと存在していたんです。レコード屋をやりたいって想いはもちろんあったんだけど、DJカルチャー自体をすごく格好良いと思っていたし、「このエネルギーは世界を変える力がある!」くらいに考えてました。でも、その為にはレコード屋だけでも、パーティーだけでもダメで、良いレコード屋、良いパーティー、良いDJがいて、それが上手くリンクした状態じゃないとしっかりとしたものは生まれないってことを、僕は小さな盛岡の街で嫌と言うほど経験してた。だから大学卒業後、レコード屋をやる前に、音楽ビジネス自体をしっかりと把握したいと思って、レコード会社に就職したんです。その上でレコード屋を始めて、レコード文化も含めた、このカルチャー自体をもっと世の中に広げる活動をしたいと思っていた。そういう意味で言うと、RYUHEIさんたちは本当にストイックで、プロのレコードディーラーじゃないですか。僕らは逆に、なんかこう”賑やかし”というか、「あっ、レコード屋だったんですか!」って言われるような存在であって。「色々なことをやっているんだけど、核はレコードにある」っていうのが、ある種のブランドカラーみたいなつもりでやっているので、universoundsに対して、元来レコード好きの僕らが持っているリスペクトというのは計り知れないものですよ。
RYUHEI:いやいや、僕はMasayaくんのそのスタンスの方が素晴らしいことだと思いますよ。
Masaya:ひと口に”レコード屋”と言っても、そういった違いが面白い部分なのかもしれませんね。
— RYUHEIさんから見て、JAZZY SPORT MUSIC SHOPというレコード屋はどんな存在ですか?
RYUHEI:僕が色々な場所にDJで出かけて行ったときに、一番に名前が挙がるのはやっぱりJAZZY SPORTさんだし、もうそれくらいシーンに浸透していますよね。今Masayaくんが言っていた通りで、レコード屋をベースとしながらも、既にその枠を大きく超えている。繰り返しになりますが、それは本当に素晴らしいことだと思います。例えばレコード屋さんがスポーツをやったりだとか、そういうのって僕らでは到底考えられない。本当に唯一無二。たぶん、世界でも唯一無二の存在なんだと思いますよ、JAZZY SPORTは。
Masaya:まぁ、普通に考えておかしいですからね、レコード屋がアホみたいに本気でスポーツするなんて。
一同笑
Masaya:けど、まぁそれが僕らの役割だと思うんですよね、こういう音楽業界、レコード業界における。世の中には良い音楽が一杯あるし、格好良いDJもたくさんいる。だからTVやラジオだけでは知りえないDJだったり、音楽を紹介していきたいんだけど、自分たちで「レコード屋です!」ってやっているだけだと、コアなお客さんにしか届かないんですよ。もちろん、そのコアなお客さんを唸らせるような存在も絶対に必要で、それがuniversoundsのようなレコード屋だと思うんです。だから、その格好良いレコード屋にナビゲートしてあげるレコード屋、つまりは”振り向かせ役”みたいなことを俺たちはやらなきゃダメだなって。何よりも、そういうレコード屋や、そういう人たちが好きだから。
クラブに1度でも来たことがあるような人は、僕に言わせればもうこっち側の人間で、ナンパ目的だろうが、何であろうが、仲間だと思ってるんですよ。でも、そういうきっかけすら持てずに生きてきた人たちって、実は本当にたくさんいて。例えば、クライミングの大会とか、スキーのイベントでDJをすると、大人だけど「生まれて初めてターンテーブル見ました!」とか、「レコードってこうやって掛けるんですか!?」って言うような人が一杯いるんです。そういう人たちってピュアだから、あっという間に届くんですよ。だから今、そういう人たちにレコードの魅力を伝えることに、すごくやり甲斐を感じていて。全くクラブに関わりの無かったはずの人が、僕らをきっかけにターンテーブルを買ったり、レコードを買ったりするようになる。僕らは”入り口の入り口”なんです。そこを入り口にして入ってきた人たちが、やがてuniversoundsみたいなところに行き着く。そういうチームワークというか、役割分担という意識でやっていますね。とはいえ、自分の好きでもない世界にいきなり飛び込むのは難しいので、今は自分の大好きなスポーツの世界に飛び込む形でやっていますけど。
— 以前のインタビューで、Masayaさんには五本木に店を出した理由を伺ったと思うのですが、RYUHEIさんはどうして高円寺という場所を選んだんでしょうか?
RYUHEI:universoundsは開店当時、新宿にあって、新宿で6年やったんです。当時、西新宿には結構コアなレコード屋さんが沢山あって、レコード人口も多かったんですけど、やり始めて4、5年経ったあたりから、インターネットが普及してきて、レコード屋もwebをやらないと厳しくなってきた。だからwebに力を入れたんですが、そうするとやっぱり店頭に来る人は段々と少なくなってきちゃうんですよね。だったら、高円寺に行ってコストを抑えてやっても、来る人は来るし、来ない人は来ないだろうと。それに高円寺は音楽のカルチャーが根付いている街なので、比較的レコードを買う人が多いんですよ。そういう面も含めて、高円寺に移って、心機一転やろうかということで移転しました。実際、新宿の最後の方と今を比較しても、店頭に来るお客さんの数はほとんど変わらないんですよ。だから、移転してよかったなと思っています。
Masaya:地方のお客さんにとってはすごく便利な時代だし、やっぱり通販は、無視できない大事な要素になってきてるよね。でもそういう人でも東京に来たときは店に顔を出してくれたりもするし、本音を言えばやっぱり店に来て、直接的なコミュニケーションを取りながら買って欲しい部分もあるかな。
RYUHEI:うん、そうなんですよね。
Masaya:なんて言うんだろうな…今、店にはものを買うことプラスアルファが求められているから。「あの空間に行くのが楽しみ」とか、「あの人に会いたい」とか、「もしかしたらあの人も買いにきてるかもしれない」とか、そういう楽しみって本当に大切だと思いますね。お金をもらって、物をお客さんに渡す時に”もらって渡す”って行為以上のものをお互いに感じられることを一番大事にしたい。それを大事だと思ってくれる人、気持ち良いと思ってくれる人をお店にはもっと増やしていきたいし、それに値する”価値あるお店”である必要性も常々考えています。最終的にはデジタルの話に繋がってしまうんですが、通販とかそういったところの利便性とのバランスの取り方はすごく難しいですよね。何にプライオリティーを置くかというのは買う側の選択であって、こちらから強制出来ないことなので。ただ、音楽が好きで、音楽を買うのであればまずはやっぱり音。その作品。それに重きを置いて欲しいなとは思います。となると、必然的にアナログレコードになるでしょ!っていう(笑)。
RYUHEI:絶対、そうなるね。
Masaya:利便性を求めれば当然デジタルになるからね。ただCDは良かったけど、ダウンロードは嫌だっていうのはおかしな話で、自分の中でその2つは同じ認識。やっぱり「レコードだけは別格でしょ」って想いがありますね。まぁ、もっと突っ込んだ人には「いやいや、SP盤でしょ」って言われる可能性もありますけど。
一同笑
RYUHEI:究極を言えばね。
Masaya:「レコードなんて」って言われちゃうよね。
RYUHEI:今Masayaくんが話していたような話をすると、うちのお店のwebでは視聴って1曲か、2曲なんですよ。例えば10曲入りのアルバムでも、あえて1曲か、2曲にしてる。視聴できない曲をお店で聴いて、その人にすごくヒットする曲があったとか、そういう発見を大事にしたいんですよね。「A面をwebで聴いてお店に来たけど、B面の方が良いじゃん」とか。店頭では、そういう僕らが味わってきた楽しさを味わって欲しいなっていうのはたしかにあります。でも、実際難しいですよね。僕も今は本当に良く通販を利用しますから。
Masaya:海外からは思わず買っちゃうよね。
RYUHEI:買っちゃうね。通販も利用するし、足でレコードも探すしって、なんかそんな風に上手くクロスオーバーさせてやってくれたら嬉しいんですけどね。
Masaya:今の時代にレコードを買う人はめちゃくちゃ環境に恵まれてるよ。
RYUHEI:いや、本当にそうだよね。最高ですよ。
Masaya:それを否定する気持ちは全く無いしね。それだけ恵まれた環境なんだから、今すぐ飛び込んできたって全然大丈夫。僕たちが何年もかけて一生懸命探してきたレコードを今なら一瞬で手に出来ますよ!
RYUHEI:僕が買い始めた頃は視聴も出来なかったんですよ!
一同笑
— そもそも、最近はDJでもアナログを使わない人が結構いますよね。
Masaya:むしろ使う人の方が少ないですよね(笑)。だってクラブに行って「よろしくお願いします!…あっレコードなんですか! ターンテーブルすぐに用意します!!」とかありますからね。
RYUHEI:まじですか(笑)。
Masaya:びっくりするけど、仕方ないですよね。それだけ自分たちがマイノリティーなんだって自覚するしかないし、もっと頑張らなきゃって思う。
RYUHEI:まぁ、でも基本的には良いプレイをするのであれば、形っていうのは何でも良いのかなと個人的には思いますね。アナログを忘れて欲しくないとは思うけど。”アナログセット”とかそういう言葉を見るとへこみますよね(笑)。「僕、常にそのセットなんですけど…」って。でも結局、出音に関してはみんなアナログに近づけようとしている訳じゃないですか。だからアナログが一番良いのかなとは思います。
Masaya:そうそう。僕もデジタルが嫌いって訳ではなくて、ただ単に使えないだけなので…。
一同笑
RYUHEI:僕もそうですよ。
Masaya:今まで買ってきたレコードをデジタル化する、アーカイブにするっていう鬼のように気の遠くなる作業に半歩すら踏み出す勇気が無いっていう。
一同笑
レコードはもうワンアンドオンリーな存在であって、音楽を良い音で聴きたいなら、とりあえず今はレコードが一番でしょってことは誰も否定しないと思うんですよ。(RYUHEI THE MAN)
Masaya:だからデジタルとアナログ両方やっている人とか、きちんとアーカイブしている人たちは本当にすごいなと思いますし、圧倒的に便利な部分はありますよね。海外とかに遠出する時は荷物に制限がありから、そういう際には有利でもあるし。だから、全然セラートDJを否定する気も無いですよ。
RYUHEI:僕も全く無いですね。レコードはもうワンアンドオンリーな存在であって、音楽を良い音で聴きたいなら、とりあえず今はレコードが一番でしょってことは誰も否定しないと思うんですよ。音だけじゃなく、サイズ感も含めた作品として、芸術性は全然こっちの方が高いじゃんってことは誰もが認めるところですよね。もしも、セラートをやってる人たちがそこを否定するのであれば、ちょっと僕も文句言っちゃうかもしれないけど…
一同笑
RYUHEI:「そんなこと無いですよ! 絶対こっちの方が音良いですから!! ジャックなんて邪魔じゃないですか〜」とか言われたらポカンとしちゃいますけど、基本的には自由ですから。
Masaya:ちょっと厄介なのは、配信でしかリリースされていない曲の存在ですよね。そういうもので良いものも今はたくさんある。それをプレイするとなると、まぁデータでかけるか、CDに焼くか、セラートでやるか、もし本気でやるならアセテートっていうテスト盤みたいなレコードがあるんですけど、5000円くらいかけてそれをプレスするかって感じですよね。そうなると、セラートなり、CDJを選ぶのは仕方ないかなと。僕もよっぽどじゃないとCDに焼いてまではかけないですけど、レコードが出ていないものでどうしてもかけたい曲がある場合はそちらを選ぶと思います。ただ「レコードが出ないなら、自分で出しちゃおうかな」みたいなのはありますけどね。
RYUHEI:これからは逆にそういう動きをしていかなきゃいけないですよね。デジタルのリリースでも音楽を扱う身としてはチェックする必要があると思うし、それがレコードになっていないのであれば、もっと働きかけが必要だと思う。
Masaya:その方向は今後も強まってくるだろうし、今徐々にそういうのが来ている感じはありますね。1つのアナログのあり方として、今後増えていくんじゃないかと思っています。
— RYUHEIさんは海外のアーティストとも親交が深いかと思いますが、海外のアナログ事情は日本とまた異なるものだったりするのでしょうか?
RYUHEI:うーん去年とか、一昨年とかは日本もそうですけど、イギリスなんかではレコードの需要が増えたと言われていますね。でもその需要って、どちらかと言えば、昔レコードを買っていた人たちが退職して、良いオーディオを買って、The BeatlesとかBlue Noteのリマスターを良い音で聴きたいみたいなことなんで、クラブシーンで言うとちょっと分からないですね。どうなんでしょう。
Masaya:ジャンルにもよるとは思うんですけど、新譜のプレスに関してはアメリカのヒップホップとかは、ほとんど無くなりました。それが中心だった時代もあったんですけどね。逆にヨーロッパのテクノなんかは、アナログでしか出さないってスタンスに戻ってきた人たちも多いと思います。だからまぁ、一概には言えないですけど、僕らはJAZZY SPORTのレーベルの型番でアナログをずっとプレスし続けて、それを伸ばしていくのが今のモチベーションの1つになっているので、あまり気にしていないかな。「誰も作らなくなっても俺たちは作るぞ!」ってくらいの気持ちでやっています。
— 海外も含めてお二人が好きなレコード屋、お手本にしたいレコード屋というのがあれば教えてください。
Masaya:定番ではありますが、Soul Jazz、Honest Jon’sとか。あの辺の先輩たちのスタンスは常にお手本にしています。あとはタイのバンコクにズランマ・レコードっていうレコード屋があるんですけど、そこはとにかく面白い。店主は元々タイの人なんだけど、一時期ロンドンにいてSoul Jazzとかの影響をモロに受けている人で、60年代、70年代の自国の音楽やタイファンクを掘っているんです。まぁ、タイファンクは結局当時の人たちが黒人カルチャーを真似してやってたものだから、その先にある本当にトラディショナルなものに今は興味があるって言ってましたけど。そういう現地のトラディショナルミュージックの7インチや、当時のミュージシャンを集めてディレクションしてレコーディングしたものを7インチにしたものを並べていて、すごく面白いですよ。それでいて、色々な国の普通の新譜も扱ってますし。
RYUHEI:素晴らしいですね。
Masaya:国の文化も巻き込んで、格好良いことをやろうとしてるのはすごい。
RYUHEI:僕はサンフランシスコにあるUBIQUITYっていうレーベル。あとはロンドンのChazumanとかも。なんかその、レコード屋の進化系として見習うべき点は多々ありますよね。自分も将来的には古いものを自分の手で再発したり、今の新しい人のリリースもしたり、そういうことをやっていけたらなと思っています。もちろん、中古をベースに置いた上での話ですけどね。
— 少し前の話になりますが、CISCOが無くなった時には日本でも大きな話題を呼びましたよね。最近だとイギリスのHMVが倒産してしまったりだとか、今、どんどんと“音楽を売る場所”が淘汰されていっている現状があります。レコード屋の経営者として、今後レコード屋が残っていくために考えている施策みたいなものが何かあれば教えてください。
RYUHEI:うちは中古屋なので、店にある商品は、ほぼ100%仕入れのレコードなんですよね。だから良いものを、良いコンディションで仕入れて、適正価格で売れば、論理的にはずっと続けていけるはずなんですが、レコードもモノなので限られた資源な訳じゃないですか。現状、仕入れはすごく厳しくなってきているし、これからも厳しくなっていくんだと思うんです。でも本当に色々なものを駆使してモノを集めて、あとはどう売るかってことを考えれば、やっていけないことはないのかなと。あとはさっき言ったように、新しいバンドの7インチをuniversoundsのレーベルから出したり、CDにしか入ってない曲をアナログで出したり、再発をしたりってことですよね。音楽の可能性がある限り、その幅をどんどん広げてやっていくことが、長く続けていく道なのかなと思っています。
Masaya:要はスケール感の問題ですよね。まずは身の丈にあった規模感で大きくしていかないと。バブル経済の崩壊と全く同じで、レコードにもバブルだった時代があり、それで錯覚してしまった部分は少なからずあるんじゃないですかね。幸いなことに僕が始めた時には、それがバブルだと既に感じられるタイミングだったし、あれが長く続かないことは分かっていたから、こういう状況になることもある程度は予測が出来た。逆に言えば、universoundsのようにスケール感を大事にして、しっかりと身の丈に合った形でビジネスをすれば続けていくことは難しくないし、続けていかないと意味が無いですからね。
RYUHEI:本当にその通りだね。
Masaya:当時はみんなが「稼ぎ時! 稼げるじゃん! レコードってこんなに儲かっちゃうんだ!」って勘違いをしていた時代で。だから、そう考えるとdiskunionなんかは本当にすごいですよね。あのスケール感で、あの規模で、あれが身の丈として成立しているのは驚くべきことですよ。
RYUHEI:そうそう。今の時代で考えると、売り上げが悪い所はどんどん閉めていくっていうのがセオリーなんですけど、「閉めてもまた別のところに開ける」ってスタンスは素晴らしいですよ。僕が個人的に一番足を運ぶのもdiskunionですね、やっぱり。大人のワンダーランド(笑)。
Masaya:財布に1,800円しかなくても十分楽しめますからね。中古屋さんの方が奥が深いし、勉強しなきゃいけないことも多いけど、ビジネス的な観点から見たら絶対中古屋の方が理に敵ってますよ。新譜を海外から入れて、それを店で売ったって本当にボランティア活動みたいなもので、だからこそ僕らも自分たちで作品を作って、それをプレスして売るっていうことをやらざるを得ない。まぁ、僕らはやりたくてやってるけど、経営って意味で見ればそれが無ければ成立しないのも事実です。最近思ってるのは「レコード屋である以上、レコードを買ってもらう必要がある」ってことで、その為にはレコードプレーヤーを持ってる人を増やす必要がどうしてもあるんですよね。音楽好きな人って今でも一杯いると思うんですよ。デジタルしか知らないけど、常にサイトをチェックしていて、俺たちよりも、ものすごい量のデジタルの新譜をチェックしている若い子たちは必ずいる。そういうデジタル世代のミュージックラバーたちに、選択肢としてアナログもプラスアルファしてもらうって活動をしなければいけないなとは思っていて、そうなると今のターンテーブルを2台揃えてミキサーを買わないとスタートを切れないっていうのは、やっぱりハードルが高すぎますよね。
RYUHEI:たしかにそうですね。
Masaya:昔だとColumbiaのポータブルプレイヤーだとか、ああいうもので気軽に聴けたけれど、今「レコードのためにあれを買ってください」って提案をしてもなかなか難しいじゃないですか。やっぱりデジタルがメインで、「iPhoneにも刺さりますよ、USBも刺せますよ。全部聴けて、液晶で編集も出来ますよ、あっ、そういえばレコードも聴けますよ」みたいな。そういうハードウェアが絶対に必要だなと思っていて、実際に今そういうものを作る方向に…
RYUHEI:作ってください、Masayaくん!
一同笑
Masaya:で、まぁそういうものの開発にすごく興味を持っている訳です。それがいくらかは分からないけど、「これだったらレコード買っても良いかな」ってそう思えるハードが1つでも出ればがらっと状況は変わると思うんですよね。SONYのウォークマンが出て、みんながカセットテープをダビングして聴いたような、ああいうことでも無いと今の状況をひっくり返すのは不可能だと思うから。俺より先に誰かが作っちゃうかもしれないですけどね(笑)。