昨年10月にサード・アルバム『DIRT』をリリースしたKOHHが、その作品世界をさらに再構築。9曲の新曲とMURASAKI BEATZによる過去曲のリミックス7曲からなる新作『DIRT II』をリリースした。
トラップビート上で、生と死の際を行き来し、絶叫するようになった彼の世界観は、相変わらずのスピードで進化。ロックからの影響を公言し、アートへの歩み寄りをつまびらかにするようになった、ここ最近の動きが"Die Young"や"Business and Art"といったセンセーショナルな楽曲に結実。ベックが新曲"WOW"でトラップをポップフィールドに引き寄せた2016年、逆にトラップのフィールドから積極的にはみ出し、新たな展開を迎えているKOHHに話を訊いた。
Photo:Shin Hamada、Interview&Text:Yu Onoda、Edit:Keita Miki
「どうして、この曲はこうなっているのか」ってことは聞かれたくないっすね(笑)。
— 今回の新作アルバム『DIRT II』は、金と女とパーティについて歌っていた初期から生と死について肉薄するようになったKOHHくんが”Business and Art”という曲で、金よりもアートだと歌うようになったという意味で、大きな心境の変化があるように思うんですけど、ご自身はどう思われますか?
KOHH:人間は矛盾しているのが当たり前だと思うんです。だから、お金のことを歌っている曲もあるし、アートについて歌っている曲もある。心境の変化か……どうなんだろうな。俺にも分からないですね。ただ、今回のアルバムに入ってる曲を作っている時、そう思っていたのは確かだし、そういう気分だったんだと思います。
— じゃあ、KOHHくんが言うアートって、どういうものなんでしょう。
KOHH:アートが何なのか? それは人生って何なの?っていうのと同じようなことなんじゃないですか。考えること自体、馬鹿馬鹿しいことですね。だから、分からないです。ただ、色んな種類のアートがあると思うんですけど、お金を稼ぐことがアートだと思ってやっている人がいたら、それもお金稼ぎっていうアートだと思うし、どんなものであっても、「それ、アートだね」って言ったら、アートになってしまう。だから、アートって、都合がいい言葉だなって思います。
— 日常において、KOHHくんは、例えば、どんな瞬間にアートを感じます?
KOHH:俺の曲を聴いて、誰かが何かを感じたとしたら、それが作り手の意図と違ったとしても、その人が感じた何かは、それはそれで正しいんですよね。それに対して、作り手側が「作ったものにはこういう意味があって、こういうことなんだよ」って説明するのは芸術的じゃないし、そういう意味ではインタビューも芸術的ではないなって思いますね。
— 感覚的に作ったものを言葉で説明するのは無粋な行為でもありますからね。
KOHH:だから、どんな時にアートを感じるかは説明出来ないし、言えるのは、説明的な行為にはアートを感じないということだけ。「どうして、この曲はこうなっているのか」ってことは聞かれたくないっすね(笑)。
— アートという意味では、ミュージックビデオも一つのアートだと思いますし、KOHHくんは『CONCERT & GALLERY』と題した昨年末のLIQUIDROOMでのワンマンライヴはギャラリースペースを設けたり、今回のアルバムでは、鈴木親さんの写真をもとに様々なアーティストが作ったポスターをプロモーションに用いています。音楽とヴィジュアルアートの繋がりについてはどう思われますか?
KOHH:音楽は耳で、ミュージックビデオは目と耳でその世界観に入るもの。それから今回のポスターは宣伝(笑)。色んなアーティストに手伝ってもらった宣伝だし、去年のLIQUIDROOMの展示はただのギャラリーですね。そこには全く意味はなく、ただ、俺が描いている絵をただ公開しただけであって、それを観た人にとってはそれが全てかもしれないですけど、俺にとっては描いたものの一部を出しただけ。それは曲にしても、同じことが言えるんですよ。
— 絵は昔から描いているんですか?
KOHH:落書きみたいなことは昔からやっていましたね。ただ、ちゃんとキャンパスを使って描くようになったのは、去年くらいからですね。そのきっかけは美術館に行ったこと。そこで観たものがどうこうっていうことじゃなく、美術館に行ったら、「どうせやるんなら、ちゃんとやろう」と思ったんですよね。絵が描きたくなったら描くし、歌いたくなったら歌う。自分にとっては、どちらも遊びっていう意味では同じです。
— やりたいことをやるだけって歌ってますもんね。
KOHH:そう、ただ、それだけです。1曲に何日もかけたりすることはないし、歌詞も書いたり、書かずにそのまま録ったり、深く考えたりすることもないし、どうせまた新しい曲を作るんだから、その曲がどうなろうが、矛盾していようが関係ないっていう。
— そして、今回の作品は、”Die Young”のヘヴィーでメタリックなロックマナーを織り込んだトラックと歪んだ声の叫びが衝撃的ですが、この曲を作った経緯を教えてください。
KOHH:そういう曲を作りたくなったのは、俺がロックを聴くようになったからということですね。”Die Young”はTeddyLoidくんが作ってくれたんですけど、以前、俺がフィーチャーされた彼の曲”Break’em All”もそんな感じの曲で、その時に一緒に作ってもらったトラックなんですよ。
— 去年辺りから、KOHHくんはインタビューでTHE BLUE HEARTSの話をするようになりましたし、リリックでもカート・コバーンをはじめとするロック・レジェンドの名前が出てくるようになりましたけど、それ以前はロックを聴いたことがなかった?
KOHH:そう、全く聴いたことがなかったんです。でも、周りにロックを聴いている人やロックTシャツを着てる人がいて、「どんなバンドなんだろう?」って調べたりしながら、ちゃんと聴くようになって。ロックにはそれぞれ、その人らしい良さがあるんだなって思ったし、そのなかでも死んだ人たち、カート・コバーンとかシド・ヴィシャス、ジミヘンとか、そういう人たちを知って、そこにある良さに気づくようになったんです。
— その良さっていうのは、作者の人間性だったり、彼らが曲に込めたソウルだったり?
KOHH:そう。あと、聴いたことがない音の使い方とか歌い方、「なんだ、これ!」って思う瞬間がいっぱいあって、ヒップホップしか聴いてことなかった俺にとっては衝撃的で、俺もやってみようって思ったんですよ。
— それが”Die Young”のロックなトラックだったり、歌い方もラップのアプローチというより、体から絞り出すようなロックのシャウトに近いものになったと。先日、出演したBOILER ROOMでマリリン・マンソンのTシャツを来たKOHHくんのライヴもモッシュみたいなリアクションを引き出してましたもんね。
KOHH:そういう感じでしたね。あれは確かにすごかった。勝手にそうなっちゃったんですけど、ライヴにもロックの影響があるのかもしれませんね。
— ヒップホップであり、アートやロックを打ち出したアーティストというと、『Yeezus』のカニエ・ウェストが上げられると思いますが、KOHHくんにとって、カニエ・ウェストはどんなアーティストです?
KOHH:カニエ・ウェストだなって思います(笑)。それ以下でもそれ以上でもなく、カニエはカニエであり、俺は俺っていう。そして、今回のアルバムも沢山作ってる曲から似たような世界観の曲をまとめたら、こういうものになったというだけで、全く違うタイプの曲もいっぱいあるし、アルバムの曲が自分の今一番新しい気分ということでもないんです。みんなが知っているのは、世に出た作品だけなんでしょうけど、自分にとってはいっぱいある曲の一部でしかないので。他に可愛い曲やふざけた曲も沢山あるし、それはどこかのタイミングで聴けるか聴けないかって感じです。
【KOHH『DIRT II』】
発売中
3枚組(CD2枚組+DVD)初回限定盤:3,100円 + 税
CD2枚組のみ 通常盤:2,700円 + 税
■Track List
DISC-1
01. Die Young
02. I Don’t Get It (feat. J $tash, Loota, Dutch Montana)
03. Business and Art
04. 暗い夜 (feat. Tommy Lee Sparta)
05. Born to Die
06. Needy Hoe (feat. Dutch Montana, Loota)
07. Hate Me
DISC-2
01. Dirt Boys II
02. Living Legend II
03. Mind Trippin’ II
04. V12 Ⅱ
05. Tattoo入れたい II
06. ビッチのカバンは重い II
07. Hiroi Sekai II
DISC-3(DVD)
1. Die Young(Music Video)
2. Business and Art(Music Video)
3. Dirt Boys II(Music Video)
4. Dirt Tour at F.A.D. Yokohama(Live)
5. Dirt Tour in Jammin’ Nagoya(Live)
6. Behind the Scene in Jamaica
【KOHH “DIRT II” Concert】
開催日時:2016年7月9日(土) 17:00開場/18:00開演
開催場所:原宿 ASTRO HALL
料金:3,000円(当日券のみ・オールスタンディング・ドリンク代別)
■出演
KOHH
Loota、Dutch Montana、J $tash
■お問い合わせ先
CITTA’WORKS
TEL:044-276-8841(平日AM11:00~PM19:00)