豆とバナナとVince Staples

by Keita Miki

12月初旬、HIP HOP DNAが主催するライブイベント『HIP HOP DNA:THE LIVE』の第3弾が開催された。若者がより参加しやすいようにと、16時スタート(しかも無料!)で行われた今回のイベントでパフォーマンスしたのは、『FUJI ROCK FESTIVAL ’19』でも完璧なステージを披露してくれたVince Staples(ヴィンス・ステイプルズ)。
Thug lifeの代名詞的な街、ロサンゼルスのコンプトンに産まれながら、ストレートエッジなライフスタイルを貫いている人気若手アーティストの再訪ということで、彼の人となりを紐解くべくインタビュー。ただしMasteredは、深刻すぎる話題や音楽性については「音楽専門メディアさんに任せよう」と完璧に他力本願。くだらなすぎて他のメディアが聞かなかったであろう質問ばかりではあるが、とてもポジティブなメッセージを残してくれたVince Staples。限りなくレイドバックなインタビューから、彼の人間性を垣間見てもらえたら幸いです。

Photo:Akiharu Ichikawa(Portrait)、Toshio Ohno(Live) | Interview&Text:Saori Ohara | Edit:Keita Miki

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いいかい? アーモンドはナッツで、カシューもナッツ。ナッツは基本的に豆果の類なの。豆みたいなもんだ。でもさ、豆って、野菜じゃないんだぜ!?(Vince Staples)

— Masteredはファッションのメディアなので、まずは単純に服の質問から。好きなアパレルブランドは何かありますか?

Vince:なんでも着るよ。普通の白いTシャツが好き。UNIQLO(ユニクロ)のUTとか。サイズはその時のパンツによるけど、SかMかな。あとは、STONE ISLAND(ストーンアイランド)のパンツをいっぱい持ってる。なんでか分からないけど、小さい頃にアクションムービーをすげー見てたから、「アーミー野郎になって世界を救おうじゃん」っていう気持ちがあるのかな、うん。だから、STONE ISLANDは好きだよ。あとUNDERCOVER(アンダーカバー)も、MARTIN ROSE(マーティンローズ)も、KAPITAL(キャピタル)も好きだよ。

— なるほど(笑)。ちゃんとトレンドも抑えてるんですね。自分の服のスタイルを説明するとしたら? ファッションの参考にしている人とかって誰かいますか?

Vince:年寄り。

— 年寄り(笑)? でも確かに、スタイルがあるお年寄りっていますね。

Vince:そう。年寄りってもうネクストレベルでさ。年寄りが”年寄りスタイル”で歩いてるのを見るとさ、「ずーっと何年もその格好をしてるんだろうな」ってわかるだろ? それがその人らしい独自のスタイルなんだってすぐに分かる。変なハットを被ってるじいさんもいれば、クレイジーな柄のパンツを履いてるじいさんもいる。そういうじいさんたちのスタイルが好きなんだ。俺は年寄りが誰よりもオシャレだと思うね。しかも金がかかってないんだぜ? 同じ服をずっと着てるから。最高だよ。

— 自分もいつかそうなりたい?

Vince:なりたい。服のサイズが変わらないことを願うよ。今持ってる服が20年後にはヴィンテージになってるイメージ。

— 音楽を仕事にしてライフスタイルに何か変化はありましたか?

Vince:音楽はイージーさ。俺は、音楽は単純に人が生み出すものの1つだと思ってるんだ。最近はそれを堅苦しく捉えすぎてる人もいるけど。大事なのは、たくさんの人が自分自身をクリエイティブだと感じられることだし、俺は、キッズたちにクリエイティブになってほしいんだ。将来そいつらがどんなことをしているかは関係なく、クリエイティブでいてほしいし、それを楽しんでほしい。だって、どんなにスゲーことをしてる人たちのドキュメンタリーを見ても、彼らが絶対言うのは、それを始めたきっかけは「楽しいことや新しいことがしたかったから」なんだ。そこに情熱があったからだろ。俺たちはそっちに意識を向けるべきなんだ。俺の成功とか、音楽をやっていることで物理的に何が得られたかを気にするよりね。もちろん経済的に余裕はできたよ。あとは、昼の1時に1人でフラッと映画を観に行ったりもできる。そんなもんかな。俺の生活はシンプルなんだ。

— なるほど。自分のモチベーションになっていることは何かある?

Vince:生きることだよ。みんなモチベーションを大げさに言いがちなんだ。「すごく腹立つことがあるんだ」とか、「最高の作品を作らなきゃいけないんだ」とか、やたらアグレッシブな感じがするけど、”Fuck that.”。ハッピーでいようぜ。いい1日を過ごせればそれでいい。俺はただ明日が楽しみで、新しいことを試したいだけなんだ。失敗だって嫌いじゃない。ひでぇ曲を作ったり、ビデオが全然うまくいかない日もあるけど、そこには必ず学びがある。昨日の自分から何かを学んで今日を過ごしたいだけなんだ。わかるだろ?

— ポジティブに生きるってこと?

Vince:そう。長い間ネガティブだったから。

— そうなの?

Vince:うん、小学4年生から21歳くらいまではね。いろいろ危ないこともしてきたし、打ちのめされるような経験もあったわけ。でもある日「こんなのくだらねぇ」って思ったんだ。そう思えたのは音楽のおかげでもあった。音楽が、俺に世の中の見方を教えてくれたんだ。そうやって世界が見えるようになると、自分の中に少し余裕が持てるようになる。

— そう思えるのはすごく素敵ですね。じゃあ今の自分は、楽しみながら音楽を作って、シンプルでポジティブに生きてるって感じ?

Vince:そうだね。俺はそこまで有名じゃないし。

— 結構有名人だと思いますけど(笑)。

Vince:でも、スーパースターみたいな知名度じゃないからさ。Targetにも、WALMARTにも、STARBUCKS COFFEEにも1人で行く。ボディガードも要らないし、郊外のデカい家に住んでもいない。そんな生活したいとは思わないよ。

— 豪邸は要らない?

Vince:嫌だよ。自分の家で迷子になるなんて御免だね。蜘蛛とか出そうだし。俺、蜘蛛が怖いんだ。

— (笑)。ベッドで口を開けて寝てたら蜘蛛が入ってきて、そのまま食べちゃった人がいるって聞いたことがありますよ。

Vince:マジかよ。でもちゃんと調理してある蜘蛛なら食べてもいいかも。タランチュラみたいなやつ。BURGER KINGのフライドチキンみたいに揚げてくれたら食べてみたいね。

— (笑)。じゃあ、これまでに食べた1番クレイジーな食べ物は?

Vince:日本でウニを食べたよ。殻に入ってて、シェフがひっくり返したら何かまだ動いてた。でも「今食べて!」って言われたから食べたんだ。

— 活造り! 美味しかったですか?

Vince:気持ち悪かった!

— ははははは。

Vince:生きてるのを食べたから気持ち悪かったんじゃなくて、ウニの味がダメだった。俺はなんていうか、もっと刺身ってタイプのギャルなの。わかる?

— (笑)。日本はいろんな活造りがありますからね。

Vince:変に聞こえるかもしれないけど、俺的にはさ、もしも生き物を食べるとしたら、例えば2週間も死んでるヤツを食うより、死んでからそんなに経ってないヤツを食べたいと思うんだ。わかる?

— そうですね。

Vince:気持ち悪い言い方だけど、動物を食べるってそういうことだろ? 俺たちは死骸を食べてるんだ。まぁ、俺が好きなのは野菜だけどね。

— そんなこと言われたら、好きな野菜について聞かないわけには(笑)。

Vince:いいよ。でもその前に、野菜と果物の違いって知ってる? タネがあるのはみんなフルーツなんだぜ。トマトもピーマンも、あれはみんなフルーツだ。俺は野菜だとキャベツも玉ねぎも好きだし……ちなみにLegume(豆果)って分かる?

— 何ですか、それ?

Vince:あー、話しちゃう、これ!? この話はインタビューのヘッドラインでよろしく。いいかい? アーモンドはナッツで、カシューもナッツ。ナッツは基本的に豆果の類なの。豆みたいなもんだ。でもさ、豆って、野菜じゃないんだぜ!? なのに、スーパーの野菜売り場に行くと……そこにあるのは……? Legumes!

— はいはいはい(笑)。

Vince:ちなみに、バナナにもタネがあるんだけど、世の中に出回ってるのは偽物の”嘘バナナ”なんだ。だから俺はバナナは嫌い。バナナ味って言われてもそんな味はしないだろ? 俺はホウレン草が好きだな。だからさっきの質問の答えはホウレン草だ。

— 先生、どうもありがとうございます。

Vince:いいってことよ。でもバナナはなぁ~。あれは本物じゃない。

— 先生は、本物のバナナを食べたことがあるのでしょうか?

Vince:ないよ。でも、本物なら食べてみたい。キャンディとかに使われているバナナ味の香料って、バナナっぽくないだろ? それは、香料が再現してる風味が、俺たちが普段食べられない本物のバナナだからなんだ。その辺のバナナはみんなフェイクさ。わかる? 気をつけろよ。

— (笑)。そうします。このまま雑談的な質問を続けるけど、最近何か腹立たしいことはあった?

Vince:うーん。家の近くに生息してるコヨーテが、野ウサギを俺の家の前で食い散らかしてること。これはかなり腹立つね。それと、最近のカリフォルニアの寒さと雨の多さにもうんざりしてる。他は何だろう……あ、サンクスギビング(感謝祭)。俺はサンクスギビングが嫌いなんだ。

— どうして?

Vince:最低のホリデーだと思うよ。その1:料理が美味くない。というか気持ち悪い(七面鳥の丸焼きとクランベリーソースなど)。その2:まだ年末前なのに、家族に会わなきゃいけない感じがすげー嫌。その3:木曜日だから。木曜日って全然クールじゃない。その4:どこの店も閉まっちゃうから。七面鳥食べたくなかったらどうすりゃいいんだよ? だろ?

— なるほど(笑)。じゃあ、日本の印象について教えてもらえますか。日本の若者って、カリフォルニアのキッズと比べてどう?

Vince:日本の方が全然クールだよ。俺たちはみんなアホみたいだし。靴下の履き方でさえも日本の方がクレイジーだ。ユニークさも、自分の好きなようにしたい、なりたいっていう姿勢も、俺は大切だと思うね。地元どころか、アメリカの若者全体が、ソーシャルメディアに振り回されてる。自分自身を知ることより、何かに長けていなきゃいけないとか、あるシーンに精通していなきゃいけないっていうプレッシャーを感じてるやつらばっかりだよ。もちろん、俺は日本の事情を良く知ってるわけじゃないけど、日本の友達を通して感じるのは、みんな自分の道を見つけたり、どうなりたいかを模索すること自体を受け入れてることかな。俺はそれが本来の若者の在り方だと思う。時間をかけて模索できることと、楽しむこと。

— そんなメッセージが聞けて嬉しいです。では最後に、来年の抱負は? もう12月だからね。

Vince:Shit.

— 来年は27歳?

Vince:うん、俺も年取ったな。だって自分が13歳の頃とか思い出してみてよ。夜中の2時でもバッキバキに起きてたのに、今は疲れる。眠くなるし。だからそうだな、新年の抱負は、「もっと昼寝をする」にしよう。