『生活がベースの「機能美」』岡部文彦(スタイリスト)

by Mastered編集部

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アウトドアへの傾倒は趣味の域を越え、その感覚を織り交ぜたスタイリングで唯一無二の存在感を示す岡部氏。
題材についていろいろ悩んでくれたようですが、結局こちらが期待していた通りのモノを用意してくれました。
しかし、さすが「自然児」を自認する彼だけあって、ごく自然に舵取りされたインタビューは我々の期待をはるかに上回る内容に。
今回選んでくれた「モノ」のひとつである彼の自宅を舞台に繰り広げられた、熱い思いがこめられたトーク。
ぜひご一読ください。

岡部さんが紹介してくれたモノ一覧を先に見る >>

写真:浅田 直也

プラスアルファ的なのが付いてるモノじゃないとグッとこない

— では早速ですが、気になってるモノについてお伺いできますでしょうか。

岡部氏(以下敬称略):今日来てもらったこのオレん家も含めた上で… 最近さ、より一層「機能的」っていうのがいかに素晴らしいか、っていうことを感じてて。まぁ昔から嫌いではなかったんだけど、キャンプとか山登りとか自然遊びをするようになってから、より一層思うようになっちゃって…。そういうモノって、作り手が「より便利に」って考えたり、実験をしたりした上の結果だから、どんどんアップデイトされてくわけで。そういうのを見つけて行く作業が、今自分がハマっていることでさぁ。というか、これからの自分のテーマ?

— 「機能性の素晴らしさ」がテーマになってきているということですね。

岡部:そう。それは洋服だけじゃなくて、生活においても同じで。「使いやすい」とか「コンパクトになる」とか「気持ちがいい」とかとか!「実はこういう使い方も出来る」とかその他諸々、モノっていうのは何か機能的に意味がないといけないんじゃないか、っていう気持ちになってきてて…。でもこれはマズい方向ではあるんだけどね、スタイリスト的には…、ハハハ(笑)

岡部氏の自宅にてインタビュー。<br>終始リラックスした雰囲気でした。

岡部氏の自宅にてインタビュー。
終始リラックスした雰囲気でした。

— まぁ、そうですよね(笑)

岡部:やっぱり「オシャレでかわいい」とか、それだけでOKだったりすることもあるし。「これ着にくいけど、カッコいいからガマンして着る」みたいなのもやっぱり重要で、それはもちろん分かってるんだけどね。でもそういうのは他のスタイリストさんがいっぱいやってるわけじゃない? まぁ、だからっていうワケでもないんだけど、オレは『機能的』っていう言葉に『美』をくっつけた、『機能美』っていうものをテーマにした仕事がしたいなあと思ってきててさ。「見た目もイイけど、使い勝手もイイ」っていうものを紹介していきたいなと。服だけじゃなく、生活すべてにおいてさ。

— 『機能的』と『美』、どちらの優先順位が上ですか?

岡部:やっぱりまずは「見た目がイイ」っていうところだろうね、結局は。だけど、そこに使い勝手がついてないと、グッとこなくなってきてて。ファッション的にも、自分が着る洋服に関しては「使い勝手の良さ」っていう部分の占める割合が大きくなってる。
そういえば、世間ではいつのまにか「アウトドア・スタイリスト」なんて言われてるのに、この間行った朝霧(編集部注:アウトドア志向の強い人気野外フェス「朝霧JAM」)、じつはお初でさ(笑)。その準備のときにさ、「雨のこと考えるとなぁ〜」とか機能のことしか考えてなくって。でもいざ行ってみたら、他のみんなはファッションから何から楽しそうにしてるわけですよ、なんかオレだけ登山家みたいな感じなわけ。それで「オレの格好…、こりゃ無いよなぁ…」ってへこんじゃってさぁ〜。

— 使い勝手ばっかりを考え過ぎて、大切な部分が抜け落ちた、と(笑)

岡部:ド素人にも程があるな…と。まぁ、フェスに関しては実際ド素人なんだけどね! でも機能的になり過ぎると、ほんと「真面目なオッサン」というか、ダサくって。自分も楽しくないわけですヨ、全然。やっぱり、その辺で目覚めたのかな。
オレ、食わず嫌いしがちなところがあるから今までフェスにも行かなかったっていうのがあるんだけど、自分らしく表現してる人って、やっぱ、いろいろ経験して吸収した上で、うまく自分なりに落とし込んで楽しんでると思うから、やっぱり「美学」は必要なんだなって教わった感じ。

— なるほど。そんなことを考えていたとは少し意外でした。

岡部:楽しむ部分は絶対必要! 「機能」の部分に行き過ぎてもダメだし、その中間をビジュアルで見せられるようになりたいとは思ってるんだけど…。
まぁ、今はいかんせん理想的な媒体が少ないですからね…。あっ、Clusterがあったか?(笑)

元はキッチンにあったというテーブル。<br>リラックススペース模索中。

元はキッチンにあったというテーブル。
リラックススペース模索中。

— 僕らも理想的な媒体を目指しますが、今は理想的な媒体少ないですよね。

岡部:そういうことを表現できる場が少ないよねぇ。「じゃあ、自分で見つけろよ!」って話なんだけどさ。そういうところに可能性があるのは分かってるんだけど、今はまだ勉強中ってことで。早くどんどんやっていった方がいいと思うんだけどね。
で、話は戻るんだけど(今回の取材にあたって)自分がセレクトしたアイテムとか、この我が家とかっていうのも「こうした使い方もありだよね?」とか、「この方がリラックスできて気持ちがイイ」とか、自分のオリジナルなモノの使い方とか、気持ち良く過ごせる空間作りってのがとても楽しくって。この部屋もさ、徐々に徐々に、棚つけてみたりさ。このテーブルも元々はキッチンに置いてたんだけど、こっちに持ってきた方が調子良かったんだよね。テレビ観るにもちょうどイイし。ウチ、眺めがイイから窓際にこういうスペースがあった方が、外眺めながら飯とか食えてお洒落カフェっぽいなとか(笑)

なんかね、「モノをより活用するには(どうすればいいか)」っていうのをキャンプとか外遊びをして学べたんだよね、意外と。結局キャンプとかってさ、みんなで自然の中でリラックスしたりとかするために行くわけじゃない? だから、そんな中でより快適に過ごせるようなシチュエーション作りっていうのが大切なわけですよ。そういうことが分かってから、いろいろ考えるようにもなって。
インテリアっていうのに今まで全然興味がなかったから家具とかも詳しくないけどさ、部屋もキャンプとかと同じで居心地を良くしないと楽しくねぇな、って今さら気づいて(笑)気がついたら部屋がジャングル調になっちゃった(笑) 部屋の中でキャンプかよ?!って。

— そうですね。まるで森の中にいるようです(笑)

岡部:ウチの奥さんは呆れてるけどね! 部屋の趣味は合わないみたい…、仕方なくオレに合わせてるっていう。

マックパックの「ポッサム」。<br>キャンプ場でも、デパートでも<br>ベビーカーよりもこのキャリアが使えます。<br>(岡部氏私物)

マックパックの「ポッサム」。
キャンプ場でも、デパートでも
ベビーカーよりもこのキャリアが
使えます。
(岡部氏私物)

— その楽しさは共有出来てるんですか?

岡部:出来るようになった! ぶっちゃけ子供がいるからっていうのが大きいよね。はじめの頃は「子供のためにも」って思ってチョロチョロ来てくれてたんだろうけど、それがだんだん楽しくなってきたみたいで。子供が喜んでるのを見られるっていうのは大きいよね。ウチのガキもまだ2歳なのに「キャンプ〜、キャンプ〜」って言ってくれるから、こっちも「しめしめ…」なんて思っててさ!(笑)

— 理想的ですね。

岡部:うちの子が4ヶ月のころから連れて行ってて(笑)さすがに寝てるだけだったんだけど。そのとき相澤(編集部注:ホワイトマウンテニリアリング デザイナーの相澤陽介氏とかも一緒だったんだけどさ。相澤んとこも子供が出来たからいつか一緒に行きたいよなって思ったりして…。やはり家族が出来るとセカンドステップの楽しみ方になってくるよな。

— それでだんだん「キャンプ=楽しいこと」っていう認識に、家族全体がなってきているんですね。

岡部:なってきてるね。確実に! 毎年「クリスマスキャンプ」っていうのをやっててさ。キャンプって言ってもコテージとかを借りる感じなんだけど。そこに友達3家族とかで行ったりすると、さらに子供も喜ぶしね。前に(スタイリストの)本間良二君の子供とかと行ったときの話なんだけど、そこのキャンプ場って前もってプレゼントを預けておくと、そこのスタッフがサンタの格好をして「メリークリスマス!!」とか言って、子供にプレゼントを渡してくれんのよ。良二君とこの子供はもう小学校1年生だったから「サンタなんていねぇ」って半信半疑な感じだったのに、いざ「リク君プレゼントだよぅ!」なんて名前呼ばれたら「えぇ〜っ、なんでオレの名前知ってんの!?」とかって。あきらかにただ髭くっつけた日本人な変装サンタなのに、「サンタに貰っちゃった!」って喜んでて(笑)

— 情操教育としては素晴らしいんじゃないですか。

岡部:こういうのはアリだなぁって。奥さんもそういうのを見てて、新しい喜びを知ったんじゃないかな。虫とかも本当はすげぇ嫌いなんだけど、キャンプ場に来ちゃうとあまりにハンパじゃない数の虫がいるから、もうどうでも良くなっちゃうみたい。景色の一部になっちゃってるんじゃないかな(笑)だからよく他でも「うちの奥さん虫嫌いだからキャンプは無理」とか聞くけど、是非連れてったあげたらと思ったりするけどね!

— まさに、ウチの奥さんも虫がダメなんですよ。だからなかなか踏み出せない。何かきっかけが欲しいんですけどね。

岡部:だったら長けてる人と一緒にいくのがイイよ。ウチの事務所にカメラマンの見城了ってのがいて、彼は料理がすごく上手いわけよ。だから彼と一緒に行くと、オレらは何もしなくても素晴らしい料理が出てくる(笑)でもそういう役割分担は大切でさぁ。ワンピースの麦わら海賊団みたいな仲間がいると最高だよね!
だったら僕は焚き火担当がイイなって勝手に思ってまして…。まぁみんなやりたいだろうけどね。

— あぁ、それは分かります。焚き火はイイですよね

岡部:焚き火って男のものらしいよね。昔から。遠い祖先の時から男は火が好きなんだってテレビで言ってた。そこで、これが出てくるワケですよ。マウンテンリサーチ(MOUNTAIN RESEARCH)の「焚き火ベスト」! 元ジェネラルリサーチ(GENERAL RESEARCH)の小林さん(編集部注:同ブランドデザイナーの小林節正氏)が立ち上げた、.......リサーチ(....... RESEARCH)のなかのラインなんだけど。もちろん、それまでもジェネラルの服は好きだったんだけど、そこまでグッとくる感じではなくって。でも、.......リサーチっていう、一つのカテゴリーを徹底的にリサーチして作り上げる洋服っていう、新しいスタイルのブランドを作り上げた小林さんにはとても共感してしまって。ホントにすごい機能的なんだよね、ここのアイテム達は!
このベストはオレの洋服のなかで1番高いモノだと思う(笑)オレ高い服あんま買わないから。
だけど、この「焚き火ベスト」はグッと来ちゃって、思わず購入! ちなみに、なんで「焚き火ベスト」って言われてるのかって、分かる?

— 表地がレザーで、焚き火で火の粉が飛んでも溶けない、っていうことですか?

岡部:そうそうそう。ナイロンとかだとすぐ穴が空いちゃうわけですよ。だからそれを防ぐ為にレザーにするっていう。オレ、レザーもそれまで苦手だったんだけど、30歳を越えてから着てみるとなんかこうグッとくるっていうか。「レザーの高級感っておっさんに似合うなぁ」っていうのがやっと分かったのが嬉しくってさぁ。

(一同笑)

岡部:でも、これが全部レザーだったらグッとこないわけですよ。このナイロンにレザーを合わせる感覚っていうのが新しいと思うし。ナイロンもリップストップになってるし、このコンチョもカッコいい。さらにマジックテープだったり、焚き火用っていう機能性も好きだし。あとコレ、次のシーズンに買い足した「袖」のパーツとかも付けられるようになってるんだよね。ダウンの袖とか、ニットの袖とか。

— 一粒で何度もおいしい感じですね。

岡部:そういうところも大好きで、とにかくお気に入り。
キャンプ行くときは必ず着ていく。こういうモノにならば、お金を懸けてもいいんじゃないかな? やっぱりこういうギミックっていうか、プラスアルファ的なのが付いてるモノじゃないと、今はグッとこなくなってて。

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