『生活がベースの「機能美」』岡部文彦(スタイリスト)

by Mastered編集部

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核たるモノがあって欲しい

— あの壁にかかっている洋服は?

岡部:あれはササフラス(SASSAFRAS)っていうブランドのなんだけど、最近ほとんどそれしか着てない…。これなんて、シャツなのにポケットがいっぱいあるわけですよ。他にもペインターパンツのギミックがくっついてるシャツがあったりとか。これ、ガーデニングウェアブランドなんだけど、ウチのタンスの引き出し二つ分くらいは、このブランドしか入ってない。
マウンテンリサーチも同じなんだけど、とにかく同じアイテムを作り続ける。一回作って、もう一回アップデイトして、さらにもう一回作ってみたいな作業をしているわけですよ。なんかそういうのが好きで。ここのブランドも、ほぼシャツとデニムパンツくらいしか作ってなくって。

— おもしろいですね。東京だとどこで展開しているんですか?

岡部:小林さんのジェネラルストアでしかやってないんじゃないかなぁ? 京都のブランドで、あっちではロフトマンとかでも展開してて結構みんな着てるみたいだけど、こっちではそこまで見かけない。あと近郊だと柏のお店(編集部注:「FOLK」)ぐらいかな。ジェネラルストアも、僕が穿き続けてたら小林さんが気になってくれたみたいで、置くようになってて…。それ聞いた時はめちゃくちゃ嬉しかった!

— なるほど。このパンツも気になりますね。

岡部:これはフォールリーフパンツって言って、普通の5ポケットパンツの上からさらにでかいポケットを付けて、ここにガーデニングギアを入れるわけですよ。この機能性の高さと作りの良さがオレは好きで。
なんかやっぱりこう、今って洋服がいっぱい出まわり過ぎてるじゃない? オレらが若い頃よりものすごくたくさん似たようなのがあるでしょ? で、オレらが当時頑張って探してたようなモノっていうのは、もう埋もれちゃっててよくわからなくなっていて。そんな中で、オレらが若き頃に憧れて欲しかったバーブァー(Barbour)だったりラベンハム(Lavenham)だったりフィルソン(FILSON)だったりその他諸々、ずっと作り続けてこられたモノって有名なアイテムとして残ってるワケじゃないすか。

— いわゆる「定番」と呼ばれているモノですよね。

岡部:でも今は、いろんなブランドが大量にあって。ちょっと売れたところがあると、またいろいろ似たようなのとかも出てきて。それで結局流行が終わると無くなっちゃったりとかするでしょ。あとちょっとずれるけど、ひとつのブランドなのに「今回のテーマは、これこれ」とかって、ハイファッションブランドみたいになってきてるとこも多くて。「そこのベースコンセプトって何なのよ?」っていうさ。その辺がオレ、正直分からなくなってきちゃってて。やっぱ作り手がどういうものが好きかが明確に分かる方が嬉しいなって思うし。

— 単純に飽きやすいと思うんですよ、日本人って。だから作り手も変わっていかなきゃいけないという恐怖感に追われてるのは感じますけどね。
同じ物をもう一回やったら、もう「ナシ」として扱われるような傾向もありますし。

岡部:確かにね。でもだからこそ、核たるモノがあって欲しいんだよね。
ササフラスも普通にワークウェアブランドって言って、同じようなのをチョコチョコ作ってたらそれなりに売れるかもしれない。でもここの面白さって、ワークウェアからさらに狭いガーデニングウェアっていう新しいジャンルに落とし込んでるところだと思うんだよね。ワークのディテールを取り入れつつ、ハンティングとかの要素も入ってたりするのがすごく日本っぽいなって。
マウンテンリサーチとかも、そういう日本的ミックス感覚っていうのが取り入れられてると思うのね。やっぱりそこに新しさを感じるし。
ただのワークウェアとかよりも、なんか自分はそういう感じで。正直スタイリストとしてはナシだと思うんだけど(笑)いつも着てるブランドが、3〜4つしかなくなってるっていうのはナシでしょ!

(一同笑)

— まぁ、スタイリスト本人の格好はそれでも良いと思いますよ。

岡部:だけどやっぱり雑誌媒体に出るんだったら、本当はいろんな格好して出た方がイイと思うしさ。でも、ぶっちゃけ今はこういうおんなじ格好しかしてない感じ。

リラックス感が伝わりますでしょうか?(笑)

リラックス感が伝わりますでしょうか?(笑)

— なるほど。でも展示会やお店に行って「自分では買わないけど、これは面白いな」っていう感覚があれば良いと思うんですけどね。

岡部:うん、確かに。僕らの職業のおいしいところは、いっぱい色んなところから自分が好きな洋服を借りてきて、好きなコーディネイトをして、それでもう自分が着た気でいれることっていうか。それが出来るようになってから、あんまり服買わなくなった(笑)

— 満足しちゃってるんですね(笑)

岡部:あとちょっと話戻るんだけど、いわゆるアラサーっていう世代が作ってる洋服には信頼があって。前もちょっと話したけど。なんでかって言うと、昔のまだ服が少ないときに…って言っても、大先輩たちの頃に比べればオレらのときでも十分多いんだろうけどね。でも、今より全然ブランドも情報も無いときの、でも憧れて頑張って洋服を買うっていうのを知ってる人たちだから。やっぱり生半可な洋服は作らないっていう信頼があって。
だからオレ、その世代ですげぇ良かったなぁと。まさに、このClusterもそうなんだろうけど、先輩に負けないモノを作りたいっていうパワーがある。

— その意識が潜在的にあるのは良いですよね。

岡部:で、誰かも言ってたんだけどさ、オレらよりひと回り上の先輩って、意外と楽しく親しく話せるって。やっぱりオレも最近40代の人たちと仲良くなることが多いんだよね。いわゆる干支が一緒以上の人たち。

— そこまで上なんですね。

岡部:まさに小林さんたちだったりするわけなんだけど、その人たちっていわゆる団塊の世代の「こうでなければいけない」っていう世の中の一世代下の人たちで。パンクムーブメントみたいな海外のカルチャーに影響を受けて「うわっ、おもしれぇ」ってなってった第一世代だと思うのね。その人たちのぶっ飛んだ感覚と、ひと回り経ったウチら30代前後の感覚って、意外と似てる気がする。だから物事の周期って12年ごとなのかな、って自分の中で勝手に決めつけちゃってて。

— それはなんとなく分かる気がします。

岡部:なんで仲良くなれるかって、これは勝手な推測なんだけど、彼らの直接の後輩っていうのはせいぜい30代後半ぐらいまでで、その人たちはやっぱりバリバリ敬語で話すわけじゃん。それが一段落して、さらにその下の世代は子供とまでは言わないにしても、「そこまでかしこまんなくてイイよ」っていう感覚。こっちも直接怒られてた人たちじゃないから、親しげに話しやすい。
友達が言ってたんだけど、今、彼の下に25歳のヤツがいてさぁ、そいつはウチら世代よりちょっと上の先輩ぐらいがやっぱり接しやすくって仲良くなっちゃうんだってさ。直接指導を受けた先輩は、あんましコミュニケーションが取りづらい輩になっちゃうんだな、きっと。僕ら世代までは体育会系だったからね。

— なるほど。なんだか面白いですね。

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