— 機材の進化もあり、DJになること自体のハードルは昔よりも格段に下がっているように思います。他のDJとの差別化という意味で、何か考えたり、実践していることはありますか？
Licaxxx：DJは色々な条件に左右されるもので、例えばあるお客さんが自分の知ってる曲がかかったから「めっちゃ良い！」って盛り上がっていたとしても、それは私にとってのDJの本質的な楽しさには繋がらないんですよね。自分がDJをやっていて楽しい瞬間は、全然違う曲をロングミックスで重ねたことによって、新しいグルーヴが生まれて、誰も聴いたことがない音楽なのに何故だかアガっちゃう、みたいなところに集約されていて。私はそこにDJという職業の楽しみを見出しているので、それぞれの曲のことは愛しているけれど、現場では楽曲の力だけに頼らないようにしています。
— フロアをどうするかということよりも、自分自身の中に毎回課題があると。
Licaxxx：フロアを全く見ないってことでは無く、フロアをどう盛り上げるかっていうのは時と場合によるというか、先ほど話したように様々な条件に左右されてしまうものなので。だから、それとは別に、自分の中に毎回課題があります。
— オーディエンスの盛り上がりだけを目標とするのならば、そもそも流行っている曲をかけたり、より派手なエンタメに振り切っているDJを志向するはずですからね。
Licaxxx：決してそういう音楽やDJを否定している訳では無く、単純にそれは私がやるべきことではないのかなと考えているだけですが。人前に出たくてDJをやっている訳じゃ無く、人気が欲しいからやっている訳でも無いので、一時的な盛り上がりには興味が無いんです。
— けれども、ご自身のビジュアルやハイブランドのパーティに出演しているイメージが先行してしまって、Licaxxxさんのプレイを実際に聴いたことが無い人には、そう思われることも多いのでは？
Licaxxx：今はもうそんなことは無いんですが、昔は”若手フィメールDJ”っていう文句で現場に呼ばれることも多かったですからね（笑）。まあでも、何にせよ、パーティにゲストDJとして呼んでもらえることはラッキーなことでもあったし、少し穿った見方をされても、それを払拭するくらいの技術的な上手さや説得力を身につけるべきなのは変わらないし、そういう自分がやる意味を見出すために頑張ってきました。なので、私はそういう自分のイメージを逆手に取って、メディアにも極力出るようにしています。1つ自分の信念を真ん中に据えておけば、何でも出来るじゃないですか。”宣伝隊長”くらいの気持ちでいるんです。そういう部分は、もうだいぶ昔に吹っ切っちゃってますね。1人でウダウダ言っていても、何も始まらないですから。
— やっぱり、Licaxxxさんはとってもクレバーな人ですよね。今後、何か実現したいことはありますか？
Licaxxx：今、『Tokyo Community Radio』という配信番組をやっているんですよ。海外で言うところのRinse FMとかNTSみたいな、ローカルのDJ達がたくさん出てきてオンラインでDJプレイが見れる、って内容なんですけど、それをじんわり拡大させていきたいですかね。最近、日本でもラジオが文化として戻ってきていますが、もう少し若くて無名なDJでもさらっとピックアップ出来るような”場”を発展させたいなと思っていて。あとは、例えばロンドンだとSNSで「パーティをやるよ」って告知だけして、場所は明かさず、予約のメールを入れると場所が送られてくるみたいな小さいパーティがたくさん存在しているのですが、そういうのを日本でももっと増やしたいですね。
— 自分自身というよりはシーン全体を考えた野望ですね（笑）。
Licaxxx：自分のことは二の次なんですよ（笑）。周りから見ると矛盾しているように見えるのかもしれないけれど、色々なメディアに出るのも、自分の中ではダンスミュージックをカルチャーとして根付かせる為の一環なので。すごく時間がかかる事だとは思うんですけど、将来的に何かのとっかかりになるような物事を色々な場所に置いておきたいだけなんです。
