ここ2年ぐらいの日本語ラップはすごいもん。「不謹慎だ、自主規制だ」って言われる部分をつついた曲がたくさんある。でも、ヒップホップって本来そういうものじゃん。(S-WORD)
— 結構長いこと編集者をやってるんですが、インタビュー中にたばこのサンプリングをされたのはこれが初めてです(笑)。
S-WORD:NYの話だったよね? Kid Capri。俺が最初にSOULJAHのプレイを聴いたのは、agehaにKid Capriが来た時だったんだよね………て言うか、あんまり美味しくないな、このタバコ。
一同笑
— NYにはどのくらいの期間、滞在していたんですか?
DJ SOULJAH:2012年に日本に帰って来たので、丸12年いましたね。
S-WORD:じゃあ90年代の終わりにはNYにいたんだね。その頃、俺も月1くらいで洋服の買い付けをするためにNYに行ってたんだよ。それこそ、Fat Beats Recordsにもたまに顔出したりしてた。
DJ SOULJAH:まじですか? もともと僕はFat Beatsの買い付けをやってたんですよ、手伝いで。
— 逆にそれだけ長い期間NYにいて、どうして日本に帰って来ようと思ったんですか?
DJ SOULJAH:ちょっと自分の中で一回りして、日本に向けて何かやろうと考えていたので。タイミング的なものも重なってですね。やってみたいと思っていたことを、一度日本で形にしてみたかったんです。
— 『Be My Guest』の客演には、まさしく今の日本語ラップシーンにおける”旬な面々”が名を連ねていると思うのですが、NYにいる間も日本のシーンは定期的にチェックしていたのでしょうか?
DJ SOULJAH:もちろん今はTwitterとか色々なツールがあるので、NYにいる間もどんどん情報は入って来ましたけど、アルバムの客演は実際に現場でライブを見て、本人と話した上でお願いをしました。自分はその辺の考え方が結構古くて、データだけのやり取りっていうのはなるべくしたくないんですよね。
— セールスのことだけを考えると、SOULJAHさんの人脈を生かして、もっとメジャー寄りなアルバムにすることも出来たのでは?
DJ SOULJAH:NYでやっててもメジャーって感覚は最後まで良くわからなかったですね。大衆的にやるってことが今でも良く分からないんです。
S-WORD:自分たちもそうなんだけどさ、2000年代初頭ってすごくUSを意識していた時代だと思うんだよね。厳密に言えば90年代以前もそうなんだけど。だけど、今はシーンの中でも日本語ラップだけを見てる人間が多い気がするから、NYから帰って来たSOULJAHがプロデュースした日本語ラップっていうのは逆に新しいし、旬なのかもしれない。俺も正直ビックリした部分はあるけどね。「あ、日本語ラップにフィーチャーするんだ」って。
DJ SOULJAH:海外のラッパーともやりたいとは思うんですけどね。ただ、タイミング次第かなとは思っていて。
S-WORD:普段はテクノやハウスノリのモノしか作らないプロデューサーやDJが、今は日本語ラップに目をつけたりしてるんだよね。それに加えて、SOULJAHみたいな海外の目線で、海外のスタンスを持ってる人間が「熱い」って言ってると、本当にこれから何かが来るのかなって。
SALU:現場でも本当に良く日本語ラップがかかりますもんね。それもヒップホップじゃないDJがかけるから、すごく面白いです。
S-WORD:10年前は邦楽の一部分でしか無かったんだけどさ、ヒップホップの本場であるNYにいたSOULJAHが思わず帰って来るくらいの現場が、いつの間にか日本に出来上がっていたのかもしれないね。
— アルバムに話を戻しますが、客演陣が非常に個性的なので、トラックリストを眺めた時は結構変化球っぽいアルバムなのかな、なんて想像をしていたんです。でも、実際の『Be My Guest』の内容は、良い意味でヒップホップの王道的なものに仕上がっていますよね。
S-WORD:SOULJAHのクラブプレイってさ、すごくNY的な、ヒップホップの王道をいくプレイなんだよね。同じ曲をかけてもBPMなのか、モタり具合なのか、理由は分からないんだけど、日本人っぽくない間があって。
DJ SOULJAH:そこまで深くは考えていないんですけどね(笑)。でもそう言ってもらえるのは、とても嬉しいです。
— 考えていない感じが逆に新鮮なのかもしれないですよね。3.11以降、やはり日本語ラップの内容も色々な意味で大きく変わったと思うんです。
S-WORD:時代というか、世界が変わったからね。
DJ SOULJAH:でも、日本人同士、ラッパー同士、色々なジャンルがクロスオーバーしてきていて、今ってすごく日本語ラップが面白い時期ですよね。若いラッパーもどんどん出て来ていますし。KOHH、SALU、AKLOっていう世代の更にもう一つ下の世代もいるから、そういう下からの突き上げは、自分がレベルアップする良いタイミングになるというか。今まで村の中だけで盛り上がっていたものに、もう少しお祭り感が出てきたような感じ。間口が広がった分、今までには無い広がり方を見せそうな気もするし、やるからにはその波に乗りたいなって想いが自分の中にあるんですよ。
S-WORD:誰かが求めたんだよね。「こういうの足りなくない? 今」って。ここ2年ぐらいの日本語ラップはすごいもん。「不謹慎だ、自主規制だ」って言われる部分をつついた曲がたくさんある。でも、ヒップホップって本来そういうものじゃん。