対談:S-WORD × DJ SOULJAH × SALU
~「日本語ラップ」のその先へ。~

by Mastered編集部

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実は変わらなきゃいけないのは「日本語ラップ村」なのかもしれない。だってさ、先輩たちは固いし、重いもん。そんな時代じゃ無いでしょ。(S-WORD)

— SALUさんから見るとSOULJAHさんはどんな存在ですか?

S-WORD:そもそもだけど、2人はいつ頃知り合ったの?

SALU:最初は僕がデビューする前に出させてもらったSEEDAさんのライブですかね。僕の出番の後がSOULJAHさんで。その時は、ほとんど話は出来なかったんですけど。

DJ SOULJAH:最初はSALUのことを水戸のラッパーだと思ってた(笑)。水戸のイベントに呼ばれた時に、水戸の人たちから「面白い子がいるよ」って話を聞いたから。

S-WORD:全然水戸っぽさは無いよ。水戸の人たちは言葉のフローが全然違うもん(笑)。

DJ SOULJAH:で、まぁよくよく聞いたら札幌のラッパーだってことが分かって。

S-WORD:札幌は結構おしゃれなんだよね~。女の子も大体可愛い。

SALU:垢抜けてない可愛さってことですか?

S-WORD:いや、完全に主観だけど、なんかすごい夜の匂いがする(笑)。化粧映えする女の子が多いってことかな。

DJ SOULJAH:女の子の話は置いておいて(笑)、やっぱりSALUのデビューはすごくセンセーショナルだったじゃないですか?

S-WORD:絶妙なタイミングだったよね。

SALU:でもさっきのお二人の話にも繋がりますけど、少し前の日本語ラップシーンだったら、僕は世に出てこられなかったと思うんですよね。

DJ SOULJAH:そうかな~、SALUが一番最初にその殻を破ったような気はするけどね。

S-WORD:日本語ラップ村では「無し」だったゾーンを、ここ3、4年で「あり」にしたのはたしかだと思うんだよね。その現象はSALU世代ありきでしょ。USと日本どっちつかずで、模索中の日本語ラップシーンで、実はSALUみたいなスタンスが一番日本のど真ん中に近いんじゃないかなって思うよ。2000年代にUS、USって言ってた人たちが途中で気付いたんだよね、今の日本のシーンだから「あり」になったとかじゃなくて、実は元々日本ではこっちが正しかったんじゃないかって。

DJ SOULJAH:王道感みたいなことで言えば、AKLOの方が近いんだけどね。SALUは不思議な存在。

S-WORD:ヒップホップがどうとかじゃなくてさ、SALUはSALUなんだよ。日本語ラップは長年「ヒップホップ枠」みたいな括りで見られていたと思うんだけど、SALUは既にその枠の外に出てるような気がする。日本の音楽シーン全体をテーマにすると中心に近いのはラッパーらしいラッパーじゃ無くて、SALUみたいなスタンスなんだと思うんだよね。でもさ、良いのはそれがSALUだけじゃないってこと。近くにキャラの違うAKLOもいるし、KOHHもいるし、NORIKIYOもいて、一気に盛り上がる前の匂いをすごく感じる訳よ。日本語ラップが、2000年代前半とは全く違う化け方をするんじゃないかってワクワクしてる。1人じゃ何も変わらないからさ。

EMINEMのアルバム『The Eminem Show』

EMINEMのアルバム『The Eminem Show』

DJ SOULJAH:俺がNYに行く前に1回来たじゃないですか、日本語ラップ。あの時と似たような感覚ってことなんですかね?

S-WORD:あの時はたぶん自分ら何も考えていなかったけどね(笑)。ポワッとしたまま、なんとなく来ちゃったのが1回目。俺らの世代って、やっぱりバカばっかりじゃん(笑)? まぁ、それは冗談だけど、あの時はラップとかヒップホップって存在自体が日本でまだまだ新鮮だったしね。ビギナーズラックって言うかさ、俺らがブレイクした訳じゃ無く、日本の中で「ラッパー」って存在がブレイクしたのが2000年代前半。

DJ SOULJAH:2000年代前半ってアメリカでもヒップホップが商業的に一番デカくなった時期で、日本語ラップもいつかそういう大きいシーンになるんだろうなって感じたのを良く覚えています。

S-WORD:アメリカの景気も良かったしね。あとはさ、Eminemが出て来たんだよ。それまではなんだかんだ言っても、やっぱりヒップホップって黒人のものだったんだけど、カントリーミュージックしかかからないテキサスのラジオでもEminemは「白人だから」って理由でかかる。あそこで人種の問題は大体クリアになって、ヒップホップはラップミュージックになった。そこら辺の学生もギャルも全員がEminemを知ってるみたいな。「『8 Mile』、見た?」みたいな(笑)。あれで良くも悪くもアメリカのヒップホップの殻は破れたんだよね。

DJ SOULJAH:しかもそれをやってるのがDr. Dreっていうね。今で言うBACHLOGICとSALUみたいな。

S-WORD:そうそう、そこ。プロデューサーがDr. DreだからこそEminemはVanilla Iceにならなかった(笑)。Dr. Dreが白人のラップをプロデュースする時のクロスオーバー感。ここで更なる膨張が始まったわけで、それが今後の日本でも起きないかなって。でも、もう一部ではそのクロスオーバーは始まっていて、実は変わらなきゃいけないのは「日本語ラップ村」なのかもしれない。だってさ、先輩たちは固いし、重いもん。そんな時代じゃ無いでしょ。

S-WORDのアルバム『KING OF ZIPANG』

S-WORDのアルバム『KING OF ZIPANG』

DJ SOULJAH:SALUとかKOHHみたいに、村の礼儀どうのこうのは一回置いておいて、「良い音楽を作ってなんぼ」っていうアーティスティックなラッパーがもっとたくさん出てきたら面白いんですけどね。

S-WORD:レアグルーブもレゲエもソウルも、何でも取り込むのがヒップホップの強みだったはずなのに、いつの間にか「ヒップホップはこうでなくちゃ」みたいな意識がなんとなく村全体に生まれちゃってた。そんなのリスナーにとってはどうでも良いのにね。ヒップホップかどうかの前に、SALUの曲が好きだって言うのが今のリスナーだと思う。ヒップホップとしては正しくても、曲としてダサかったら本末転倒じゃん。そんなのに存在意義は無いと思うんだよね。

DJ SOULJAH:次のアプローチについては具体的に何か考えがあるの?

SALU:いや、でも僕もまだ村の外に出ることは出来てないと思うんですよ、たぶん。実際一緒にやらせてもらうのはSOULJAHさんやNORIKIYOさんのような村の中にいる人ですし、そういう意味では村の外の人、言うならば宇宙人みたいな人と何かやってみたいなとは思いますけどね。バンドの人とか、ポップシンガーとか。

S-WORD:それを俺らがさ、「無し」って判断しちゃいけないんだよね。俺の上の世代の人たちは「無し」にしてきたから。なぜかって、それをやって失敗してるから。

SALU:S-WORDさんたちが僕らにそうやって「好きにやったら良いじゃん」って言ってくれるのはすごく嬉しいことだし、幸せな時代に生まれたのかなと思いますね。

S-WORD:やりたい放題やって良いと思うよ。誰にも文句を言う権利なんか無いし、何も言わせない。リスナーが期待してるのも絶対そこなんだよね。今の世代の日本語ラップは音楽性でもポップスと比較して負けないものがあると思うんだよ、既に。だから、クロスオーバーして、良い音楽を作って、そこにヒップホップ的解釈があったりして。たぶんそこから「日本語のラップの先」があるんじゃないのかな。

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