インタビュー:DJ EMMA〜THE KING OF HOUSEが語る「アシッドハウス」、そして「elevenの閉店」

by Mastered編集部

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2012年6月、Masteredにて実施したDJ EMMAの述べ1万字以上にも及ぶロングインタビューは、インターネット上を中心に巨大な論争を巻き起こし、現役のクラブ関係者やDJにも大きな衝撃を与えた。誰もが認める日本のTOP DJによるクラブに対する痛烈な批判や、風営法についての言及を文中に孕んでいたことも話題を呼んだ要因の1つではあるのだが、担当編集としては、結局のところ、彼自身の並々ならぬクラブへの愛やリスペクト、そしてダンス・ミュージックに対する真摯な姿勢が、人々の胸を強く打ったのではないかと思う。誰よりもハウスを愛し、誰よりもDJという職業に対して真剣に向き合うこと、それこそがDJ EMMAを”THE KING OF HOUSE”たらしめている所以なのだ。

前述のインタビュー以来、約1年ぶりの登場となる今回は、絶賛発売中のMIX CD『Hearbeat Presents Mixed by DJ Emma x Air Vol.2』と、7月24日に自身のレーベルNITELIST MUSICからリリースとなるコンピレーションアルバム『Acid City』という2枚の最新音源を軸に、再びMasteredならではのロングインタビューを敢行。自身もライフワークの1つとして挙げていた「アシッドハウス」、この1年間の間に彼が仙台で新たにスタートさせたイベント『EMMA HOUSE興』、そして共にいくつもの素晴らしい夜を築き上げてきた「elevenの閉店」に至るまで、今の想いを包み隠さず語ってもらった。

Photo:SATORU KOYAMA (ECOS)
Interview&Text:Keita Miki

圧倒的にシカゴハウスが好きってこともあるんですけど、”ダンスミュージックのラフな部分”って、僕にはすごく重要だったりするんですよ。

— EMMAさんにMasteredに登場して頂くのは、約1年ぶりですね。前回のインタビューでは、こちらの予想を上回るほどの大きな反響がありました。

DJ EMMA:僕自身もあんなに大きな反応があるとは思っていませんでした。あれだけのロングインタビューは久しぶりだったし、とても良い機会になりましたよ。

DJ EMMA presents NITELIST MUSIC 3『Acid City』

DJ EMMA presents
NITELIST MUSIC 3
『Acid City』

— 今回はコンピレーション・アルバム『Acid City』と、前回のMIXCDの続編となる『Hearbeat Presents Mixed by DJ Emma x Air Vol.2』がダブルリリースされる訳ですが、『Acid City』の方は、前回のインタビュー時にも「気になる」とおっしゃっていた“アシッドハウス”にフィーチャーした作品ですね。

DJ EMMA:僕が初めてアシッドハウスというものに触れたのは1988年。丁度ロンドンでアシッドハウスがブームになっていた時だったんですが、僕が自分のパーティーを始めたのもこのタイミングでした。自分のパーティーを始めて、四つ打ちをプレイしはじめた時に、急に目の前に現れた正体不明の存在がアシッドハウス(笑)。
とにかく、自分にとってその格好良さは衝撃的で、クラブから朝帰る電車の中で『i-D magazine(イギリス発のファッション&カルチャーマガジン)』を読みながら、直感的に「これをやろう!」って思ったのを良く覚えています。

— 正体不明のモノを、そこで直感的に「やろう!」と思えるのがEMMAさんの凄さですよね。すぐに自分のパーティーでもアシッドハウスをかけるようになったのでしょうか?

DJ EMMA:いや、とりあえず渋谷のクラブで知り合いのDJ達を集めて、『ACID ZONE』っていうイベントをやったんですよ。今でも良く覚えてますけど、その頃ってまだ”テクノ”って言葉でさえ浸透していないような時代ですから、集まったのはスカとかレゲエのDJばかりで、全員探り探りで、良く分からないまま、良く分からない曲をかけてました(笑)。
その後、さすがにその状態はマズいので、まずは「“アシッド”ってどういうことなんだ?」というのを音楽ライターの荏開津広さんと一緒に調べることになったんですが、元を辿っていくと結局は1960年代のアシッドロックに結びつくんですよね。アシッドロックって、サイケデリックな部分が予想以上に強いし、今で言うアシッドハウスとはまた異なる、少し突然変異的な流れの中で生まれたものなので、すごく面白いんです。で、その少し後にニューウェーブのアーティストだとか、ノイズをやってた人たちが急にアシッドハウスをやり出すような流れが来た。それこそ、Psychic TVとか、僕の敬愛するSIGUE SIGUE SPUTNIKもアシッドハウスをやってましたし、もちろん日本でもアシッド一色だった瞬間ってあるんです。みんな、笛吹いてDJをやってたりして

一同笑

DJ EMMA:まぁ、僕も例外では無く、そんな感じで多少勘違いしながらもみんなで面白おかしく、新しいムーブメントを作ろうとしていた感じですね。でも流行っているとはいえ、アシッドなので、音源の絶対数が圧倒的に少なかったし、アシッドハウスがかかるクラブ、アシッドハウスをかけるDJというのも本当に数えるほどしか存在していなかった。だけど不思議なもので定期的にアシッドの流行って来るんですよね。「ちょっとダンス・ミュージックに飽きたな」って頃に、テクノが来て、それに付随してアシッドが来る。流れは大体いつも同じなんですが、繰り返しブームはやってくるんです。そういう意味では、自分にとってアシッドはそんなに特別なものでも無いし、振り返ってみればいつもそばにあるものだったのかもしれません。

SIGUE SIGUE SPUTNIK『Dress For Excess』

SIGUE SIGUE SPUTNIK
『Dress For Excess』

— そういったEMMAさんのアシッドとの付き合い方を踏まえた上でお聞きしますが、今回こういった形で、アシッドハウスのパッケージ化に踏み切ったのは何かキッカケや特別な理由があったのでしょうか?

DJ EMMA:まずは単純に作りたかったというのと、自分の中で手応えを確かめてみたかった部分があって。あとはアシッドハウスというものを使ってのチャレンジ的な側面もありますね。MALAWI ROCKSでDazzle Drumsの2人に「ちょっとアシッド作ってみてよ!」って頼んだ時もそうだったんですけど、みんなアシッドって聞くと苦笑いなんですよ

一同笑

DJ EMMA:「えっ、アシッドハウスですか………」って(笑)。まぁ、みんなアシッドハウスがどういうものかっていうのを良くも悪くも知っている訳で、それを自分たちで作るとなると、結構悩むみたいです。でも今回のコンピレーションに入っている曲は、どれもすごく良くて。この先、新しいアシッドハウスを日本から発信していけるんじゃないかなという予感のようなものを感じています。少し話がそれましたけど、要は流行る、流行らない、受け入れられる、受け入れられないとかでは無く、単純に「やりたい」って衝動の方が強かったんです。そんなに大した事は考えてないですよ(笑)。
色々と後付けでアンチテーゼのようなものは付け加えられるけど、大きく言ってしまえば「今の現状があまりにもつまらなかったから」。テックハウスも好きだし、プログレももちろん好きだけど、今はどれも飽和状態だし、曲の出来が良すぎて、僕にとってはつまらないものに見えてしまいます。格好良い曲はたくさんあるんだけど、完成度が高すぎる。まぁ、圧倒的にシカゴハウスが好きってこともあるんですけど、”ダンスミュージックのラフな部分”って、僕にはすごく重要だったりするんですよ。だから、既に完璧に構築されたものを素材として取り入れるのには抵抗がある。そんなことを3年くらい前からなんとなく思っていたんですが、たまたまなのかもしれないですけど、その気持ちに呼応するようにアシッドハウスのリリース量が世界的に増えてきました。もちろん、最初に経験したアシッドブームの頃と比べるとまた全然違うものではあるんですけど、自分のセットを歌モノ以外、全てアシッドハウスで組めるような質と量が揃ってきたので、そのタイミングで今まで使っていたテックハウスとか、プログレをごっそりアシッドハウスに入れ替えたんです。

Dazzle Drums『Dazzle Drums EP』

Dazzle Drums
『Dazzle Drums EP』

— それはかなり思い切った決断ですね。テックハウスやプログレも一般的に言えば”伝わりづらい”ジャンルだと思いますが、アシッドハウスは更にもう一段階ハードルが上がるような気もします。

DJ EMMA:そうそう、問題はそこなんですよね。アシッドハウスに入れ替えたは良いけど、じゃあそれをどうやってお客さんに伝えようかっていう。伝わらなかったら何の意味も無いので。今回のアルバムのスタートも結局はそこなんです。伝えるためにはまず、自分たちがリリースするべきだろうと思って。それで、Dazzle Drumsの一曲をインスピレーション源に、本格的にアシッドハウスのアルバムを作りたいと考えて、色々なアーティストに話を振っていったという流れです。

— 実際に今の現場でのEMMAさんのプレイを見ても、アシッドハウスをかける場面が以前より飛躍的に増えていますよね。

DJ EMMA:そうですね。なんか”ACID”とか書いてあるTシャツを着てる人が1人でもいたりすると「かけようかな」と思っちゃう(笑)。
さっきおっしゃったように、DJたちはみんな好きだけど、お客さんはなかなか受け入れづらいっていうのがアシッドハウスなんですよね。一応、その感覚も分かってはいるんです。だからこそより良く、より格好良く、本当に上手くDJがかけてかけてあげないといけない。お客さん全員に、アシッドハウスを好きになってもらおうと思ってDJをしている訳だから、ミックスにしても、選曲にしても、ちゃんと喜びがあるところに持っていく。逆に言えば、そうやってお客さんとアシッドハウスを繋げて、アシッドハウスって言葉を頭の中にインプットさせれば、それでもう僕の役目は終了なんです。そんなに大層な狙いは無いですよ。別にEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)を悪者にしようとかも思ってないし。でもこれも後付けにはなるけど、EDMについて一言言わせてもらうなら、「あんなの流行っちゃうぐらいなら、アシッドが流行った方が良いよね」とは思うかな(笑)。

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