『挑戦する色としての「黒」』橋本敦(スタイリスト)

by Mastered編集部

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もっと新しい筋肉を付けていきたい

— このマリンテイストなニットもダブル アール エルなんですか?

橋本:そうそう。マリンテイストは結構好きなんですよ。ただ、思いっきりマリンっていう感じはないですね。
このニットもそうですけど、これも真っ白って言うよりは生成りのオフ白。
この辺のアイテムは買い足したいなぁって思ってるモノです。

— なるほど。これで一通りアイテムを見せていただいたことになるのですが、最近のファッションシーンに対して何か思うことはありますか?

橋本:やっぱり仕事で「これからのトレンドって何ですか?」って聞かれたときに、「安いモノ」とか「分かりやすいモノ」で答えなきゃいけないケースも多くて…。別にそういったブランドのクオリティが悪いっていうことじゃないし、自分で着てたりもしてるんですけどね。でもその反面、すごく面白いことをやっているブランドとかが、思った程は評価されてなかったり。

— そのジレンマは本当に強く感じます。

橋本:10年後に今のファッションってどう思われるだろう? っていうようなのが多いじゃないですか。今のシーンって。なんか今新しく生まれてくるモノで面白いなと思うモノが少なくなってきてる。
今までのメンズファッションって、やっぱり歴史の中でこう着るってベースがあった上で、そこから遊びが生まれたものだったのに、今やすっかりそういったものはなくなりつつある。とても残念な事だし、正直自分の中では消化不良なところもあるかな。歴史って何でも大事じゃないですか…。個人的には学ばなくして新しいものは生まれないのでは、と考えているので。

— それは僕らも声を大きくして言いたいです。

橋本:「ファッションは自由であるべき=自由なもの」っていう結論に間違いはないんだけれども、なかなかね…。いずれにしても既成概念でガチガチになっちゃうよりは、そういったモノを一度は自分の中で受け入れてみようとは思うんですけどね。まぁ受け入れられるかどうかは別として、大きい間口でいろんなモノには触れていきたいですね。

— その姿勢が大切なんですよね。

橋本:スタイリストとしてはね。パーソナルな部分では正直それはないんですけど。
変わらないスタイルを持つっていうことは、新しいことを受け入れないってことじゃなくて。だから新しいことっていうのは常に意識も理解もしようとするし、自分なりの自由な解釈でいろんなブランドを見てるからいいんですけど…正直ここ最近熱くなるようなシーンが少ないかな、とは思ってます。

— なるほど。

橋本:目上の方達だったり同期だったりとファッションの話をしてるときはすごく楽しいんですけどね。でも、若くて面白い人たちとももっと話したいんです。いきなり話しかけてもらってもイイくらい。

— そんなことを言ったら、本当に呼び止められますよ(笑)

橋本:まぁ、それもアリかな。つねにいろんな人達から刺激を受けていたいので。自分の中に確固たるベースが出来上がってきてるいう自負がありますから。どんな人に会ってもそこはブレないなっていう。
とにかくもっと新しい筋肉を付けていかないと。筋肉の付け間違いはあるかもしれないけど(笑) でもその失敗もファッションの面白さだったりもするじゃないですか。なんかやっぱり僕らの世代ってだんだんコンサバにもなってくるし。自分に対しても世の中に対しても。だけどそれだけじゃなくいたいんですよね。週に一回は思いっきりハズすファッションをしてみたりとか、「今日はこういう人たちと会うから、こういうファッションしてみようか」っていう意図的なことをしてみたりとか。そういう遊び心は忘れたくないなって。

— 大切ですよね。

橋本:あとちょっと話が変わっちゃうんですけど、今回みたいにインターネットを有効活用していくっていうのには興味があるんですよ。オークションでモノを探すこともありますから。ただ便利になった反面、あまりにも知識を浅はかに取り入れることが出来るようになっちゃったのは怖いことで。失敗して恥かいて覚えることも大事じゃないですか、実際。

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— その失敗が話のネタになったりもしますしね。

橋本:そうそう。自分の20代はまさに「恥と経験の10年間」っていう感じでしたから。人から聞いて、自ら学んで覚えたことって、忘れないですし。恥をかくっていうのは別に自分が否定されたっていうことじゃないですから。
とにかく、つねに情報がこれだけ入ってくる時代からこそ、整理する価値基準をまずちゃんと持って、自分の物差しでちゃんと図る。そしてそれをどう処理していくかっていう部分も含めて、日々アップデートした自分で次の現場には行きたいな、と。物理的な勝ち負けの話じゃなく、気持ちとして「負けられねぇぞ」っていう。

— なるほど。

橋本:あとネットもそうですけど、コミュニケーションの手段が多様化してるからこそ、「器用に人と接する」ことが嫌だっていうのは強く自分の中にあって。「この人とこう付き合えば自分にとってこう」みたいな打算は無しで。というかできないですし。でもこれはずっと付き合っていきたい不器用さかな。
で、それはファッションに対しても同じで。そんな器用にトレンドに乗ることはできないし、乗りたくない。

— よく分かります、その感じ。なんだかすごく良い話になってしまいましたね(笑)

橋本:最後はきれい事みたいな話になっちゃいましたけど…

— いえいえ。イイと思います。

橋本: まぁそういうことが自分で出来ているかって言われれば、毎日が反省だったりするんですけど。でも、毎年「今年は頑張ったな」って思える一年にしていきたいですね。まだ30代だし、あぐらかいてる場合じゃないですから。真面目人間世代って言われてるかもしれないけど、それはイイ意味に解釈してやっていきたいなって。

— キレイに終わりましたね、さすがです(笑)
でも、ホントにイイ話だし、僕らも考えさせられます。
なんだか色々聞き過ぎて長くなりましたが、今日はありがとうございました。

話が盛りだくさんで、過去最大級のボリュームとなった今回。いかがでしたか?
やっぱり好きになってしまうのはラルフ・ローレン、これは僕らの世代には多いんですね。
そこを根底にしつつも、色々と新しい事に目を向け挑戦しようとしてる姿勢には非常に共感します。
僕らもつねにアップデートをはかって、「負けられねぇぞ」根性で切磋琢磨していきたいと思います。