2012年春のブランド大特集 VOL.05:[SOPHNET.]

by Mastered編集部

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当編集部が厳選した今シーズン注目のブランドに毎週1ブランドずつご登場いただき、新作アイテムの紹介とデザイナーへのインタビューを5週連続で実施していく“2012年春のブランド大特集”。最終回となる第5回目はEYESCREAMブログへの電撃参戦も記憶に新しい清永浩文氏率いる[ソフネット(SOPHNET.)]にご登場頂きます。
今シーズンは“CONTEMPORARY BASIC”というテーマを掲げた同ブランド。時代を超えて息づくオーセンティックスタイルを継承しつつ、清涼感溢れる素材感、遊び心溢れるギミックなど、今の空気感を随所に取り入れたコレクションはファンならずとも必見です。それではMasteredとしては初となる清永氏へのロングインタビューと併せて、たっぷりとお楽しみくださいませ。

Photo:Takuya Murata
Interview&Text:Mastered

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「ソフネットに関して肝になっているのはリピートする勇気なのかな。変えない勇気。」

— ソフネットの今シーズンのテーマは“CONTEMPORARY BASIC”。まずはこのテーマに至った経緯からお話を伺っていければと思います。

清永:まず前提として、うちでは他にも[ユニフォーム・エクスペリメント(uniform experiment)※以下UE]、[エフシーアールビー(F.C. Real Bristol)※以下F.C.R.B.]というブランドをやっているんですが、その中でもソフネットは年々テーマを決めるのが難しくなってきているブランドではあります。1番明確なテーマがあったのは、最近で言うと2010年秋冬シーズンの“CAMOUFLAGE”になるのかな。その後は“AUTHENTIC(2011年春夏シーズン及び、2011年秋冬シーズンの共通テーマ)”、そして今回の“CONTEMPORARY BASIC”と、要は自分の中でのソフネットというブランドの位置づけが段々とオーセンティックなものになってきているんです。だから今はオーセンティックという枠の中でその時の気分や、その時に作りたいものを表現しているというか。
例えば過去にはソフネットでも宮島達男やジュリアン・オピー(Julian Opie)、ジャック・ピアソン(Jack Pearson)というようなアーティストの方々とコラボレートして、実験的なプロダクトを出してきたんですが、改めて考えた時にやっぱり3ブランドの中の基本軸はソフネットだなと思って。なので、ソフネットを基本軸に置いて、ユニフォーム・エクスペリメントやエフシーアールビーに更に明確なテーマを持っていく、というような今のスタイルが形になったのは、ここ1年から1年半ぐらいの話なんですよね。

— なるほど。その基本軸となるソフネットというブランドで、あえて“CONTEMPORARY BASIC”というストレートなテーマを選んだのには何か理由があったのでしょうか?

清永:プレスリリースになんて書いてたっけ…

一同笑

清永:というのは冗談ですが、うちの中でのコンテンポラリーはこの位置ですってことを言いたかったのかもしれません。ソフネットというブランドのコンテンポラリーというよりも、「SOPH.co.,ltd.全体の」と言った方がしっくり来るような気もしますが、自分の軸が本当に成熟してきているところで、改めて「これがうちの今のベーシックですよ」っていうことを示したかったんです。もちろん、今後そこから何処かに行くかもしれないですけどね。今はちょうど本当にド真ん中にいる。世の中の、というよりは、このブランドのなかの中心が出来たという感じです。

— ということはテーマありきでプロダクトを発想されてるということではない?

清永:ソフネットに関しては違いますね。少なくともここ最近は。

— どちらかというとモノの発想からスタートして、それがまとまってテーマに行き着く、という感じでしょうか?

清永:そうですね。だから、言い換えれば自分が一番着たい服を作っているブランドなのかもしれないです。“見せる”ということに主眼を置いたブランドではない。端から見ると「遊びが無い」と思われるかもしれないですが、そこも今は必要ないと割り切って作っている部分もあります。

— ではインスピレーション元としては、“自分が着たいもの”になるのでしょうか?

清永:そうなりますね。それプラス、ソフネットのファンも着たいもの。いずれにせよ自分たちが、という気持ちは強いのかもしれないです。

— 今ちょうどファンのお話が出ましたが、ブランドの規模が大きくなっていくに連れて、段々とファンが求めているものと、自分の作りたいものにギャップが生じてくるという話を良く耳にします。ソフネットに関してそういったことは無いのでしょうか?

清永:無いですね。そういった意味では、うちは稀なブランドなのかもしれないです。なにせ、僕がソフネットを卒業していっていないですから(笑)。
プライベートでも、僕がうちの会社のものを1つも着ていない時ってほとんど無いと思うんですよ。でも、それが等身大なんですよね。今日もソフネットとUEを合わせてますけど、靴にはじまり、靴下、アンダーウェア。365日、他のブランドのものはあまり着ないです。まぁ古着とかはたまに着ますけど。仕事とプライベートでそんなにドラスティックに格好が変わったりはしないです。僕はずっと僕のまま。好きなもののストライクゾーンがそんなにあっちこっちに行ったりしないタイプなんです。

— そうなんですね。ソフネットが多くのファンに支持される理由が垣間見えたような気がします。

清永:でもやっぱり、ゆっくりと変わっていってるんですよ。基本的には自分たちが今着たいと思うものを出しているので、一気に大きくは変えられないですけど、この13年でゆっくりゆっくり変えてきています。

— たしかにそうですね。その辺りはやはり“ベーシック感”ということを意識した結果なのでしょうか?

清永:いや、そこは単純に僕の中に、今のものづくりの現場で、「この素材すごくない?」とか、「このカッティング格好良くない?」って思えるものが無いんですよね。自分は“人より表に出る洋服”というのがあまり好きではないんですが、その条件の下で探すと、自然と街に馴染んで、なお且つすごいと言えるものが無いんです。以前からチャコールグレーのアイテムをずっと出しているのにも、なんとなくコンクリートジャングルに馴染むんじゃないかという感覚がベースにあって。街にとけ込む、っていうのも1つのベーシックの形であったりするから、今は素材やカッティングで、無理に主張をしたくないんです。ソフネットに関しては、あくまでパーソナルの方が前に出る服でいてほしくて、それにあまり負担をかけない服でありたいというか。機能でも素材感においても。最近ソフネットではそっちの方が重要になってきているかもしれないですね。

— ソフネットは毎シーズン、非常に型数が多いじゃないですか? 毎回展示会を拝見してびっくりするんですが、いつも清永さんの頭には「次はこれを作りたい」というアイデアが大量にストックされているんですか?

清永:うーん…そうですね。それと、やめない勇気。

— やめない勇気…というと?

清永:なんだろう、例えばコレクションをやっているブランドだと、前のシーズンと同じものをリピートしたらダメみたいなところがあるじゃないですか。でも、僕だって消費者だから、「去年ネイビーを買ったから、今年は黒でいいんじゃん。」とはならずに、「いや去年もネイビーを買ったから、今年もネイビーが欲しいよ。」ってなることもあります。去年着ていたものが傷んできたから、今年も同じものが欲しいってことありますよね? なので、それを実現するためには型数にある程度の幅がいる、ということで。

— たしかにそうですね。業界的にはどうしても新しいもの、新しいものってなりますけど、消費者感覚に戻ってみると、自分の気に入っているものが僅か半年で切り替わるっていうことはなかなか無いように思います。

清永:そうそう。だからソフネットに関して肝になっているのはリピートする勇気なのかな。変えない勇気。その代わりに、UEやF.C.R.B.ではばっさりと変えたりしていますけどね。ソフネットの中でそれをやるとぐちゃぐちゃになってしまうから。例えるなら、良く他のブランドでも本ラインの他に、後からベーシックラインが出来たりするじゃないですか。うちではソフネットが最初からその役割を果たしている感じ。ソフネットがあるからUEやF.C.R.B.で色々なことが出来るというか。そういう意味でも基本軸になっていますね。

清永浩文
SOPH.co.,ltd.代表。 98年にSOPH.をスタート(後にSOPHNET.に改名)。 テクノロジー素材と上質なデイリーウェアをミックスさせたクリエイション で、東京を代表するブランドに成長させる。NIKEとのコラボレーションライ ンF.C.R.B.、そして08年には藤原ヒロシ(fragment design)とともにuniform experimentを始動させるなど、その先進性には常に注目が集まっている。

— リピートすることにより、年々純度も上がってきていると考えてよろしいのでしょうか?

清永:もちろんです。取引先にも消費者にも、ある種の安心感を持ってもらえているのかなと。UEやF.C.R.B.の方がメディア的な露出は大きいのかもしれないですが、やっぱり顧客が多いのはソフネットだったりもします。

— 消費者の反応も常に気にされていますか?

清永:そうですね。裏切りたくないというか、去年のものが「古い」から、今年は着られないという風にはしたくなくて。いつ買っても長く着用出来たり、新しいものを混ぜても違和感無く着られるブランドでありたいと思っています。これは自分自身にも言えることですが。

— なるほど。もう少し突っ込んだ話をすると、洋服のディレクションとビジネスは同じベクトルで考えていらっしゃいますか?

清永:そこも僕はやっぱり、勇気だと思うんですよね。ファッション業界にいると、時々自分が何と戦っているのかってことが分からなくなるんですが、僕は戦っているという概念よりも、取引先や消費者がハッピーでいて欲しいという気持ちが強いです。そのハッピーの中にビジネスが含まれているのかもしれないし、単純なラブもあるかもしれない。

— 逆にソフネットというブランドのなかで、お客さんがもう少し刺激を欲しがっているなということが分かった時にはどうされるんですか?

清永:うーん…難しいところですね。うちでアーティストコラボをやると、もちろん引きは良いんですが、一方で普通で良いのになーって思う自分もいるんです。何故ならそれが入っていることによって、去年の服だってことが分かってしまうから。自分でクリエーションをしていても、ソフネットは自分も消費者であるブランドなので、そのさじ加減は難しいですね。例えば、うちのベースボールキャップには“SP”ってワッペンが付いているんですけど、企画のミーティングで「次は違う文字にします?」って話が出ても絶対に変えない。だって、ヤンキースのキャップのロゴは変わらないでしょ(笑)?
素材を変えたり、ワッペンの仕様を変えることはあっても、SPはSP。そこは行きそうで行かないんですよ。僕自身もそうだけど、既に持っているからいらないって人も、もちろんいると思うんです。それはそれで良いし、古くなったから買い替えようって人もいるだろうし、新しいお客さんも来るだろうって発想ですよね。それよりも僕は「あれ気に入ってたのに無くなっちゃった…」って思われるのが嫌なんです。

— メンズブランドにおいて、“定番”があるってことはすごく強みになりますよね。[リーバイス®(Levi’s)®]でいうところの501、[ギャップ(GAP)]におけるポケTだとか。そういう永遠の定番を作り出そうという発想は清永さんの中にあるのでしょうか?

清永:いや、どちらかというと狙い撃ちで頭から発想するというよりは、体感でって感じですね。例えば、気に入ったポロシャツがあって2、3枚まとめて購入したけれど、毎日着ていると、どうしても1シーズンか2シーズンでユーズド感が出てきてしまう。そこで今日はパリッと新品っぽく着たいという時に、店頭にあるものはシルエットも変わってしまっていて、その色も無いっていう状態は避けたいんです。もちろんピンクとかそういう色のものは毎シーズンやるものではないのかもしれないですが、いわゆる東京ベーシックというか、ジャパンベーシックみたいな色のものは常に店頭に置いておきたいなと思っています。

— 以前のインタビューの際に「いわゆる都市生活者に、洋服でストレスをかけたくない」というお話があったと思うのですが、その辺は今でも同じ考えをお持ちでしょうか?

清永:基本的には変わっていません。だから、サイジングもがらっとは変えずに、トレンドに合わせてゆっくりと変えていますね。試着しなくても、「去年のあれと一緒ですよ」って言えるサイジングにしていますし、今で言うと洗いざらしで着られる洋服も多いです。昔は速乾性があって、洗ってすぐに着られるっていう、そっちに関しても負担をかけない洋服作りをしていたんですけれど、そういうのも今は違う形で継続させていますね。負担をかけないということを基本軸において、その上でピシッと着られる服というか、朽ちていってもありな服。その辺は意識しています。

— ソフネットのコレクションでは多彩なコラボレーションも魅力的ですが、コラボレーションするブランドのセレクト基準は何かあったりするのでしょうか?

清永:偶然が必然で、必然が偶然みたいなところはあります。[ビズビム(VISVIM)]とのコラボレーションも、ビズビムは立ち上げからうちのお店で取り扱っているし、[ダナー(DANNER)]についても同じ。ずっと継続しているものばかりです。あっちこっち行かないというか、これもある種の“やめない勇気”ですよね。あとはこれも繰り返しになりますが、ソフネットに関しては自分が消費者でもありますから。餅は餅屋、というか、ちょっとセレクトショップ的な発想もあるかもしれないですね。

— 毎シーズン動画も公開されていて、プレゼンテーションにもかなり拘りを感じるのですが、その辺りも清永さんが全てディレクションされているのでしょうか?

清永:そうですね。やっぱりiPhone、iPad以降、飛躍的に見るツールが増えてきて、まずはトライするというか、先にやるっていうことが重要なのかなと思っていて。例えばiPhoneでサイトを見て、「flashじゃん」って言われる企業イメージが僕自身は嫌なだけであって、それが格好良いとか、格好悪いとかそういう問題では無いんです。そういう高感度な人たちを大事にしたい、というか。そこで対応出来ているか、そうで無いかで僕は全然印象が違うと思うんです。僕もiPhoneにしてから色々なサイトをチェックしたんですが、ANA(全日本空輸)とかはすごく対応が早かったんです。そういうのがユーザーとしてちょっと嬉しいなって思うところもあって。でもTwitter、Facebook、Instagram、何でもそうですけど、自分がやってからじゃないと始めないですね。当然、自分が分かっていないと指示は出来ないので。自分でやってみて各々の良し悪しを判断するというか。だから、動画もそうですけど、自分があまり長い動画を見ないから、CM風にしてみようっていう発想です。今は個人でブログをやっている人が多くて、みんなそこに貼るものを探している。だったら気軽に貼れるものを提供した方がいいんじゃないかなと思って。僕はそういう販促みたいなものを考えることが好きなんです。驚きで人を楽しませたいという気持ちが強いので、その辺りがノベルティだとかそういう部分にも現れているのかもしれませんね。実際、ノベルティの方がコレクションよりも頭が痛いです…

一同笑

— 年々海外からの注目も高まっていると思いますが、海外でのプレゼンテーション、例えばランウェイショーに対する意欲はお持ちですか?

清永:今のところは無いですね。何か違う表現があるかなあと思って。ランウェイ用のもの作りと、消費者が欲しいものは違いますしね。今はムービーといってもほとんどストーリーが無くて、洋服を動かして見せてますよっていうぐらいなんですが、次はその流れで行くとストーリーだ、っていうことになるんですかね。とはいえ、時間の面や経費の面など、問題は多々ありますが(笑)。
でもまぁ映画とまではいかなくてもストーリーやドラマ仕立てのものは作ってみたいですね。テレビ局が洋服を売るんだったら、ブランドがドラマを作っても良いんじゃないかと。なので、今はどちらかと言うと、そういう方が面白いです。

— 東日本大震災以降、ものづくりの現場も大きく変わったかと思います。震災後、何か清永さんのものづくりには影響がありましたか?

清永:春夏の立ち上がりのあとに震災が起きたんですが、その時には既に次の秋冬のキース・ヘリング(Keith Haring)とのコラボレーションも決まっていました。偶然にもキース・ヘリングは平和の象徴と言われますが、意識的に何かをしたという訳では無いです。

— これまでにも色々な方にこの質問をさせてもらいましたが、とにかく考えていらっしゃいますよね。何らかの形で日本をフィーチャーするブランドさんが増えたように思います。

去る2月11日にオープンを迎えた
SOPH.京都店。

清永:その点をうちに当てはめると、京都への出店ということになるのかもしれませんね。クリエイティブというよりは、出店という形で示したかったんです。ブランドを立ち上げた初期のころに備長炭のスーツだったりとかそういった和の要素を取り入れたものを出してきたので、今のクリエーションに和を取り入れるのは自分の中で少し戻りすぎる感じがしたというか。誰もが1度は通る道だとは思うんですけどね。自分がもう1度それをやるかどうかは今の時点では分からないです。

— ソフネットは非常に幅広い年代の方から支持を受けていますが、明確なターゲット層というのはあったりするのでしょうか?

清永:その質問は良く色々な方からされるんですが、明確なターゲット層というのは特には設けていないです。自分自身、ブランドと共にゆっくりと年齢が上がっていっているって感覚ですかね。だから、僕が50歳になったらソフネットはどうなるんだろうって考えるとちょっと面白いですけど。
でも、日本でも海外でも、年々ファッションじゃ年齢が分からなくなってきていますよね。それと格好で見られることが少なくなってきた。今日みたいなカジュアルな格好で敷居の高い場所に行ったりすると以前は目線が冷ややかでしたけど、今はそういうことも少なくなってきたような気がします。これが良い事か、悪い事かって聞かれるとちょっと分からないですけど、カジュアルなファッションが広く認知されてきたことは確かですよね。

— では最後になりますが、今後のソフネットの展望について伺ってもよろしいでしょうか?

清永:展望…そうですね、ソフはソフらしく、ソフのままで。「Keep on moving」ってことですかね。僕も僕らしく、僕のままで行く。何か気合を入れて特別なことをやるってことは無いし、これまでも無かったです。
だけど、ありがたいことにうちも14年目を迎えて、京都店で13店舗目。ゆっくりゆっくりやって来ている感じです。これは僕の性格にも関係していることなのかもしれないです。あまり焦らない。今日のインタビュー中に何回も言ってますけど、全ては「偶然か、必然か」だと思っていて、あまり流れに逆らわないタイプです。まぁ、変わったブランドですよ(笑)。

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