2012年春のブランド大特集 VOL.04:[…….RESEARCH]

by Mastered編集部

1 / 2
ページ

当編集部が厳選した今シーズン注目のブランドに毎週1ブランドずつご登場いただき、新作アイテムの紹介とデザイナーへのインタビューを5週連続で実施していく“2012年春のブランド大特集”。第4回目となる今回は小林節正氏率いる[......&#46リサーチ(......&#46RESEARCH)]にご登場頂きます。
“The Exhibition”というシーズンテーマを掲げた今シーズンの......&#46リサーチでは様々なカテゴリーが各々の時間軸の中で同時進行。2011年春夏シーズンに続く、2回目の発表となる[ウォーフィールドウェア リサーチ(War Field Wear Research)]、[マウンテン リサーチ(Mountain Research)]、そして業界を騒然とさせた[ミズノ(MIZUNO)]のシューズなどなど、あたかも“合同展”如く、豊富に取り揃えられたラインナップにはMastered読者も必ずや唸らされるはず。小林氏への久々となるロングインタビューと共に、たっぷりとお楽しみくださいませ。

Photo:Takuya Murata
Interview&Text:Mastered

VOL.01:[Needles] はこちらから
VOL.02:[Porter Classic&KICHIZO] はこちらから
VOL.03:[HUMAN MADE®]はこちらから
VOL.05:[SOPHNET.] はこちらから

「頭の中は多くのフッテージに囲まれていて、過去に見たプロダクトや触ったものの印象で満ちているから、創り出す作業でなくて、編集作業をやってるだけで十分なんだよね」

— まずは、今回で通算2シーズン目を迎えるウォーフィールドウェア リサーチについてお話を伺えればと思います。そもそもこのラインをスタートさせたきっかけはどんなところにあったのでしょうか?

小林:昔からミリタリーディテールはずっと好きだったんだけど、軍ものに関してはソフィスティケイトされていない方向でやりたかったんだよね。ディテールや縫い方はミリタリーそのものでやるんだけど、素材だけをクタクタなものに変えてみたりとか。こういった作業を通じて、洋服自体の持つ意味が当時のものと少し変わると面白いのかなぁと思って。
今回のウォーフィールドに関して言うと、当時のアイビーならではのダークマドラスチェックだけを使うことで、アイビー的なコーディネートの中で楽しめる洋服を作ってみた。ディティールと縫製は紛れも無くミリタリーにしてあるんだけどね。ミリタリーをミリタリーとして着ないというか。簡単に言うとそんな感じになるのかなぁ。

— マウンテン リサーチでも、同様にミリタリーモチーフのものがあるじゃないですか。そことの差別化はどのようにされているのでしょうか?

小林:ウォーフィールドでは、マリンコープ(海兵隊)のデザインとファティーグのディテールだけを中心にするということに決めているんだけど、マウンテンになると、自分が過去に着てきたもののディテールを包括的に色々と散りばめながらやっているという感じになる。

— ウォーフィールドウェア リサーチというラインの構想自体は以前からお持ちだったのでしょうか?

小林:以前に[ネイヴァル リサーチ(Naval Reserch)]っていうのをやっていて、それは軍隊のディテールの中でも海軍、それもアメリカ海軍のディティールだけに特化したラインだったんだ。要するに、縛りをきつくするというか、仕事の幅を狭くした方が自分の中では面白いし、このやり方のほうが自分向き。同じコンバットディテールではあるんだけれど、ウォーフィールドでは一番先鋭的、且つ、実験的な服が数多く作られていた海兵隊にフォーカスの中心を当てることにした。テストサンプルみたいな、でたらめなデザインのものが多いんだよね、海兵隊のものって(笑)。
やたら大きなポケットがついていたりとか、洋服としてのバランスがあらかじめ壊れてるというか . . . 実験的な要素が他のものよりも多く入っていて、海兵隊の服ってやっぱり面白いなぁと。

— ずっと不思議に思っていたんですが、小林さんはいつもどういう場所でそういったユニークなものを購入されているんですか?

小林:色々だけど、テキサスの方に面白いサイトがあって、昔はそこでよく買ってた。後はパリなら蚤の市に行ったり、アメリカのフリーマーケットだったり。eBayも良く見てるかな。

— eBayはかなり意外ですね。

小林:eBay、すごく頻繁に使うよ。くだらないもの、例えばワッペンとかも含めると週1ぐらいのペースで何か買ってるんじゃない(笑)。

— では現在進行形で色々なものを集めている訳ですね。最近気になっている年代、国などはありますか?

小林:60年代後半から70年代前半がマイブーム。その年代って、プラスティックファスナーとかのプラスティックパーツが丁度使われ始めた頃なんだけど、まだどう使っていいかっていう理解が進んでいない時代だから、全然考えがまとまってなくて、右往左往しているのが、当時の洋服を見ているとわかってすごく面白いよね。使い方はまだ分かっていないんだけど、とにかく何か新しいものを作りたいっていう感じが、それはひしひしと伝わってくる。中でも山関連のものは、その頃のものがすごく面白いよ。

— 以前から......&#46リサーチではアイビーをキーワードにしたアイテムがちょくちょくリリースされていましたが、今期のウォーフィールドウェア リサーチでもテーマになったりと、よりその傾向が強くなったようにも思います。この辺りには何か特別な理由があるのでしょうか?

小林:ぶっちゃけアイビーしか好きじゃない(笑)ということはさておき . . . 今はアイビーの線上だけで、いろいろ考えていこうとしているというのかな。アイビーという“五線譜の線”みたいなものが自分には必要で、そこを出ないようにしながら、何らかの意味が変わっていけるような瞬間を探している感じ。だから派手なことや、ずらすこと、その全部をアイビーという線上に置いて考えているだけ。自分はいわゆる“無”の状態から何かを考え出しているタイプの人間ではない。何もない状態から洋服を考えたことは、ただの一度もないし。なぜなら、頭の中は多くのフッテージに囲まれていて、過去に見たプロダクトや触ったものの印象で満ちているから、創り出す作業でなくて、編集作業をやってるだけで十分なんだよね。バリエーションを出しているだけで、クリエーションではない。こういったタイプの自分だから、ミリタリーとかアウトドアとか、要はツールっぽい要素が必要とされたもの. . . つまり一般的な市民権を見事獲得することができたディテールを持つものばかりに、必然的に惹かれてしまうのかもしれないね。結果、仕事のやり方もディテールを編集していくような作業が中心になってるし。編集されサンプリングされることで、ディティール本来の意味が予期せず変わったりする . . . そんなバランスいじりの作業が最高におもしろい。話を戻すと、今はこの作業をアイビーという“五線譜の線”の上でやろうとしているということになるのかな。

— 今回はシーズンタイトルが“The Exhibition”ということで、様々なジャンルのものが同時に進行していますよね。小林さんの頭の中ではどのように切り替えを行っているのでしょうか?

小林:いや、あまり切り替えが効かなくなったから“THE EXHIBITION”なんだよね(笑)。
切り替えが効かないから、ブランドを少しきっちりと分けないとなと思って。今は、色々なカテゴリーをブランドとして独り歩きさせつつ、同時に進めながらやっているんだけど、おのおのの時間軸がずれてきちゃってさ。制作に要する時間の話なんだけど。例えば、洋服と毛布、あるいは登山靴では、全く制作スピードが違うわけじゃない? 洋服は半年ごとに0からのスタートだけど、毛布とか登山靴ではそうはいかない。これまではそういうものを一緒にマウンテン リサーチという括りの中でやっていたんだけど、さすがにもう収集がつかなくなってきちゃった。そういうのは作ってくれる人たちにも失礼だったりするしね。例えば、[セット(SEtt)]の登山靴を作ってくれているのは一人の職人さんなんだけど、全部を手作業でやってもらっているから、これは制作スピードが圧倒的に違う。洋服屋として今まで培ってきた春夏、秋冬みたいなカレンダー上には、全然収まってくれないんだよね(笑)。
逆にこういった大切なものを、半年毎の. . . つまり洋服屋として自分が持っているルーティーンの中に無理矢理組み入れるべきでないということに気づいたというか、そのこと自体にあまり意味が感じられなくなっちゃったんだよね。当初はマウンテン リサーチってタグをつけたくて全部を一同に集めてやってはみたものの、今言ったような制作スピードの違いで、分けざるを得なくなった。が、しかし、見せる時には商売として、一同に集めて見せないとならない訳で、こうなってくると、ひとつひとつばらばらにしたものを“THE EXHIBITION”という形で見てもらうしかないのかなと(笑)。
これは、洋服とは異なる道具っぽい側面を、過去数年自分が欲し続けてきた結果のことなのだと思う。

そういえば去年、“マウンテンマン”っていうフィギュアを作ったんだけど、あれも原型を作るのに大変な時間が掛かるから、6ヶ月ごとの洋服屋のサイクルにはとてもじゃないけどはまらない。僕らとしては、自分たちが育った“ファッション畑”みたいなところから、ちょっと違う場所にちょこちょこと出かけて行ってるような感覚。時間軸のズレを四苦八苦して乗り越えながら、洋服以外の分野に段々と指を伸ばしているというか. . . もちろん軸足はあくまでも洋服に置きながら、という話ではあるのだけれど。そんな道中の報告が今回の“THE EXHIBITION”というやり方。

— そういうアプローチの方法もあるんですね。今お話を聞いていて、そういう指を伸ばした結果の1つが[ミズノ(MIZUNO)]のシューズなのかなとも思ったのですが。

小林:うーん…あれはね、俺、実はミズノとの付き合いってすごく長いのね。にも関わらず、これまでに何も具体的なものを残せていなかったりするから、これは何か結果として1つ出しておかないとまずいなと思って、長らく取り組んでいたことが、今回ようやく完成を見たというものなんだ。これこそ、さっき話していた”編集する”、あるいは”バランスをいじる”という表現が、最も当てはまりやすいケースかも。ミズノが一番重きを置いてる野球ということを軸に、まず物事を考えてみた時、グローブを靴の素材に使えないかなぁっていう発想がおのずと生まれた。もうひとつ、ミズノには何年も開発している『ウェーブシステム』というソールがあって、その集大成があの『インフィニティウエーブ』なのだけど、あのソールにはしっかりと定点の定まったミズノのテクノロジーがふんだんに詰まっている。海外でも大きな評価を得ているのは、その証しでしょう。ならばこのソールを、よりによって(笑)野球のグローブにくっつけて、なお且つ外側のデザインはうんと古くさいものにしたらという、”切って貼って”の編集作業の真骨頂だったのがこのプロジェクト。バランスをいじることで、ディティールが本来の意味とは違う意味を持ち始めるというのは、まさにこのことだよね。

一同笑

小林:要するにアメリカ製のモカシンを乗っけてみたかったんだ。なんといっても、最もプリミティブな靴の代表格でしょう。で、出来上がったのがあれ。俺はミズノに対する編集業務をやらせてもらっただけであって、決して「ミズノ的な未来感をもった靴をやりましょう」という観点のものでは無いんだよね。ミズノという要素以外は持ち込まないという自らに課した縛りの中で、”今の街の靴”を作るとどうなるかな?と考えた結果があの靴。編集という切り口だけで作った靴。

— 正直、展示会で拝見した時はかなり衝撃でした…。制作にはどのくらいの時間が掛かったのでしょうか?

小林節正
Mountain Research、War Field Wear Researchなどを擁する.....RESEARCHの代表をつとめる。週末は山に出掛け、つねに新たなリサーチに取り組む。1961年生まれ。

小林:何年だろうな、3年半とか。たぶんそのぐらいじゃないかな。普通は諦めるよね(笑)。
どうにもならないと思ったら諦めるんだけど、今回は無事になんとかこぎついてよかったよ。

— じゃあ『インフィニティウエーブ』も小林さんが指定した訳ではなく、ミズノから「こんなのもありますよ」という提案があったんでしょうか?

小林:うん。シルエットだけで見ると、なんだかものすごいことになっているソールだけど…というのが正直最初の印象だった。

一同笑

小林:でも、ひょっとしたらなんとかなるんじゃないかなと思って。要するに最大限ディテールが細かくやりこめられちゃっている現代のものと、最大限縫ってあるところが少ない原始的なものを引っ付けると、“ミスマッチの一番際”として成り立つんじゃないかなと。”企画マン”としての自分の正念場でもあったよね。

— でもああいった老舗メーカーとあそこまで実験的なプロダクトを作れるのは本当にすごいことですよね。次の計画も既に用意されているのでしょうか?

小林:そこはクライアント次第だよね。もう俺は1つ形に出来たから良いんだ(笑)。
これで面白いと思ってくれたら今後もやっていきたいし。今回のようなやり方で面白いことが出来るようになっている今の世の中を見ると、企画マンとしてはやり甲斐は感じるよね。

— あとは今回のコレクションで言うと、......&#46リサーチ、初の速乾Tシャツというのも印象的でした。

小林:スタッフ共々、僕らは日々フィールドワークを重ねているんだけど、自分も彼らも登山や作業を通して洋服が汗でベトベトになって、体温が下がってツラい思いを何度もしてるからね(笑)。
満を持して、というか自分たちの必要に応じて出しました。でも、その前からみんな下着には速乾Tというか、化繊のものを着ていて、当然、山で綿のロックTとか、デッドのTシャツを着てる人はいない。そういうところに少し反抗心があって、これまでは綿のTシャツでいいんだと思っていたんだけど、結局それで寒い思いをしてるんじゃ、意味ないなと思って

一同笑

小林:まぁ、実際に現場に出て、少し反省したっていうところですかね(笑)。

— のっかっているプリントも強烈ですよね。『安全第一』。

小林:改めて、安全第一だよね、山でも街でも。

— でもああいった日本語の入ったアイテムというのも以前から......&#46リサーチでは出していましたよね。

小林:洋服の持つ意味を何か変えられることがあるとすれば、俺はもうあとは“日本語化”というところにしか駒が残っていないと思っているから。自らへの課題として、暮らしぶりと洋服のテーマをシンクロさせるという作業をこれまでにマウンテン リサーチで長らく取り組んできたのだけれど、何年かかけて暮らしと洋服をようやくシンクロさせることができるようになった今、あとはその日本語化というところに辿り着けさえしたらいい。特にTシャツは言葉が書いてあるものだから、タイミングを見続けながら、いつか完全に日本語で出来るようにじりじりとにじり寄ってる感じかな。これは今一番やりたいことのド真ん中だね。日本語でちゃんと伝えるっていうこと。

— それこそ、ファッションが好きな人たちの意識を変えるってことが必要になってきますもんね。

小林:安全第一って言葉は、もちろん洒落ではあるけれど、今の状況を考えると意味的にもすごく大切なことだし。英語で“Safety First”と耳に入ってくる感じと、日本語として僕ら日本人が認知する“安全第一”とでは、また意味が違うじゃない? そういうことも含めて、意味も分からずにフランス語のTシャツを着ていた1970年代から、みんなの感じ方がどんどんリアルなものになってきているというのがまさに今。最終的には、日本語で一歩踏み込んだ話が出来るようになれば良いなと思っているんだよね。これから先は間違いなく詩の、ポエトリーの時代になると思うから。何故かまた、詩という手段でみんなが何かを言ってくるような時代がくるような気がしてる。その時に向けて“日本語化”という壁は、今のうちに絶対に乗り越えておきたい。洋服に興味がない全然違う畑の人たちも含めて皆が、日本語じゃないと喋れない!英語を混ぜて焦点をぼかしてどうするんだ!って感じに、ある日突然なるような気がするから。

— 今、震災以降、日本をもう1度見直すという動きが色々な分野で見られるようになりました。小林さんのもの作りには何か影響があったりはしましたか?

小林:和な感じは逆に俺は得意じゃないんだけど、元々は浅草の靴の工場の息子だったりもするから、国産のもので、なおかつ、作り手のタッチが長いものには、やはり思い入れがある。数年前からメタル製のキャンプ食器をやってるんだけど、ああいったものにはプレスという作業でわずか5秒で作れるものと、型に押し当てて時間をかけながら作っていくものとがあるんだ。僕らがわざわざ後者の面倒な工程を選択しているのは、こちらの方がプレスより職人のタッチが長いからっていう理由なんだよね。実際手に取ってみると、ひとつひとつ器の側面に刻まれているライン状の模様で手仕事の痕跡がよくわかる。上手く言えないけど、国産であることと、職人のタッチが長いこと、この2つが大事なんだと思うんだ。自分で作る洋服もできる限り国産でやりたいし、そこに何か“タッチの実感”みたいなものがあるものでないと困る。まぁ、ダウンとかニットはなかなかそうもいかないんだけど. . . 。他のアイテムはほとんど国産でまかなうことができているけれどね。自分の中では、それは“和”というポイントではなく、単純に日本の制作現場の人たちとずっとやっていたいっていうことだけなんだよね。

— ウォーフィールドをはじめ、近年どんどんとカテゴリーが増えてきていますが、今後カテゴリーを更に増やす計画はありますか?

小林いや、それはもうあまり無いんじゃないかな。さっき話したように、明確に制作のリードタイムが違う、要するに、異なる時間軸の中で存在しながら同時に進行してゆくという性格のものを、抱えてしまった今は、増やすという作業よりも、むしろこういったものをうまくまとめながら、今回の”THE EXHIBITION”のようにプレゼンテーションしていく方法を探ることに徹したいかな。
とは言いながらも、今までとは何か違うタイプのものが作れる人と知り合ったら、新しいことを始める可能性は十分にあると思う。最近だとフィギュアがこれに該当するのだけど。とにかく、人次第だよね。あれもやりたいこれもやりたいというのは、自分だけの範疇に留めておけばいくらでも出てくるんだけど、やっぱり、いざキーマンとなる人が目の前に出てきてガチッと掴まれるものがあって、初めて次の何かがあり得るから。

— 先ほど、これからはポエトリーの時代が来るとおっしゃっていましたが、最近気になってる詩人などがいれば具体的に教えていただけますか。

小林:うーん、具体的な詩人というよりも . . . 最近、歌詞の意味を探ったりだとか、洋楽の詞を訳してる人って多いじゃない。やっぱりみんな、どこか意味を探ってるんだと思う。そういう気運がずっとあるように感じるからさ、これは自然と詩の時代になってくるよね。話がちょっとそれるけど、映像表現ひとつを手に取ってみても、昔はスタジオに入らなきゃいけなかったことが、今はカメラ1つ持っていれば全部できちゃう時代になってしまっているでしょう。こうなってくると、表現というものは、もう一段階先というか. . . 違う次元の話というか、全然違うところから生まれてくるものにならないと。それがまさにポエトリーだったりするのかなって。自分はそう感じる。なんか一時期、みんな少し能天気になっちゃってさ、「翼を広げて、元気もらって、ずーっと一緒だよ」みたいな歌詞ばっかりだった時代があったじゃない(笑)。
ああいう、“エクスタシー症候群”みたいなものが社会に蔓延しきってしまった後は、必ず“言葉の正念場”の話になってくる。何となく雰囲気で発してきた言葉の次の話だからね。それは余計に目が開くっていうか. . . 言葉の正念場を探るような空気感が既に現れつつあるからね。そういう表現をする人たちがこれから色々と出てくるんだろうなって思うよ、本当に。もしかしたら間違ってるかもしれないけど、今の空気感としてはそんなことを感じる。

— それは洋服の世界に関しても同じようなことが言えるのでしょうか?

小林:やっぱりタッチの話になるよね。自分の仕事もなるべくタッチが長いようにしておきたいし。ウチの靴は工場から上がってくると、全部スタッフ総出でワイヤーブラシをかけて、ワックスを塗るんだけど、これは職人の手のタッチに、更に自分たちのタッチを重ねるということ。自分たちのタッチを多く見てもらうことが、1個のブランドになるんじゃないかなと思うんだよね、これからは。何の事柄であれ、何も考えずに右から左にものを流さないってことになるのかな。最近はファッションをめぐる状況が、以前と少し変わってきたから、僕らみたいな規模だと、前よりずっと小さいサイズで仕事をしなきゃいけなくなりつつある。この歴然とした事実を逆手にとって考えた時、その小さいサイズの強みは何かっていうと、やっぱり作り手のタッチの長さしかないと思うんだ。だから、タッチが長いっていうのは洋服に限らず、自分の全企画運営のテーマということになるんだろうなぁ . . . 今は。

次のページは......&#46RESEARCH]の新作アイテムの紹介です。