駅前から湖まで、この街にはとにかくスナックが多い。年輪を感じさせる渋い佇まいのファサードたちについつい目移りしてしまうが、日が落ちてみると開けているお店は意外と少なかった。
街としてのルーツを辿ってみると、かつて諏訪は精密機械産業の中心地として名を馳せていたことが分かった。某有名企業や、その企業の下請けを担うパートナー企業の工場が密集したここ諏訪湖周辺は、いわば”労働者の街”。日中、汗を流して働く男たちが夜毎に酔宴を繰り返す。街もそういう仕様になっていたってわけだ。
今夜のお目当ては赤い外壁が印象的なスナック 園。ド派手な外観に負けじと、店内にも電飾や造花が彩り、足元には点滅するパネルのランウェイ。
来店した22時の時点で先客はおらず。せっかくだからと、20人以上は入るであろうカウンターの中央を陣取った。
「あら、旅の人でしょ!」と、カウンターの奥からママが登場。
我々の返事に「東京の人ね。見れば分かるわよ〜」と盛り上げてくれる。端の方ではマスターが静かに頷いていた。
料金設定はチャージ800円、カラオケは1曲ごとに200円。ドリンクは1杯400円からと、非常に良心的。
基本的に年中無休で19時〜翌2時の営業だが、とりわけ楽しい日は明け方5時まで開けていたりもするそう。逆に、人がいないと早じまいする場合もあるので要注意。
この日は時間を気にせず居座って、1人あたりおよそ3,500円の会計だった。
「1曲歌ったらゲームをしてもらって次回の割引券をプレゼントしてるんだけど、旅の人だから今日のお会計から割引しておくわね」と、気の利いた心配りも嬉しい。
「いっぱい歌っていってね。AIの”Story”なんてどう? あ、米津玄師の”Lemon”なんかも流行ってるじゃない!」と、こちらの年代に合わせた曲が出てくる出てくる。
また、この特徴的な内観だが、なんとなく見覚えがある、なんて人もいるのではないだろうか。実は、かつて某映画で主人公が通っているお店として使用されたこともあるそう。さらに、観光客向け冊子にも取り上げられることもしばしば。そういったことが、多くの若者たちの来店に繋がっているそうだ。
リーマンショックや東日本大震災の影響を受けたことでたくさんの常連客を抱えた大工場が複数撤退し、その余波を受け閉業を余儀なくされた飲食店も多数あるが、実際ここ園は、今も週末になれば2階の宴会席は若い人たちで埋まるという。
常連客が通い詰め、一見客に対して毅然と構える老舗スナックのイメージが安心感に変わった。街や人に合わせて、お店もアップデートしていく。変わらずにあり続けるものは、きっとたくさんの変化を受け入れ続けている。
お酒を飲めないママが35年間年中無休でお店を開け続けているのは、ひとえに「毎日楽しいから!」とのことだった。
「東京みたいにさ、この街には面白いようなものもないでしょ。だからみんなこういう所に集まって、話したり歌ったりするのね」
「私が楽しいんだから、きっとお客さんも楽しいと思うよ?」と、チャーミングなママだ。