Vol.120 Ahh! Folly Jet – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Nobuyuki Shigetake

MasteredがレコメンドするDJ、アーティストのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回登場するのは、2000年に発表したミニアルバム『Abandoned Songs From The Limbo』が後続世代の熱烈な再評価を受け、3月3日(水)に初めてアナログでリリースされるAhh! Folly Jet。
Ahh! Folly Jetは、90年代音響派と評されたASTEROID DESERT SONGS(A.D.S.)のメンバーであり、カヒミ・カリィや嶺川貴子らのプロデュース、00年代DCPRGやsalyu×salyu、あまちゃんスペシャル・ビッグバンド、井の頭レンジャーズのギタリストとしても活動してきた高井康生のオウン・プロジェクト。彼が2000年にリリースした『Abandoned Songs From The Limbo』は、ポスト・オルタナティブの文脈で突然変異的に誕生したエレクトロ・ソウル・アルバムにして、(((さらうんど)))やceroの高城晶平ら、後続アーティストたちの再評価によって、10年代以降、その謎めいた音楽世界が後追い世代のリスナーに静かな衝撃をもたらしている作品でもある。
また、2017年には17年ぶりのシングル”犬の日々”を発表し、ライブ活動を散発的に行っている彼は、『Abandoned Songs From The Limbo』のアナログと同時に新作シングル”Duck Float / HEF”もリリース。こちらは「デイヴィッド・ホックニーのプールサイドミュージック」がテーマになっており、長いブランクを経てなお、掴めそうで掴めないねじれたポップ・センスは健在だ。今回は依然としてミステリアスな彼の音楽観を紐解くと共に、『Abandoned Songs From The Limbo』に影響を与えた楽曲で構成したDJミックスを提供していただいた。

Interview & Text : Yu Onoda | Photo:Takuya Murata | Edit:Nobuyuki Shigetake | 協力:Hiroyuki Kobayashi(Hot-Cha Records)

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「自分の周りのオルタナティヴなシーンではオーセンティックなポップスが一番下火だった。だからこそ、その逆を張って、J-POPをやるんだって、うそぶいていたんです」

— ”最後の渋谷系”と評されているAhh! Folly Jetのミニアルバム『Abandoned Songs From The Limbo』が発売から20年を経て、初めてヴァイナル化されるということで、まずはおめでとうございます。

Ahh! Folly Jet:ありがとうございます。

— 自分は、リリース当時、高井さんにインタビューさせていただいたんですけど、この作品は、当時も今も依然として謎多きアルバムなんですよ。今回はその秘密を掘り下げていきたいんですけど、そもそも、ご自身の音楽は”渋谷系”という認識なんでしょうか?

Ahh! Folly Jet:逆質問になるんですけど、リリース当時、小野田くんはAhh! Folly Jetを渋谷系として捉えてました?

— 90年代は異質なものが同居していた時代だったと思うんですけど、個人的にはAhh! Folly Jetが渋谷系だと思ったことはないですね。

Ahh! Folly Jet:自分としては、渋谷系というより、その真横にいたという感覚ですかね。高校の1個上の先輩の小山田(圭吾)くんと同級生の荒川(康伸)がフリッパーズ・ギターでデビューしたり、大橋(伸行:BRIDGEのギター)とか神田(朋樹:プロデューサー)がCRUE-L周りで活動していて、彼らの活動をいいなと思って、羨ましく見てた感じというか。

— 高井さんはそこに加わりたいとは思わなかった?

Ahh! Folly Jet:そうですね。自分がそばで見ていた、その流れというのはクローズド・サークルだったし、トッド・ラングレンやスティーヴィー・ワンダーが好きな宅録少年だった自分は違うところにいましたから。今、SNSを見てると、何を指して”渋谷系”というのか。色んな人がずっと喋ってるじゃないですか。牧村(憲一)さんが見た渋谷系とか、HMVの太田(浩)さんが言い出したとか、受け取り方は人それぞれ全然違うんだなって。

— 自分が認識している渋谷系なる音楽のイメージも高井さんのイメージに近いんですけど、一方の高井さんは高校時代にMOODMANと出会っているんですよね?

Ahh! Folly Jet:まだ、MOODMANと名乗る前だったんですけど、彼は当時からON-UとかPOP GROUPの話をしてて、自分のレゲエの認識はボブ・マーリー程度だったから、「なにそれ?」って感じでした。仲良くなったのは1990年に大学進学で上京してからかな。真っ先に連絡したら、彼はすでに西麻布のMマチステでDJを始めていて、そこに遊びに行ったのが初めてのクラブ体験。その少し前に岸野雄一さんをはじめとする(音楽プロダクション)京浜兄弟社の方たちと知り合って、MOODMANなんかと一緒に常盤響さんの家や岸野さんの家に数日泊まり込んで、ずっとレコードを聴かせてもらっているうちに大学をドロップアウトしてしまうんですけど、その時期は自分にとっては英才教育だったというか、すごい贅沢な時間でしたね。ピーター・アイヴァースやヘンリー・カウをはじめとするレコメンデッド系のアヴァン・ミュージックを教えてもらったり、電子音楽だと、Mマチステで(Buffalo Daugterの)ムーグ山本さんがかけていたペリー&キングスレイを初めて知って、岸野さんの家でさらにブルース・ハークの『Electric Lucifer』を聴かせてもらい、その辺の音楽にどっぷりハマるっていう

— その辺の音楽というのは、のちにモンドミュージック、ラウンジミュージックと呼ばれるもの。サンフランシスコのRE/Search社から1993年に刊行された『Incredibly Strange Music』がその流れの起爆剤になりましたよね。

Ahh! Folly Jet:その後、京浜兄弟社が高円寺にレコードショップ、Mannual Of Errorsを開店して、その初代店長になった自分はレコードの買い付けに行ったんですけど、その時、『Incredibly Strange Music』を片手に、アメリカ西海岸を回りましたよ。A.D.S.の松永さん(COMPUMA)と村松さん(MAGIC ALEX aka マジアレ太カヒRAW)もレコード屋で働いていた時のお客さん。店に来て、話しかけてくれて、好きなレコードで盛り上がるボーイ・ミーツ・ボーイですよ。面白かったのは、別々に知り合ったのに、2人とも同じことを言ってて。話題は、ヤン富田さんやエレクトロヒップホップ、シュトックハウゼンやピエールシェフェールなんかの初期電子音楽、クラウトロック、それからブラックミュージック全般。だから、今、尖っている人はそういう音楽を聴いているんだと思って、自分はその2人の後を追いかけていくような感じでしたね。

— 『Incredibly Strange Music』はアメリカのカウンターカルチャーそのもの。その時期、初めて知った”オルタナティブ”という言葉は、ロックだけではなく、もっと幅広く奇っ怪な音楽も意味していたような気がします。

Ahh! Folly Jet:「グランジからラウンジへ」っていうキャッチコピーがありました。

— ありましたね。そして、ストレンジでオルタナティヴな音楽にどっぷり浸かり、Todd Rundgrenを愛する宅録少年だった高井さんはA.D.S.の結成に向かっていったと。

Ahh! Folly Jet:A.D.S.の活動は、西麻布のクラブ、MマチステでやってたDJイベントがきっかけで、そのイベントではDJブースにシンセサイザーやエフェクター、短波ラジオやギターなんかを持ち込んで、レコードもかけつつ、そのレコードをスクラッチもするし、そういうものと一緒に楽器も鳴らすっていうセッションをやっていたんですけど、そのイベントに出演していただいた佐々木敦さんが「『UNKNOWN MIX』というイベントをやるから、出てみない?」って誘ってくれて。そのライブで村松さんがドラムを叩く新しいセットで臨んだら、そこからライブのオファーが来るようになって、A.D.S.は図らずしてバンドになり、1996年に『UNKNOWN MIX』のレーベルからアルバム『’Till Your Dog Come To Be Feed』をリリースするに至ったという。

— 当時、A.D.S.とリンクするところでは、『UNKNOWN MIX』をはじめ、Mannual Of Errors、パリペキン、LOS APSON?、Kurara Audio Artsといった特殊音楽を扱うレコード屋がいくつもありました。

Ahh! Folly Jet:A.D.S.の時はいわゆるソングライティング的なことはほぼほぼやってなくて。やってたのは、マイク立てて炭酸水の泡の音を録る、みたいなこと。コカコーラに砂糖をさらに増量して入れた方が泡のボリュームが大きくなるという情報をどこかから仕入れてきて、そういう音響加工的なことにハマったり。もちろん、機材にもどっぷりで、シンセサイザーやエフェクターを買ったり、録音もA.D.S.の初期はめちゃめちゃ音のいい8トラックのオープンリール式MTRで録ったんですけど、その後、オープンリールでは不可能なくらい入り組んだエディットを施した音楽に発展していくんですね。それを可能にしたのが当時発売されたばかりだったRolandの『VS-880』というデジタルMTR。値段も安ければ、エディットもやりたい放題、しかも、今では当たり前になった”UNDO/REDO”で作業のやり直しが出来るようになったと。そういった当時の技術革新がA.D.S.の後押しになったんです。ただ、ライブの機材セッティングは本当に長かった。リハーサルで音のバランスを取る以前に、全部の音を出すのが一苦労でしたね。

— 印象に残っているライブは?

Ahh! Folly Jet:後にAhh! Folly Jetの作品をリリースするHOT-CHA RECORDS主宰の小林(弘幸)くんのイベント『Free Form Freak Out』ですね。新宿LIQUIDROOMで、出番はCorneliusの前。ステージではなく、DJブースに機材をセッティングしてやった、その時のパフォーマンスがベストライブかな。ライブ終わりに村松さんがチビ声で「次はMother Fuckin’ Corneliusです!」って叫んでたことをよく覚えてますね。今振り返るとそのライブが象徴するようにA.D.S.というのは、編集的で雑多という意味で、非常に90年代的なグループだったなと思います。

— しかも、それは渋谷系ではなく、まだまだ語る人が少ない90’sオルタナティブ・シーンの文脈ですよね。

HOT-CHA小林:A.D.S.はGrand Royal的なグループでもあったというか、実際、Beastie Boysの来日公演でオープニング・アクトをやる話を断ったという伝説もあったりするんですよ。

Ahh! Folly Jet:来日公演の数日前に当初予定したオープニング・アクトが事故か何かで出来なくなって、僕のところにBryan Burton-Lewis(ブライアン・バートンルイス)から連絡が来たんですよ。「代わりにA.D.S.が出てくれない? 今日もLIQUIDROOMでライブやってるから、とりあえず挨拶に来て」って言われて、楽屋でマイク・Dと握手して。「よろしくな!」って言われたのに、みんなに事後報告したら、生真面目な村松さんが「そんなこと突然言われても」って言い出して。というのも、A.D.S.のライブは、ネタを仕込んだり、レコードをかける順番、その合間にサンプラーのどのボタンを押すとか、緻密な構成が完成度を裏打ちしていたんですけど、「その構成も出来てないのにライブは出来ないから断ってくれ」って。それで泣く泣く電話をかけて断りました。

— もし、そのライブをやってたら、Cibo MattoやBuffalo Daughterがそうであったように、A.D.S.がGrand Royalから作品を出してた…かもですね。

Ahh! Folly Jet:それはどうか分からないけど、まぁ、でも、そのライブが出来なかったからこそ、Ahh! Folly Jetが生まれたと言えるのかもしれないですね。当時、世の中的には”J-POP”というワードが使われるようになった時代ではあったんですけど、自分はBOREDOMSやBuffalo Daughter、ASA-CHANG & 巡礼、H.O.I.Voodoo、暴力温泉芸者、Guitar Wolf、Seagull Screaming Kiss Her Kiss Herなんかがいるオルタナティブなシーンに身を置いていたし、Corneliusも『69/96』に象徴されるように、初期のアシッドジャズ的な作風から編集的な方向に移行していったり、Tortoiseのようなシカゴ音響派が注目されたりしていて、逆に自分の周りではオーセンティックなポップスが一番下火だったんですよ。だからこそ、A.D.S.の解散後の自分はその逆を張って、Ahh! Folly JetではJ-POPをやるんだって、うそぶいていたんです。

— つまり、Ahh! Folly Jetはポスト・オルタナティブのポップスを意図したと。

Ahh! Folly Jet:でも、今振り返ると、自分のなかにはオルタナティブやエレクトロ・ヒップホップというのは東京に出てきてから後付けで学んだことであって、独りになったら、トッド・ラングレンやスティービー・ワンダーが好きな宅録ポップスという本質に立ち返ることしか出来なかった、というのが実情です。そこに東京に出てからオルタナ・シーンで培ってきた制作術が混ざってしまったことで、『Abandoned Songs From The Limbo』という特殊なアルバムが出来てしまったんじゃないかな。

— あの作品は、ポスト・オルタナティブのポップスということ以外、意識、意図したものは何かありましたか?

Ahh! Folly Jet:どの曲にも参照した曲だったり、具現化したかったアイデアやイメージはあって。例えば、”シルヴィアを聴きながら”は、最終的にはダンスミュージック的なプロダクションになっていますが、Soft Machineのフォーキーでブリティッシュ・トラッド的な”Dedicated To You But You Weren’t Listening”とバロック的なRaymond Scottの”Beautiful Little Butterfly”という小品がリファレンスとしてあって、メロディをよく聞くとフォーキーでバロック的な曲なんですよ。同じことが5曲目の”恥しらず”にも当てはまるんですけど、この曲も元のメロディはバッハ、ベートーベンの流れを汲むクラシック音楽を意識して書いたもので、アレンジを発展させてAl Greenの”Let’s Stay Together”みたいなサウンドを標榜したものでした。

— つまり、もともとのアイデアからかなり飛躍、発展した形になっていると。

Ahh! Folly Jet:そのままやっても面白くないし、自分なりにJ-POP的なことをやりたかったから、”シルヴィアを聴きながら”はSylvia Robinsonからサンプリングしたブレイクビーツを敷いてみたんですよ。その製作過程で杏里”オリビアを聴きながら”へのアンサーソングというコンセプトを思い付いて、それに合わせて内容を修正したんです。

— アイデアが入り組みすぎていて、さすがに聴いただけでその意図を理解するのは難しいですね。

Ahh! Folly Jet:『Abandoned Songs From The Limbo』はどの曲もレイヤーが深いことが特徴かもしれません。

— 2曲目の”Satyr”は、リリース当時のインタビューでアメリカのポルノ映画がモチーフだと語っていましたよね。

Ahh! Folly Jet:ジェナ・ジェイムソン主演の同名映画ですね。そうそう、完全に忘れてた。当時はUSハードコアポルノの全盛期で、スカムカルチャーの文脈で、ぼくの周囲でも小さく流行っていたんですね。BGMも調性がない電子音の気持ち悪いシーケンスにジミ・ヘンドリックスみたいなギターカッティングが乗ってるだけの実験的なものだったり、ビデオドラッグ的な初期CGの使用とか、ちょっとしたサブカルチャーの風情がありました。”Satyr”の音楽的な源泉は、当時聴いていたFifty Foot HoseやSliver Applesのような電子音サイケ、Peter Iversのようなサイケじゃないサイケの影響もありつつ、無茶な転調はSoft Machineをはじめ、以前から好きだったジャズロックからの影響が大きい気がします。

— 菊地成孔さんが歌詞を書いた3曲目の”ハッピーバースデー”しかり、”Satyr”しかり、歌詞の倒錯的な作風はどういう世界観を意図したものだったんですかね。

Ahh! Folly Jet:まぁ、当時は変態っぽくてワルっぽいのが格好いいと思ってたんじゃないかな、と。若いなって感じですよ。そういうことも引っかかって、当時の曲は最近までずっと歌えなかったんです。でもまぁいつまでもそんな事気にしているのもダサいし、年齢を経たことで、もう気にせず歌おうかな、と近年は開き直って恥の上塗りに邁進中です。

— ”ハッピーバースデー”はインストのオケを使って新たな曲に仕上げた(((さらうんど)))”冬の刹那”だったり、ceroの高城くんがライブでカバーしたり、Ahh! Folly Jet再評価のきっかけになった曲ですよね。

Ahh! Folly Jet:途中で出てくる自分のギターソロは自分が弾いたなかでもかなり気に入っているんですけど、若い世代に一番刺さった曲みたいですね。あの曲は菊地さんが自分で持ってきたイタリアのシネジャズをCD-Jで歪めて、そのフレーズのループを楽器的にオケに合わせた生演奏だったりするんですけど、曲自体は18歳の時に書いたもの。原曲は、昔好きだったThe Blow Monkeys”It Doesn’t Be This Way”みたいな曲調だった時期もあり、TROUBLE FUNKみたいなワシントンD.C.のGO GOみたいなアレンジの時期や、スタイルカウンシルみたいなアレンジの時期等々、自分内で歴史の長い曲だったのですが、それが徐々に変化していって、レコーディング前には自分で英語詞を付けてライブでやっていたんです。その時、すでに菊地さんにサックスを吹いてもらったりしていたんですけど、曲を気に入ってもらえたのか、ある日、菊地さんが「日本語の歌詞を付けたから」って、あの歌詞を持ってきてくれたんですよ。

— 菊地さんの貢献度が高い曲なんですね。高井さんは菊地さんと1999年から2007年までDate Course Pentagon Royal Gardenで一緒に活動されていましたけど、ジャズからの影響はいかがですか? 『Abandoned Songs From The Limbo』リリース当時のインタビューではデューク・エリントンの話をされていましたよね?

Ahh! Folly Jet:ああ、確かに当時は相当ハマってましたね。今でも好きなんですけど、デューク・エリントンしか聴かなかった時期があって。これは非常に90年代っぽい話ですが、自分はエリントンより先にサン・ラを聴いているんですよ。Why Sheep?の(内田)学さんの家に遊びに行った時、サン・ラっぽいビッグバンドジャズが流れていたので、「今かかってるのはサン・ラ?」って訊いたら、「これはデューク・エリントンだよ」って。そういえば、サン・ラがデューク・エリントンから影響を受けているという話をどこかで読んだことがあるなと思って、ハマったのはそこからですね。まぁ、でも、それを作品に反映させようとしたのか、しなかったのか。今となっては記憶が定かではないんですけど。6曲目のピアノトリオによるジャズ・アレンジを施した”シルヴィアを聴きながら(White Suit Karaoke)”は、本当はオリジナル・ヴァージョンで使う予定で録音したものなんですよ。構想ではブレイクビーツが曲の途中で生演奏に切り替わる構成を考えていたんですけど、あまりに無理のある着想だったし、レコーディングが難航して、曲数が足りなくて、苦肉の策でそのまま収録したという。

— では、高井さんのなかでは作品制作を詰め切れなかったという思いがあると?

Ahh! Folly Jet:そうそう。途中で折れてしまったというか、中途半端な作品を出した感覚がずっと残っていて、今聴いてもそう思うし、その辺が長らく作品を愛せなかった要因でもありました。ただ、スタジオ経験の未熟な自分にそれなりの予算をかけてもらって、スタジオを4箇所使ってレコーディングした作品でもあって、余剰があった90年代末期的なものというか、今だったら考えられない作品だし、デビューすら出来ていなかったでしょうから、HOT-CHAの小林には感謝してます。

— ただ、ご自身の作品で得た経験は、その後、プロデューサーとして、高校の同級生である神田朋樹さんと共同で手がけたカヒミ・カリィさんのアルバム『Trapeziste』(2003年作)と『Montage』(2004年作)に反映されているように思います。ブリジット・フォンテーヌが6、70年代にやっていたことを現代的な音響で発展させたような、この2作は本当に素晴らしい作品ですよね。

Ahh! Folly Jet:自分の作品を出してみて、表の活動に限界を感じたというか、プロデューサーやプレイヤーとして、裏方でやっていこうと考えていたので、確かにその2作は『Abandoned Songs From The Limbo』で学んだことや反省点が反映された作品といえるかもしれないですね。ただ、その後、嬉しい誤算があり、今もこうして自分の作品に取り組んでいるわけで、長くやってるといろんな事がありますね。

— そして、2017年に小川美潮さん、大瀧詠一さんのカバーを両面に収録したリハビリ的なシングル”犬の日々 / 指切り”を経て、今回リリースするシングル”Duck Float / HEF”は20年ぶりのオリジナル作品になります。

Ahh! Folly Jet:(((さらうんど)))やceroの高城くんがきっかけとなって、新しいリスナーの方たちに聴いてもらえるようになって、本当にありがたい。そう思いつつ、「若い頃の変な髪型の写真をばらまくぞ」って言われてるような気分になったりもするんですが。ライブ活動を再開するにあたってオリジナルの持ち曲が少ないから、新曲を作ろうと。今回のシングルはそのうちの2曲です。ただ、完成までにはかなり時間がかかっていて、書いたのは2年前かな。その直後に1回レコーディングしてみたんですけど、細かいところに納得がいかなかったので、そのデータは一度ボツにして、ライブで演奏しながらブラッシュアップしてから、改めてレコーディングして。それからさらに1年近くかけて完成させました。

— 気の遠くなるようなプロセスですね。レコーディングメンバーは?

Ahh! Folly Jet:ドラムはceroで叩いている光永(渉)さん、キーボードとベースがCAT BOYSの高木壮太さん、深石ノリヲさん。パーカッションが思い出野郎Aチームの松下源さん、サックスがDCPRGで一緒だった後関好宏さん。自分のなかでは、Miles Davisにおける黄金クインテットに匹敵するようなセクステットですね。

— そして、作品リリースの長いブランクがあろうと、Ahh! Folly Jetのねじれにねじれた作風は不変ですね。

Ahh! Folly Jet:ねじれ、ね。たしかに今回の作品は変形リズム&ブルースだと考えています。ただ、前作『Abandoned Songs From The Limbo』しかり、カヒミさん等々のプロデュースワークしかり、これまでのぼくの製作物は、ある意味観賞芸術の範疇にある音楽であったのに対して、今回の2曲はリズム&ブルースやロックンロールがそうであるように、酒場で適当に流れている音楽、聴き流したり、ダンスしたり、でも、よく聴くと聴きどころもそこそこあるようなもの。そういう芸術的な深い意味がない、軽く消費できる大衆音楽を標榜しました。シングル盤というフォーマットにも、そのコンセプトは反映されています。

— ”Duck Float”のモチーフは、デイヴィッド・ホックニーが60年代から70年代にかけて発表したプールを題材にした絵画だそうですね。

Ahh! Folly Jet:今回のシングルはどちらの曲も孤独を歌っています。孤独を感じさせる絵が好きなんですよね。で、初めて観た中学生の頃からずっと引っかかっていたホックニーのプール・シリーズをモチーフとして選びました。”Duck Float”はプールに独り浮かんでいるイメージで書きました。孤独、というかアイソレーションみたいなものは常にモチーフとしてあるかもしれないですね。クラブやレイヴで遊んでいる時、DJは最高、女の子は可愛いし、酒は美味いし、友達もナイスで夜はこれから、言うことないくらい楽しいはずなのに、なぜか孤独を感じる事ってありませんでしたか? ぼくはずっと、あの感じをいつか曲にしたいと思っていたんですけど、今回ちょっとその感じが音になったかな、と思っています。

— 一方の”HEF”はプレイボーイ・マガジンの名物オーナー、ヒュー・ヘフナーのことを歌っているんですよね?

Ahh! Folly Jet:この曲は最初2コードの曲を作ろうと思って。選んだ2コードの反復がボズ・スキャッグスの”Low Down”と全く一緒だったのと、作曲とほぼ同時に、金持ちの老人がパーティ中に心停止して死ぬ瞬間の歌詞にしようという着想があって。それで最初のデモを”老ダウン”っていうファイル名を付けてました。そのイメージは、デューク・エリントン・ナンバーとして有名な”Lush Life”から得ました。正確にいうと、作者はデューク・エリントン楽団のセカンド・ピアニスト、ビリー・ストレイホーンなんですけど、彼が19歳の時、エリントン楽団に入る前にはすでに書き上げていたという驚愕のエピソードもある曲です。歌詞の内容は、ジャズとアルコールにまみれた主人公が、非常に格好よく恋愛、および人生の喪失感を歌う、みたいな感じなのですが、そこからさらにぼくの妄想が飛躍して、ヒュー・ヘフナーがプレイボーイ・マンションのガーデンパーティ中に人知れず心停止するビジョンが生まれて、それを歌詞に落とし込んだ感じです。

— 心停止するヒュー・ヘフナーのビジョンには、もちろん、ご自身のことも重ねられているんですよね?

Ahh! Folly Jet:想像しても想像しきれない、死ぬ瞬間ってどんな感じなんだろう? っていう問い。それが子供の頃よりは少しだけリアルになったような、やっぱり想像しきれないような年齢になってきました。その意味において、今、自分がやっているのはアダルトロックだと思っています。この作品のリリースを期に、Early Summer Recordsという自分のレーベルを立ち上げたので、7インチシングルを出したり、配信作品を出したり、はたまた、Ahh! Folly Jetの作風とは違う実験的な作品もぱっと作って、ぱっと出せるといいなと思っていますね。

— では、最後に特別に制作していただいたDJミックスについて一言お願いいたします。

Ahh! Folly Jet:『Abandoned Songs From The Limbo』』を製作した頃に聴いていた音楽を、思い出せる範囲内で選んでみました。お楽しみください!

Ahh! Folly Jet 『Abandoned Songs From The Limbo』』(Vinyl)

2021年3月3日(水)リリース
品番:MMDS21001LP
価格:3,000円(税抜)
Released by Hot-Cha Records / Musicmine

SIDE A
01. シルヴィアを聴きながら
02. Funkaltz(Unreleased)
03. Satyr
04. シルヴィアを聴きながら White Suit KARAOKE

SIDE B
01. ハッピーバースデー
02. Ahh! You Happy?
03. 恥しらず
04. ハッピーバースデー Slim Down KARAOKE

Ahh! Folly Jet 『Duck Float / HEF』(7 Inch Single)

2021年3月3日(水)発売
品番:ESEP-001
価格:1,500円(税抜)
Released by Early Summer Records

SIDE A
01. Duck Float

SIDE B
02. HEF

高井康生:Vocal, Electric Guitars, Synthesizer, Programing, Sound Collage.
高木壮太:Acoustic Piano, Fender Rhodes Piano, Wurlitzer Electronic Piano, Synthesizer.
後関好宏:Alto & Baritone Saxophone, Flute.
深石ノリヲ:Fender Bass
光永渉:Drums
松下源:Congas

『Abandoned Songs From The Limbo Remastered』『Duck Float / HEF』 W Release Party

開催日時:2021年3月13日(土) OPEN:18:00 START 19:00
開催場所:下北沢LIVE HAUS
東京都世田谷区北沢2-14-2 地下1階 JOW3ビル
※本公演はコロナ対策として、入場人数制限のため限定50枚、ネット先行販売とさせていただきます。
ライブ視聴期間:2021年3月13日(土)19:00~3月27日(土)19:00
https://livemine.net/lives/45/about
先行販売期間:2021年2月28日〜3月10日(数量限定。枚数が到達しだい終了)
※配信チケットのみの販売は後日販売開始します。

■LIVE
Ahh! Folly Jet
高井康生:Vocal, Guitar
高木壮太:Keyboard
深石ノリヲ:Fender Bass
後関好宏:Saxophone, Flute
光永渉:Drums
松下源:Percussions

■DJ
Sky Pond Journey(ABESTREEM + halladino taizo )

■PRICE
チケット単独
3,900円 + ドリンク600円(後日公開する配信ライブ視聴チケット代込)
※会場の下北沢LIVE HAUSでライブ閲覧が可能になるチケットです。当日会場で購入済みチケット画面をお見せいただくことで入場が可能になります。こちらのチケット購入者は、後日LIVEMINEでアーカイブの視聴ができます。

レコード(Abandoned Songs From The Limbo)付チケット
6,400円 + ドリンク代600円 (レコードは公演日に会場にて手渡しいたします)
※会場の下北沢LIVE HAUSでライブ閲覧に加えて、Abandoned Songs From The Limboがついてくるチケットです。こちらのチケット購入者は、後日LIVEMINEでアーカイブの視聴ができます。

配信ライブ視聴チケット
2,000円
※LIVEMINEでの視聴のみのチケットになります。