Photo:Shiori Ikeno | Interview & Text : Yu Onoda | Edit:Nobuyuki Shigetake
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
— 2018年のアルバム『Eutopia』から2年。星野源さんの作品やライブへの参加、紅白歌合戦のオープニング音楽の制作やNHKの子供番組への出演、プロデュースワークもYUKIさんや堀込泰行さんなど、ヒップホップ以外のコラボレーションも多く手がけられるようになり、STUTSくんを取り巻く状況は大きく変わりましたね。
STUTS:『Eutopia』以降の2年を振り返ってみると、星野(源)さんのバンドの一員として、素晴らしいプレイヤーの方々とライブに参加させてもらったことが大きな経験になりましたね。それから外部とのコラボレーションも”トラック提供”というより、もうちょっと“コラボレーション”に近いものになっていって。そのなかでもBIMくん、RYO-Zさんとの”マジックアワー”は制作に時間をかけて、サンプリングをせず、あたたかみを表現出来たという意味で、自分のなかで手応えを感じました。その作業の過程で、自分で楽器を入れられたら、制作の幅が広がるかなと考えるようになって、鍵盤やギターの練習をするようになったんです。
— 『Eutopia』やその前後のライブでも自分で鍵盤を弾いたり、MPC以外の楽器への興味が広がりつつあったと思うんですけど、それがより強まった?
STUTS:そうですね。以前から教則本を読んだり、コードや理論をかじったりしながら、独学で勉強していたんですけど、去年の夏頃から月イチくらいで鍵盤の個人レッスンを受けるようになって、その流れで秋くらいからギターを習うようになり、ベースもコロナの自粛期間中に部屋でYouTubeの動画を見ながら練習するようになって、今回のミニアルバムだと”See The Light”と”Landscapes”の2曲は、ゲストを迎えず、自分で色んな楽器を弾いて作った曲になっています。
— STUTSくんのトラックは鳴りの気持ち良さが大きな特徴だと思うんですけど、コードや理論、楽器を触るようになったことで、ご自身のなかで何か変化がありました?
STUTS:コードのことをちょっと知るようになって、音がぶつからないように配置すると音が濁ったりしないんだなということが少しずつ分かるようになってきたんですけど、あまり理論的になりすぎないように、バランスは取りたいと思っていて。というのも、僕は楽器が弾けないところから音楽を始めて、サンプリング音楽もその最たるものというか、音楽理論は知らなくても、音の響きの気持ち良さだけで直感的に曲が作れるわけじゃないですか。そこに理論的な発想が加わることで、プラスにもなるとは思うんですけど、場合によっては直感の自由な広がりが損なわれることもあるのかなって。
— 今回のミニアルバム『Contrast』は直感と論理が共存しているだけでなく、初めてご自身のヴォーカル、ラップをフィーチャーされていますが、その主観的な視点とプロデューサーとしての客観的な視点も絶妙なバランスで同居していますよね。
STUTS:これは過去2年に限った話ではないんですけど、いつか、自分の声を用いて、曲を作れたらいいなと以前から思っていて。今回、新たな挑戦をするうえで、これまでのコラボレーションを通じて、ラッパーやボーカリストが曲を作り上げていくプロセスを間近で見られたことが経験として大きかったですね。一緒に曲を作ってきたラッパーさんだと、例えば、1本のラップで決めるJJJに対して、BIMくんのアプローチは自分の声を楽器的にも捉えて、どんどん声を重ねて、曲を形にしていくんですよ。それを見ていて、「こういうやり方もあるのか」と目からウロコだったというか、そういう経験を踏まえつつ、1年半くらい前から家でラップしたり、歌ったり、こっそり試しながら曲作りをするようになったんです。
— そもそも、STUTSくんって、もともとはラッパー志望だったんですよね?
STUTS:そうですね。中3の頃、初めて音楽をやろうと思ったのはラップで。そのためのトラックが必要だったので、トラックを作り始めたんですよね。だから、人前で歌うというか、ラップすることも、オープンマイクのフリースタイルで何度か経験をしているんです。もっとも、その時のラップは今振り返るととても聴けたものじゃないんですけど(笑)、その後、自分で歌ったり、ラップしてみようと思った大きなきっかけは、2017年にペトロールズの長岡(亮介)さんと2人でやったライブですね。そのうちの1曲でリリックを書いて、2人でラップしたんですけど、それを聴いたレーベルの担当の方から「いい声だね」って言ってもらえたことで、自信がないなりに自分の声を用いた曲作りを少しずつ意識するようになって、試行錯誤を続けていたのが『Eutopia』からの2年間だったと思います。
— 今回の収録曲で一番最初に完成したのは?
STUTS:自分の歌とラップを入れた”Vaper”と”Seasons Pass”ですね。作品リリースは全く意識せず、思い付いたメロディを自分の声で形にしてみたくて、去年の10月くらいから試しに作り始めて、年末に完成したんですけど、自分のなかでビートの善し悪しは客観的に判断出来ても、自分にとって声はあまりに主観的な表現なので、未だに判断出来なくて、完成してから1ヶ月くらいは誰にも聞かせられなかったんです。それで最初は弟に聞いてもらって、「違和感ないよ」ということだったので、その後、JJJや長岡さんだったり、周りの友人にちょっとずつ聞いてもらって、「大丈夫なのかも……」と思えたところで、レーベルの担当の方に聞いてもらって、今回の作品をリリースすることにしました。当初はEPをリリースしようと思っていたんですけど、全体の流れを考えたり、コロナの自粛期間に時間が出来たこともあり、ミニアルバムに発展していったんです。
— STUTSくんのヴォーカル、ラップは優しい声が基本としてあって、低いキーと高いキー、トラップの三連符フローとオーソドックスなフローを使い分けていて、声をサウンドの一要素として扱われていますよね。
STUTS:そうですね。ラップに関しては、以前は歌う時に声を張っていたんですけど、今回はBIMくんとのレコーディングに触発されて、地声に近い感じでやってみたら、以前よりしっくりきたので、低い声の倍音成分が出るような感じでトライしてみました。最近の日本語ヒップホップを聴いていても思うことなんですけど、個人的にトラップっぽい感じの言葉の乗せ方は日本語に合ってるというか、音楽的に聞こえる曲として成立させやすい気がして、オートチューン等もそうですし、色んなやり方が増えたことも自分で歌うことに挑戦する動機になったんですよね。
— そして、歌い、ラップするとなったら、何を言葉にするのか。
STUTS:それもここ2年くらいで芽生えた意識なんですけど、今までトラックを作り続けてきて、それとは別の発散、表現方法を考えた時、歌詞が書けるようになったら面白いだろうなと考えるようになったんですね。とはいえ、僕は文章を書くのが得意ではなくて、言語表現に自信がなかったりもするんですけど、以前より本を読んでいる時に面白いことばの表現も目に留まるようになったというか、楽しめるようになりましたし、詩にも触れるようになって、言葉の組み合わせ方も意識するようになりました。ラップは、ラッパーの表現とそうじゃない人の表現は別モノだと思うんですよ。ラッパーならではの格好良さや説得力というのは揺るぎないものがあって、それは自分には出来ないことだし、そこに挑戦しようという気持ちはなかったんですけど、自分の声や言葉を音として捉えて、具体的になりすぎず、抽象性を残したリリックによって、聴く人それぞれの世界が広がったらいいなと思ったんです。
— さらに”See The Light”から”Contrast Pt. 1~2”の流れもSTUTSくんにとって新機軸となる生音を交えたハウストラックが披露されています。
STUTS:今回のような4つ打ちのトラックは、以前からちょこちょこ作ってはいたものの、発表はしてこなかったんですけど、3、4年くらい前から4つ打ちのトラックで歌っている格好いい曲がヒップホップでも目に付くようになって、自分のなかでもダンスミュージックとの距離感がぐっと縮まってきたんですよね。それ以前からムーディーマンのような生音感を活かしたトラックは好きだったんですけど、最近だとモジュラーシンセサイザーを多用したFloating Pointsの『Crush』のような電子音寄りの作品に衝撃を受けたり、幅広く楽しめるようになってきたこともあって、今回、自分なりのダンスミュージックを発表してみようかなって思ったんです。
— 一方で、2曲目の”Mirrors”は、歌とラップの両刀使いであるDaichi Yamamotoくんが韓国のアーティスト、SUMINさんの歌と鎮座DOPENESSのラップを上手く橋渡ししている曲というか、プロデューサーとしてのSTUTSくんの配役の妙が光る曲ですね。
STUTS:作ったのは今年の2月なんですけど、アメリカのヒップホップのノリとは違う、イギリスのヒップホップから影響を受けていて、トラックが出来た時、フィーチャリングで最初に思い付いたのはDaichiくん。彼を起点としてラップのベクトルに向かうか、それとも女性ボーカルを迎えた歌モノのベクトルに向かうかを考えて、最初はラップの方向性で行こうと持って、鎮さんを迎えたんですけど、女性ボーカルもいた方が曲のいいアクセントになるなって。そこで、去年、韓国で一緒にライブをさせてもらったときから気になっていたSUMINさんにお願いしてみたんです。
— ビートメイカー、プロデューサーであり、色んな楽器を弾いて、自分で歌い、ラップもして、さらに今回はインスト曲のミックスも手がけているんですよね? つまり、2枚のアルバムを経て、今回はいよいよ全てを自分の手で完成させられるようになった作品である、と。
STUTS:ミックス自体は前の作品でも半分は自分でやっていたのですが、自分ですべて完結することについても善し悪しがあると思っていて。一人で突き詰める良さもあれば、ミュージシャンやゲスト等他の方の視点を加えることで生まれる良さもあるので、そこは上手くバランスを取っていきたいなって。ただ、ビートを作り始めた頃から全てを1人で出来るようになりたいなと思っていて、まだまだ改善の余地はあるにせよ、今回、それをある程度の形にまとめることが出来るようになったのは自分にとっては大きなことだったかな、と思います。
— STUTSくんにとっての新境地を切り開いた今回の作品に『Contrast』というタイトルを付けた経緯は?
STUTS:1年くらい前から”境界”をテーマに作品を作りたいと考えていたんですけど、”境界”に英語の”Boundary”という言葉を当てると、英語圏の人が言うには、むしろ、壁や明確な区分けを意識させるニュアンスになってしまうということだったので、相応しい言葉がないかなと思って、アメリカに住む弟に相談してたら『Contrast』という単語が出てきてしっくり来るなって。どうして”境界”をテーマにしたかというと、今までの自分の作品、例えば、”夜を使いはたして”や”マジックアワー”もそうなんですけど、自分の曲は、昼と夜の間だったり、何かが移ろっていく瞬間に色んな情感が生まれることが多いなって。
— 今回の”Vapor”や”Seasons Pass”もそういう曲ですし、作品それ自体もSTUTSくんの音楽性が変わりゆく瞬間を投影した作品ですもんね。
STUTS:そうですね。今まではその移りゆくものを視覚的なイメージで捉えていたんですけど、今回は自分の移ろいゆく内面がフォーカスされているというか、自分のなかにも色んな自分がいたり、人がイメージする自分と自分がイメージする自分にも違いがあったり、そういうことを考えながら曲を作ることが多かったんです。そして、この2年というのは、自分を取り巻く状況も大きく変化して、それによって自分も変化しましたし、自分の変化が周りの状況や自分のアウトプットである音楽性に変化をもたらした期間でもあるので、そうした変化が色濃く反映された作品になったと思います。
— では、最後に、2016年、2018年に続き、今回も特別に制作していただいたDJミックスについて一言お願いします。
STUTS:最近聴いてた曲や好きな曲を中心にミックスしました。久しぶりのDJでしたし、今までのミックスと違う感じになったので作ってて楽しかったです。前回までのミックスと比べるとダンスミュージック的な要素が強めなDJミックスになったのかなと思います。楽しんでもらえたら嬉しいです。
2020年9月16日(水)リリース
価格:2,000円 + 税
レーベル:Atik Sounds/SPACE SHOWER MUSIC
規格品番:PECF-5004
01. Conflicted
02. Mirrors(feat. SUMIN, Daichi Yamamoto & 鎮座DOPENESS)
03. See the Light
04. Contrast, Pt. 1
05. Contrast, Pt. 2
06. Vapor
07. Landscapes
08. Seasons Pass
出演:STUTS with 仰木亮彦(Gt)、岩見継吾(Ba)、吉良創太(Dr)、TAIHEI(Key)
企画:SPACE SHOWER
制作:SMASH
主催者先行販売:2020年9月2日(水)12:00~9月9日(水)23:59 ※抽選制
https://w.pia.jp/t/stuts/
一般発売:2020年9月19日(土)〜
※1人/1枚までの申し込み
※クレジットカード決済のみの受付
※電子チケット発券のみ
■名古屋
開催日時:2020年10月17日(土) OPEN 16:15/ START 17:00(1公演目)、OPEN 19:45/ START 20:30(2公演目)
開催場所:JAMMIN’
料金:3,900円(税込・オールスタンディング・ドリンク代別途)
TEL:052-936-6041(JAIL HOUSE)
■大阪
開催日時:2020年10月18日(日) OPEN 16:00/ START 16:30(1公演目)、OPEN 19:30/ START 20:00(2公演目)
開催場所:LIVEHOUSE ANIMA
料金:3,900円(税込・オールスタンディング・ドリンク代別途必要)
TEL:06-6535-5569(SMASH WEST)
■東京
開催日時:2020年10月26日(月) OPEN 18:30 / START 19:30
開催場所:LIQUIDROOM
料金:4,200円(税込・オールスタンディング・ドリンク代別途必要)
TEL:03-3444-6751(SMASH)