Vol.129 hyunis1000 & ratiff(Neibiss) – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJ、アーティストのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、2月26日に名古屋RCSLUM RECORDINGSよりアルバム『NERD SPACE PROGRAM』をリリースしたラッパー・hyunis1000。そして、彼とヒップホップデュオ、Neibissで活動しているビートメイカー/ラッパーのratiff。
2000年生まれで、神戸を拠点とするhyunis1000は、2018年より音楽活動をスタート。同世代のコレクティブ、NERD SPACE PROGRAMの一員にして、ビートメイカー/ラッパーのratiffと結成したNeibissとして、これまでに2作のアルバム『HELLO NEIBISS』(2020)、『Sample Preface』(2021)を発表している。90sヒップホップのサンプリング・コラージュをモダンにアップデートしたRatiffのトラックを遊び心あふれるキャッチーなラップで乗りこなす彼は同時並行でソロ活動も展開。満を持してリリースしたソロ作『NERD SPACE PROGRAM』では、ratiffをはじめ、残虐バッファローZ、ballhead、caroline、DJ HIGHSCHOOL、UG Noodle、Uokaniといった全国各地のビートメイカーをフィーチャーしながら、トラップ、エモラップ以降の研ぎ澄まされたスキルを駆使して、夢と現実が交錯するインナーワールドを描き出している。
今回はローカルシーンが活性化しつつある神戸から登場したhyunis1000とratiffのインタビューとDJミックスを通じ、tofubeatsやどんぐりずも一目置くこの若く有望な才能のポテンシャルに迫った。

Photo:Takuya Murata | Interview & Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「知らないがゆえの強さというか、自覚したら”マジか!”って思うことが最近めっちゃあるんですよ。それが大人になるということなんかなって」(hyunis1000)

— 完成したファーストアルバム『NERD SPACE PROGRAM』と共に、RCSLUM RECORDINGSに加わったニューカマーということで、まずはhyunがラップを始めたきっかけから教えてください。

hyunis1000:ラップを始めたのは2016年3月。高校入学前の春休みですね。当時、俺は5lackがめっちゃ好きやったんですけど、周りで好みが合う人がいなかったんで、初めてサイファーに行ってみたんですけど、そういう人は誰もいなくて。クラブに行くようになって、初めて趣味が合う人と会ったという。

— つまり、バトルをやってるラッパーとクラブで遊びながらラップしている人では聴いているラップの種類が違ったと。

hyunis1000:そう、そこで初めて知りましたね。それでクラブで遊びながら曲を作るようになるんですけど、海外だと、XXXTentacionとかSki Mask the Slump Godとかフロリダのラッパーが好きだったので、ああいうラップが出来たら最高やんと思って、そのフロウを日本語でなぞるようになったことで、ラップが上手くなっていんたんですよ。

— 5lackの後ノリでレイドバックしたラップとはアプローチが全く異なる高速ラップですよね。今回のアルバムだと”RUN”にはその影響が表れていますけど、ただ、いきなり、スキーマスクみたいなラップをやろうとしてもハードルは相当高かったのでは?

hyunis1000:いや、かなり高くて、聴けるレベルになるまで1年くらいかかりましたね(笑)。僕、ブーンバップで聴いていたのは、5lackとかMF DOOMくらいだったんですけど、その後、ratiffと出会って、色々教えてもらって聴くようになっていったんです。

— ratiffとhyunの出会いは?

ratiff:僕、ヒップホップの入りはラップじゃなく、DJだったんですね。しかも、データじゃなく、謎にレコードでかけることにこだわっていたので、周りが30代、40代ばかりの大阪のクラブでオープンDJをずっとやらせてもらっていたんですけど、ラップブームのなか、hyunと同じく好みが合う同世代が全くいなくて(笑)。ただ、高校の隣のクラスにラップやっているやつがいたので、簡易的なユニットを組んだら、初めてライブ出来ると。それで神戸の西元町にBOPという手作りのクラブに出かけていったんです。

hyunis1000:その頃、俺は同い年の音楽友達を探していたんですけど、Twitterでたまたま見つけたラッパーのnessに「一緒に遊ぼうよ!」ってDMを飛ばして。誰でもライブが出来る週1のイベントをBOPで始めることになって、そこにはMerry Deloやweek dudesもおったんですけど、ratiffもその第1回目に来たんです。

ratiff:その時は目も合わせてくれなくて、「俺めっちゃ嫌われてんなー」って感じだったんですけど(笑)、毎回通っているうちに少しずつ話すようになって当時、hyunのラップはめっちゃトラップやったんですけど、「同い年で似たような雰囲気で音楽やってるやつがおる」って思うようになってからは大阪のイベントに出んくなって、神戸のイベントに呼んでもらいながら、hyunと遊ぶ回数が増えていったんです。そこから2人で好きな音楽を共有して、MF DOOMを聴くことが分かったり、90sヒップホップ大好きマンの僕はブーンバップをhyunに教えて、逆にhyunは僕にトラップを教えてくれて。

hyunis1000:あと、うちらのなかではオルタナティヴロックの流行りもあったよな?

ratiff:Mac DeMarcoとかね。

hyunis1000:YouTubeでチェックしていたオルタナティブロックのチャンネルがあったんですけど、気に入った曲のフレーズをループさせて、その上でラップをした音源をSoundCloudに毎日1曲アップしていたんですよ。

ratiff:そこに参加させてもらうことから始まって、僕が作るようになったトラックをhyunに投げたり、徐々に一緒にやることが増えていったんです。だから、Neibiss結成のきっかけはオルタナティヴロックだったとも言えるし、僕も5lackが好きだったので、2人に共通するそういう緩いテイストが個性になっていったんです。

— 若いヒップホップ周りの子って、ヒップホップは聴くけど、他の音楽は……っていう人が多い印象があるんですけど、作品を聴く限り、2人とも色んな音楽に興味ありそうですよね。

hyunis1000:そうですね。クラブで遊んでいるうちに、世の中には色んな音楽があって、ヒップホップもその一部という認識で自然と捉えるようになっていったというか。

ratiff:オルタナティブロックだけじゃなく、例えば、和モノ、昔の歌謡曲とか、親が好きで聴いていた山下達郎とか大滝詠一のナイアガラとか、ヤバい曲だったら、2人の間で共有して。

hyunis1000MasteredのNERO(IMAI)さんのインタビューで「ヤバい曲をみんなで共有して研究していた」っていう話があったじゃないですか。自分たちもそういうやりとりを毎日続けているうちに音楽の幅が広がっていったし、クラブで遊んでいるうちに、最近はダンスミュージックも聴くようになったり、研究は今も続いていますね。

— 今はご時世的になかなか夜遊びも難しかったりしますけど、暗かったり、煙たかったり、若い子が避けがちなクラブでの音楽体験も2人にとっては大きいのかな?

ratiff:暗いし、音デカいし、僕も最初はクラブがめっちゃ怖かったんですけど、いつの間にかハマってて、何のイベントをやってようが毎週通うようになりましたね。

hyunis1000:僕は家があんま好きじゃなかったし、現実から逃げるように通ってましたね。音楽の聞こえ方が違うし、人も面白いし、こんな世界あんねやって。夜遊びを通じて、広い世界を知れたからこそ高校中退しても大丈夫だと思えたというか。

ratiff:当時、高校を中退してんのに、hyunは余裕かましてましたからね。

hyunis1000:根拠のない自信に満ちあふれてて、まぁ、青春っすよね。

— それから去年、hyunが登場した『BLACKFILE』でも紹介されていましたけど、神戸の街や人、そこから生まれている音楽の影響はいかがでしょう?

hyunis1000:音が流れている場だと、studio Bapple、nagomibar、Otohatoba。通ってる古着屋やレコード屋があったり、3月くらいになくなってしまうんですけど、元町高架下(通称モトコー)にBEST BALANCE DRINKっていうお店があったり、シルクスクリーンプリントのお店、FutengやラッパーのChillstomachがやってる居酒屋ちりんがあったり、遊び場がめちゃめちゃ充実していて。どのジャンルの人も同じところにいるというか、人の繋がりも被っているし、カルチャーが混じり合っている印象がありますね。

ratiff:あと、敷居もめちゃくちゃ低いよな?

hyunis1000:低い。誰でもウェルカム。だからこそ、僕らも受け入れてもらえたし、居りやすくて、いい意味でも悪い意味でもぬるくてゆるい(笑)。

ratiff:だから、神戸に行くようになる前、大阪では縦社会な場にいたんですけど、神戸は音楽が格好良かったら、年齢に関係なく、いい時間にDJさせてくれるし、いいビートだったら、そこに誰かが乗ってくれたりとか、ほんまに居りやすくて。

— そういうのびのびした環境でhyunのソロ、Neibissの音楽性は育まれていったと。

ratiff:最初はDJにめっちゃ憧れていたし、Neibissではhyunが前に立って、僕がDJをやりながらマイクを持つスタイルだったんですけど、ふつふつと前に出たい欲求が高まっていって。

hyunis1000:それでNeibissはNerd GodがDJに入った今の編成になっていくんですけど、僕のソロではratiffにバックDJをやってもらって。

ratiff:俺のDJの時にはhyunにサイドMCをやってもらう期間が1年くらいあって、オトハトバのオーナー、ダイゴロウさんからNeibissとしてライブに呼んでくれたことでちゃんとしたユニットになりましたね。

— 音楽性に関して、Neibissはトラックを作っているratiff主体で90sヒップホップのサンプリングコラージュ感覚がベース、それに対して、hyunのソロはトラップだったり、現行のヒップホップがベースになっていますよね。

ratiff:そうですね。NeibissはトラップでもUKガラージでも何でもそうなんですけど、その時僕が好きな音楽からちょっとした要素を引っ張ってきて、それを組み合わせていく。そういう雑多なサンプリング感覚は、確かに90sヒップホップっぽいとよく言われるんですけど、自分の親がRIP SLYMEのファンで、1、2歳の頃からずっと部屋でかかっていて、小学生の頃、RIP SLYMEがラジオでかけていたPharcydeから90sヒップホップを聴くようになって、TOWA TEIさんとかDJ Fumiyaのトラックに影響を受けているんですよ。だから、エディットしまくって、さらにそこに現代的なデジタルっぽさを加えて、ガチャガチャさせているのがNeibissのビートです。ただ、シンプルな大人っぽいビートも作りたくて、hyunのアルバムに提供したビートはNeibissとはまた別のアプローチだったりもしますし、Neibissとhyunのソロでは歌っている内容も対極にあるんじゃないかなと。

— hyunのなかでソロとNeibissではラップのアプローチは全く別物ですか?

hyunis1000:うーん(笑)。実は意識的には考えていないんですけど、Neibissでは分かりやすくノリ重視かな。遊びの延長線上で、聴き心地が良かったら、最近あったことを何言ってもいいかなって。

ratiff:Neibissはそれくらいラフな感じでやっているんですけど、それに対してhyunのソロでは核心を突いたことをグサグサ言う、みたいな。

hyunis1000:そう、どこまでも自分と向き合って、核心を突きたいって感じ。

ratiff:hyunのリリックで面白いのは、Neibissでもめっちゃポップに歌っているようで、時々自分の内面のシリアスな部分が出てくるところ。

hyunis1000:そういう意味ではリリックの内容は明確に分けているわけではなく、プロデューサーだったり、その時のビートに左右されているかもしれないですね。ただ、ソロは核心を突きつつ、夢というかファンタジー的な要素もあって、”Khao nashi”もそうやし、”Kobe young zombie”の“Zombie”ってなんやねんって思うじゃないですか。

— クラブで遊び倒した明け方の酩酊状態が容易にイメージできましたけどね。

hyunis1000:遊びすぎて死んだんじゃないか、みたいなね(笑)。

— そういうふわっとした部分と鋭いものが混在していたり、青春の疾走感が凝縮されたような”RUN”では「死なない青春」っていう一節が出てきたり。

ratiff:そうなんですよね。俺が言ったら恥ずかしいこともhyunが言うと不思議と様になるんですよ。それがhyunの人間性というか、羨ましく感じますね。

hyunis1000:そうなんですかね? 知らないがゆえの強さというか、自覚したら”マジか!”って思うことが最近めっちゃあるんですよ。それが大人になるということなんかなって思いつつ、自分は考えすぎなところがあるので、何も考えなくなるところがゴールなんかなって。

— 自分と向き合って、自問自答したり、自分に言い聞かせているような”ドッペルゲンガー”を経て、”IDC”では「俺なら気にしない」って歌っていますもんね。

ratiff:ratiffに教えてもらったんですよ。”言霊ってあるっぽいよ。願望を口に出して言ったら、絶対そうなるから”って。

— 落ちたり、上がったり、色んなことがあるけど、hyunのアルバムは飄々とありたい願望が詰まっている作品だと。

hyunis1000:そうそう。実際にこうありたいという願望を歌ったりもして、このアルバムを作ったことで、一時期は見失いそうになった自分をようやく自分を取り戻せてきた気もするし、作品を出すたびにもっともっと飄々としていたいですね。

— ちなみにhyunのソロはどういう経緯で名古屋のRCSLUM RECORDINGSからリリースされることになったんですか?

hyunis1000:SoundCloudで繋がって、一緒に曲を作ったseep minutesっていう大阪のビートメイカーが京都で『CLUTCH TIMES』っていうイベントをやってるNGRくんと仲が良くて。『CLUTCH TIMES』とRCSLUMが共同で出したコンピ『Sooner or Later』に声をかけてもらって、ATOSONEさんから「アルバムもうちから出しなよ」っていう話になったんですよね。

— 神戸から大阪、そこから京都、名古屋と繋がっていったと。

hyunis1000:そう。最初、RCSLUMのことは全く知らなかったんですけど、その後、Campanellaさんとライブで一緒になったり、不思議な縁があったんですよね。

ratiff:どんぐりずもそうなんですよ。僕が好きで、hyunにも聴かせたりしていたんですけど、それを神戸のオーガナイザーが知ってくれていて。その方はバンド界隈で活動されていて、かつてバンドとして活動していたどんぐりずとも繋がっていたので、神戸でNeibissとの2マンライブを組んでくれたんです。最初は緊張していたんですけど、すぐに打ち解けたというか、めっちゃお兄ちゃんなんですけど、超優しくて、友達でもあるっていう不思議な間柄になって、1月、2月に東京、大阪でやったどんぐりずの自主企画ライブにyonawoと一緒に、まだまだ知られていないNeibissをフックアップしてくれて。その格好良さ、渋さたるや、ヤバいなって。

hyunis1000:だから、名古屋でやる僕のリリパにも呼ばせてもらったという。

ratiff:俺もhyunも周りの人に恵まれすぎていて、それこそ、CE$さんもそうですし、tofu(beats)さんも早くから僕らの名前を挙げてくれて、5月に出るアルバム『REFLECTION』で僕らのトラック(”Sad rain”)を作ってくれたUG(Noodle)さん共々、Neibissとして参加させてもらったり、音楽をずっと続けてたら、ずっといいことが続くやんって。

hyunis1000:ヒップホップって、その人のことを知ったら、曲がよく聞こえたりするじゃないですか。だから、直接会って、色んな人のことが知りたいし、俺たちのことも知って欲しいし、そういう音楽の旅をこれから続けていきたいですね。

— 最後に、お2人で作ったというDJミックスについて一言。

ratiff:俺個人で遊びで作ったり、出したりしているんですけど、ミックステープをhyunと一緒に作ったのは今回が初めてなんです。

hyunis1000:久々にお互い好きな曲を共有して。

ratiff:それを俺がミックスしたんですけど、お互い緩い曲が好きだったりするので、“特別な休日”をテーマに、朝から夜までの流れをいい意味でごちゃごちゃで幅広いセレクションでまとめました。Mac DeMarco、Rejjie Snowとか、2人で昔ハマったルーツの曲も入っているし、自分でも気に入って聴いていますね。

hyunis1000 『Nerd Space Programm』

各種ストリーミングサービスにて配信中
レーベル:RCSLUM RECORDINGS
https://lnk.to/hyunis1000_NSP

hyunis1000 『Nerd Space Programm』 RELEASE PARTY w/ UG NOODLE and his friends ”THEODORE SATURDAY LINUS”

開催日時:2022年3月12日(土) OPEN 21:00 CLOSE 5:00
開催場所:Diggin’store 1987(兵庫県神戸市中央区北長狭通3-3-2)
料金:1,500円

hyunis1000 『Nerd Space Programm』 RELEASE PARTY w/ UG NOODLE and his friends ”THEODORE SUNDAY LINUS”

開催日時:2022年3月13日(日) OPEN 17:00 CLOSE 21:00
開催場所:RINKAITEN(兵庫県神戸市下山手通2-12-6 Jタワー神戸 3F)
料金:2,000円(前売り・1ドリンク付き)、2,500円(当日・1ドリンク付き)

■前売りチケット取扱店舗
BEST BALANCE DRINK(兵庫県神戸市中央区本町高架下通2-145)
Diggin’store 1987(兵庫県神戸市中央区北長狭通3-3-2)
EPOCH(兵庫県神戸市中央区割塚通7-1-27)
Otohatoba(兵庫県神戸市中央区北長狭通3-12-3 B1F)
RINKAITEN(兵庫県神戸市下山手通2-12-6 Jタワー神戸 3F)
SABO(兵庫県神戸市中央区北長狭通2-6-2華蘭ビル4F)
sequence(兵庫県神戸市中央区神若通5-2-16)
SHELTER(兵庫県神戸市中央区下山手通り3-10-15)
studio Bapple(兵庫県神戸市中央区琴ノ緒町4-7-6 富岡ビルB1F)

※前売りチケット購入者には特典としてジャケット&フライヤーのステッカーをプレゼント!

flyer design by yokota hinata