Vol.79 NERO IMAI feat. AQUADAB – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回ご紹介するのは、12月1日にアルバム『Return Of Acid King』をリリースする名古屋のラッパー、NERO IMAIと彼が参加するHYDRO BRAIN MC'sのDJ、ビートメイカーのAQUADAB。

NERO IMAIは、当連載でCampanellaに「いま日本で一番ラップが上手い」と評されるなど、一部のハードコアなヘッズから熱狂的に支持されている名古屋RC Slumの最終兵器といえるラッパー。彼が満を持してリリースする初のフィジカル・アルバム『Return Of Acid King』は、BOILER ROOMのライヴで世界を震撼させたRamzaやFree Babyronia、注目の英国ダブレーベル、Bokeh Versionsから作品リリースのあるAQUADAB、OLIVE OIL、Coffee & Cigarettes Bandでも活動するSAGARAXX、C.O.S.A.、OWLBEATS、DJ HIGHSCOOLが提供するビートにラッパーのCampanella、Yuksta-Ill、Toshi蝮、ATOSONE、HYDRO BRAIN MC’sのC.J. CAL、Karavi Roushiをフィーチャー。ヒップホップのドープネスの先にミニマルテクノを見出し、トラップでも軽々と遊び倒してみせる彼の危ないラップスキルと研ぎ澄まされた音楽センスは本当に衝撃的だ。

しかし、2014年にBandcampで発表したアルバム『BEAUTIFUL LIFE』、BUSHMIND『SWEET TALKING』、CAMPANELLA『PEASTA』、CJ&JC『STEVE JOBBS』への客演怪演でリスナーに強烈な印象を残しながら、彼が参加するHYDRO BRAIN MC’sを含め、その実体は謎に包まれている。今回は、ヒップホップミュータントの新たな潮流にフォーカスするべく、NTS Radioにフィーチャーされるなど、海外での評価が先行しているAQUADABのDJミックスを交え、NERO IMAIとC.J.CAL、Karavi Roushiの3人にインタビューを敢行した。

Interview & Text : Yu Onoda | Edit:Yugo Shiokawa

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「ピカチュウ、ポケモンも世界取ったし、ミッキーも世界を取ったじゃないですか。だから、ピカチュウ、ミッキー、IMAIってことですよ」

— NEROくんのことは2014年にフリーダウンロードでリリースされた『BEAUTIFUL LIFE』でその存在を知ったんですけど、ミニマルな冷たい質感にテクノの影響が感じられるトラックに淡々と静かに狂った言葉を超絶スキルで乗せているところに衝撃を受けて。その後のMETHOD MOTELで話しかけたら、ヒップホップの話そっちのけで、延々とベルリンテクノの話になったことがものすごく印象的だったんですけど、まず、NEROくんとテクノの出会いについて教えてもらえますか?

NERO IMAI(以下NERO):dominaというクラブで仲間とやってるパーティ、ALLERGYですね。そのDJは、テクノ畑にいて、テクノDJに憧れた人たちじゃなく、みんなヒップホップやレゲエを通って今に至っていて、トリップミュージックとしてのヒップホップを理解したうえで、その延長で飛べる音楽としてテクノを発見した人たち。それがALLERGYのDJ、CODAMやAQUADAB、GOGGLEだったりするんですよ。だから、PIGEON RECORDSで買うダンスミュージックのレコードも店主のHATTORIさんから「お前らが買うレコードはいわゆるテクノDJとは違う」と言われるのもそういうバックグラウンドゆえだし、僕らは自分たちが好きなクールなヒップホップと同じものをベルリンのテクノに感じているんだと思います。

NERO IMAI『BEAUTIFUL LIFE』
CAMPANELLA、C.O.S.A.、Ramza、Free Babyroniaら、RC Slumや名古屋のパーティ『MdM』、『ALLERGY』を軸に暗躍する才能が集結した2014年作。ミニマルテクノと地続きの凍てついたビートで狂気的なラップがどこまでも増幅する。

— NEROくんはALLERGYではDJではなく、MICでクレジットされてますよね。

NERO:そう。気が向いたら、テクノのトラックでフリースタイルをやってるんですよ。かつては呂布カルマも参加していたんですけど、彼は大人なので、そういうおバカなパーティには付き合いきれない、と(笑)。まぁ、付き合っていたらフリースタイルダンジョンには出てないですよね。隔月開催のALLERGYはこないだ10周年を迎えて、ようやく平日から週末のパーティに昇格されたんですけど、なにせ、平日からバカやり続けてましたから。ただ、そこでいまだにパンクスやってるのが僕たちなんですよ。

— テクノと出会う以前はどんなヒップホップを聴いていたんですか?

NERO:15、6歳のころ、The PharcydeやThe Roots、Gang Starrとか、そういうネタもののヒップホップを聴いていましたね。その後、ヒップホップが変化していくなかで、DJ KRUSHをはじめ、IndopepsychicsやLiving Legends、Anticonだったり、そういうアブストラクトものを聴いているうちに、好きな音楽が厳選、洗練されていったというか、AlchemistがプロデュースしたProdigyの“New York Shit”やPhat Katの“Cold Steel”のような冷たいヒップホップが好きになっていって。音数が少なく、無駄な音がなくて、そこでヤバいことを淡々とラップしている冷たいヒップホップを突き詰めていくと、それってミニマルっていうことでしょ。それが自分のハイなテンションに合うっていうのかな。そういうものを聴いているうちに、もうちょっと本質を突き詰めたいと思うようになって、AQUADABが聴いていた~scapeのJan JelinekやMONOLAKEをきっかけにベルリンのテクノに出会ったんですけど、自分の性格もどこか冷ややかというか、冷めているところがあるので、冷たいテクノとの相性も良かったんじゃないかな、と。

— ベルリンのテクノは、Campanellaと同じ小牧市出身のRamza、Free Babyroniaも影響を受けているようですけど、Campanellaいわく、NEROは小牧出身じゃなく岩倉市出身なのに、“K-TOWN”と称して小牧をレップしているとか。

NERO:俺の地元の岩倉はすごい小さい街なので、地元の連れがいなくて、Campanellaのアルバムにも出てくる小牧駅前のメロディパークで、15、6歳の頃から知ってるCampanellaやFree Babyronia、Ramzaとはよく溜まっていたし、岩倉の車は尾張小牧ナンバーだから。まぁ、そういうことにしておいてください(笑)。

Campanella『Peasta』
10代から共に育ってきた同郷小牧の先鋭的なビートメイカーRamza、Free Babyroniaとがっちり組んだ2016年の名作アルバム。NEROとC.O.S.A.をフィーチャーした「Shoo-in」にはヒップホップのスリルが凝縮されている。

— 彼らもまた、NEROくんと古くから付き合いがある良き理解者だ、と。

NERO:彼らは理解者である前に友人なので。彼らがやってるパーティ・MdMにしても、蓋を開けてみるとそこにはラッパーやトラックメイカーがいるんだけど、個々で目指しているところはそれぞれ違うじゃないですか。ALLERGYもそう。クールというか、冷ややかなところが共通点というだけで、みんなバラバラなんですよね。ただ、そのうえでヒップホップの価値観で大事なのは、良かったら「良い」と言うところ。例えば、ライヴが終わって、内容が良かったら良いと言われるし、何も言われなかったら、それは良くなかったということで、自分のなかで納得する必要がある。でも、今はSNSがあるから、お世辞や社交辞令で「良かった」と書かれたことを見て喜んでるわけでしょ。

— SNSは良くも悪くも内輪ノリになりがちですよね。

NERO:俺は15歳くらいからCDコンポでトラックを流しながら、そのうえでラップした、めっちゃ下手くそな音源をよく矢野さん(DJ YANOMI:decibelオーナーにして、刃頭とのユニット、OBRIGARRDで活動する名古屋のベテランDJ)に聴かせていたんですよ。そうしたら当然「う~ん」って顔されるじゃないですか。まぁ、今振り返るとそりゃそうだよなって思うんですけど(笑)、そういう環境に身を置いてきたことで、自分の今があるんですよ。

NERO IMAI『Return Of Acid King』
Chance The Rapperの『Acid Rap』やトラップ諸作に象徴される、トリップミュージックとしてのヒップホップに対する日本からの回答。ヒップホップに先進性を求めるリスナーは手にするべきアルバムだ。

— 名古屋というと、TOKONA-XやM.O.S.A.D.の影響が頻繁に語られますけど、NEROくんはいかがですか?

NERO:少なからずあるとは思うけど、俺はそこまで影響受けてないかな。

C.J.CAL:たしかにNEROはそうだよね。

NERO:自分は自分って感じ。俺がガキの頃に読んだインタビューで、JAY-Zが「ヒップホップっていうのは、みんなが白い靴を履いてたら、青い靴を履くもんだろ」って言ってて、マジでそうだなって思ったんですよね。みんながこういう音楽をやってるなら、俺はそれとは違うことをやるし、服も同じく、みんながオーバーサイズを着るなら、俺はジャストサイズを着るよっていう。それがヒップホップの本質だと思っているし、それはHYDRO BRAINのみんなも同じ。Karavi Roushiのような人間はシーンのどこにもいないし、みんなからは頭おかしいと思われてるかもしれないけど(笑)、俺からしたら超リアル・ヒップホップなんですよ。

— 積極的にはみ出していった面々が、NEROくんも所属する謎のクルー、HYDRO BRAIN MC’sに集まっている、と。メンバーは全員名古屋出身なんですか?

NERO:違うよね。

C.J.CAL:名古屋出身はAPPA、DJ HEAVYくらい?

Karavi Roushi (以下Karavi):僕も岡崎が地元だから、一応、名古屋圏にはなるのかな。

NERO:僕も親の地元は長野ですからね。

C.J.CAL:俺とAQUADAB、CODAMは高校の同級生で、岩手が地元なんですけど、M.O.S.A.D.にヤラれて、名古屋に移住して。そこでNEROと絡むようになったんです。

NERO:あれ? でも、どういうきっかけで絡むようになったんだっけ?

C.J.CAL:かつて、BLACK CONNECTIONってグループで活動していたAPPAが、解散後にHYDRO BRAIN MC’sをはじめるためにメンバーを集めたのがきっかけですね。

C.J. CAL『TOKYO HYDRO CRACKS #00』
HYDRO BRAIN MC’sの一員にして、Cracks Brothers、The Sexorcistにも参加する岩手出身、東京在住のラッパーによるフリーダウンロード作品。ILLなヒップホップを更新する挑戦的な作品だ。

— そしてHYDRO BRAINには、現在はベルリン在住で、国内外のレーベルからエクスペリメンタル/ダブテクノ作品をリリースしているTetsumasa Okumura aka Devecly Bitteと、イギリスの新興ダブレーベル・Bokeh Versionsからアルバムを発表したAQUADABのふたりがいます。

NERO:自分はかつてトラックを作っていたんですけど、20歳の時にAQUADABという超絶的な天才と出会って、自分の才能のなさに気づいて止めたんです。今のヒップホップは全然ドープじゃないし、本当にドープなのは、TetsumasaやAQUADABがやってることだと思ってますね。彼らは、日本のヒップホップシーンで有名になることは眼中になくて、音楽を突き詰めてる人がやってるノイズやテクノ、ダブといったジャンルで勝負して、世界で認められているわけだから、本当にすごいことだなって。ノリうんぬんとか、悪い悪くないとか、タトゥーが入ってるからイケてるとか、そういうことは一切関係なく、彼らがいるのは音がすべての世界で、そこですごい挑戦をしているわけだから、ふたりとも紛れもない天才ですよ。
HYDROはそれぞれが違う方向を向いているし、みんながみんなスゴいと思う。というか、自分が一番上手いというところにいても、どうしようもないじゃないですか。音楽的な部分で、刺し違ったら殺されるかもしれないという環境にいないと意味が無いと思っているので、俺は全員がつねに新しいことを探しているHYDRO BRAINで曲を作るのが楽しいんですよ。

C.J.CAL:精神と時の部屋に集まってね。

NERO:AQUADABの家なんですけど、そこで眠らずにずっと曲を作ってたんですよ。

Aquadab & MC A『All Over There』
イギリス・ブリストルの新世代ダブ・レーベル、Bokeh Versionsからカセットと配信でリリースされた2016年作。AQUADABのディープなトラックとMC Aのシュールなモノローグがダブの極北へと聴き手を誘う。

— ただ現状、HYDRO BRAIN MC’sは音源を出ていないし、クルーの実体もほとんど知られていませんよね。

NERO:作品をリリースしたり、有名になること、金を稼ぐことにはまったく興味がないんですよ。曲を作っては聴き返して「いい曲だな」って楽しむだけでしたからね。

Karavi:作った曲をライヴでやってはいるんですけど、録った曲がどこにあるか。おそらくは誰かのPCに保存されているんでしょうけど、誰も気にしてないっていう。

C.J.CAL:ただ間違いなく、精神と時の部屋で曲を作り続けていた1年半は、自分たちにとってかなりデカかったですね。

— そしてその後、Karavi RoushiとC.J.CALは東京に出て、C.J.CALはCracks Brothers、The Sexorcistに加入。AQUADABは盛岡に戻ったりと、それぞれが活動しながら、たまに集まったり、今もゆるく繋がっていると。

NERO:ゆるくというか、毎日連絡は取ってますね。LINEのグループで、あのYouTube動画がヤバいとか、あの曲が良かったとか、そういう研究をずっとやっているというか、俺たちにとっては、そういうことこそが大事なんですよ。曲作りはずっとやってきているので、16小節書くのはそんな大変なことではなく、自分としてはそれ以前の過程が大事で。「さあ、今から録ろう」という段階になったら、すぐ終わっちゃいますからね。

C.J.CAL:HYDRO BRAINは、曲のテーマを考えたりもしないし。

Karavi:この前、人にラブソングを書けって言っておいて、いざ録る段階になったら、誰もそんなの書いてなかったっていうこともあったし(笑)。

C.J.CAL:だから、やっぱり、テーマについて考えちゃダメなんだよね。

NERO:HYDRO BRAINは裏切りの世界、アウトレイジなんですよ(笑)。

— そんなNEROくんと所属レーベルのRC Slumとの出会いは?

NERO:前作『Beautiful Life』ができた時、それをどこかからリリースしたいと思って、レーベルを探していたんですね。レコーディングでは鷹の目くんのスタジオをよく使っているんですけど、彼のレーベル、JET CITY PEOPLEと音楽性が合うかといったら、ちょっと違うし、CampanellaやToshi蝮と絡みのあったRC Slumがいいんじゃないかなって。

— では、RC Slumとは以前から親交があったわけじゃなく、繋がったのは比較的最近の話なんですね。

NERO:そう、自分にストリート感はなかったりするので。ATOSONEはそんなゴミのような人間を拾ってくれて、ホントありがたいなって思っているし、RC Slumのみんなは人間的に尊敬してますよ。

— ストリート感覚がないNEROくんにとって、ラップはどういうものなんでしょうね?

NERO:俺にとって、ラップは落語なんですよ。というか落語にしたって、ビッチとセックスしたとか、上手いもの食ったとか、金をハスったとか、そういうゴミみたいな話が題材になってるじゃないですか。それと一緒でドラッグ、金、ビッチ、暴力を題材に、いかにヤバい言い方ができるか。話をどこまでもおもしろくしながら、韻を踏んだり、フローしたり、話を整えたり……俺らがやってるのはそういうことなんですよ。

— 例えば、C.O.S.A.はフィクショナルな話をまとめるのに長けたラッパーであるのに対して、NEROの場合、もはやストーリーもなく、ヤバい言い回しをいかに散りばめられるかという表現になっていますよね。

NERO:俺にとって、ラップのリリックは写真でいいと思っているんですよ。パシャ、パシャって、瞬間的に切り取った場面の連続であって、自分のなかでは辻褄が合ってる。その一枚の写真を詳細に語ろうとすると1曲が終わってしまうし、俺はせっかちだから、そういうのは無理なんですよ。

— アニメのキャラクターであるピカチュウやミッキーマウスというワードも、NEROが歌うと不謹慎なものに聞こえますよね。

NERO:ピカチュウ、ポケモンも世界取ったし、ミッキーも世界を取ったじゃないですか。だから、ピカチュウ、ミッキー、IMAIってことですよ。

— はははは。

C.J.CAL:普段もそんな感じでふざけ合っているようでいて、誰がおもしろいかを競い合っているというか。そうやってラップで遊んでいるんですよね。

NERO:ヒップホップはずっと新しいものを聴き続けていますからね。Playboi CariにChief Keef、Smokepurppもヤバいと思うし、ヒップホップの流れでいったら、トラップが出てきたことでゲームは変わってる。どういうことかというと、例えば、ゲイではないLil’ Bが“I’m Gay”っていう曲で「I’m Gay Bitch」って歌っているように、ヒップホップのゲームにおけるマッチョイズムの捉え方が変わって、ただの不良やこれまでの価値観では勝てなくなったんですよ。そういう時系列が読み取れたら、今回のアルバムに入ってる“BEST GIRL FRIENDS”で歌ってる「Bitchになりたい」という一節も理解できるんじゃないかなって思うんですけどね。

— その新作アルバム『Return Of Acid King』は、断続的に録っていた曲のなかから選んだ曲でまとめられているとか?

NERO:そうですね。一度録って、時間を置いて書き直した曲もあるし、今回入れなかった曲もあって。キーや声のトーンを合わせつつ、アルバムの流れを踏まえて、その判断を下しました。なにせアルバムタイトルが『Return Of Acid King』なので、Free BabyroniaのイントロとOwl Beatsのアウトロも含めて、夢の世界へどうぞっていう、そういう流れにしたつもりです。ただ、最後の曲“Rude”に関しては、アルバムの流れに入れられなかったということもあるし、綺麗に締めくくるのもイヤだったので、ふざけまくった曲で終わらせました。

— すんなり終わらせず、最後もはみ出しているところがNEROくんらしいな、と。

NERO:あと、僕以外の客演で参加してくれたラッパー、Toshi蝮、Yuksta-Ill、Campanella、ATOSONEのヴァースにもすごく満足してますね。ラッパーは管楽器だと僕は思っているので、そのキーが合ってないとトラックが死んじゃうでしょ。だから、有名だとかそうじゃないとかは一切関係なく、曲の完成度だけを考えて、ノリが分かる近い人たちとその人に合ったトラックでやりたかったし、やってもらってもダメだったら、そのヴァースは良くないって、はっきり言いますよ。だって、その前にこっちはバッチリやって、下手打てない状態で相手に曲を渡しましたからね。

— Karavi Roushiに加えて、8月のMETHOD MOTELで復活したToshi蝮をフィーチャーした“Don’t test me”はいつ録ったものなんですか?

C.J.CAL:2014年くらい?

Karavi:これは全員むちゃくちゃヤバいよね。

NERO:3年前の曲なのに、BPM50くらいのこういう遅い曲はいまだに誰もやってないでしょ。

— それから、DJ HIGHSCHOOLがプロデュースしている「Best Girl Friend」は、以前発表したオリジナル・ヴァージョンからトラックが差し替わってますよね。

NERO:オリジナルはDJ BLOCKCHECKと作ってるミックステープに入る予定で、そっちは全曲できてて、あとは曲順やミックスを詰める段階なんですけど、今回のアルバムではバカなトラックを作るのに長けているDJ HIGHSCHOOLにお願いしたんですよ。

— そして、“Mitetayo Sucker”と“Hell Drive”でビートを提供しているOLIVE OILと、“Earthquake”をプロデュースしているSAGARAXXとの絡みも意外性と完成度の高さが耳を惹きつけますね。

NERO:OLIVE OILくんは九州に旅行した時に彼のビートテープをたまたま買って、そのビートが最高だったから、ラップを乗せて遊んでたりしているうちに、OLIVEくんと1曲やりたいなと思っていたんですね。で、彼が名古屋に来た時、ライヴで俺がラップしているのを「ヤバいね」って褒めてくれたので、「アルバム作ってるので、ビートくださいよ」って言ったら、8曲くらい送ってきてくれて。今回はそのうちの2曲を選ばせてもらいました。
それからSAGARAXXはCODAMと仲が良くて、ALLERGYでDJしてもらった時に知り合って、今回のアルバム用にビートをお願いしました。彼の地元、町田にはCODAMと一緒に行ったこともあるんですけど、町田は映画『平成狸合戦ぽんぽこ』の街ですよね。だから、ぽんぽこって感じの曲になっていると思います。

Karavi:なんだよ、それ(笑)。

C.J.CAL:(笑)言いたかっただけだろ。

NERO:いや、もちろん、SAGARAさんはKENSEIさんとやってるCoffee & Cigarettes Bandがあったり、音楽がヤバいのはもちろん認めているし、DJもすごくいいでしょ。最終的に彼のようになれたらいいなとは思いますけど、多分無理でしょうね(笑)。

— そして、“Extreme”では、C.J. Calと共にフィーチャリングされているKaravi Roushiの「秋元康/駅までタクシー」という一節も破壊力がすさまじいですよね。

Karavi:いいかどうかはよく分からないですけど(笑)。HYDRO BRAINのなかで自分が一番年下なので、先輩にいろいろ教えてもらいながら、これまで無茶苦茶なことも許してもらっていたところもあったんですけど、最近は自分のなかでありかなしかを考えられるようにはなりましたね。

C.J.CAL:誰が一番ヤバいことをやるか。それは名古屋の気質でもあると思うんですよ。名古屋の人たちって、イケイケドンドンで、トゥーマッチなことをした人が勝ちっていうところがあったりしますからね。

NERO:真面目にやって、真面目に金を稼ぐんだったら、サラリーマンやりますよ。テキトーぶっこいて、札束をゲットするのがヒップホップでしょ。みんな、それに憧れたんじゃないの?って思うし、ラップはお涙ちょうだいのエモーショナルなものじゃなく、センセーショナルなものであるべき。そういうことを忘れて、明日のことを考えすぎなんですよ。こっちに明日なんてないからね!

— まぁ、明日のことは考えないにしても、HYDRO BRAINのリリースは考えた方がいいと思うんですけどね。

C.J.CAL:今回、HYDRO BRAINが参加した“Extreme”と“Alice Boomin’”は、もともと、HYDRO BRAINで出そうと思ってた曲だったんですけど、他に録ったのが5曲くらいあるので、EPを出したいとは思ってますね。なんだかんだ10年くらいやってますから、そろそろやらないとね。来週録ろうよ。

NERO:来週は釣りに行くからヤだよ(笑)。ただ、この先もう少し優れた音楽を作るため、今のアメリカがやってる音楽に張り合うために、ラップやトラックメイカー、エンジニアももうひとつ上のところにいく必要があって、そのためには作品も出さなきゃいけないだろうし、自分はもっとその先のことを見ているつもりです。

— じゃあ、最後にAQUADABのミックスについて一言お願いします。

C.J.CAL:AQUADABが好きな感じのノイジーでテクノっぽい質感のバキバキな前半から、だんだんメロウになっていくミックスになっているので、NEROのアルバムとあわせて、楽しんでもらえればと思います。