MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、LUVRAW & BTBを活動休止し、ソロ活動をスタートさせたBTB。
“特攻”の名で活動していたヒップホップ・グループ、レッキンクルーを経て、ハマのアーバン&メロウ集団、Pan Pacific Playaに参加。LUVRAW & BTB名義でリリースした2枚のアルバム『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』(2010年)、『HOTEL PACIFICA』(2011年)で、甘茶なトーク・ボックスの使い手としての評価を確立。先頃、リリースしたばかりのソロ第一弾となるカヴァー・アルバム『BACK TO BASIC ~俺とお前篇~』では、山下達郎からEASY-Eまで、ダン・ハートマンからカーペンターズまで、パーティ体験に培われた選曲の妙とレイドバックしたマシン・ファンクによる秀逸なリアレンジ、そして、最大の武器であるトークボックスによって、BTBのルーツをメロウに描き出している。
今回はそんな彼にDJミックスの制作を依頼し、インタビューと共に、新たなに切り開かれつつある彼の音楽世界を明らかにする。
Interview & Text : Yu Onoda、Photo & Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
(カバー集を)「今年、3枚出しましょう」っていう話になったんですが、1枚作っただけで、かなり大変な作業でした(笑)。
— アルバム『HOTEL PACIFICA』から3年。LUVRAW & BTB活動休止後の展開はどんなことを考えていました?
BTB:アルバムを出して、ライヴをやりながら3年が経っていたので、あたらしい曲を作ってライヴをやりたいとはずっと思っていて。そこで何をやるか。ソウル・コーラス・グループみたいな感じだったLUVRAW & BTBと自分のソロでは見え方が違うわけで。一歩引いたソロでは、自分の周りにたくさんいるDJと演者の中間の立ち位置だったり、自分が扱っているトーク・ボックスの性質を考慮した時、一番最初に取り組むのは、カヴァー集がいいんじゃないかと思ったんです。そして、まずは曲を決めるところから始めたんですけど、「これだ!」となってからの作業は早かったものの、その前の段階で「どうしようかな?」と考えているうちに眠くなってきちゃったり(笑)、曲の候補を選んだり、その方向性を考えるのに時間がかかりました。
— そして、試行錯誤の末に辿り着いたのが、今回のアルバム・タイトルにもなっている『Back To Basic』、つまりはBTBの音楽的なルーツに立ち返った作品だったと。
BTB:BTBに掛けて、タイトルを付けたところもあるんですけど、ある程度の曲順が決まった段階で付けた後付けのタイトルとはいえ、そういう作品になりました。
— ディスコ、ブラコン、和モノ、シティ・ポップ、ヒップホップと、これまで通ってきたであろう音楽、アーティストの楽曲が網羅的に取り上げられていて。
BTB:そうですね。そのカヴァー曲のセレクションから自分のルーツを説明出来れば、と思いつつ。まぁ、他にもジャンボ鶴田の「ローリング・ドリーマー」とか(笑)、アルバムを作り出す前ですが、Mr.MELODYに色々送ってもらった中で、バブルガム・ブラザーズとか、高樹澪の「反抗」とか、カヴァーの候補曲はあったんですけど、最終的には今の形に落ち着いていった感じです。
— もともと、レッキンクルーで活動していたこともあって、大元のルーツはヒップホップということになるんですよね?
BTB:そうですね。レッキンクルーで活動していくうちに、Crystalくんだったり、エレクトロ・サミットの千葉さんやZEN-LA-ROCK、後にPPPとして一緒に活動することになる空手(Latin Quarter)くんや脳くん、Kesくんたちと出会うなかで、色んな音楽に触発されるようになるんですけど、音楽の入口はNasだったり、Wu-Tang ClanやBlack Moonだったり、そういうゴリッとした感じの東海岸ヒップホップと、あとは電気グルーヴだったり、スチャダラパーだったり。
— レッキンクルーは、当時のヒップホップの流れから逸脱したグループでしたが、当時はどういうテンションだったんですか?
BTB:ある時、唐突な形でラメルジーだったり、千葉さんのことを知った衝撃によって、自分たちの音楽性もいきなり変わったというか。あと、最初に出したシングル「ブンブン!??!」が、当時「ラジカセ魔」「低音無敗」などのイベントをZEN-LA-ROCKから間接的に聞く、偏った感じのエレクトロやマイアミベース像だったり、相方のラッパーのshuntaがボアダムス好きだったり、その時、ちょうどポンチャックとジョーカーレコードをよく仲間内で聞いてたっていうのがごちゃまぜになった結果、何とも形容しがたい作品ができて、それで方向が決まったんじゃないかと(笑)。ホントか嘘か、当時、D.O.氏がこの曲を聞いた時ヘッドフォンをぶん投げたって話を誰かが言ってました(笑) 。L’Arc-en-Cielなどが所属してる大手マネージメント事務所から独立した百瀬さんという大人のもと、その曲が、Crystalくんの始めたレーベル(ALL NIGHT THING)の第1弾シングルだったのも今思うと何だか感慨深いです。
— レッキンクルーは今年の5月に三宿のWebで一夜限りの再結成ライヴを行いましたよね。ひさしぶりのライヴはいかがでした?
BTB:久しぶりにレッキンの音楽に触れてみて、全体的に馬鹿すぎるなーと思いました(笑)。ライヴは、歌詞が全然出てこなかったんですけど、意外に体は覚えているものなんだな、とか。shuntaなんか、ライヴ前に「衣装どうする?」ってメールがあって、俺とケンヤ(K404)は「え、着るの?」って感じだったんですけど(笑)、直前になって、shuntaは「注文してたサングラスが届かなかった」って(笑)。
— そのいびつさがレッキンクルーなのかも、とか。いびつと言えば、その後、参加することになるハマのアーバン集団、Pan Pacific Playaはその最たるものだと思うんですけど、レッキンクルーのラスト・アルバム『NEW』が2003年リリースということを考えると、PPP加入まで、かなりのブランクがありますよね?
BTB:今回、1曲目に入ってるTHE GAP BAND「OUTSTANDING」のカヴァーはPPPの最初のコンピに収録されているんですけど、あのアルバムが出たのは、2007年なので、レッキンクルー以降というのは、だいぶ空白がありますよね。その間にRAW LIFEヘ遊びに行って、「自分も出たかったなー」と思いつつ、たしか、2005年にやった2回目のRAW LIFEの時に、ひさしぶりに脳くんたちに会って、「レッキン解散したんでしょ」なんて話をしたんですよね。その後、OPPA-LAでやってたPPP関連のパーティ「ロドリゲス兄弟」に遊びに行った時に「トッコーもPPPなんでしょ?」ってイガちゃん(フォトグラファーの五十嵐一晴)に言われたり、勝手にそんな話になってたんですよね。
— その後、2010年の『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』と2011年の『HOTEL PACIFICA』という2枚の名作をリリースすることになるLUVRAW & BTBでは、今回のカヴァー集でも大活躍しているトーク・ボックス使いが大きな話題になりました。
BTB:一連のソウルとかGファンクはずっと大好きでしたし、その流れでトークボックスで曲を作りたいと思ったんですよね。トラック・メイクはレッキンクルーからちょこちょこ始めていたんですけど、LUVRAW & BTBでは指一本で鍵盤を押さえるところから、メロディ・メイクの比重が増していって。そうやって、出来る範囲で作っていったことが聴き取りやすいメロディにつながっていったのかもしれませんね。
— LUVRAW & BTBでの共同作業から、今回のソロで自分一人で制作に臨んでみた感触はいかがでした?
BTB:とはいえ、LUVRAW & BTBでは、共有するものもありつつ、制作の作業はそれぞれやってましたからね。だから、最終的な聞こえ方は違うにせよ、作り方はそこまで大きくは変わってないです。ただ、ざっくりした感じと引き替えに、色々試したり細部に渡って、とことん作業を突き詰められるところがソロの良さだとは思いましたね。
— なかでも、山下達郎「DANCER」のハウス・カヴァーは出色の出来ですね。
BTB:達郎とシカゴ・ハウス、この組み合わせはどうだ!っていう感じの組み合わせですね(笑)。たくさんある達郎の名曲のなかで、自分のアイディアとのハマりが良かったんですよ。あと、この曲はエンジニアをお願いした得ちゃん(得能直也)の食いつきがすごい良くて、「曲の尺を長くしよう」とか「この部分にシンバルを入れといたから」とか、グイグイ来るなー、と(笑)。その一方で「RELIGHT MY FIRE」は一番最後にレコーディングした曲だったこともあって、作業が息切れ気味だったんですよ(笑)。得ちゃんにはその点を指摘されて、「もっと、トークボックス入れた方がいいんじゃない?」と突っ込まれたり(笑)。
— そういう周りのアドバイスもあったと?
BTB:そうですね。今回は得ちゃんだったり、DJでかけることを想定して、空手くんに聴いてみてもらったり、(TRANSONIC RECORDS、ExT Recordingsの)永田(一直)さんにマスタリングをお願いして。
— メロウかつレイドバックしたサウンドとテクノ的な質感のマッチングも、今回の大きな特徴ですね。
BTB:この間も永田さんがやってる(国産ダンスミュージック)パーティ「和ラダイスガラージ」でライヴをやったんですけど、永田さんはこのアルバムのことを和ラ成分があるって言ってましたし、自分自身、和ラダイスガラージから受けた影響もあって、今回のマスタリングは永田さんにお任せしたんですけど、テクノ的な硬めの音が今回の世界観、ドラムマシームの鳴りとばっちりハマったと思います。
— 和モノのなかでも、中毒的に響く和田アキ子「史上最悪の夜」やクリスタルキング「初夏の忘れもの」を取り上げた選曲の妙というか、選曲が妙というか(笑)。
BTB:ははは。「史上最悪の夜」は、毎年年末にOPPA-LAでやってるパーティの告知用の音源をSoundCloudにアップしようという話になって、LUVRAW & BTB以来、久々に録音した曲なんですけど、横山剣さんが作った曲が素晴らしいということもあって、和田アキ子に気合いを入れたら面白いんじゃないかと思ったんですよ(笑)。
「初夏の忘れもの」は、レガエと呼ばれていた時代の歌謡レゲエのテイストが欲しくて、岡崎友紀の「ジャマイカン・アフェアー」だったり、堺正章の「メリーゴーラウンド」、チエコ・ビューティーさんの「だいじょーぶ」など何曲か候補があったなかで、クリスタルキングのその曲と、あと、カーペンターズの「(THEY LONG TO BE) CLOSE TO YOU」をチョイスして、能天気な酒やさぐれ曲、ゲリラ豪雨レゲエにアレンジにしてみました。
— さらに言えば、そうした歌謡曲のチョイスしかり、Dan Hartman「Relight My Fire」のセレクトには、水っぽい夜のムードを盛り込もうという意図が感じられました。
BTB:そうですよね。自分がライヴをやったりするのは、水っぽい現場だったりするわけで、そういうニュアンスを出したかったということはありますね。「RELIGHT MY FIRE」に関しては、ちょうど、ロン・ハーディのDJミックスを聴き直していた時に「これだ!」と。
— そうかと思えば、ルーツであるヒップホップのフィールドから、原曲がいかにもギャングスタ・ラップらいし歌モノのEasy-E「I’D RATHER FUCK YOU」は納得の選曲なんですけど、Jungle Brothers「BRAIN」はラップ・ソングをトーク・ボックスに置き換えたアレンジが実にBTBらしいというか。
BTB:ははは。好きで通ってきた曲だし、自分のなかでは普通だったんですけどね。ヒップホップでは、Biz Markieの「JUST A FRIEND」も候補の1曲だったんですけど、あの曲は悲しすぎるので…Biz Markieのあのキャラクターじゃないと、やっぱり、ね(笑)。でも、ヒップホップのサビを活かしたカヴァーは、ラッパーをフィーチャーしたりしながら、今後もやっていきたいと思っているんですけどね。
— 聞くところによると、このカヴァー集はシリーズ化されるとか?
BTB:ウルトラ・ヴァイブの池田さんとの最初の打ち合わせで「今年、3枚出しましょう」っていう話になったんですが、1枚作っただけで、かなり大変な作業でした(笑)。ただ、まぁ、年に3枚は厳しいかもしれないですけど、クラブ・ミュージック的というか、マシン・ファンクをレイドバックさせた今回のアルバムは選曲から音作りに至るまで、パーティで体験したものが色濃く反映されているということもあって、BPMを上げたり、現場で機能するアレンジでのライヴをやりつつ、シリーズ化するつもりです。その前に、「DANCER」と「OUTSTANDING」は12インチでシングル・カットする予定なんですけど、そこには自分のオリジナルも入れようか、と。今後はギターのKashifくんだったり、ラッパーやゲストをフィーチャーした作品も作ってみたいです。