Vol.34 pootee – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Yugo Shiokawa

MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、DJとしての活動のほか、謎多き集団「BACON」の一員としてC.EのパーティでVJを務めるなど、インターネット上からリアルまで、様々な活動を行っているpooteeです。


80年代後半から90年代初頭にかけての韓国音楽をバレアリック解釈でまとめ上げたコンピレーション・シリーズ『KOREARIC VINYL RIP』が高く評価され、ディガーとしてだけでなく、オブスキュアなヴィジュアルや映像の紹介や制作、VJとしても国内外で噂が噂を呼んでいる彼との接触に成功。制作を依頼したDJミックスとインタビューを通じて、その謎に迫ります。

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

いまはある程度のお金を出せば、簡単にいいレコードが買えますけど、やっぱり、レコードは安いからこそ掘る醍醐味があるし

— pooteeくんにしても、BACONにしても、ネットを上手く活用して活動しているという印象を受けるんですが、PCやネットカルチャーと出会ったのはどのようにして?

pootee:PCで映像のノンリニア編集がもっと楽に出来るらしいという話を聞いて、活用するようになるんですけど、PC自体、手に入れたのは遅いんですよ。確か、2004年くらいかな。最初は自作オーディオについて書かれてるオーディオマニアのテキスト・サイトなどを見るくらいで、検索でどこかに辿り着く、みたいなことは出来なくて。その後いわゆるSNSを通してその面白さが分かってからネットを駆使するようになったんです。

— いま映像のお話が出ましたが、pooteeくんにとって、映像、映画から受けた影響は大きい?

pootee:そうですね。映画はたぶん年間100本以上観ているので、そんな感じだと思います。あと、映画だけでなく、映画音楽だったり、映画の音響、いわゆる音の演出にも興味があって、韓国の音楽に興味を持ったのも韓国映画をたくさん観るようになってからですね。あまりに観すぎて感覚が麻痺したせいか、韓国映画によく出てくるカラオケのシーンを観てるうちに、ある種の懐かしさやいなたさを韓国の歌謡曲に感じて、「あ、これ、ちょっといいかも」と思っちゃったんです。当時、ヨット・ロックが流行ってた頃だったんですけど、YouTubeで韓国音楽を掘ってるうちに作品を1枚だけ残して死んでしまったユ・ジェハというアーティストの「過ぎ去った日」という曲と出会って、「あ、これ、ちょっとウェストコーストっぽいメロウさがあるなー」って思ったんですけど、ある日ポン・ジュノの『殺人の追憶』っていう映画を観返していたら、犯人が殺人を犯す夜にラジオでリクエストする曲があって、それが「憂鬱な手紙」という同じアルバムからの曲だったんですよね。

ユ・ジェハ「過ぎ去った日」

— つまり、音楽と映画がリンクしたと。

pootee:それでユ・ジェハのことを調べてみたら、向こうではポップスにジャジーな要素を持ち込んだ有名な人だったので、有名な人がこういう音楽をやってるんだったら、他にもまだまだあるんだろうなって。それ以来、Mooreというパーティを一緒にやっていたobocostttrとYouTubeで韓国音楽を掘って、あれこれ情報交換しながら、ヤフオクに出品している韓国のレコード屋のおじさんからレコードを買うようになったんです。

— 今はどうか分からないですけど、90年代の中頃、ソウルで韓国サイケのレコードを探しに行った時、そもそも、レコード屋の数が少ないうえに、向こうの人は昔のレコードに興味がなくて、扱いもぞんざいだし、入手がかなり難しかったです。

pootee:そうみたいですね。ただ、僕は行かなかったんですけど、obocoとstttrが韓国にレコードを買いに行った時、そのおじさんの家に行ったら、韓国もののレコードが1万枚くらいあったっていう。で、その人は美空ひばりとか、日本の古いレコードを探しているので、こっちでそれを探して、トレードしたりとか。そうやって、あれこれ買っていくうちに韓国のレコードの人の繋がりとか文脈がだんだん分かってきた感じですね。

— 韓国ものというと、K-POPやDJ SOULSCAPEのDJミックス『THE SOUND OF SEOUL』がよく知られていますよね。

Oneohtrix Point Never『R Plus Seven』 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンがリリースしたWARP移籍第一弾作。現代音楽やノイズ、ドローンの要素を交え、ヴェイパーウェイヴをさらに進化させた先鋭的なエレクトロニック・ミュージックが展開されている。

Oneohtrix Point Never『R Plus Seven』
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンがリリースしたWARP移籍第一弾作。現代音楽やノイズ、ドローンの要素を交え、ヴェイパーウェイヴをさらに進化させた先鋭的なエレクトロニック・ミュージックが展開されている。

pootee:そうですね。K-POPは少女時代が日本進出する前に知って、EDM化する前のアイドルポップ歌謡はいいなと思ったんですけどね。それから、DJ SOULSCAPEのミックスはヒップホップ的というか、入ってるのはブレイクばかりで曲を聴かせる感じじゃないので、あまり興味はないかもしれない。それよりも僕にとってはDISCOSSESSIONの(故)Zeckyさんがプレイしていたコズミック、バレアリックのいなたい感じがツボだったというか、その感覚を通過したからこそ、韓国音楽のいなたさ、褒め言葉的な意味でのダサさがぐっと来たというか。

— つまり、バレアリック特有の哀愁感を拡大解釈して、韓国音楽にバレアリック感覚を感じ取ったというわけですね。

pootee:そうですね。CRYSTALさんの『Made In Japan Classics』なんかもそうですけど、2000年代初頭にディスコやイタロ・ディスコを経由したことで、和モノを掘るのが楽しくなったように、バレアリックの何が良かったかというと、安いレコードに光を当てたことだと思うんですよ。いまはある程度のお金を出せば、簡単にいいレコードが買えますけど、やっぱり、レコードは安いからこそ掘る醍醐味があるし、今でこそ日本のレコード屋で高い値段が付くようになってしまったんですけど、僕らが買い始めた頃、値段が安かったことも韓国ものにハマる大きなきっかけになりました。

— そうやってバレアリック解釈で発掘した韓国音楽=コレアリックを3枚のミックスCDにまとめて発表しながら、BACONではVJをやったり、ヴィジュアルも面白いものを提案していますよね。

Ariel Pink’s Haunted Graffiti『Mature Themes』 ロサンゼルスのサイケデリック・ロック・バンドが4ADよりリリースした2012年作。デイム・ファンクが参加したヨット・ロック・クラシック、ドニー&ジョー「Baby」のカヴァーを収録している。

Ariel Pink’s Haunted Graffiti『Mature Themes』
ロサンゼルスのサイケデリック・ロック・バンドが4ADよりリリースした2012年作。デイム・ファンクが参加したヨット・ロック・クラシック、ドニー&ジョー「Baby」のカヴァーを収録している。

pootee:まぁ、でも、BACONでのヴィジュアルはハイレゾ的なもので、自分のDJでかけるような音楽とは噛み合ってないんですけどね(笑)。ただ、真面目にいい音楽を探したりしているからこそ、映像ではゴミのような物扱ったりして、それはそれでバランスがいいのかもしれないですね。先日のVJでもセルシオのシャコタンの映像にドレイクの写真を重ねたり、バッド・テイストというかギャグというか…。

pooteeくんのTumblrは海外でも話題になっていますけど、音楽と同じく、面白いヴィジュアルもつねにネットで掘っているんですか?

pootee:Tumblrとか面白いブログをRSSリーダーに登録しておいて、流れてきたもののなかからすくい上げる感じなんですけど、そういうものも時代の空気と共にその時々で変わっていってますよね。例えば以前はチルウェイヴ・シーンでVHSを用いて簡単に作る映像が流行ってたじゃないですか。確かに最初は新鮮だったんですけど、あっという間に量産、消費されてしまったっていう。音楽、映像問わず、今はネットで公開されたものの賞味期限とかサイクルがめちゃくちゃ早くなっているし、まとめられたり、タグ付けされた瞬間に冷めてしまう。逆に言えば、なんだか分からない状態のものが一番面白いと思うし、そういうものに興味がありますね。

— 例えば、去年、「Still Life (Betamale)」のミュージック・ビデオが話題になったワンオートリックス・ポイント・ネヴァーなんかはそういうヴィジュアルの移り変わりに意識的ですよね。

pootee:あの映像を手掛けたのは、ネット・アーティストのジョン・ラフマンですね。技術的なことはダニエル・スワンっていうイギリス人が手掛けているんですけど、普段の彼はネットコンシャスなハイレゾの映像を作っていて、JAM CITYのミュージックビデオやPC MUSICっていうネット・レーベルとコラボレーションしています、そういう映像作家の作品をあれこれ観ていると、ここ最近はみんなハイレゾに変わってきてますね。

JAM CITY「The Courts」

— そういったネット・アーティストと親交があったりするんですか?

pootee:そうですね。Tumblr経由で発見されて、メールが来たり、「DJミックスを作ってくれ」って依頼があったり。MASSAGE最新号にインタビューが載ってるMEGAZORDって人がいて、彼はいま21歳くらいなのかな。17歳ぐらいの時にPhotoshopを買って、作った画像を遊びがてらアップしてるうちに、友人であるワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのミュージック・ビデオやGAMESの「That We Can Play」のジャケットとかダーティ・プロジェクターズのシングルとか、そういう音楽作品のアートワークを手掛けるようになったんですけど、彼が日本に来た時に一緒に遊んだりしましたね。

— それはまた興味深いですね。

Nite Jewel『Gems』 ロサンゼルスの女性アーティスト、ナイト・ジュエルことラモナ・ゴンザレスが日本のレーベル、BIG LOVEよりリリースしたベスト・アルバム的な編集盤。彼女が時代に先駆けて世に送り出したメロウかつサイケデリックなシンセ・ファンクは、2000年代後半以降、数多くのフォロワーを生み出すことになった。

Nite Jewel『Gems』
ロサンゼルスの女性アーティスト、ナイト・ジュエルことラモナ・ゴンザレスが日本のレーベル、BIG LOVEよりリリースしたベスト・アルバム的な編集盤。彼女が時代に先駆けて世に送り出したメロウかつサイケデリックなシンセ・ファンクは、2000年代後半以降、数多くのフォロワーを生み出すことになった。

pootee:あと、アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティのティム・コーから「お前のTumblrはいつも見てるし、ミックスも聴いてるよ」って、いきなりチャットが来て、「ミランダ・ジュライに「面白いサイトないの?」って聞かれたから、お前のサイト教えといた」って(笑)。いきなりアートセレブと繋がるネットはスゴイなーと改めて思ったんですけど、去年、ナイト・ジュエルの大阪公演でDJをやらせてもらった時に彼女の旦那のコールM.G.N.(The Sampsの一員にして、エンジニアとしてBeckの作品を手掛けている)に「今かけてる曲なに?お前、ミックスCDもってないの?」って言われて。SoundCloudのアカウントを見せたら、「お前がpooteeなの?知ってるよ!」って。どうやら、それもティム・コーが紹介してくれたみたいで、自分の知らないところで思わぬ広がりを見せていたという(笑)ティム・コーはずっと見てたlovefingersにもmixを提供してますし、彼から反応があったのはうれしかったですね。

— 話を聞けば聞くほど、謎が深まっていくインタビューですが、謎めいたDJミックスについても一言お願いします。

pootee:いやいや。DJミックスはVINCENTRADIOとか海外のサイトから頼まれた時とあまり変わらない感じですね。ただ、昔から好きでかけている曲と去年買ったレコードが半々くらい。ゆるめで後半にビートが入ってくる感じになっているので、よかったら聴いてください。