マシュー・モナハンと黒瀧 藍玖による二人展『Reverb Time 60』

by Keita Miki

カリフォルニア州を拠点に活動する世界的彫刻家、Matthew Monahan(マシュー・モナハン)と、注目の日本人若手作家、黒瀧藍玖による展覧会『Reverb Time 60』が、8月16日(土)より、京・日本橋エリアに2023年にオープンした気鋭のアートギャラリー・SOM GALLERYにてスタートする。

1970年代生まれのMatthew Monahanは、美術史やモダニズムの影響を織り交ぜながら、ギリシャ・ローマ時代の彫像の断片的な壮麗さを想起させる造形や質感を、独自の手法で表現するスカルプチャーで高く評価されるアーティスト。テート・モダン、ニューヨーク近代美術館、シカゴ美術館、ルベル・ファミリー・コレクション、サーチ・コレクションなどに作品が所蔵されている。

一方で黒瀧藍玖は2000年生まれ。テキスタイルデザインを学んだのち、織物の造形から着想を得たユニークな立体作品が高い評価を得ているだけでなく、タトゥーアーティスト、DJ、グラフィックデザイナーなど幅広い顔を持ち、多方面から注目されている。

世代も出身国も異なる2人のアーティストが同じ空間でどのような作品を見せてくれるのか、ぜひ足を運んで確かめてみよう。

展示のステートメントは以下。

本展では、異なる世代であり、異なる文化的背景を持つマシュー・モナハンと黒瀧藍玖の制作的実践を通じて、現代における彫刻というメディウムの再定義と、制度・記憶・知覚に対する批判的思考の可能性を提示することを意図しています。

モナハンと黒瀧は、世代も文化的背景も異なるにもかかわらず、いずれも「空虚さ」や「不安定性」を積極的に取り入れた造形言語を展開しています。彼らの作品は、構築的でありながら恒常的な崩壊の只中にあり、物質的な不確かさや、意味の過剰さを避けることで、むしろ鑑賞者の知覚と認識の働きを呼び起こします。

二人の作家に共通して見られるのは、あらかじめ「満たされていない」状態を制作の出発点とする構造的態度です。モナハンは、美術史的な断片や神話的形象を再構成する過程で、物質の脆弱さと時間の不可逆性を彫刻という形式に刻印します。一方で黒瀧は、織物に内在する構造的論理と物理的テンションを応用し、制度的・情報的な枠組みの中に置かれた人間像の輪郭を、空間の中に再定位しようとしています。このように両者の作品は、完成や統一といった近代的価値観への批評的距離を保ちながら、「構造」「素材」「空間」といった彫刻的要素に再解釈を加えています。モナハンと黒瀧藍玖の実践は、素材と形式の差異を超えて、可視性、制度、記憶といった現代的な問題圏に接続されています。それらの作品は、美術のメディウムを通じて、知覚の枠組みや美的制度に対する再考を促し、視覚的な表象がいかにして構築され、同時に解体され得るかを問います。モナハンは、断片化された古典彫刻の形式を、即物的かつ異素材的な手法で変容させることで、美術史的記憶に対する批評的距離を獲得している一方、黒瀧は構造化された繊維的モジュールに人間像を埋め込むことで、制度的規範に絡め取られた身体と主体の位相を可視化します。

Reverb Time 60

開催日時:2025年8月16日(土)~9月14日(日) 13時~19時(月曜・火曜休廊)
開催場所:SOM GALLERY
東京都中央区日本橋横山町4-9 birth 4, 5F
TEL:090-8442-9120